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第二章 聖杯にまつわるお話

第113話

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 集まった魔物に手伝ってもらいながら冒険者が弔いと崩れた家屋片付けをしていたら、予想通りなのか亡くなった村人の一部がアンデッド化して動き出した。
 イネスがぺかーっとしようと伸びをしていたら、何とその個体、崩れた家の中に入って調理器具を持ち出し、ゴブリンに混ざって一緒に料理を始めたんです。

「アー君、あれ」
「謎能力って何なんだろう」

 遠い目でなんか呟き始めた。

「かあちゃん」

 ふらりと僕の横に立ったのはモヒカン、アンデッドを見ながらボタボタ涙を溢している。

「あれお前の母親か」
「はいっ、はいっ、あの下手くそな鼻歌は間違いないですっ」

 リズムが狂っていて分かりにくいけど……あれって涼玉が広めようと頑張ってる盆踊りのリズムな気がする。
 そこに森に入っていた冒険者が戻ってきて、アー君に何やら報告をしているんだけど、チラチラこちらを見るのはなぜだろうか。

「突然姿を見せた魔物が友好的な理由はもう言わなくてもわかっていると思う」
「うん」
「好奇心で聞くけど何を考えてた?」
「働くアー君カッコイイ!!」
「そ、そう?」

 照れるアー君をバレないようにニヨニヨと見る冒険者、バレたら報酬削減とかやりそうだもんね。

「あとドラゴンも見つけた」
「暴れてた?」

 元々はそれを鎮めるのが皇帝からの依頼だからね、終わらないと帰れない。

「涼玉を知っている奴がいて、そいつ曰く、あれは暴れているんじゃなくて踊りの練習だと」
「わぁ涼玉が聞いたら喜びそう」
「ソウダネー」

 ついでに言えばドラゴンが村の近くで目撃されていたのは、どうもモヒカンママの鼻歌に合わせて練習していたから説が濃厚。
 耳がいいな。と思いました。

「村が滅んだことで二度と歌を聞けなくなったと癇癪起こされて災害ドラゴンに転職されても困るから、なるべく平穏に引っ越ししてもらおうと思う」
「でも耳がいいなら悲鳴とか聞こえたんじゃない?」
「人間に興味はないけど、あのリズムには興味をもったんだろうな。二度と聞けないと分かって暴れ、人間に危害を加えたら討伐対象になってしまう」
『つまり謎能力の出番ね』
「ではさっそく! ママー、みゃぁぁぁん」

 突然イネスが我が膝の上でひっくり返り、そのふわふわぽわぽわなお腹をさらし、これでもかという猫なで声で僕を誘い始めた。

「肉球もいいけどお腹もふわふわですよ~」

 左右の肉球で交互に招きながらイネスが誘惑してくる!!

『負けない! ママァ』

 なんとシャムスもイネスに寄り添うように小さなお腹をさらしてきた。なんだここ、天国か。
 小さな豹と小さな子犬が触れ、触れと誘うので、導かれるまま二つのお腹に顔を埋めた。ほわわわわわ。

「アルジュナ様、村で炊き出し手伝ってたアンデッドゴブリンが普通のゴブリンになりました!」
「こんなのアリっすか!?」
「人間のアンデッドは?」
「腐った部分が消えて骨になりました!」
「でも動きがさっきよりスムーズになってるっす!」
「よし、今のうちにドラゴンを説得……」
「どうしました?」
「もっと簡単な方法あったわ。ママー」
「はぁい」

 なぁに僕は今、至福の空間を堪能しているところですよぉ。

「踊るドラゴンに一言」

 ドラゴン……ダンス……涼玉が短い足で色んなダンスの練習している姿はいつ見ても超可愛い。フラダンスで起こされた謎の現象はファンタジーっぽかったし、稲刈り大会に便乗して延々と盆踊りする姿とか、トレントと踊るマイムマイムは圧巻の一言、うーん、大体一人だけど誰かと踊っている時が一番楽しそうだよね。

 そうだなぁ。

「涼玉の踊り仲間になってくれたら嬉しいなぁ」
『なー』
「みゃぁぁん」

 シャムスとイネスのお腹をたっぷり堪能した僕が顔を上げた時、そこにはゴブリンとダンスの練習をするドラゴンの姿があった。
 僕がふわふわしている間にドラゴンが仲間になり、そのままじゃ大きすぎるので軽トラサイズに体を縮めるよう説得したらしい。

 どうやら彼はこのまま僕らと刀国に帰り、涼玉のお友達として紹介される予定だとか。
 ドラゴンを穏便に説得するなんてアー君凄いなぁ。
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