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第二章 聖杯にまつわるお話

閑話 邪神兄弟の夜

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 帝国の王都から馬車で一週間ほど離れた場所にある広大な領地を所有する領主の館。
 深夜にもかかわら数台の馬車が集まり、人目避けるように裏口から館の中へと入って行く。

 集まったのはかつて血縁者を神々の粛清で失った者たち。
 神々の基準で見逃され、皇帝の治世を支えることを贖罪としていた所に届いた一通の手紙。

 術が施されていたそれは読み終えると同時に消失、不思議なことに内容も手紙が届いたことすら覚えておらず、ただ気付いたら深夜の集まりに参加していた。
 主催者の後ろには一人の女が控えており、不気味な笑みを浮かべている。

 参加者の一人がテーブルに拳を打ち付ける音が響く。

「私は加担しない! 私には守るべき家族と民がいるんだ!」
「わ、私も同じだ、親類とともに断罪されるはずだったのを、皇帝陛下を支えることで見逃されておるのだ!」
「そんなことを言っていいのかね、我が家門に逆らうとどうなるか――」

 父や母、親類が殺されたことなどどうでもいい、皇帝さえ弑する事が出来れば、この身に流れる皇族の血が自然と自分を王座へと導いてくれる。
 呪い師は言ったのだ。自分こそが皇帝の座に相応しいと。

「人間より邪神様のほうが怖いわっ!」
「そうだ! いつどこで聞いているかも分からぬのだぞ!」
「腹を空かせたかの方にこんな会話をしているのを見られでもしたら!!」
「食うな」
「でしょぉ、ってぎゃああああああ!!」

 打ち付けた拳の横にさっきまでなかった蛇頭があった。
 目を合わせたら気軽にウィンクをされたけれど、それどころじゃない。

「よいしょっと」

 風呂から上がるようにテーブルから上半身を出すと参加者の顔を見渡した。

「あー……」
「無実です無実!」
「気付いたらここにいたんですぅぅぅ!!」
「許してください、許してください、今度孫が生まれるんです!!」
「私の所はペットの犬がもうじき出産で!!」
「そりゃ大変だ」

 イグの正体を知る者らが一斉に土下座を始めた。

「おーし、良いって言うまで顔上げるなよー、上げたら危ないからな」
「「はいっ!!」」
「飯!」
「夜食の時間」
「今日こそ一口で食べてみせるからな!」
「人数分いない!」
「バラシテ食ウ」

 恐ろしい単語が飛び交う中、ただの矮小な人間に出来るのは目を閉じ、床に頭をこすり付けてやり過ごすことだけだった。

「今よ!」
「わぁーやーらーれーたー」
「俺知ってる。正当防衛!」
「黒賢い」
「殺レ殺レ」

 ぐぎゃぁぁとかドシュッとか嘘っぽいセリフとかが聞こえたけれど、決して顔を上げず、ただひたすらこの地獄のような時間が終わることを願った。

「よっしゃぁ! 俺の薬草盗んだ奴の尻尾掴んだぞ!」
「制裁だー!」
「粛清だー!」
「殲滅のお時間近い!」
「俺の武勇伝が刻まれる時が近いな!」
「女、逃ゲタ」
「「あれぇ?」」

 もういいぞ。と声がかかり、顔を上げた時には大量の血だまりだけが残され、呼び出した男も、突如現れた邪神達もどこにもいなかった。
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