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第一章 紡がれる日常

第9話

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 サンマを始めとした魚介類のあり方が思っていたのと違った。

「ぎゃーー! こっちきた!」
「いたたたたた、強い、強いって、動きも速っ!」

 チームを分け、陣形を組んでいざダンジョンに突入したまではいつも通りだった。
 森の奥に進まず浅いところで採取を始めた途端、異変が起きて森が参加者を襲い始めた。

 空飛ぶサンマが人間をつつき回し、貝が体のあちこちに噛み付き、イカが墨を飛ばして追い掛け回している光景はもはやギャグ。
 敵意は高めだけど攻撃力はそこまで高くないんだろうなぁ。

「ヨルムンガンド様助けてー!」
「こいつら地味に痛い!」
「ぎゃー! 乳首噛まれたー!」
「だから防具新調しておけって言っただろ!」

 いい年したおっさんがキャーキャー言いながら逃げまどい、ヨムちゃんに助けを求めている。
 あと何気に服が破れて上半身露出している人がいるけど、あれは女神様へのサービスだろうか。

「ヨムちゃん、異世界サンマって空を飛べるんだね」
「俺も初めて知った。あ、マイワシもいる」
『サンマ食べたい』
「僕も味見してみたいな、ヨムお願い」
「よし、待ってろ!」

 草原に用意された集会用テントの下でシャムス、ヨムちゃん、カイちゃんとトランプをしたいたけど、二人のおねだりに応えてヨムちゃんが飛び出して行った。

「いふぇえびーー!!」

 入れ替わるようにイネスがでっかい海老を銜えて走り寄ってきた。

「いしぇえび」
「はい! 伊勢海老いました!」

 僕の前に落とした伊勢海老を前足で抑えながら、エヘンと胸を張るイネスが可愛い。
 いやそうじゃなく、この子、昨日の夜も伊勢海老を乱獲して食べまくっていたような。

「庭で獲れるのよりちょっと小さいですけど、十分におっきいです! おばちゃんに料理してもらいます!」

 言うが早いか再び伊勢海老を銜えて駆けて行ってしまった。

「屋台の人たちが大きい鍋や金網を用意していたのって……」
「ああいうのを想定してだろうね、ヨムの方も面白いことになってるよ」

 カイちゃんに言われて森の方を見たら、冒険者を襲っていた魚介類がヨムちゃんを囲むように地面に山盛りに並べられていた。

「エッヘン、さぁ皆の衆、回収していいぞ!」
「やったぜ! 最高!」
「鮮度が命だ急げ!」

 追い掛け回されていた冒険者や、いち早く逃亡していた子供達がヨムちゃんの一声で動き出し、我先にと魚介類を回収し始めた。
 屋台の方を見ればスライムがずらりと並び、下拵えをするために鼻息荒く食材待ち状態。

「やっちまったやっちまった」
「逃げろ逃げろ」

 サンマなどが回収されたと思ったら、不穏な言葉を呟く涼玉とアテナを抱えたマールスが全力疾走で森から脱してきた。
 嫌な予感しかしない。
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