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第二章 聖杯にまつわるお話

第238話

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 アー君の担任の先生についていったはずの亀がなぜか目の前にいます。

「亀も楽しそうだなぁ」
「ぶもぉおおおおお!!」
「そうだよな、ロデオ以外じゃ俺を乗せられないよな」
「ふすーー!!」

 鼻息の荒いロデオと涼玉の間で会話が成立している。
 そんなロデオの体を拭いたり、ブラシをかけて整えているのはマールス、涼玉が乗るのに汚れたままなのは許せないみたい。
 ロデオは牛さんゆえに野外で生活しているからそれなりに汚れている。という主張です。

『イネスは誰に乗る? 狼しゃんもいるよ』
「悩みますねぇ」
「わたし亀に乗ってみたい、空飛べるかな?」

 子供たちがキャッキャしている横で僕は牛の群れに囲まれています。
 なぜかって?
 それはね、僕の隣に秋の味覚ダンジョンの領主である元黄金の牛さんがいるからです。
 牛ハーレムに巻き込まれているんだぁ、迷惑だよねー。

 その向こう側にはこの農村に単身赴任している農民の皆さんがいて、ハラハラしながらこちらを見ている。
 今日は涼玉がロデオをするということで通常業務はお休み、実った作物を回収するために待機中です。
 普通に回収していては間に合わないため、彼らには収納がついた魔法鞄が配布してあるとアー君が言っていた。

 僕が牛に囲まれて困っている光景をスルーして、子供たちはそれぞれ亀や狼に乗って走り出した。

「昼までには一度帰って来るからーー!」
『狼しゃん、出発よー』
「亀が回転し始めた!」
「想定していた移動方法と違いますね!」

 みんな待って、ロデオここでやるんじゃないの?
 あと何で亀は四足歩行じゃなくて手足を引っ込めた状態で回転してるの!?
 色々おかしい!

 その後をもーもー鳴きながら追いかける牛の群れと、走って追いかける農民の皆様。

「せめて背中に乗せてあげてー!」

 大声で声を掛けたら牛がUターンして農民に突撃、空高く吹っ飛ばしたのを背に乗せて走り去った。
 大丈夫、謎能力の影響で吹っ飛ばされた場合は怪我しないから。

 のんびりと子供たちのロデオを見学するはずが、置いて行かれて暇です。
 周囲を囲っていた牛も、様子見していた農民の皆さんも居なくなっちゃったしなー。

「では視察を始める」
「んん?」

 何やら真面目なことを言い始めたと思ったら人型から黄金の牛に姿を変え、角にポンチョを引っかけると僕を投げ飛ばして背中に乗せた。

「人の生活を見て領地経営に役立てろとアルジュナ様に命じられている」
「そうだったんだぁ」

 でも牛になる必要があったのだろうか、あれか、僕に体力がないから背に乗せるためかな。
 牛の背に乗って、小さな農村をゆったりと移動する。
 なんだろう、すごく長閑な感じ。
 ロデオは楽しそうだけど、僕はこっちがいいなぁ。

「店主、ここは何の施設だ?」
「うち? うちは鍛冶屋っすね、釣り道具とか農具を整備するのが主な役割っす」

 黄金の牛がまず声をかけたのは店先で鍬を整備していた頭にタオルを巻いたお兄さん、相手が人より大きな牛でも全く気にせず気軽な感じで答えているのが凄い。
 もしや刀国の人なんだろうか。

「今手に持っているそれは何の道具だ?」
「これは鍬っす、畑を耕したり、草取りするのに使うんです。この刃の部分に強化魔法かけるとどんなに硬い土でもサックサクなんで人気なんすよ」
「ふむ、我が領地にも欲しいものだ」
「商業ギルドで売ってますよ、ただ手入れは鍛冶職人じゃないと出来ないんで、領地で取り扱う際は職人の手配も一緒に頼んだ方がいっすねー」

 その後も幾つか質問を交わし、口調はともかく全てにスラスラ答えていくお兄さん。
 最終的にこちらのお兄さんは商業ギルドから派遣された元冒険者で、魔物に足をやられて走れなくなって廃業、ギルドに引退を申請したらこの職場を紹介されたらしい。
 親方と相思相愛になったこともあり、この村に永住することを決めたことまで知れました。

 僕は一体どこに驚けばいいのだろうか。
 あっ、親方はずんぐりむっくりで有名なドワーフでした。
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