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第三章 世界に降りかかる受難
第613話 少なくとも前半は和やかだった
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その日は第四皇子の側近選びという名目のもと、年の近い貴族を招いて茶会が開かれていた。
良き天候に恵まれ、表面上は和やかな空気に包まれていた。
第四皇子には婚約者も友人も側近もすでにいるので本来なら必要ない茶会だが、全て城に努める大臣の子息で固められているため、後々の不満を生まないために平等にチャンスを与えたという建前を保つための茶会だった。
皇子は他にもいるので、そちらと仲良くなれる可能性もゼロではない。
集められた子供たちは親から言われた通りグイグイ行こうとしたものの、側近らの鉄壁のディフェンスによって皇子と親しくなることは出来なかった。
彼らも彼らで親に「帝国の良心たる第四皇子をお守りせよ」と言いつけられていたので、心労を与えそうなタイプは最低限の挨拶だけさせてさっさと退場させていた。
日頃からのびのびと遊ばせたり、共に学ばせた結果、大臣の子供たちは年齢も派閥も超えて強い友情で結ばれていた。
なお、敵対勢力の子供を蹴落とせと命じた場合、翌日には女神かショタ守護神がお宅訪問をし、子供同士が仲良くしてんのになに水差そうとしてんだよ?ああん?当主挿げ替えたろか?と楽しい話し合いタイムが設けられていたのはやらかした親しか知らない事である。
未来の忠臣に守られ、穏やかに挨拶を受けていた第四皇子だが、ふと茶会の空気に異変が起きたことを感じ取った。
弟たちが派手にやらかし、大惨事が起きるたびに駆け付ける中で培われた第六感である。
「嫌な予感がする。今すぐ茶会をお開きにした方がいいかもしれません」
「皇子は避難を」
「わたしは父たちに伝言を伝えて参ります」
「さ、混乱が起きる前に撤退を」
第四皇子の直感への反応は二つ、相手が弟たちの場合はいきなり走り出す、言葉に出していては間に合わないと本能的に判断しているからだろう。
もう一つは独り言として呟く。これは周囲への警告が含まれており、こちらの場合はとりあえず第四皇子をその場から避難させるのが最善と認知されている。
つまり今回は避難させるのが最善。
見事なチームワークで一分もしない内に第四皇子は茶会の会場から姿を消していた。
何かが起こった後の始末は大人の仕事である。
「分かった。報告ご苦労、陛下にはすぐ伝えます、お前もすぐ避難しなさい」
「はい!」
息子から話を聞いた大臣は対処するためにすぐに動いた。
「陛下、実は……」
普通の国ならば子供の戯言と一笑し、相手にもしないだろうがここは帝国、神々の息がかかるどころか女神が嫁いだ国である。
真面目に対応しないと何かが来る。
女神が不在だからと言ってだらけてはいけない。
「茶会は中止する、すぐに避難を――」
大臣から話を聞いた皇帝がすぐさま判断を下したが一歩遅かった。
避難を、と言うよりも早く会場の一角から見慣れた闇が炎のように立ち上がり、同時に周囲が闇に包まれた。
近衛兵が素早く魔法で火を灯し、皇帝の周囲の明かりを確保した。
その炎すら食い尽くす勢いで闇が暴れている。
「父ちゃんっ! えっちゃんブチきれてる!」
「クリスタル林檎出して、クリスタル林檎っ!」
「弟たちは回収したぞー!」
「イグちゃんあんがと! でもクリスタル林檎出すよ!」
「すぐ逃げてっ!」
「分かった!」
菓子を食べるため、会場のあちこちに散っていた小さな皇子を回収してくれたのはイグだった。
イグが闇に潜ったのを確認し、皇帝がイネスからもらい受けたクリスタル林檎を取り出すと、目に優しくない強さの光が周囲一帯に広がっていった。
良き天候に恵まれ、表面上は和やかな空気に包まれていた。
第四皇子には婚約者も友人も側近もすでにいるので本来なら必要ない茶会だが、全て城に努める大臣の子息で固められているため、後々の不満を生まないために平等にチャンスを与えたという建前を保つための茶会だった。
皇子は他にもいるので、そちらと仲良くなれる可能性もゼロではない。
集められた子供たちは親から言われた通りグイグイ行こうとしたものの、側近らの鉄壁のディフェンスによって皇子と親しくなることは出来なかった。
彼らも彼らで親に「帝国の良心たる第四皇子をお守りせよ」と言いつけられていたので、心労を与えそうなタイプは最低限の挨拶だけさせてさっさと退場させていた。
日頃からのびのびと遊ばせたり、共に学ばせた結果、大臣の子供たちは年齢も派閥も超えて強い友情で結ばれていた。
なお、敵対勢力の子供を蹴落とせと命じた場合、翌日には女神かショタ守護神がお宅訪問をし、子供同士が仲良くしてんのになに水差そうとしてんだよ?ああん?当主挿げ替えたろか?と楽しい話し合いタイムが設けられていたのはやらかした親しか知らない事である。
未来の忠臣に守られ、穏やかに挨拶を受けていた第四皇子だが、ふと茶会の空気に異変が起きたことを感じ取った。
弟たちが派手にやらかし、大惨事が起きるたびに駆け付ける中で培われた第六感である。
「嫌な予感がする。今すぐ茶会をお開きにした方がいいかもしれません」
「皇子は避難を」
「わたしは父たちに伝言を伝えて参ります」
「さ、混乱が起きる前に撤退を」
第四皇子の直感への反応は二つ、相手が弟たちの場合はいきなり走り出す、言葉に出していては間に合わないと本能的に判断しているからだろう。
もう一つは独り言として呟く。これは周囲への警告が含まれており、こちらの場合はとりあえず第四皇子をその場から避難させるのが最善と認知されている。
つまり今回は避難させるのが最善。
見事なチームワークで一分もしない内に第四皇子は茶会の会場から姿を消していた。
何かが起こった後の始末は大人の仕事である。
「分かった。報告ご苦労、陛下にはすぐ伝えます、お前もすぐ避難しなさい」
「はい!」
息子から話を聞いた大臣は対処するためにすぐに動いた。
「陛下、実は……」
普通の国ならば子供の戯言と一笑し、相手にもしないだろうがここは帝国、神々の息がかかるどころか女神が嫁いだ国である。
真面目に対応しないと何かが来る。
女神が不在だからと言ってだらけてはいけない。
「茶会は中止する、すぐに避難を――」
大臣から話を聞いた皇帝がすぐさま判断を下したが一歩遅かった。
避難を、と言うよりも早く会場の一角から見慣れた闇が炎のように立ち上がり、同時に周囲が闇に包まれた。
近衛兵が素早く魔法で火を灯し、皇帝の周囲の明かりを確保した。
その炎すら食い尽くす勢いで闇が暴れている。
「父ちゃんっ! えっちゃんブチきれてる!」
「クリスタル林檎出して、クリスタル林檎っ!」
「弟たちは回収したぞー!」
「イグちゃんあんがと! でもクリスタル林檎出すよ!」
「すぐ逃げてっ!」
「分かった!」
菓子を食べるため、会場のあちこちに散っていた小さな皇子を回収してくれたのはイグだった。
イグが闇に潜ったのを確認し、皇帝がイネスからもらい受けたクリスタル林檎を取り出すと、目に優しくない強さの光が周囲一帯に広がっていった。
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