76 / 809
第一章 紡がれる日常
第73話
しおりを挟む
イグちゃんって面会謝絶や立入禁止もスルーしてどこにでも入っていくので、隠し事が出来ない厄介な邪神として有名。なんだけど、それは別にイグちゃんだけの特技じゃないんだよなぁ。
かと言って追い払うことが出来るような相手ではないため、リスクはあるものの、腹を括ってお付き合いを続ける各国のお偉いさんたちが多いそうです。
理由を聞いたことがあるのだけど、帝国で猛威を振ったアー君との合同粛清も原因の一つだった。
黒い噂のある大臣を追い詰めるため、何年もかけて情報と証拠を集めていたのにある日突然一族ごと消失。
他にも権力が強すぎて排除出来ずにいた人物、これも愛人ごと行方不明に。行先はもちろん邪神の胃。
邪神への恐怖も隠し事が出来ない理不尽さも呑み込んで受け入れられた最大の理由、それは……。
「あ、そーだ、これ東の辺境伯からの報告書なー」
「ありがとうございます。こちらをどうぞ」
「ひゅー! 岩クッキーじゃん、これ硬くていいよなぁ!」
仲良くなると今日のように小物配達もしてくれるんだよね、対価はお菓子とか魔石とか色々。
気が向けば魔物の動きとかスタンピードの前兆とかも教えてくれたりするし、決して損はないんだって。
「――東に氾濫の兆しあり」
宰相が受け取った報告書を読んだ瞬間、部屋の空気が重苦しいものに変わった。
それをスルーして鍋のお代わりをねだるイグちゃん、ギリギリこぼれない量を盛って渡したら受け取らずにお口をあーんと開けられました。はいはい。
(あれな、暗号なんだぜ。万が一誰かが読んでも「魔物の氾濫」としか思わないけど、本当の意味は「東に内乱の兆しがある」ってところかな)
(もしかして戦争? やだなぁ)
(確か辺境伯の隣の領主は皇族の血を引いているんだったかな? 不正を愛する人種が祀り上げて王位を奪うとかそんな感じかね?)
異世界貴族あるあるだね。
でも皇帝の地盤がっちり固まっているし、狸なおじいちゃんや腹黒大臣いるから皇帝の地位奪うの普通に無理だと思うのですが。
(皇帝の命狙うってことは、つまり子供たちも生かすつもりないよね?)
(そうだろうなぁ)
(まずくない?)
(まずいなぁ、アー君だけじゃなくカイちゃんブチ切れちゃうなぁ)
目の前でも皇帝と宰相が真面目な話をしているけれど、お兄さんだけはどこかのほほんとしている。
「陛下、旦那様、戦争をするのは賛成いたしかねますよ」
「だがこれだけ証拠を揃えられてしまったら……見逃すことは出来ぬぞ」
「そこはほら、ちょうどイグ様もいらっしゃいますし、神々に「無かったこと」にしてもらいましょう」
爽やかに真っ黒な発言をしましたね。
「俺ー? 俺らは人間の戦争には手を出さないぞ、死人出たほうが都合がいいからな!」
「でもイグ様、今戦争が起きたら冒険者から苦情が来ますよ」
「ん?」
「徴兵で農民が集められてオープンが遠のきます、美味しい鍋を広めるどころか文化が衰退します」
「ダメじゃん!!」
「はい」
「イツキどうしよう! 父様なんて何鍋から食べようか今から楽しみにしてるのに!!」
そう言えば神薙さん、最近良く本を読んでるなぁとは思ってた。
あれ、鍋特集の本だったのか。
いや、そうじゃない。
「神薙さんに事情話して更地を一つ作ってもらうのが一番無難かな?」
「うおーー! 俺のネギ鍋ぇぇぇ!!」
「……っぁ」
ズボーーーとイグちゃんが闇に沈む寸前、皇帝が口を開きかけたけど残念ちょっと遅かった。
「内乱回避しましたね!」
「いやいやいや」
「刀国がここ数百年戦争知らずなのは、こんな感じで邪神が周辺の敵国を更地にしているからと聞いています」
戦争で死んでいく人間を食べるのもいいけれど、憎悪やら企みを膨らませ、自分たちの描いた計画の成功を確信している人間を食べるのもまた、絶望が美味しい感じだって言ってました。
かと言って追い払うことが出来るような相手ではないため、リスクはあるものの、腹を括ってお付き合いを続ける各国のお偉いさんたちが多いそうです。
