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第五章 花を愛でる小人たちは悲しみの雨を降らせる

第17話&エピローグ

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「木津警部補から聞いたよ。今回の連続殺人事件を見事解決したそうだね」



 夜、夕飯が終わり、颯希がリビングでくつろいでいると誠がそう声を掛ける。



「凄いじゃないか、事件を解決するなんて……」



 同じようにリビングでくつろいでいる透が感心したように言葉を発する。



「あの……、お父さん、八木さんは何かの罪に問われるのでしょうか……?」



 事件を解決したのにどこか顔が浮かない表情をしていた颯希が気になっていたことを思い切って尋ねる。



「あぁ………、その人は悪意があってしたわけじゃないからね。だから、今回は厳重注意で済んだよ。どうやら、栗田と言う人から『眠れないから睡眠薬を少し分けて欲しい』と頼まれて、放っておけなかったんだそうだ……」



 颯希がその話を聞いてホッとする。八木の性格を考えると困っている仲間をそのままにしておけなかったのだろう……。そう考えると、栗田たちが八木の好意を利用したという事に悲しさも感じる……。



「まぁ、勘違いで犯行をしたとはいえ、元々は被害者が暴行事件を起こさなければ今回の事件は起きなかったんだからな……。今回の犯人たちもある意味被害者だよな……」



 透が今回の事件をそう話す。



 確かにその通りだった。この事件の発端は「暴行事件」がきっかけで起こった。あんな事件が起きなければ今回の事件は起きなかったわけだし、殺された人たちは周りからもよく思われていない悪党ばかりだった。唯一生き残った岡本も上田たちに脅されて犯行に及ぶ羽目になった。



 考えれば考えるほど、悲しい事件……。



 犯人を捕まえることができたのは良かったが、これは果たして良かったことなのだろうか……?





(なんだか、今回の事件はとても気持ちを複雑にさせます……)





 颯希が心の中でそう呟いた。







「事件解決おめでとう!疲れただろ?静也の好きなエビフライとハンバーグだよ!」



 拓哉がてんこ盛りのご飯を静也に渡しながら笑顔で言葉を綴る。



「……まぁ、解決したとはいえ、複雑だけどな」



 静也がてんこ盛りのご飯を受け取りながらそう言葉を綴る。



「いやぁ~、もう立派な警察官だね!静也の将来が楽しみだよ!」



 拓哉がウキウキしながらそう言葉を発する。



「あっ!でも、静也と颯希ちゃんが警察官になったら結婚のタイミングを逃すかもしれないから、警察官になる前に結婚した方がいいのかな?」

「な……何言って?!」

「だって、その方が結婚式もあげやすいしさ!」

「と……当分先の話を今すんじゃねぇ!!」



 静也がゼイゼイと言いながら反論する。



「……と、いう事は、静也……」



 急に拓哉の表情が真剣なものになる。



 そして……、



「やっぱり静也も颯希ちゃんと結婚するつもりでいるんだね!!」



 拓哉が真剣な表情から一転、満開の笑みになり嬉しそうに言葉を綴る。



「ち……ちがっ……!!」



 慌てて静也が顔を真っ赤にしながら否定しようとする。だが、反論の言葉が出てこない。



「うんうん。静也と颯希ちゃんはお似合いだからね!颯希ちゃんの性格でいくと、静也が好きになるのも無理ないよね!じゃあ、やっぱり結婚のタイミングは警察学校を卒業したらすぐだね!」



