上 下
223 / 844
第二章 聖杯にまつわるお話

第219話

しおりを挟む

 視界を遮る濃い霧の中、突如聞こえた声に武器を構えるアカーシャ親衛隊、声の正体はいまだ姿を現さず緊迫した空気が続いております!
 ところで君たち、基本商人のはずだけど戦えるの?

(それにしてもイネス達を放置して大丈夫かな? いざとなったらえっちゃんが動いてくれるだろうけど、あの子たち無茶するからなぁ)

 一番手っ取り早い呼び寄せ方法はおやつ、適度に運動した後なら呼べば一瞬で来ると思う。

(いやそれよりも、マールスが一緒に行ったのが心配。邪神がイネスのあれ受けて大丈夫なのかな?)

 でもまぁ毎日我が家で聖なる野菜やら果物やら摂取しているし、スラムでぺかぺかしている時も無事だったからきっと大丈夫なんだろう。
 愛の力かな?

「かあさま」
「ん?」

 青い顔でアカーシャがこちらを見ている。
 どうやら緊迫状態はまだ続いていたようだ。

 すみません、うちの子のことが心配で気が逸れてました。

「えっと、とりあえずイネス達を呼び戻していいかな?」
「この状況で!?」

 アカーシャの悲鳴を聞きながらえっちゃんに手伝ってもらい、洞窟の入口から離れた場所に敷布を敷き、温めたミルクとスコーン、ジャム各種を用意。
 クッションの上にシャムスを座らせ、洞窟に向かって呼びかけてもらいます。

「シャムスお願い」
『おやつですよー』
「おやぁつ!」
「です!」
「オラオラー!」

 遊びに行った時の倍の速度で戻ってきて、スライディングからのジャンプで席に着きました。
 身体能力高いと違うなぁ。

「わたしは杏!」
「いちご」
「俺はリンゴ! シャムス兄は何にする?」
『おれんじ』

 戻ってきたままの勢いでおやつを食べる子供達、なお緊迫状態は今も続いております。

「ミルクんまいな! ところで何で皆でにらめっこしてんの?」
「アカーシャの奪い合いですか? 駄目ですよ刀国民に暗殺されちゃいます」
『涼ちゃんミルクも飲もうね』
「もぐもぐもぐ」

 ミルクを一気飲みしたネヴォラが霧の中央を見据えながら首を傾げた。
 イネスも誰がいるのか分かっているらしく、二個目を食べながら物騒な忠告をした。

「……」

 すぅっと霧が晴れ、姿を見せたのは馬に乗ったフル装備の騎士団。
 ここ帝国だからきっと帝国の騎士さんだろう。

 先頭の人が馬から降りるとその場で兜を脱ぐ、兜の下から出てきた顔は――皇帝。なぁんだ。

「皇帝もスコーン食うか?」
「ジャムは我が家のだから聖属性付きますよ」
『涼ちゃんお口にジャム付いてます』
「んー」

 相手が判明し、敵でないと判断したアカーシャが合図して親衛隊も武器を下した。
 武器が下ろされたのを横目に皇帝が僕らに近付いてきたので、適当なジャムを付けてスコーンを差し出してみました。食べるかな?
 盛大な溜息を吐いて僕の横に座ると、スコーンを受け取って口に放り込んだけど、そう言えば毒見とかしなくていいのだろうか。

「本当に、ここで何をしているんだ」
「ロデオしに」

 素直に答えたら皇帝の眉間の皺が大変なことになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

処理中です...