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貴族になろう

第182話

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 出発には間に合わなかった。

 部屋から出ていつもの部屋に行ったら誰もいなかったんだ……やーらーれーたー。

「悪い、悪い、でもまぁせっかくだからもう一戦」
「きゅるる」
「キーちゃん!」

 刀雲のセリフを遮って現れたのはキーちゃんだった。

「うるる」
「待っててくれたの? ありがとう、じゃあ行こう」

 決断は迅速に。
 ちょっとでも迷えば刀雲とルークによって布団の中に逆戻りになっちゃうからね。

「行ってきまーす!」
「……逃げられたか」
「わふ」
「よし、イツキのご機嫌取りの為にも朝食の用意するか」
「ぐぅぅ」

 初めて会った時のように巨大化したキーちゃんに乗って空を飛ぶのかと思ったら、大型犬ぐらいの大きさになったキーちゃんの背に乗ってぽーんと空間を飛び越えて、一瞬で草原に到着した。

 一瞬何が起こったか分からなかった。
 え、キーちゃん転移覚えたの? いつの間に!?

『かあさまー』
『母上、こっちだ』
「ままー」
「イツキ、抜け出せたのか、すげぇな」

 ラーシャに尊敬の目で見られた。なぜだ。

『あっちよ』
『うむ、早く行こう』
「「がぅがぅ」」

 キーちゃんから降りようとしたら三匹に止められた。そんな簡単に転ばないのに。多分。
 仕方がないのでそのまま皆で移動したら、丘を登った所にたくさんの人と羊の群れがいた。

 正確には羊に似た魔物、もふもふの部分が小麦だった。
 他には鹿の魔物、たてがみを持っていてその部分が小麦だった。

 一言良いかな?

 ……意味分からん。

 先に来ていた皆さんはハサミ片手にジョキジョキ収穫、周囲ではもふもふズが駆けっこして遊びながら、たまにおやつをもらったりしていた。
 群れの中央には他の個体より身体の大きな白い鹿がいて、どうやら彼が群れのボスみたい、角も立派で眼光鋭く周囲を警戒している。

『母様、あの子ね、お友達になったのよ』
『さっき乗せてもらった』
「遊んでもらったお礼に僕らが加護をあげたら……進化したんです」
「それまでは他の個体よりちょっと大きい程度だったんだぜ」

 どうやら今の姿になったのは本当についさっきの事らしい。

 そっかぁ、シャムスとアー君とイネスの加護かぁ、ははは、そりゃ進化の一つや二つするよね、これで神薙さんの加護を受ければ天下無敵……。

「さっき神薙も面白がって加護やってから、もう低級の魔物じゃあいつに近付く事も出来ねぇだろうなぁ」

 加護って面白がってあげるものだっけ?

「イネスに言われて俺も加護与えた。もうアイツ、生身で冥府に落ちても生き残れるぜ」

 良く晴れた爽やかな朝。
 刀国に一頭の神獣が誕生した。

 後日、話を聞いた騎士様によって加護を追加され、亜人へと進化したのはお約束の展開かなぁ。
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