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第二章 聖杯にまつわるお話

side 某ギルマスの受難

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 冒険者ギルドと言えば一昔前はならず者の集まりと言われ、町の人間に嫌われていたのが常だった。
 それがギルドのトップに統括という役職が新たに作られ、そこに一人の人物が就いてから変わった。

 ここも大きな変革の渦に巻き込まれたギルドの一つ。
 不正していた上役はクビになり、冒険者相手に横柄な態度だった職員は更生の余地があれば根性を叩き直されてから下っ端からやり直し、不正に手を出していた職員は物理的に首が飛んだ。
 とにかく腐敗していた根っこごと焼き払って一から作り直された。

 その時に新たにギルドマスターとして指名されたのがこの俺、当時はただのBランク冒険者、可もなく不可もなく、文字の読み書きが出来る。ただそれだけの理由でギルマスの地位を押し付けられた。
 逃げ出さずに済んだのは、俺以外にも犠牲者が多数いたからかもしれない。
 ここのギルドを拠点としていた冒険者のうち、同じく読み書き出来る奴らが強制的に臨時職員として雇われ、逃げ出す事も叶わずギルドの立て直しに協力させられた。

 そんな感じで逆らえない絶対的な権力を前に、冒険者の連中と泣きながら仕事をこなし、何とか今日までやってこれた。
 運営が軌道に乗った所で臨時職員は解散、若いのは逃げるように冒険者業に戻り、俺の周囲に残ったのは引退を考えていたむさいおっさんばかり。
 俺、前世で何をやらかしたんだろうか。

 ギルドの一階は酒場も併設しているのがお約束だから、その分トラブルもよく起こる。
 今日も程よく騒がしい喧騒をBGMに仕事を進めていたら部屋の扉がノックされ、冷や汗をかいた副ギルマスが部屋に入ってきた。

「ダンジョンから帰還したパーティーが瀕死です」
「普通にポーションじゃダメなのか?」
「金がないようで」

 ギルド運営の中で一番大きく変わったのがこれだろう。
 以前はポーションを買う金がない奴は自業自得だと見捨てられ、傷から冒険者を引退するのが当然のような流れだった。
 けど今は制度が変わり、依頼料からポーション代金を差し引く事を前提にポーションを使用する事が義務付けられている。
 借金を背負うことにはなるが、怪我から引退、または安くてその日暮らししかできないような賃金しか稼げないような末路は回避できる。

 しかもこの時使われるポーションは町で売っている効果の安定しないものではなく、ギルド本部から支給されている安心価格、安定性のあるポーション。
 ただ全てのギルドに支給しているらしく、在庫数は限られているので利用には俺か副ギルマス、二人ともいない時は受付のリーダーの許可が必要になる。

「傷の具合は」
「組織が死んでいます」
「え、それってポーション効く?」
「……まぁ血止めにはなるかと」

 目を逸らしながらの返答に思わずポーションの使用をためらう。
 これは勘だが、使用する前に負傷の事情を聞いた方がいいやつだ。

「怪我人から事情を聞くぞ」
「はい、今下のフロアで寝かされています」

 副ギルマスとともに移動したら、下が異様なほどに静かになっていた。
 ぐちゃりと嫌な音が耳に届いてくる。
 俺に気付いた冒険者がこちらを見たが、顔色が悪くて今にも倒れそうだ。何が起こっている?

「ふんっ、これだけ壊せば完全には治せない!」
「ザマァ」
「命は助かって良かったなぁ、上級ポーション使えば歩けるし、走れるようにもなるぞ。そのたびに激痛が走るけどな!」

 冒険者たちが俺と副ギルマスに道を開けてくれたが、正直前に進みたくない。
 人垣の先に見えた光景に胃液がこみ上げそうだ。

「コイツら悪、イツキに魔物なすりつけてにげよーとした!」
「悪、成敗」

 金色の蛇がふふんと胸を張り、銀色の蛇が同意するように頷いている。

「ボス部屋で全滅しかけてたのがいたからついでに回収してきたぞ、そこの壁にまとまって座ってる連中。あっちは普通にポーション効くから」

 親切に状況説明をするのは王侯貴族も泣いて怖がることで有名な、蛇の頭を持ち、闇から闇へと自在に渡る邪神イグ様だった。
 俺、この度の責任取ってギルマス辞めるとか出来ないだろうか。
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