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第二章 聖杯にまつわるお話

第349話

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 セティにの宮殿にお泊りしたら、お客様が次から次へと訪れて大変なことになっております。

 アー君には冒険者ギルド砂漠支店からギルマスと福ギルマスが、貢物と見せかけた書類の山を持って乗り込んで来た時はアー君が一瞬逃げ腰になったのを僕は見た。
 セティの街を拠点にしている冒険者の人達は現在、お祭りの準備の手伝いに駆り出されているらしい、もちろん報酬付きで。

 他にも商業ギルドや海神ギルド、街の有力者などがぞろぞろと。
 僕は巻き込まれたら疲れそうなので騎士様を盾にしてそっと離脱、ありがとう騎士様のキラキラは良い囮です。

「うーん、セティの神殿目指したはずなんだけどなぁ」

 人込みを避けてちょろちょろしてたら街に出ました。
 おかしい、目指した場所と真逆なんだけど。

 でもまぁ僕にはえっちゃんがいるからね、街で迷子になったら神殿に転移すればいいか。

「ん、フードかぶった方がいいの? 分かった」

 えっちゃんが影絵でフードをかぶれと指示して来たので素直に従います、本日のポンチョは白兎、違和感のなさにたまに不満が浮かぶけど誰も相手にしてくれません。
 ふわふわ兎耳を風に揺らしながら適当に歩くと、レンガ造りの区画に到着。

 どうやらここは観光客向けの食事スポットみたいです。
 お店で食べてよし、外で食べてよし、食事しているのは冒険者が八割、残り二割が地元の人って感じだろうか、外食するほどの余裕はまだないのか、まだまだ働く時間だからなのかは不明です。

 一番人気はホットドッグのお店、魔法のような速度で次々と作るターバンをしたおじさんの屋台に人がずらり、僕も食べたいなぁと思ったけどお金持ってないですね。
 冒険者の数が多いのは刀国から一日一便船が往復していて、それに乗って気軽にこの都市に来れるからだそうです。
 おじさんのホットドッグ作りが面白くて見ていたらお客さんが教えてくれました。

「刀国からここまで船でどれくらいですか?」
「海神様のご機嫌次第かな、やる気がない時は一週間かかる日もあれば、やる気満々な日は一時間とかもある」
「うぅヨムちゃんが気紛れ」
「神殿作って美味いもの奉納してるが、やっぱり刀国の屋台には負ける」
「ダンジョンから珍しい物が出るからもっと気軽に来たい俺らみたいなのが無い知恵出し合って出した答えが、飯がダメなら技術でなんとかこう……」
「ふわっとしてますね!」

 さすが刀国民。

「大会もどき開いて優勝したのがこのおやっさん」
「ホットドッグ作る速度が速すぎるのがツボに入ったらしくって、神子様みたいにずっと見てたぜ」

 ホットドッグ作りをずっと見ているだけの不審者にやけに親切に解説してくれると思ったら、なんか正体ばれておりました。
 ヨムちゃんと僕、やっぱり親子だなぁ。

「このホットドッグ、チーズとかのせないの?」
「チーズ?」
「あれ高級品っすよ、一般流通はしてるけど国内だけだし、輸出検討してくれるかどうか」
「牛乳から作ればいいと思う」

 確かに刀国で流通しているチーズは、シヴァさんがアー君に捧げるために作ったチーズの実から採れるものなので値が張る。 
 神に奉納するために作った高級品だからね、高いのは仕方がない。
 でもチーズってそれ以前からこの世界にあるよね?

「それかセティにお願いして、チーズの実を手に入れてもらったらどう? もうじき盆踊りあるし、涼玉がノリノリだから増やせるよ」
「え、神様の踊りってそんな利用していいの?」
「いいと思うよ、セティも自分が欲しいものリストにしてアー君に渡してたよ」

 主にアー君の領地で採れるものだったから、仕入れ先はそっちになるかもしれない。

「一般家庭に届けるのは難しいかもしれないけど、おじさんみたいに何かの大会に優勝した褒美としてなら手に入れられるんじゃないかな?」
「だってよおやっさん」
「俺チーズドック食いたいし、セティ様に嘆願書出しとこ」
「おっちゃんのメニューが増えるなら俺は辛いやつ食いたい」

 夢を膨らませる冒険者を前に店主のおじさんがあわあわしている。

「あー、マスタードかけたくなってきた」
「そういやケチャップとか自分の使ってるもんな」
「おっちゃん利益それなりだろー、セティ様にお願いして輸入してもらおうぜ」
「それより商業ギルド通した方が金で解決出来るだろ」
「わたし、店一人、無理無理ヨ」
「ギルドに登録してる子供を雇えばいい、任せろ、美味いもののためなら俺らいくらでも協力するから」
「ピクルスも入れてほしいよな」
「とりあえず今日の分売り切ったら商業ギルド行こうぜ! 俺らの美味い飯のためだ!」
「うおおお!!」
「ひぃぃ」

 軽い一言からとんでもないことになりました。
 でもまぁ結果的にヨムちゃんが喜びそうだし、いっかー。
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