理由を聞いたことがあるのだけど、帝国で猛威を振ったアー君との合同粛清も原因の一つだった。
黒い噂のある大臣を追い詰めるため、何年もかけて情報と証拠を集めていたのにある日突然一族ごと消失。
他にも権力が強すぎて排除出来ずにいた人物、これも愛人ごと行方不明に。行先はもちろん邪神の胃。
邪神への恐怖も隠し事が出来ない理不尽さも呑み込んで受け入れられた最大の理由、それは……。
「あ、そーだ、これ東の辺境伯からの報告書なー」
「ありがとうございます。こちらをどうぞ」
「ひゅー! 岩クッキーじゃん、これ硬くていいよなぁ!」
仲良くなると今日のように小物配達もしてくれるんだよね、対価はお菓子とか魔石とか色々。
気が向けば魔物の動きとかスタンピードの前兆とかも教えてくれたりするし、決して損はないんだって。
「――東に氾濫の兆しあり」
宰相が受け取った報告書を読んだ瞬間、部屋の空気が重苦しいものに変わった。
それをスルーして鍋のお代わりをねだるイグちゃん、ギリギリこぼれない量を盛って渡したら受け取らずにお口をあーんと開けられました。はいはい。
(あれな、暗号なんだぜ。万が一誰かが読んでも「魔物の氾濫」としか思わないけど、本当の意味は「東に内乱の兆しがある」ってところかな)
(もしかして戦争? やだなぁ)
(確か辺境伯の隣の領主は皇族の血を引いているんだったかな? 不正を愛する人種が祀り上げて王位を奪うとかそんな感じかね?)
異世界貴族あるあるだね。
でも皇帝の地盤がっちり固まっているし、狸なおじいちゃんや腹黒大臣いるから皇帝の地位奪うの普通に無理だと思うのですが。
(皇帝の命狙うってことは、つまり子供たちも生かすつもりないよね?)
(そうだろうなぁ)
(まずくない?)
(まずいなぁ、アー君だけじゃなくカイちゃんブチ切れちゃうなぁ)
目の前でも皇帝と宰相が真面目な話をしているけれど、お兄さんだけはどこかのほほんとしている。
「陛下、旦那様、戦争をするのは賛成いたしかねますよ」
「だがこれだけ証拠を揃えられてしまったら……見逃すことは出来ぬぞ」
「そこはほら、ちょうどイグ様もいらっしゃいますし、神々に「無かったこと」にしてもらいましょう」
爽やかに真っ黒な発言をしましたね。
「俺ー? 俺らは人間の戦争には手を出さないぞ、死人出たほうが都合がいいからな!」
「でもイグ様、今戦争が起きたら冒険者から苦情が来ますよ」
「ん?」
「徴兵で農民が集められてオープンが遠のきます、美味しい鍋を広めるどころか文化が衰退します」
「ダメじゃん!!」
「はい」
「イツキどうしよう! 父様なんて何鍋から食べようか今から楽しみにしてるのに!!」
そう言えば神薙さん、最近良く本を読んでるなぁとは思ってた。
あれ、鍋特集の本だったのか。
いや、そうじゃない。
「神薙さんに事情話して更地を一つ作ってもらうのが一番無難かな?」
「うおーー! 俺のネギ鍋ぇぇぇ!!」
「……っぁ」
ズボーーーとイグちゃんが闇に沈む寸前、皇帝が口を開きかけたけど残念ちょっと遅かった。
「内乱回避しましたね!」
「いやいやいや」
「刀国がここ数百年戦争知らずなのは、こんな感じで邪神が周辺の敵国を更地にしているからと聞いています」
戦争で死んでいく人間を食べるのもいいけれど、憎悪やら企みを膨らませ、自分たちの描いた計画の成功を確信している人間を食べるのもまた、絶望が美味しい感じだって言ってました。
21
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!
ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。
弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。
後にBLに発展します。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる