上 下
7 / 128
第一章 赤い炎は優しい雨に打たれる

第7話

しおりを挟む
 あの後、颯希たち三人は静也の家を後にし、それぞれ帰路に着いた。



「ただいまー……」



「おかえり颯希、遅かったわね」



 颯希が家に帰ってくると、佳澄が出てきた。



「何かあったの?」



 颯希の様子を見て、佳澄が心配そうな声を出す。



「何とかならないかなーって思っているのです……。あ、お兄ちゃんはもう帰っているのですか?」

「えぇ、部屋にいるわよ」

 

 透が帰っていることが分かり、颯希は透の部屋に行った。



 ――――こんこんこん……。



 部屋をノックすると中から応答があり、颯希は透の部屋に入った。



「どうしたんだ?何かあったのか?」



 颯希が透の部屋に来るときというのは、透のアドバイスが欲しい時である。今日のことでアドバイスが欲しくて透の部屋に来た颯希は事の内容を話した。透は神妙な顔でそのことを聞き、口を開いた。



「その静也って子が髪を染めてきた日に、拓哉さんって人が家に帰って来た時、家の状況でいつもと違ったことはなかったか?例えば物が散乱していたとか、暴れた様子があったとか……」



「うーん……。そこまでは聞いていないのです。聞いたのは家に帰ったら静也くんがいなくて心配していたら髪を染めて帰ってきたということぐらいなのです……」



「まぁ、家にいた時に何かあったのか、外で何があったのかは分からないが、いつもと違うことが見つかれば何か解決の糸口になるかもしれないな……」

 

 透の言葉に颯希は微かな希望を持つ。

 そして、来斗と雄太に聞いてみようと決意した。



(何とかして静也くんを助けるのです……!)





 その頃、夜遅くになって家に帰ってきた静也は靴を脱ぐと、さっさと部屋に入っていった。拓哉が声を掛けたが、静也は相変わらず何も返答しない。



 部屋に入り鍵をかけ、月明かりだけが差し込む薄暗い部屋の中でベッドに体を倒れ込ませ、そのまま潜り込んだ。

 そこへ、拓哉が部屋の前に食事を届けに来る。拓哉は食事を置くと、静かな声で言葉を綴った。



「今日、来斗くんと雄太くんが来てくれたよ。二人とも静也のことを心配していた。後、颯希ちゃんって子も一緒だった……」



 颯希の名前が出て、静也がベッドから飛び起きる。



「なんで、あいつが……?」



 小さく呟くように言い、苦々しい表情をする。



「静也……。本当に何があったんだ?私たちは実の親子よりも仲が良いと言われるくらい仲が良かったじゃないか……。なんでも私に話してくれてただろう?それなのに急に……。私に直してもらいたいところがあるなら言ってくれ……。頼む……。前みたいに戻ってくれ……」



 拓哉が悲痛の声で言葉を綴る。でも、部屋の中からは応答がない。しばらく拓哉は応答を待ったが、やはり何も静也は言わない。

 拓哉は諦めて部屋を離れていった。



 足音で拓哉が部屋から去ったことが分かると、静也は声を殺しながら泣き始めた。



「どおしろって言うんだよぉ……」



 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら言葉を吐き出す。



「俺だって……前みたいになれるならなりてぇよ……」



 ボロボロに涙を流しながら苦しむように小さな声で言葉を吐く。



 ベッドに潜り、声を殺しながら泣き続けた……。





 颯希は部屋でノートを広げ、静也の家に言った時に何かおかしなことが無かったか考えていた。男の二人暮らしとはいえ、部屋は片付いていて特に何かが散乱した様子もなかったように思える。

 やはり、静也のことをほとんど知らないので「いつもと違うこと」が何なのかが考えても分からなかった。



「うーん……。考えるにしても材料が足らなさすぎます……」



 颯希は唸るように机に頭を項垂れた。



「明日、来斗くんと雄太くんに聞いてみるのが良いですかね……」



 そう呟くもグルグルと考えが止まらない。



『何とか救ってあげたい』



 その感情が颯希の中を渦巻いていた。





 拓哉は干してあった洗濯物を畳むと、それを片付けるために物入れを開いた。



「おや?」



 あるものに目がいく。



「なぜ、これがこんなところに?」



 拓哉は不思議に思ったが、特に気に留める様子もなくそれを元の場所に片付けた。





 静也の苦しみ……。



 拓哉の心配……。



 そして、何とか助けたいという颯希の想い……。





 いろいろな感情が交差して、夜が更けていく……。







 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじまりはいつもラブオール

フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。 高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。 ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。 主人公たちの高校部活動青春ものです。 日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、 卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。 pixivにも投稿しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

シャ・ベ クル

うてな
キャラ文芸
これは昭和後期を舞台にしたフィクション。  異端な五人が織り成す、依頼サークルの物語…  夢を追う若者達が集う学園『夢の島学園』。その学園に通う学園主席のロディオン。彼は人々の幸福の為に、悩みや依頼を承るサークル『シャ・ベ クル』を結成する。受ける依頼はボランティアから、大事件まで…!?  主席、神様、お坊ちゃん、シスター、893? 部員の成長を描いたコメディタッチの物語。 シャ・ベ クルは、あなたの幸せを応援します。  ※※※ この作品は、毎週月~金の17時に投稿されます。 2023年05月01日   一章『人間ドール開放編』  ~2023年06月27日            二章 … 未定

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

6年3組わたしのゆうしゃさま

はれはる
キャラ文芸
小学六年の夏 夏休みが終わり登校すると クオラスメイトの少女が1人 この世から消えていた ある事故をきっかけに彼女が亡くなる 一年前に時を遡った主人公 なぜ彼女は死んだのか そして彼女を救うことは出来るのか? これは小さな勇者と彼女の物語

後宮にて、あなたを想う

じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。 家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...