上 下
142 / 809
第二章 聖杯にまつわるお話

第139話

しおりを挟む
 アー君が書類を前に頭を抱え、撃沈している。
 つついてみたけれど反応がない、どうやら屍のようだ。

「シャムス、甘いもの作ろうか」
「けぇき」
「ホールとタルトどっちがいいですか」
「りょーほ」

 僕とシャムスのやり取りに日向でゴロゴロしていたイネスと涼玉が飛び起き、一緒にお昼寝をしていた俺様邪神をたたき起こしている。

「ケーキと言えば果物!」
「採取クエだ! 採取クエ!」
「ね、ねむい」
「マールス、アペプ持って!」
「はい」

 俺様邪神の背中をベッドにしていた金ちゃん、銀ちゃんも巻き添えを食って一緒に連れていかれた。

「イツキいるー? って、うわぁアルジュナ様が死んでる」

 しかも指でテーブルに「かろうし」ってダイイングメッセージが追加されてるね、しかも平仮名で。
 よく見たら薄目を開いてチラチラこちらを見ていますね、やだ可愛い。

「お仕事お疲れ様」

 頭をなでなでしながら声をかけたら、口元がにんまりと動きかけてぐっと力が入った。
 どうやら死んだふりは続けていたいらしい、でもねアー君、ケーキのデコレーションして遊ぶから実はアー君が邪魔なんだ。起きよう。

「アルジュナ様、こちらでお休みください」
「おのれぇぇ」

 涼玉最優先のマールスがアー君を持ち上げ、クッションコーナーへと移動させた。
 ふかふかのクッションに埋もれながら恨み言を言っているけれど、全てクッションに吸い込まれてるね。

「ままぁ~」

 甘える声が聞こえてきたのでシャムスと一緒に移動、クッションのそばに正座をするともぞもぞと体勢を変えて膝に頭を乗せた。

「アー君、いい子、いい子、おつかれぇ」
「シャムス、優しいっ!」

 その頭をシャムスが手を伸ばしてなでなで、あー眼福だわぁ。
 僕がほわほわした事でアー君の精神力が順調に回復、イネス達が果物を持ってくる頃にはケーキ作りに参加出来るぐらい元気になっていた。

 そして現在、ケーキをデコレーションしながら激務内容を愚痴ってくれた。

「ギルドとかそういった仕事関連なら親衛隊が手伝ってくれるけど、これはダメなんだ。ママ関連の報告書作りだから」

 過労死しかけてたの僕のせいだった。
 正しくは僕を召喚した人たちのせいか。

「騎士様にお願いしたら?」
「ちょっと前に俺ら中級ダンジョンのタイムアタックに挑戦して、ドロップ品の鑑定とまとめに忙殺されてる」
「ソロとチームの両方でやったからドロップ品いっぱいです!」
「普段の倍以上だったよな」
『騎士様のおめめ死んでました』

 それでここ連日帰宅してなかったのか、下手に睡眠も食事も必要ないと悲惨ですね。

「じゃあ騎士様用に一個作って差し入れにしようか」
『あい』
「シャムスの作ったケーキは俺が食いたい!」
『あぷぷはまた今度、騎士様にあげるの』
「っく、可愛い」

 俺様邪神、シャムスに名前を呼ばれるだけでも幸せみたいです、例え間違った呼び名でも。

「この生クリームに顔を突っ込みたい」
「コロサレル」

 金ちゃんはクリームたっぷりロールケーキを眺めながらほぅっと溜息をつき、銀ちゃんは命が危ないから絶対にダメだと止めている。

「はぁ~、この黒幕が見えない感じが凄い嫌、夢の世界みたいにぎゅっと集められたら楽なのに」
「ママを執拗に狙っているのが許せないです! けっちょんけっちょんにしてやりたいです!」
「普通にかあちゃじゃなかったら詰んでるよな、どっちも無傷で生還しているのがすげぇ」
『お土産付きなの』
「おかわり」

 会話しながら作っていたから注意力が散漫だったとしか言えない。

 響いた恐怖の一言に恐る恐るそちらを見れば口元を拭う神薙さん、作ったはずのケーキはどこにもなく、残っているのはデコレーション中の手元にあるケーキだけ。
 食べ、られた?

 当然、騎士様への差し入れ分も邪神様の胃に消えたようです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!

ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。 弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。 後にBLに発展します。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...