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第二章 聖杯にまつわるお話

第144話

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 ピキッと音がして卵にヒビが入った。

「アルジュナせんせー、孵る所もっと近くで見ちゃダメですかー?」
「場合によっては危険だから止めておけ。先生もうちょっと魔力出力上げて」
「ひぇ」

 言われるがまま魔力を注ぐ先生の額に汗が滲んでいるなぁと思ったら、一匹のスライムが先生のポケットからハンカチを取り出して汗を拭きだした。
 さらに他の二匹は触手を伸ばし、先生の体にぺたりと付けた。

 アー君がチラッと僕を見て、諦めたように視線を先生へと戻しました。え、僕関係ないよね?

「アルジュナせんせー、そのスライムは何をやっているんですかぁ?」
「魔力譲渡だな。普通はやらない、でもシャムスのスライムだからこんな事も出来る」
「入手方法を教えてください!」
「運」

 そう言えば我が家に来た卵はどうしたんだっけ?
 神薙さんからもらった覚えはあるんだけど……忘れた。
 何せ自分の産んだ子の人数さえ正確に把握していない記憶容量なもので。

「おっ割れ――」
「アルジュナ様! それ異界の卵だ!!」

 悪魔が叫ぶと同時にアー君が卵を僕に押し付けた。

「ママ、俺の先生姿どうだった!」
「惚れ惚れした! アー君可愛い、アー君最高!」

 緊迫した空気だと分かっていたけれど、脊髄反射でアー君を称賛してしまった。

「でも次は……授業を受けている姿も見たいなぁ」

 えっちゃんにこっそり連れてきてもらおうと思ったけど、どうせなら本人の許可を得て堂々侵入したい。

「分かった」
「!!!!」
「うわぁ、アー君ママ、満面の笑み」
「かわいいって、何も言ってないから睨まないで!」

 喜びのあまり卵をぎゅっとしたら手の中にふわりとした毛皮の感触、あっ、卵潰しちゃった?

「ふぅ、セバツー良くやった。帝国の商業ギルドにも話を通しておこう」
「ありがたき幸せ!!」
「悪魔も苦労してるんだな」
「悪魔より悪魔な人達が相手だからな」

 手のひらをそっと開いたら、そこには手のひらサイズの烏がいた。小さくて可愛い。

「危なぁ、この世界にとっての異物は神薙神社に転送するように設定してあるはずなんだけどな、どんな激運を所持してたら入手出来るんだろ。先生、無事孵化したよ」
「はいどうぞ、手のひらサイズですよー」
「随分と小さな鳥ですね」
「仕込まれていた悪意とか全部削られたりした結果だろうなぁ、もうこれ野性にすら還れないから人間の手で面倒見るしかないけど、どうする先生、俺の家で引き取ろうか?」
「これも縁です。家族として迎え入れます」

 魔力不足でちょっと顔色が悪い先生が、それでも笑顔を浮かべて手の上に乗せた烏を優しい目で見つめている。

「大丈夫だとは思うけど保険かけておくか、一匹頼む」
「ぴ」

 アー君が声をかけると先生の頭に乗っていたスライムが飛び上がり、手のひらサイズの烏を包み込んだ。
 もにもにしてぎゅっとなってカッと光ったらラメ入り烏になっていました。サービスだろうか。

「こういったイレギュラーな危険性もあるので、必ずギルドや教会など、力づくで対処できる相手がいる場所で孵化させるように!」
「テストにも出しますね、では良い時間ですので今日はここまで。皆さん起立、アルジュナ様のお母様、今日はありがとうございました」
「「ありがとうございました!!」」

 こうして波乱万丈な第一回使い魔召喚授業は終了した。
 イグちゃんが静かだなーと思ったら、悪魔とスケルトンと一緒になって授業を受けていました。一度そこで授業を受けてみたかったらしいよ。
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