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第五章 花を愛でる小人たちは悲しみの雨を降らせる

第6話

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「……ただいま、姉さん」



 雄太が家に帰り、仏壇のある部屋に行く。そして、手を合わせながら自分が家に帰ってきたことを報告する。そして、しばらくその場で手を合わせたまま、遺影を眺める。



「……もう、あれから二年がたったんだね。あの時は何もできなくてごめんね……」



 そう言葉を綴ると、静かに立ち、部屋を後にする。



 雄太は自室に入ると、鞄を置き、机に備え付けてある引き出しを引く。そして、あるものを取り出し、それを眺めていた。それを見ながら小さく呟く。



「……なんで、姉さんがあんな目に合わなきゃいけなかったんだ……?」



 悲しみと憎しみを混ぜ合わせながら苦しそうに呟く。



 なぜ、あんなことが起きたのか……?



 そして、当時の自分が何もできなかったことを悔やむ……。



 

 ――――ピコン!



 

 そこへ、スマートフォンが鳴り、メッセージを受信したことを伝える。



『雄太、大丈夫か?』



 静也からのメッセージだった。雄太がそのメッセージに大丈夫と言うメッセージを返す。



 姉である真莉愛まりあが亡くなった時、雄太は小学生だった。歳が離れていた真莉愛は当時高校生で、面倒見の良い姉だった。いつも優しく微笑んでいて、静也や来斗も「真莉愛ねーちゃん」と呼んで慕っていたくらいの優しい姉……。雄太たちを可愛がり、忙しい母親の代わりによく勉強や遊び相手をしてくれていた、優しく穏やかな姉……。





 その姉がホームから転落し、やってきた電車にひかれて死亡……。その時、雄太は何が起こったのか分からなくてしばらく呆然としていた。しかし、ある日、姉の部屋であるものを見つけて、姉が死んでしまった真実を発見。怒りと憎しみが込み上げてきたが、自分には何もすることができないと分かり、無力な子供であることを思い知る。姉が無くなった原因を静也と来斗に泣きながら話すと、二人とも「許せない……」と言いながら同じように涙を流した。



 しかし、静也がある言葉を目に大粒の涙を溜めて言ったことで、雄太はある想いをとどめることができた。



「……あの言葉がなかったら、僕は今頃ここにいなかったかもしれないな……」



 あの時の静也の言葉に救われたことを感謝し、そのものを引き出しの中にしまう。



「あ……そうだ……」



 そして、あることを思いつき、静也に電話をかけた。







「……被害に遭った女性の身元が確認できました。その内、一人は死亡。一人は精神科の病院に入院中。他は自宅に引き籠っていて、まともに話ができる状態ではありませんでした」



 鎌田が調べたことを読み上げていく。



 そして、捜査の方針は被害女性の身近な人間に絞り、捜査を行う方針になる。被害者本人たちはどう考えても犯行ができる状態ではない。だとしたら、犯人はその被害者の心を壊されたことを恨んでいる身近な人間と言う可能性がある。捜査は、被害者の両親、恋人がいる場合は恋人等に犯人を絞り、その人物たちの足取りを追うことになった。



「……なんだか、捜査するのが嫌になる事件ですね」



 呉野がため息を吐きながら言葉を綴る。他の捜査員たちも気持ちは同じだった。今回の殺害された上田と前田は殺されてもおかしくないことをしている。犯人の気持ちが分からないわけでもない。かといって、事件が起きている以上、捜査をしないわけにもいかない。



「それでも、犯人を捕まえるのが俺たちの仕事だ。情にほだされるわけにはいかないさ……」



 木津も呉野同様、気持ちは同じだが刑事である以上、事件が発生したら捜査を行い犯人を捕まえなければならない。他の捜査員も今回の事件は絶対犯人を捕まえようという想いが今一つ感じられない状況にあった。



 木津と呉野が重い腰を上げて、捜査に乗り出す。



 そして、入院中の被害女性に会いに行った……。







「颯希ちゃん!静也くん!」



 颯希と静也がその声に後ろを振り返る。



「凛花ちゃん!!」



 声を掛けたのは凛花だった。



「学校帰り?仲良いのね」



 二人を見て凛花が微笑む。



「凛花ちゃんも帰り道ですか?」



 颯希が凛花の制服姿を見て笑顔で言葉を綴る。



「私はこれからバイトよ。ほら、前に話したでしょう?」



 凛花の言葉で颯希たちがバイト先のことを思い出す。そして、颯希がある事を思いつき、言葉を発した。



「あの、凛花ちゃん。私たちも行っていいですか?!」



「……え?」



 突然の颯希の言葉に凛花が思わず驚きの声を出す。



「地域の人の憩いの場ですから、私たちにも何かお手伝いをさせてください!」



 颯希の言葉に凛花は考えると、バイト先に電話をして颯希たちを連れて行っていいかどうか聞いてみることにした。すると、ボランティア活動としてなら構わないという返事を貰い、颯希たちも凛花と一緒に向かった。





