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第三章 世界に降りかかる受難

第657話

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 行き倒れの人、ひよこ豆のスープを五杯ぐらいお代わりしました。
 凄い食べる。
 でもね、本日のお昼は配布とかそういうのじゃないの、有償なんだけれど大丈夫かなぁ?

 あ、司祭さんが一時的な保証人になって料金分きっちり奉仕させるの?
 じゃあお任せしちゃおうかなぁ。

「こちら彼が持っていた鞄の中身です」

 それは勝手に開けていいものだろうか。と思ったけれど、ここ異世界、アー君の領地で邪神一家が巡回する街でした。無銭飲食ダメ絶対。
 見せられたのは皮の紙に書かれた絵でした。
 なんだっけ羊さんとか牛さんの皮だっけ?

「へぇ風景画か」
「ほのぼのした感じが伝わってくるな」
「絵心ない俺でもわかる。これは絵本向き」

 近くにいた冒険者たちが一緒に見て感想を言っているように、なんだか全体的にほのぼのとしたタッチです。
 腐女神の影響でエロい文化なら発展している箱庭世界、こういった優しい絵柄は本当に珍しい。

「お絵かきする人?」
「はい、絵を描くことが好きというか、絵を描くことしか出来ませんが」
「どんな絵描けるの?」

 行き倒れの人から絵本作家になれる素質を感じる!

「優しいお話をかいてくれたら、今日の食事代は請求しないであげる」
「……絵しか描けないのです」

 目に見えるものをふわっとしたタッチで描けるけど、物語を考えるのは苦手と白状されました。
 あと融通が利かなくて貴族の依頼を断ったのが原因で国を追われ、何とかこの街に辿り着いたみたいです。

「じゃあ商業ギルドだな」
「?」

 串焼きをお代わりしてきた冒険者によると、商業ギルドに相談すればお話を考えてくれる作家を紹介してくれるとのこと。
 なんでも一つでも多くの絵本を作るため、常日頃からそういった人材を募集しているらしい。

「出来上がった最初の一冊は教会に奉納されるって話です」
「はぁい、私知ってます! それね、アカーシャがシャムスのために作った絵本システムです!」
「シャムス兄は絵本大好きだもんな」
『あい!』

 商業ギルドの推薦で絵本作家になった場合の最大の利点、ギルドが身分を保証し、ギルドを通してしか依頼を受け付けない、ギルドの締め切り最優先。
 横入りしようとした貴族は潰す、社会的に抹殺待ったなし、だってシャムスに奉納するための作品だから――商業ギルドも怖かった。

 そういう訳で本日の行き倒れの人は教会でお世話になりつつ商業ギルドに登録、相性が良さそうな作家さんを後日ギルドが紹介してくれるそうです。
 これもまた運命の出会い?

 なお魔王様によると奥様も絵を嗜むけれど、なんていうか、芸術的な仕上がりだそうです。
 表情が微妙そうだったので前衛的な感じだと察しました。
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