 拓哉がそう言いながら「急いで結婚式の衣装のデザイン画を描かなきゃ!」と言いながら、どっから取り出したのか、食事中にも関わらずにデザイン画の作成に取り掛かる。





「や……やめんかぁぁぁぁぁぁ!!」



 二人だけの家に静也の叫び声が響く。



 相変わらずの親子漫才を繰り広げながら楽しい夕飯が続いた。







「ただいま、姉さん……」



 雄太は帰ってくるなり、仏間に行き、手を合わせながら姉に自分が帰ってきたことを報告する。



「あら、雄太。帰ってたの?」



 仏間に入ってきた母が雄太に声を掛ける。



「ただいま、母さん」



「……あれから、もう二年が経つのね……」



 母も仏壇の前に座り、手を合わせる。



「……いつだったかね、警察が来たの。暴行事件のことで……。その事件で一人の死亡が確認されたそうよ……」



「……うん……」



「雄太……、やっぱり知っていたのね……。真莉愛が事故ではなく自殺だってこと……」



 母の問いに雄太は何も答えない。



「……そろそろ、夕飯の準備をするわね」



 母がそう言って席を立つ。そして、仏間をそっと出る。



「……姉さん……」



 雄太がそう呟き、一筋の涙を流す。



 そして、その涙を拭うと仏間を後にした……。







「……今度、みんなで美亜さんの墓参りに行こうと思っているのです」



 颯希がリビングで新聞を広げてくつろいでいる誠にそう話す。



「うん、そうだね。行ってくるといいよ」



 誠が優しく微笑みながらそう言葉を綴る。





 美亜が自殺ではなく、事故だったという事が警察の調べでも判明した。



 そして、あの事件解決の日、凛花や理人もいる前で、颯希が美亜の墓参りに行こうという提案をしたのだった。






「……美亜さん、安らかに眠ってくださいね……」



 颯希がそう言って、美亜の墓前に花束を置く。そして、みんなで手を合わせ、安らかに眠ることを祈る。



「美亜……。俺、前を向くよ……。本当は美亜にそばにいて欲しかったけどね……。でも、一人でもちゃんと前を向いて進みだすよ……。だから、空から見守ってくれよな……」



 理人が静かに言葉を語る。



 美亜に問いかけるように優しく……。





 ――――ザァァァァ……。





 風の音が鳴り響く。







 ――――理人、大好き!!







 理人がその声に顔を上げる。



「理人先輩?」



 凛花が理人が顔を上げたことに気付き、声を出す。



「いや……、何でもないよ……」



 そう言いながら優しく微笑む。





 幻だったかもしれない……。



 それとも――――。







「じゃあ、静也くん!私たちはパトロールに行きましょうか!」

「おう!」



 墓参りが終わり、墓地を出ると、颯希が静也にそう問いかける。



「あぁ、だから制服姿だったのね?なんでお墓参りに制服なのだろうと思ったけど、そういう事だったの!」



 凛花が二人にそう言葉を綴る。



「……じゃあ、俺たちはバイトに行くか」

「はい!」



 理人が優しく微笑みながらそう言葉を綴る。



 あれから、理人も福祉施設のバイトに戻ることになり、将来のために頑張ることを決意したらしい。美亜の想いを知り、自殺ではなく事故だという事が分かり、いつまでもあのままでは駄目だと感じ、前を向くようになった。





