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第一章 紡がれる日常

第14話

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 アー君の友人達もお昼に戻ってきたようで、冒険者と先を争いながら屋台に走る姿が見えた。
 あの子たち、確かお弁当持ってきているはずだけど……まぁいいか。

 中にはさつま芋の樹や葡萄の女王に群がる子もいる。
 さすがアー君の同級生、怖いもの知らずだなぁ。

「もごもごもごもご!!」
「ごめん、何を言っているか分からないよ」

 口いっぱい何かを含んだ男の子が走り寄ってきて、もぐもぐしながら草原の方を指さしている。

「えーっと?」
「もぐ、もごごごご!」

 飲み込んだと思ったら、とても自然に手に持っていた串焼きを口に入れて再びもぐもぐ。
 手でついてきてとジェスチャーはしているけど、口で言った方が絶対早いと思うんだ。

「喉を詰まらせないようにね」
「もご!」

 諦めてカイちゃんらと一緒に移動することになりました。
 走りながら今度はでっかいハンバーガーを取り出し食べ始めたんだけど、自分の口より大きいバーガーをこぼさず食べるのは素直に感心した。

 だが残念、急ぎたくても僕は地味に足が遅いんです。
 シャムスを抱えていると理由にしたいけど、前世から遅い方でした。ああ疲れてきた。

「ひゅーひゅー」
「いいぞー、いいぞー」
「わはははは!」

 賑やかさにそちらを見れば、姿が見えないと思っていた涼玉が冒険者の中心で歌に合わせて踊っていた。
 お酒を飲んでいるからなのか、歌っている人の音程はズレているものの、踊る涼玉は楽しそう。
 ただし、周囲に群れるトレントの実が柿から梨、梨からリンゴへともう無茶苦茶に変化を続けているんだけど大丈夫なのだろうか。

「肉! 鹿肉ジャーキー作るの!」
「魚! 干物は食卓の味方!」

 別の場所ではアテナとヨムちゃんが肉か魚かで揉めていたりしていたけど、概ね平和かな。
 あと両方好きなだけ作ればいいと思う、今ならアカーシャと商業戦隊いるし。

「あ、来た来た、遅いよー」
「悪い、ずっと食べてた。俺が」
「よく来てくれたな、アー様のママ」

 やっと目的地に着いたようで、ぜぇぜぇ苦しむ僕の胸をシャムスが、背中をカイちゃんが優しく撫でてくれている。優しさが沁みるね。

「――ええい煩い! お前のような卑しい人間とこれ以上交わす言葉はない、今すぐ、この場で婚約破棄を宣言する!!」
「えぇ、それ系なの? 僕を巻き込まないでよ」

 どっかの子息が高らかに宣言した直後、シンと静まり返った一瞬に響く僕の声。
 涼玉風に言えば「やっちまった」。

「婚約破棄は定番として、時と場合が最悪ですね。殺しましょう」
「しゅくしぇいする?」

 物騒なセリフとは裏腹に、輝いているカイちゃんの瞳。
 うちの子って基本的に野次馬根性が強い気がする今日この頃です。

「もぅアー君、なんで僕を呼ぶかなぁ。役に立たないと思うよ」
「いや、余興としての許容範囲かどうかママで計ろうかなって」

 僕というより謎能力への期待だろうか。

「あっちの婚約破棄男はテンプレ身分だから置いといて、今は腕に絡ませている相手が受けたいじめやら嫌がらせの内容を長々と喋って断罪理由を長々と並べたところ、おかげでママが間に合った」
「走るの辛かったよ、出来ればアー君に迎えに来てほしかったかな」

 あとアー君の背後で僕らのセリフにぎゃーぎゃー文句を言ってるけど、このままスルーでいいかな?

「いやぁ、女神が特等席で見学始めたからつい一緒に見てた」
「……」

 言われて姿を探したら婚約破棄をする集団の斜め右あたりにシートを敷き、子供達と一緒に観戦している姿がそこにあった。
 教育に悪い気がするけどいいのかなぁ。
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