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第一章 紡がれる日常

第12話

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 もうじきお昼になるかという時間、アカーシャが商人集団を引き連れてやってきた。
 彼らも手慣れたもので、商業スペースをあっという間に作り上げていた。

 学園を卒業と同時にアカーシャは我が家から巣立ち、現在は港街にあるギレンの邸で暮らしている。
 僕らとしてはずっと家にいてくれても良かったのだけど、ギレンが最終奥義『泣き落とし』を使ってアカーシャを連れ去ったんだ。

 あの時の刀雲とギレンのガチバトル、かっこよかったなぁ。
 最終的に騎士様の仲裁でどうにか収まったけど、刀雲の眼は本気だった。

 現在は商業ギルド統括としてバリバリ働いているアカーシャだけど、こういった突発的なイベントには自ら選んだ精鋭部隊を引き連れてやってくる。
 今では子供達憧れの職業にランクインしているとか、メンバーは冒険者の間で嫁に欲しいランキング上位に入っているとか色々逸話が絶えない。

 何よりカイちゃん、朱、アカーシャの三人は「傾国三人衆」と呼ばれるぐらい美人として有名、三人が揃っているのを見たいと冒険者が積極的にイベントに参加してくれるらしく、アー君はそれを大いに活用しているとか。
 全員人妻だけど、それがまたいいらしいですよ。

 でも確かにアカーシャは綺麗さに磨きがかかったよね、生まれた直後は人を惑わす妖艶さ、それが少年に一度戻って子供時代を過ごしたことで雰囲気が落ち着き、カリスマ性として表に出ている感じ?
 僕はちょっとその辺よく分からないけど、アー君がそんなようなこと言ってた。
 アカーシャはずっと僕にとって可愛い息子だったけどなぁ、あ、でも全盛期はエロスが具現化したような感じだったから、確かに落ち着いたかも!

「アカーシャ」
「母様、留守番?」
「うん! 森の散策は午後からなんだ」

 朱は今回、刀雲と行動している。
 将軍に率いられている騎士団がやたらに盛り上がっていたなぁ、でも朱の戦い方ってえげつないって噂だけど大丈夫なんだろうか。

 僕とカイちゃんがアカーシャと談笑している後ろでは、さっそく冒険者が商業スペースに素材や収穫物を持ち込んでいる。
 ここで大活躍するのが商業ギルド員だけが使うことを許された鑑定の巻物、昔使用されていた魔力を死ぬほど使うあれではなく、改良に改良を重ね、少量の魔力で使用可能になったんだって。
 
 しかも

「はい、こちらの巻物の上に素材を置いてください、表示された金額でよろしければカードを魔石にかざして支払い終了となります」

 アカーシャ部隊が使っている巻物はドリちゃんとアー君が悪乗りした一級品、鑑定を通り越してレジスキャナーのような働きをしています。
 女神様が凄く苦いものを飲み込んだような表情で「機械じゃないからギリセーフ」って言ってた。

 大丈夫、他で使っているのはあれよりちょっと機能劣るから。
 あれはある意味選ばれし者しか使えない伝説の道具、魔が差して盗んだりすると防犯機能が働いて邪神兄弟の誰かに襲われる仕組みなんだって。怖いね。

「こちらのサンマは傷が多過ぎて買い取ってもよい値段はつきません、昼食に提供した方がお得ですがいかがいたしますか」
「はい喜んで!」

 あの冒険者、目がハートマークになってる。

「アカーシャ、なんで昼食に提供した方がお得なの?」
「参加中の神様方の心証が良くなって、受ける祝福の効果が上がる可能性があるんだよ」
「あとアカーシャの部下への心証も良くなるって思ってるんだよ、あれ」

 そんな感じで傷みが多いものは昼食に回す提案をされ、片っ端から同意を得て調理場という戦場へ運ばれている。
 奥へ進んだ人達は戻らないものの、戻れる人は戻って来て好きな場所でお昼をとっている。

「かあちゃ、かあちゃ! 俺、新技覚えた!」
「効果範囲広くて迷惑な技だよ! 披露してみていい!?」

 子供達もそろそろ戻る頃だろうとテントの下でお昼の用意をしていたら、ドラゴンの子供とドワーフの子供が突撃してきた。
 内容が露骨に混乱しか呼ばない予感。

「この辺はさつま芋の樹しかないからいいよな!」
「やったれやったれ!」

 保護者のマールスの姿を探したら、遠く屋台の方にいるのが見えた。
 買い出しですか、お疲れ様。

「来たれ葡萄の女王! マスカット・オブ・アレキサンドリア」

 ガオーと涼玉が叫ぶと同時に、近くに居座っていた杏味のさつま芋がエメラルド色の葡萄に早変わり。
 何が起こったかちょっと分からない。

「名前が呪文みたいでかっちょええなって思ってな、それっぽく叫んだら本当に呪文として採用された!」
「巨峰が目の前で姿を変えて驚いた。近くにあった柿まで変わってたから、植物相手ならなんでもいけるっぽいよー」

 幸いにも収穫済みだった巨峰は変化しなかったようだけど、柿はまだ収穫していなかったらしく、アテナがちょっと拗ねている。

 女王様の味は甘味が強い葡萄だった。
 食べるまでは杏の味がするんじゃないかとドキドキしてただけに、味もキチンと変化してくれてホッとしたよ。
 大樹にたわわに実る葡萄の女王かぁ、涼玉の力も僕に負けず謎が多いよね。
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