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第一章 紡がれる日常

第64話

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 だが甘かった。
 別の国の王女がやってきた!!

 帝国に世話になるのに事前連絡なしの突撃訪問って出来るものなのだろうか、あぁ女神様の影響を受けたテンプレのせいですか。
 帝国が一つ潰れても長い歴史を持つ別の帝国がいつの間にかある世界だし、まぁこんなこともある。時代劇の悪代官みたいな湧きっぷりだとちょっと思った。

 前回の話を聞いていたアー君が面白がって見学に来ています、名目は帝国ギルドの視察。
 総帥がそんなだから、冒険者もノリがいい人が結構いる。
 アー君の後ろで護衛しているのはアー君親衛隊だけど、帝国兄弟の臨時護衛として冒険者が紛れ込んでいます。

「意外と王女っているんだねぇ」
「国の数だけ王族があるからな、そんなに不思議ではない」

 いつもはわちゃわちゃしている子達だけど、今日は正装してすました顔で整列している。
 そこに紛れ込んでいる僕とアー君、皇后の席には女神様を体に下した炎帝さんが座っています、特等席でテンプレが見られると前日からうっきうきですよ。

(あーあー、テステス、ママ聞こえますかー)

 何か突然脳内に声が響てきたのですが。

(今、貴方の心に直接語り掛けています)
(暇ーちょうひまー)
(パンケーキ食べたい、バニラアイスにキャラメルソースかけたり、生クリームで顔書いたりしたい)
(俺はコーヒー牛乳飲みたいな、牛乳の割合8割ぐらいの)
(それはもう普通に牛乳飲めよ)

 定形通りのやり取りに早々に飽きたらしい帝国兄弟、暇つぶしに脳内会話を始めました。
 表情は無のまま、器用だね!

(アルジュナ兄様、俺は将来冒険者になりたいんだけどどうしたらいい?)
(普通に登録しろ)
(俺はアルジュナ兄様の親衛隊に潜入してみたい、どうやったらなれるのあれ)
(分からん。気付くと増えてる。ただやたらに能力が高いから、奴らなりの基準はあるっぽい)
(おれはパティシエになりたいなぁ、そんで毎日美味い菓子を食べたい)
(レモン国の国で修行するといーよー)
(本当に!? やった、母ちゃんに相談しなきゃ! ありがとうシャムス兄様!!)

 会話が大盛り上がりしていて誰も王女の話や主張を聞いていない、もちろん僕も聞いていない。

(確かにそれはいい案だな、レモン国はレモンの消費量を少しでも増やそうと試行錯誤しているから、生半可な気持ちで挑むとよく分からないことになるんだ。気付いたらレモンが入った箱を持って地方を回ってたって首を傾げてた冒険者を知っている)
(パティシエ目指してたのが何で冒険者?)
(旅の途中でギルドに登録しておいた方が援助を受けやすいし、他の冒険者に助けてもらえて便利だと気付いたらしいな、ちなみにそいつをパーティーに入れると野営の時にレモンを無償提供してもらえる)
(魂がレモンに染まりきっている)

 ふはっとどこからか笑いが漏れたので、発生源を視線で探したらまさかの炎帝さんだった。
 王女は自分が笑われたと思って顔を赤く染めてぷるぷるしている。

(ヴィシュちゃん、私の兄弟最高だな)
(炎ちゃんはあの国と接触したことなかったっけ、マジでレモンだらけなんだよ。日本の有名な土産物を再現させると色がレモンか味がレモンになるんだよ。あと仲良くなるとあれこれ口実を作ってレモン送り付けてくる)
(なら私、レモンパックしてみたい)
(母ちゃん、俺レモンケーキ食べてみたい!)
(あーいいなぁ、私も食べたくなってきた。じゃあ切り上げてレモンケーキ作ってもらうか、ドリアンに!)

 女神様が宣言したと思ったら、そのまま立ち上がって謁見の間を後にしてしまった。
 そして帝国兄弟も我も我もと後に続き、目立ちそうだったので僕とアー君も慌ててその後を追って退場。

 女神様、僕ら脳内で会話してたから、傍から見たら無言で席を立った風にしか見えませんよ!

「皇帝に任せて大丈夫かな?」
「大丈夫だろ、任せちゃおう」
「れもんけぇき」
「いや私もレモンケーキなるものを食べたいのだが」

 後は皇帝が何とかするだろうって思ってたのに、皇帝も一緒に退席してた!
 じゃあ宰相が……と思ったら皇帝の横にいました。

 え、王女放置?
 皇帝、僕ら側に馴染みすぎて自由な生き物になりましたね!
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