 優しい風が吹く……。



 穏やかな日差しが降り注ぐ……。





『前を向いて一歩を踏み出せ』





 そう言われているように感じる中、颯希たちは墓地を後にした……。







~エピローグ~



「今日も浜辺のゴミ拾いを頑張りましょう!」



 颯希がそう掛け声をかけて、静也と海岸のゴミ拾いをしていく。





「静也ー!」

「颯希ちゃーん!」



 そこへ、声が響く。



 二人が声をした方に顔を向けると、そこには私服姿の美優と亜里沙、それに雄太と来斗がいた。みんな、手に軍手をはめてゴミ袋を持っている。



「今日は俺たちもゴミ拾いを手伝うぜ!」



 颯希たちにみんなが近づき、来斗がそう言葉を上げる。



「今日はみんなでゴミ拾いしよ!」



 美優が微笑みながら言葉を綴る。



「みんな……、ありがとうございます……」



 美優たちも参加してくれることに颯希は嬉しさが込み上げているのか瞳をウルウルさせながら感謝の言葉を綴る。



「じゃあ、男子チームと女子チームに分かれてゴミ拾いしようか」



 雄太がそう提案する。



 そして、チームで別れてそれぞれゴミ拾いを行う。



「颯希お姉ちゃん!静也お兄ちゃん!」



 そこへ、小春がパタパタと駆け寄ってくる。小春の手にも子供用の軍手がはめられていた。



「小春ちゃん!」



 小春が突然現れたことに颯希が驚きの声を上げる。



「小春もゴミ拾いのお手伝いをするためにパパとママと一緒に来たんだよ!」



 小春が軍手をはめた掌を見せながら嬉しそうに言葉を綴る。



「ありがとう!小春ちゃん!」



 そして、小春は両親と共にゴミ拾いを行うことになった。



 それぞれのチームがゴミ拾いをしている時だった。



 静也と一緒にゴミ拾いをしている来斗が一つのペットボトルを拾い上げ、それを見つめながら意気揚々に言葉を綴る。



「静也ちゃんの恋が実るといいな!」



 なぜかペットボトルに話しかけるように来斗が言う。



「やかましいわ!!」



 来斗の言葉に静也が顔を赤らめながらすかさずに反論した。



「……颯希、好きだ……。俺はお前が守ってやる……」

「嬉しい……静也くん……。私も静也くんのこと……」

「颯希……、お前に危険が降りかからないように俺がいつもそばにいてやるよ……」

「ありがとう……静也くん……。私のことをそこまで想ってくれるなんて……」

「颯希……、愛している……」

「私もよ……、静也くん……」



「ら~い~と~……」



 突然始まった来斗の一人芝居に静也が幽霊のように背後から近寄り首を締め上げる。



「人の恋路で遊ぶんじゃねぇぞ……」

「ぐ…ぐるじぃ……。静也ちゃん……ギブ……ギブ……」

「人をおちょくるのも大概にしろ……」

「ご……ごべん……ざさ……い……」



 来斗が静也に首を絞められながら必死に謝る。雄太がその様子を見ながらくすくすと笑っている。





「……男子チームは何しているのでしょうか?」



 離れたところでゴミ拾いをしている颯希たちが来斗のよく分からない動きを見てはてなマークを浮かべる。



「……どうせ、来斗がまた馬鹿なことをしているだけでしょうね」



 亜里沙が呆れながら淡々と言葉を綴る。



「ふふっ。まぁ、楽しそうでいいんじゃない?」



 美優が微笑みながらそう言葉を紡ぐ。





「ねぇ、お兄ちゃん……」



 静也たちの近くでゴミ拾いをしていた小春がテコテコと近寄ってきて声を掛ける。



「ん?」



 小春の言葉に来斗が返事をする。



「お兄ちゃんも静也お兄ちゃんが颯希お姉ちゃんのことを好きだってこと知っているの?」



 小春が頸を傾げながら来斗に聞く。



 小春の言葉に悪戯な笑みを浮かべながら来斗が小春の前にしゃがみ込み、言葉を綴る。



「そうだよ!小春ちゃんも知っているんだね!」



 来斗が小春の頭を撫でながら言う。すると、急に立ち上がり声を上げた。



「よし!俺が代わりに静也の気持ちを颯希に伝えてやるよ!」



 目をキラーンと光らせながら片腕だけガッツポーズを作り、来斗が声高らかに言う。





「ダメ!!」





 小春が来斗を行かせないように服を掴みながら叫ぶ。



「颯希お姉ちゃんに知られたらダメなの!もしそうなったら嵐が起こって人類が滅亡しちゃうの!!」



 小春が早口で言葉を捲し立てる。





「「……は?」」





 小春の言葉に来斗と雄太の声が重なる。



「……静也ちゃん?どういうことかな??」



 来斗が悪戯猫の顔をしながらクリーンと静也に振り向き、言葉を発する。



「え……えーっと……その……」



 来斗の言葉に静也が言葉を濁す。



「静也!いたいけな女の子になんてことを……!!」



 来斗が芝居のような口調で小春を抱き締めながらそう言葉を綴る。



「いや……、なんていうか……えーっと……」



 静也がどう言うべきか、適切な言葉が見つからなくてしどろもどろの状態になる。



「あのね、小春ちゃん。それは静也の、ウ・ソ、だからそんなことは起きないよ?」



 来斗が悪戯猫の顔のまま小春にそう言葉を綴る。



「そうなの?」



 来斗の言葉に小春がきょとんとした顔で言う。



「あぁ。嵐も起こらないし、人類も滅亡しないよ?」



「ホント?!」



 小春が目をキラキラさせながら来斗の言葉に反応する。



「じ……じゃあ、小春が颯希お姉ちゃんに静也お兄ちゃんの気持ちを伝えてくる!」



「ま……待ったぁー!小春!」



 静也が駆けだそうとしている小春を捕まえて声を上げる。



「あのね、小春ちゃん……」



 そこへ雄太が小春に近寄り、優しく声を掛ける。



「告白はね、自分の口から言った方がいいんだよ。だからそれまでは颯希さんにシーってしれくれないかな?」



 雄太がそう言いながら人差し指を口に当てて「シーっ」のポーズを作る。



「分かった……。静也お兄ちゃんが言うまではシーっなんだね!」



 小春が雄太と同じ「シーっ」ポーズで返事をする。



「うん、お願いね」



「うん!!」



 雄太の言葉に小春が素直に返事をする。





「……全く、男子チームはさっきから遊んでばっかで全然ゴミ拾いしていないじゃない」



 亜里沙が遠目から静也たちを見て呆れ声を出す。



「ちょっとー!!あんたたち!ゴミ拾いに来たんだから遊んでいないでゴミを拾いなさいよー!!」



 静也たちに亜里沙が大きな声を出して、ゴミ拾いを促す。

 

 声が聞こえたのか静也たちから「おー」と言うような言葉が聞こえる。



「……そういえば、そろそろ二年生の合同発表会ですね!」



 颯希が思い出したように口を開く。



「ふふっ。今年は何をするんだろうね?」



 美優がどこか楽しそうにそう言葉を綴る。



 そう話しながらワイワイとゴミ拾いをしていた……。







「……あの子たちよね?」

「……あぁ、そうだな」





 二つの影が颯希たちを見つめながら言葉を呟く。



「私が何を考えているか分かるわよね……?」

「あぁ………、もちろんだ……」



 二人の影が意味深な言葉を綴る。



「ふふっ♪楽しみね……」



 影が楽しそうに呟く。







 颯希たちが気付いていないところである事が着々と計画されていた……。







(間章に続く)

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