上 下
4 / 128
第一章 赤い炎は優しい雨に打たれる

第4話

しおりを挟む

 颯希の声に驚いて、斎藤さいとう 静也しずやは体をびくつかせた。そして、声がした方向に顔を向けて言葉を発する。



「お前!昨日の説教女!」



 静也は颯希を見るなり、怪訝な顔をする。



「公園の少年A!」

「だから俺は犯罪者じゃねぇって言ってるだろ!」

「なんちゃってヤンキー!」

「俺は本物のヤンキーだ!……って、なんで俺があんたと漫才しなきゃなんねぇんだよ!」

「なんとなく!」



 その様子を呆気にとられた様子で美優と亜里沙の口が開いている。



「颯希、斎藤と知り合いだったの?」

「颯希ちゃん、昨日の公園って何?」



 本人曰くヤンキーと言っている静也と颯希の漫才みたいなコントみたいなやり取りのせいか、二人は特に静也に対して「怖い」というのがない様子で普通に聞いてくる。



「昨日、公園で違反をしていたから注意したのですよ!」



 颯希の言葉に二人は「なるほど、納得!」という雰囲気になる。



「なんちゃってヤンキーくんはこの中学だったのですね!」

「なんちゃっては余計だ!」

「私は二組の結城颯希なのです!よろしくね!」

「俺は一組の斎藤静也……って何であんたなんかに自己紹介しなくちゃいけないんだよ!」



「ふふっ。なんかコントを見ているみたいだね、亜里沙ちゃん」

「なんだか面白い組み合わせよね。まぁ、確かに颯希の言う通り本当のヤンキーではなくて、ただ粋がりたいだけのなんちゃってヤンキーね」



 颯希と静也の漫才のようなコントのようなやり取りを美優と亜里沙は微笑ましく見ている。





「静也!!」





 そこへ、走ってきたのか息を切らしながら二人の男子生徒がやってきた。一人は背が高く、髪も短くカットしていて色も日焼けしているいかにもスポーツマンという感じの生徒。もう一人は身長はそんなに高くはないがショートストレートの髪に眼鏡をかけていて分厚い参考書を持っていそうな雰囲気の漂う真面目という言葉が似合いそうな生徒。静也を見つけて、急いでやってきたという感じだった。



「静也!何があったんだよ!メールしても電話しても何も返事ないから俺らがどんだけ心配したと思っているんだ?!」



 スポーツマン風の生徒が静也に詰め寄り、大きな声で怒鳴る。

 静也はそのスポーツマン風の生徒である峯塚みねづか 来斗らいとの言葉をスルーしているのか、目を逸らして何も言わない。



「何か言えよ!静也!俺や雄太ゆうたがどれだけ心配したと思っているんだ?!」



 何も言わない静也に来斗が静也の胸ぐらを掴む。



「来斗くん!落ち着いて!」



 雄太と呼ばれた生徒、柴崎しばさき 雄太ゆうたが慌てて止めに入る。

 来斗に胸ぐらを掴まれても静也は何も言わず、黙ったままだった。

 更に来斗が詰め寄って言葉を吐く。



「何があったんだよ?!」

「……だろ」

「……え?」



 静也の口から何か言葉が出たが、小さくて聞き取れない。



 次の瞬間――――――。





「お前らにはカンケ―ねぇだろ!!!」





 目を見開いて大声で怒鳴るように静也が言葉を吐いた。





 静也はそう言うと、その場から走り去っていった……。





「静也……」



 静也が走り去っていき、来斗が苦渋の表情をする。そこへ、雄太がそっと言葉を綴った。



「来斗くん……、今はそっとしといてあげようよ……。きっと、今は何を言っても反発すると思う……」

「分かってるさ……。でも、ずっと友達してたのに何で急にって……」



 来斗が悲しそうな表情で言葉を発する。その言葉に寄り添うように雄太が言葉をかけた。



「きっと、僕たちでは想像つかないことが静也くんの中で渦巻いているんだと思う……。今は見守って、向こうから助けがあった時に答えればいいと思うよ……。それが、幼馴染である僕たちが唯一出来る事なんじゃないかな……」



「あぁ………、そうだな……」

 

 雄太の言葉に来斗が同意を示す。



「柴崎くん、あのなんちゃってヤンキーくんの知り合いだったのですか?」



「あれ?聞いた声だと思ったら結城さんだったんだ」



 雄太を見て、颯希が声をあげる。そして、雄太が颯希を見て声を発したのだった。



「颯希ちゃん、この人知ってるの?」

「うん!同じ部活の人なのですよ」

「あぁ、あの『なんでも研究部』ね」

「うん!柴崎くんは人の感情をテーマにした心理学を研究しているのですよ!」

「へぇ……。中学生とは思えない高度な研究ね。颯希は確か『町の安全性を守るにはどうしたらよいか』というテーマで研究しているのよね?」

「うん!」



 そこへ、昼休みが終わりを告げるチャイムが鳴り響く。



 颯希たちは放課後にまた落ち合う約束をして、その場を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじまりはいつもラブオール

フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。 高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。 ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。 主人公たちの高校部活動青春ものです。 日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、 卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。 pixivにも投稿しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

シャ・ベ クル

うてな
キャラ文芸
これは昭和後期を舞台にしたフィクション。  異端な五人が織り成す、依頼サークルの物語…  夢を追う若者達が集う学園『夢の島学園』。その学園に通う学園主席のロディオン。彼は人々の幸福の為に、悩みや依頼を承るサークル『シャ・ベ クル』を結成する。受ける依頼はボランティアから、大事件まで…!?  主席、神様、お坊ちゃん、シスター、893? 部員の成長を描いたコメディタッチの物語。 シャ・ベ クルは、あなたの幸せを応援します。  ※※※ この作品は、毎週月~金の17時に投稿されます。 2023年05月01日   一章『人間ドール開放編』  ~2023年06月27日            二章 … 未定

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

6年3組わたしのゆうしゃさま

はれはる
キャラ文芸
小学六年の夏 夏休みが終わり登校すると クオラスメイトの少女が1人 この世から消えていた ある事故をきっかけに彼女が亡くなる 一年前に時を遡った主人公 なぜ彼女は死んだのか そして彼女を救うことは出来るのか? これは小さな勇者と彼女の物語

憑代の柩

菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」  教会での爆破事件に巻き込まれ。  目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。 「何もかもお前のせいだ」  そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。  周りは怪しい人間と霊ばかり――。  ホラー&ミステリー

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

処理中です...