「君たちが颯希ちゃんと静也君かい?」



 施設の入り口で颯希たちが待っていたら、施設の責任者である入間いるまが顔を出した。そして、今日は利用者の話し相手にでもなって欲しいという事を言われて、颯希たちが嬉しそうに返事をする。



 そして、入間に付いて行き、憩いの場の談話室の扉を開ける。



「あれ?颯希ちゃんに静也くんじゃないか?!」



 一人の利用者が颯希と静也を見て驚きの声を上げる。



「八木さん!」



 八木を見て颯希が声を上げる。



「八木さん、この子たちとお知り合いだったんですか?」



 入間が八木にそう声を掛ける。



「あぁ。この子らは町の清掃活動をしていてな。集めたゴミを俺が働いているゴミ集積所に持ってきてくれているんだ」



「へぇ……。それは感心だね。立派な心掛けだよ」



 八木の言葉に入間が颯希たちの方を見ながら笑顔で言葉を綴る。



「じゃあ、よろしく頼むよ。お二人さん!」



「「はい!!」」



 入間の言葉に颯希と静也が揃って声を出す。



 そして、八木が仲の良い他の利用者を紹介してくれた。



「まず、こっちが将棋仲間の浅井あさいさん。で、隣にいるのが栗田くりたさんだよ。あともう一人、斉木さいきさんって人がいるんだけど、今日はお休みしているんだ。また、機会があれば紹介するよ!」



 八木の紹介に浅井と栗田が軽くお辞儀をする。



「八木さんにこんな可愛い知り合いがいたとはな。なんていうんだい?」



 浅井が颯希と静也に名前を尋ねる。



「初めまして!中学生パトロール隊員の結城颯希です!」

「同じく隊員の斎藤静也です!」



 颯希たちが仲良く敬礼のポーズをしながら自己紹介をする。



「「中学生パトロール隊員??」」



 颯希たちの自己紹介に浅井と栗田の頭にはてなマークが飛び交う。



「あぁ。この子たちは中学生パトロール隊として町の清掃をしつつ地域のためにパトロールをしているんだよ」



 浅井と栗田に八木が説明する。



「それだけじゃないですよ?颯希ちゃんたち、時には事件も解決しちゃうんです」



 急に後ろから声がして颯希と静也が振り返ると、そこには制服にエプロン姿の凛花が立っていた。



「それは凄いな!なぁ、浅井さん、栗田さん!」



 八木が「わはは!」と笑いながら言う。



「そ……そうだな……。中学生にして事件解決は凄い……」



「あぁ………そうだな……」



 中学生の身で事件を解決したことがあるという事に驚きを隠せないのか、浅井と栗田は開いた口が塞がらない。



「良かったら、その話を聞かせてくれないか?」



 八木が颯希たちに興味津々で聞いてくる。颯希と静也はその時の事件を身振り手振りで、時には事件を再現するような感じで話していった。





「……おーい!颯希ちゃん、静也くん。もう時間が六時を過ぎているけど大丈夫かい?」



 話に夢中になっていて、すっかり時間を忘れていた二人に入間が声を掛ける。そして、颯希が壁に掛けられている時計を見て驚きの声を上げた。



「大変です!もうこんな時間だったのですね!」



 時間が夕刻だったので、今日はここまでという事になり、颯希と静也は入間にお礼を言って施設を後にした。







 深夜。



「……てめぇら、何しやがった……」



 ある公園で一人の青年がフラフラになりながら言葉を吐く。青年の両脇には人が二人腕を捕まえて青年の身動きをできなくさせている。すると、目の前にいる男が刃物の切っ先を青年に向けた。



「……あいつらを殺したのは――――!!」





 ――――ドスッ!!





 青年の心臓にめがけて一気に刃物を突き刺す。青年は呻き声を上げるとこと切れた。男がナイフを抜き、静かに言う。



「……地獄に墜ちろ……」



 青年が崩れ落ち、その青年を放置して男たちが立ち去っていった……。





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