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第三章 世界に降りかかる受難

閑話 皇帝と愉快な大臣たち

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 皇帝は焦っていた。
 帝国にあるダンジョンを狙う敵国、そこまではよくあることだ。
 だが……彼らの狙いが新たなダンジョンだと知り、頭を抱えたのは仕方がない事かもしれない。

 情報をもたらしたのは闇や影がある所ならばどこへでも出入り出来る邪神、イグ。
 宰相が呪術師に依頼して呪いのこもった酒を造り、かの邪神へと捧げた対価が今回の情報。
 呪われた酒の感想は「呪詛の込め方が甘い」だった。呪術師本人はショックで寝込んだ。

 今回新たにオープンするダンジョン、オープン日にパーティー組んで参加しようと邪神の親玉と親玉の飼い主から誘われていた。
 下手を打てばまた国が一つ丸っと消える。そこを管理するのは本気で嫌だった。あわよくば理由をつけて大臣か将軍とかに押し付けたい。

「そのオープンする日が明日! 前日に宣戦布告とか馬鹿なのか!」
「陛下しっかり、皇帝の皮が剥がれていますよ」
「戦で無駄に兵士を死なせることないって、俺らの父ちゃんに任せておきなよ~」

 荒ぶる皇帝をなだめる宰相、闇から顔を出して始まる前に終わらせてやる発言をするイグ。
 皇帝は声を大にして言いたかった「私が一番阻止したいのは邪神が暴れることなんだ!」と。

「それともイネスに頼むか? ぺかっとひと光だぜ。まぁそのあと全員の面倒見なきゃダメだけどな」

 敵国の領土を更地にするか、攻め入ってきた兵士の精神を更地にするか……。

「考えるの面倒になってきたな。ピザの新作でも作るか」
「陛下、現実逃避しないでください」

 会議を放り出しそうな皇帝を宰相や大臣が必死に止める。

「あ、何か適当な感じに解決したみたいだぞ」

 イグの発言に視線が一斉に机から生えた蛇の顔に向けられた。
 勇気ある大臣の一人がイグに「詳細を教えていただきたい」と小さなタルトを差し出す。
 生地に毒草を練りこんだ毒入りタルト、上に飾られているのは裏で取引されていた猛毒の実、入手した際は国家転覆を企んでいると疑われたりもしたが、邪神への賄賂だと告げたら納得されたエピソードがある。

「強力な魔神を召喚して帝国を蹂躙するつもりが、うちの神子様召喚しちまったみたい」

 会議室の空気が微妙なものとなった。
 どうやら戦争はなくなったらしい、それは喜ばしいことだ。
 本当に強力な魔神が召喚されていたら帝国が危なかったかもしれない、だがそれは回避された。あのほわーっとした神子様によって。

 これ対価どうすりゃんいいんだろう。それが皆の気持ちだった。

「戦場になる予定の場所、瘴気で使い物にならなくなったみたいだな」

 呼び出される前、どうやら明日のために大量の弁当を作っていた最中の呼び出し。
 その場には味見と称して邪神の長と戦女神が、他にも手伝いという名目で全ての子供の母ヘラ、砂漠に嫁いだ魔族の王カイ、ショタの頑張る姿を見学するためにショタ守護神などがいたらしい。

 突然消えた神子様を連れ戻すために全員出撃、何故ならヘラ以外誰も料理ができないから。

「きっと戦場どころか全土が瘴気まみれなのでしょうな」
「放棄しましょう、領土は足りております」
「下手な国の手に渡っても困る。神子様に奉納するのはどうか」
「「それで」」

 満場一致で滅びた国が丸ごと神子に捧げられることとなった。
 つまり押し付けである。
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