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第三章 世界に降りかかる受難

第643話

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 正直悪ノリした。
 若干反省している。
 でも楽しかったのでまたやりたい。

「うぅ怖かったよぉ、統括の命令だから来たのに理不尽んん」

 岩のベッドの上でめそめそ泣くこちらの男性、冒険者ギルドの職員さんでした。
 ダンジョン周囲の立地調査とかそういう感じの仕事のために来たけど、地質調査してたらいつの間にか周囲が森になった挙句、ツタに絡まれて遭難していたそうです。

 知らない所で涼玉がやらかしていた例ですね。
 でも助けたのも涼玉なのでセーフである。うむ。

「しかも何かこの森、声が煩いし、怖いから早く帰りたいのにぃぃ」
「どういうことです?」

 外見だけで人を騙せるイネスが優しく職員さんに声をかけ、話を聞いて分かったのはこの人どうやら人の心の声が聞こえるらしい。
 ギルドに正職員として採用されたはいいけれど、冒険者たちが毎日「腹減った」「黄金ランチ黄金ランチ」「今日も肉が美味い、肉なら牛でも豚でも鶏でもいい!」ととにかく煩くて内勤から逃げ出し、こうして外での調査を引き受けたという訳らしい。
 どうでもいいけど冒険者の声の大半が食事に関するシャウトってどういうこと?

 なお、職員さんは女装している男性だった。
 女装している理由は趣味とかではなく、冒険者から身を守るためでした。
 この世界、線が細い男性だと冒険者から求愛アピールあるし、下手をすれば襲われてそこから愛が生まれたり生まれなかったりするから……ごめんね、腐った世界で。

「私たちの声も聞こえてます?」
「今一番大きく聞こえる声は「聞こえていますか、今貴方の心に呼び掛けています」という声です」
『涼ちゃんよ』
「涼ちゃんですね」
「俺だわ」

 うちの子がとても自由、だがそこが可愛い。

「今は「涼玉様カッコイイ、いいぞー、うおおー」と複数の声が凄いです」
「マールスかな?」
「ゴーレムじゃないか?」
「ゴゥ!」
『そうだって』

 心の声を聞こえる特性を利用し、魔物と意思疎通が出来る人間。というくくりでいいのかな?

「うーん、どうも私たちの声は通常は聞こえず、語り掛けた時に届く感じですね」
「俺ら人間じゃないからなぁ、仕様が違うんだろ」
『刀国で暮らすのはそこまで無理じゃないね、ただ煩いだけで』
「心の声が聞こえちゃう人ってもっと苦悩してると思ってた」
「そりゃぁ多少の苦悩はありましたが、国民性のお陰か差別とか忌避されることは殆どなく、逆に人生相談とか多かった少年時代を送りました」

 僕がイメージしていた苦悩と違う。

「殆どない? ちょっとはありました?」
「刀国の人間だと「今日の夕食、肉と魚どっちがいいと思う?」という系が多かったですね、嫌がって近付かないようにヒステリーを起こすのはいつも他国の人間ですよ。あと国王陛下はいつも国王辞めたいって言ってます」
「あいつらいつも食い物のことばっかだな」
『おじいちゃんのあれは口癖なのよ』
「あ、あの、向こうから涼玉様を呼ぶ声が聞こえます」
「俺?」

 職員さんに先導してもらい、向かった先には大樹の根っこに入口を塞がれたダンジョンがありました。
 周囲にはぴょんぴょんジャンプをしてアピールをするカブの魔物、どうやらこの辺で採れるカブが涼玉の魔力で変質してあんな感じになったみたい。

 家に連れて帰ってバックダンサーとして採用するのと、ダンジョンの案内人として雇用するのどっちがいいかなぁ?
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