神様のポイント稼ぎに利用された3

ゆめ

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第二章 聖杯にまつわるお話

第273話

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 冒険者数人に囲まれたと思ったら、目の前で熊の獣人が両手を広げたので遠慮なく飛び込み、そのまま確保されてお姫様抱っこでギルドまで運ばれました。
 もふもふによるお姫様抱っこ、悪くない。
 猛スピードで街中を疾走したのも楽しかった。

「大変だーー!」
「扉の修理代は報酬から引いておきます」

 ギルドの扉を蹴破って入ったので、扉が半壊しました。
 即座に受付から飛んでくるシビアなセリフ。

「それどころじゃないんだって!」
「はぁ?」
「ぶっほ」
「ちょっと待って、ないない、それはない」
「もうこの国はだめだな」

 煩わしそうな声を出す受付さんに対し、併設されている酒場のあちこちから悲鳴が上がっています。
 視線の先にいるのは……僕みたい、もしかして僕って実は自分で思っている以上に有名人だったりするのだろうか。
 そして事情を話す前からこの国が終わることが決定しているような言い方をしている人もいた。

「アンタじゃ話にならない、ギルマスを呼んでくれ」
「ギルド長は忙しいのですが」

 うーんアー君が改革したにも関わらず、冒険者に対する態度が悪いなぁ。
 地元雇いだと多少は仕方ないのかな?
 まぁいいや、呼んでくれないなら呼んでしまおうギルマスさん。

「えっちゃんお願い」

 小声でお願いしたら頭の上で「ひっ」と短い悲鳴が上がった。

「お前、速すぎる」
「一緒にいた二人、連れてきたぞ」

 冒険の仲間が被害者二人を連れてきてくれたようです、良かった置いてこられたらどうしようかと思った。

「……これはどんな状況かね?」
「ギルド長」
「ギルマス」

 冒険者の影からにゅっと現れたのは、渋い感じが漂うおじさまだった。
 連れてきてくれたんだね、ありがとうえっちゃん。

 受付の報告を聞きながら僕に視線を向け、冒険者を見ようとしてまた僕を見た。
 眉間に皺を寄せて受付の話を遮り、僕を見たまま胃を押さえてしまった。

「ひとまずご休憩いただき、その間に各所に連絡を……誰か教会に行ってくれ、それと――」

 忙しく指示を出すギルマスさん、僕は酒場に用意された席に座らされ、温かいミルクを出された。
 ここはお酒じゃないんだ、一応成人してるんだけどなぁ。

 僕の左右には戦士と魔法使いが体を小さくして座っている。
 出されたミルクに手も付けず、ガチガチに固まっているけどここはもう安全だから気を抜いて大丈夫だよ?

「お前、なんだか毛が艶々になってないか?」
「昨日魔物にやられてハゲた部分治ってるぞ」
「ちょっと待て、使い古しているはずの防具が、新品?」
「おうおうどうした、見せてみろ」

 熊さんの仲間たちが熊さんを見て目を見開いていたら、近くの席の冒険者達が近寄ってきて一緒に熊さんの体を検め始めた。

「もとは何の防具だった?」
「えっと確か前に使ってたのが壊れたから鹿の皮、だったか?」
「うん、お金なかったけどおじさんと交渉してちょっといいの買ったから」
「鹿は鹿でも白鹿の亜種の皮に変わってるぞ」

 鑑定を使って調べてくれたらしく、そのセリフに様子を見ていた冒険者が一斉に噴き出してむせっている。

「え、噂には聞いてたけど、えげつなっ」
「相手生きてなくてもいいのか? 防具にも影響あるとか初耳!」
「統括への報告書に追記しといて!」

 詳しく調べたところ、熊さんは茶色い森の熊さんのまま、ステータスが爆上がりしていました。
 この辺は特に皆さん驚くことなく、力を扱う訓練頑張れと声援を送っていた。

 そう言えば僕がここにいる事情を誰も聞かないけど、いいのだろうか?
 それとも皆さんの視線が熊さんに集中している今のうちに旅に出ちゃう?
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