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第二章 聖杯にまつわるお話

第234話 スタンピード=食べ放題

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 目の前には数千を超す魔物の群れ。
 後ろには守るべき命の数々。

 逃げれば自分は、自分達は助かるが、戦うすべを持たない者は全て死ぬだろう。
 そもそも冒険者である自分達に町の人間を守る義務などない、町を守ったからといって報酬もない、死ねばそれまで、ただの犬死だ。

「――っつっても、逃げるタイミングは逃した後だけどな」

 それなのに戦場に身を置き、死を前に戦っているのは冒険者としての矜持。
 ただの無法者として扱われていた冒険者をすくい上げ、正しい道を示してくれたギルド統括への恩返しみたいなもの。

 すでに数十を超える数を斬った腕は怠く、剣が折れるのも時間の問題。
 それでも退くわけにはいかなかった。

「リーダー、こんな時って誰に祈ればいいのかな?」

 魔法使いは魔力切れ寸前。

「似合わないけど神に祈ってみるぅ?」

 魔法使いを庇った盗賊の肩は砕けているだろう、それでも気丈に笑って何でもないように振舞っている。

「お隣さんは神様が統治してるらしいが、こっちにも恩恵が欲しいもんだね」

 何度か合同で戦ったことのあるパーティーは、すでに二人ほど魔物によって命を落としていた。

「そっち、あとどのくらいいける」
「千でも五千でも相手してやるさ」
「頼もしいね!」
「次の波、来ます!」
「うおおおおおおおおッ!」
「死んでたまるかぁぁぁ!」

 気力を振り絞って冒険者達が咆哮したその瞬間。

 ぱくり

 奇妙な音とともに目の前の魔物がごっそりと消えた。

「狼の毛皮はいい毛皮ー、これだけあるしエヴァのお布団新しくしちゃおうっかなぁ!」
「あっちに豚いる! トンカツ! 生姜焼き!」

 小さな、それそこ魔法使いが使う杖よりずっと細くて、盗賊の短剣より短い胴体の白と黒の小さな蛇が二匹、そこにいた。

「土産にしようぜー!」
「うおー!」

 気付けば魔物の氾濫は収まり、一匹、二匹と逃げ始めている。
 砂に潜れる種は死に物狂いで砂に飛び込んだりと、先ほどまで人間を食らおうとしていたのが嘘のように恐慌状態になった魔物が町から遠ざかっていく。

「こら待てー! エヴァへのお土産ーー!」
「俺のお小遣いぃぃ!!」

 小さな二匹の蛇。
 それだけで戦況はひっくり返り、生き残れた人間は助かった。

「助かった。のか?」
「おれ、おれたち、いきてる」

 戦いが終わったことに安堵し、安堵に嗚咽を漏らす者もいる。
 悪夢のような時間はこうして終わった。

「魔物いなくなったな」
「食い足りない……もう一か所ぐらい回っとくか?」
「そうしよー」
「じゃあ行くかー」

 人間が絶望からの生還に喜んでいる時、二匹は次の食べ放題に行くために闇にその身を沈めた。
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