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第二章 聖杯にまつわるお話

第211話

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 名も無き村周辺はちょっと前まで飢饉が猛威を振るい、ろくに作物も採れず、土地は痩せ、川の水もほとんど干上がっていたそうです。
 実際、この村は無事でも近隣の村では死者も出そうになったとか。

「それにしては村の人、少し痩せてる程度だよな」
「ああ……俺のかあちゃん、アイテムボックス持ちなんだよ。しかも女神様の祝福で容量無限と時間停止の機能が追加されてるんだ」
「はぁ!?」
「アイテムボックスってあれだよな、伝説の異能……」
「マジックバッグでさえ幻級の、あれ?」
「あれば素材の無駄が減るっていう、あれ!?」

 お兄さんのセリフに仲間達が驚愕に目を見開いています。

「フハハハハハ、この辺で獲物が獲れないならば遠くに行けばよい!! 我がアイテムボックスは水も入るぞ!」
「いや、普通に水魔法使えば?」
「どうも私は昔から魔力操作が苦手でして! 無駄な魔力を使うより、身体強化に回して遠くに狩りに行く方が有意義と判断しました!」

 アー君の問いに笑いながら答えるお母様、答えが脳筋なのは気のせいじゃない。

「読み書き計算が出来て、アイテムボックス持ち、もしかして刀国出身?」
「はい! 騎士様に憧れ冒険者になり、救える者は救おうと各地を回っている時に今の旦那に会いました!!」

 まさかの騎士様ファン。
 僕の横にご本人いますよー、今日羽織ってるマントはやんわりと認識阻害がついているらしく、他に目立つ存在があると認識されにくい仕様だそうです。
 アー君やイネスみたいに人の注目を集めやすいタイプが一緒にいると効果大みたい。

「騎士様に憧れて冒険者?」
「騎士に憧れたなら騎士団目指すんじゃ?」
「ああ違う、違う、かあちゃんが言ってる騎士様ってのは刀国に現存する女神様の上司のこと、確か金髪碧眼の人とは思えない美しさを持つ剣士で…………え?」

 お兄さんが騎士様を見て動きを止めた。

「樹、この梅干カリカリ具合が美味しい、家でも食べたい」
「お土産に数粒貰っていきますか? ドリちゃんにお願いすれば再現してもらえますし」
「うん」

 なお、憧れの人は出された梅の食べ比べに夢中で話を聞いておりません。
 騎士様、梅に夢中で認識阻害の効果超えてキラキラしちゃってますよ!

「か、かかか、かあちゃ、ん」
「おう!」
「あの人、あの人!!」
「む!?」

 息子に言われてアー君から騎士様に視線を移したお母様、騎士様を見た瞬間カッと目を見開き椅子を倒す勢いで立ち上がりました。

「主上ーーー!!!!」
「うっわ」

 滂沱の涙を流しながら騎士様に飛びついたと思いきや、集会所の床に飛び込むように五体投地しました。怖いですね、床が割れていますよ。
 騎士様もドン引いている。

「またお目にかかれる日が来るとは望外の喜び!! 子孫代々伝えまする!!」
「え、重たい」
「国を後にして数十年、このような辺境の地で再び会えるとは!! うおおおおん!!」
「かあちゃん、うるさっ」
「建物震えてるよ」

 涼玉は轟音から逃げるために卵に戻ったみたいだけど……振動でカタカタ震えてますねー。

「騎士様の名声、こうやって伝えられているんですねぇ」
「パパ、その信者黙らせて、シャムスのお耳が痛くなる」
『なっちゃう』
「おれぇ!?」

 主上だろうが騎士様だろうが我が家ではお子様方が最優先、アー君に急かされて騎士様が慌ててお母様をなだめようとして余計泣かせました。
 刀雲、どうして貴方は今日お仕事なの……。
 騎士様もこっち見ないでください、僕にはどうにも出来ません。
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