上 下
715 / 809
第三章 世界に降りかかる受難

第702話

しおりを挟む
 女神様が帰還したからいつもの日常パートに戻ると思った?
 僕もそう思ってました、ついさっきまで。

「ここどこだろう?」

 駄々をこねにこねる女神様を鎮めるため、黄金パフェでも作ろうと果樹園に足を踏み入れたら別の場所だった。

 右を見ても左を見ても見覚えはある土地なのに、知っている人が誰もいない。
 刀国、だよね?
 桜並木はいつも通り綺麗だった。
 その先にある噴水も、噴水の中央で子供達と遊ぶ黒龍も、並ぶ屋台も見慣れているはずなのに、ほんの少しだけ違う。
 何が違うのか分からず、怖くて道の真ん中で動けなくなっていたら、後ろから来た人にぶつかった。

「ぬ、すまぬ、足元を見ていなかった。ケガはないか?」
「まおうさま」
「うむ」

 抱き上げられてケガがないかと確かめられ、目をウルウルさせていたら背中を優しく撫でられた。

「家はどこだ? 送ろう」
「おうち」

 僕のおうち。
 異世界転生した僕が暮らすのは邪神様のおうち。

 目の前にいる魔王様は何も変わらない、ただ僕を見知らぬ子どもだと思っている。
 どうしよう、神薙さんも僕を分からなかったら居場所が、帰る場所がなくなっちゃう。

「その子、誰? 生贄?」

 魔王様に連れられて神薙さんのおうちに来たら、やっぱり僕の事は記憶になかった。
 どうしよう、どうしよう、どうしたらいんだろう。

「違う、迷子らしくてな、家を聞いたらここだと言うから連れてきた」
「ふぅん?」

 いつも子供達とゴロゴロしていたクッションコーナーはない、座敷の向こう側にドリちゃんがいる調理場も見当たらない。
 神薙さんの冷たい感じが、まるで初めて出会った頃みたいで不安でぐるぐるする。

「この子、主様の匂いがするし、装備品全てに主様の魔力がぎっちりしているね。凄い執着」

 イケメン孫が手作りしてくれたムササビポンチョ、チート付与をありったけ込めたのは騎士様とか珱さんとかレイアさんとか色々。
 縫ったはずなのに縫い目がない不思議なポンチョです。

「名前は?」
「いつき」
「お前、私を知っているね」
「あい」

 一緒のお家で暮らしてます。

「でも私はお前を知らない、だから記憶を覗かせてもらう」
「む、子供の記憶を覗くなど大丈夫なのか?」
「これが一番手っ取り早い」

 心配する魔王様をスルーして、僕を抱き上げた神薙さんがバクっと僕に噛みついた。

「歯が通らない」
「は?」
「え、薄皮一枚すら傷付かないってなに?」

 記憶を覗くって食べて記憶を覗くって意味だったの!?
 さすが邪神様、おっかない。

 ありがとうポンチョ、ありがとう騎士様、これがなかったら意味が分からない状況で死ぬ所だった。

「じゃあこっちかな」
「みぎゃーー!」

 目の前に巨大な蛇の口が広がり、ぱくん。と食べられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

無自覚副会長総受け?呪文ですかそれ?

あぃちゃん!
BL
生徒会副会長の藤崎 望(フジサキ ノゾム)は王道学園で総受けに?! 雪「ンがわいいっっっ!望たんっっ!ぐ腐腐腐腐腐腐腐腐((ペシッ))痛いっっ!何このデジャブ感?!」 生徒会メンバーや保健医・親衛隊・一匹狼・爽やかくん・王道転校生まで?! とにかく総受けです!!!!!!!!!望たん尊い!!!!!!!!!!!!!!!!!! ___________________________________________ 作者うるさいです!すみません! ○| ̄|_=3ズザァァァァァァァァァァ

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

せっかくBLゲームに転生したのにモブだったけど前向きに生きる!

左側
BL
New プロローグよりも前。名簿・用語メモの次ページに【閑話】を載せました。    つい、発作的に載せちゃいました。 ハーレムワンダーパラダイス。 何度もやったBLゲームの世界に転生したのにモブキャラだった、隠れゲイで腐男子の元・日本人。 モブだからどうせハーレムなんかに関われないから、せめて周りのイチャイチャを見て妄想を膨らませようとするが……。 実際の世界は、知ってるゲーム情報とちょっとだけ違ってて。 ※簡単なメモ程度にキャラ一覧などを載せてみました。 ※主人公の下半身緩め。ネコはチョロめでお送りします。ご注意を。 ※タグ付けのセンスが無いので、付けるべきタグがあればお知らせください。 ※R指定は保険です。

処理中です...