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第二章 聖杯にまつわるお話

第131話

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 僕が脳内できゃーきゃーしている間にも本日の功労者が会場入りし、最初は緊張していたようだけどすぐに慣れて各々料理を楽しんでいる。

 普通ならば皇帝一家が現れた時点でもっと大騒ぎになると思うでしょ、でも最初から神様やら邪神がうろうろしているので誰も動揺しなかった。
 冒険者は邪神一家を見た瞬間にメインの食事をとりに走ったけどね。

「ママ、ママ、ちょっと戻ってきてくれる?」
「えへ?」
「かあちゃ、中央見てー」
「ダンス始まりますよ」
『イネスちゃん、口元に海老ついてる』
「ありがとー」

 もふもふ給仕にふわふわしていたらいつの間にか会場の明かりが落とされ、ホール中央から人がいなくなってそこだけ空間が出来ていた。
 会場に唐突に響く力強い太鼓の音、とうとう異世界にも太鼓文化が――と思いながら音源を探したら階段の所にお腹を叩いているでぶっちょのドラゴンがいた。

 え?

 カスタネットと思っていたらそれはスケルトン数体が、自分たちの体を叩いて楽器代わりにしていた。
 フルートは笛じゃなくボーンドラゴンが鳴いている声だったし、なんだこれ。

「ママ始まるよ」
「え、えぇ?」

 アー君に耳打ちされホールを見れば、スポットライトの中央に最近仲間になったダンス好きドラゴンがいた。
 本日のサイズは大型犬ぐらいかなぁ? スーツを着てシルクハットをかぶって観客に向かって一礼すると、その場で音楽に合わせて床を蹴って踊り始めた。あれは――タップダンス!?

 一節が終わると流れるようにスケルトンが参加し、一糸乱れぬタップダンスを披露。
 観客も大いに賑わっている。

 魔物が踊っていても特に気にしない人だけ誘ったのだろうか、順応性高いなぁ。

「って、あれぇ?」

 バックダンサーのスケルトンの中に対になって踊る二人がやけに気になり、よくよく見たらうちの双子だった。
 王太子さん、留学から戻らずにふらふらしてると思ったら、こんな所で何やってるの!?

 万雷の拍手を受けながらタップダンスの披露が終了、双子が残っているなと思ったらタンゴを踊り始めました。
 これはどうやらアー君も知らなかったようで、完全なサプライズだったみたい、涼玉がきゃーきゃー興奮し始めたと思ったら机に飾ってあったイチゴがあっという間に成長して実る実る、あちこちの机でポコポコ増えているけど皆さんタンゴを見ていて気付かない。

「イネス、踊ろ!」
「はいです!」

 走り寄ってきたのはダークエルフの幼児ネヴォラ、今日は黒いズボンにベストといういつもよりお洒落を意識した服装、そうまるでダンスを踊るためのような格好だね。
 イネスは椅子から飛び降りると同時に人化して、天使のようなドレスでネヴォラとホールへと走っていった。

「涼玉は踊らないの?」
「俺、今日はお客さん!」
「イチゴ以外に増殖した果物があったら、参加者にお土産に持たせてくれ」
「承知いたしました」

 肉を頬張る涼玉、嬉々として世話をするマールス、シャムスは華麗なダンスに手を叩いて大喜び、自由に楽しむ僕らの横でアー君だけは冷静に増えた果実の対処を指示していた。
 アー君いつもありがとう、はい真鯛の握り。

「あーん」
「あー…………っ!!」

 指示の途中なのに条件反射で口を開けてしまったアー君、もぐもぐしながら恨めしげにこちらを見ています。
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