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特別編 雨に打たれた鳥たちは光を目指す
22.&エピローグ
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「こちらに署名をお願いします!」
「お願いします!この判決を国に認めてもらうためにも署名をよろしくお願いします!」
歩美と玲樹が主要の駅にあるモールのような場所で街を歩いている人たちに原発事故のビラを配りながら署名を集める活動をしている。
しかし、大半の人が特に興味なさそうにその場をスルーしていく。
それでも歩美と玲樹が負けまいと必死で活動している時だった。
「……歩美さん!玲樹さん!」
その場に奏と透がやって来て歩美たちに声を掛ける。
そして、奏がある事を話す。
「……それ、本当ですか?」
歩美がその話を聞いて愕然となる。
「……それにそんな事をしたらあなた方はクビになるのでは……?」
玲樹も奏たちがしようとしていることに驚きを隠せない。
「私たちは覚悟の上です!お願いです!苦しんでいる人たちの為にもこれをやらせてください!」
奏が力強くそう言葉を綴る。
「もし、これで警察官を辞めることになっても、俺たちは国民を守る警察官だったとして胸を張れます。紅蓮も槙もそれは同じです」
透がそう話す。
奏と透の言葉に歩美と玲樹が悩む。
「……ありがとうございます。私たちの為にここまでしてくださって、どうお礼をしていいか分かりません。では、よろしくお願いします!」
歩美が奏に恐縮しながら……でも、希望を持ってそう答える。
「紅蓮!そっちは準備は良いか?!」
透がスマートフォンを片手にそう声を発する。
『あぁ!こっちはオッケーだ!』
紅蓮が電話越しにそう答える。
「よし!奏!例のスクリーンをここに持ってくるぞ!」
「はい!!」
透と奏がその場から駆け出して行き、あるものを設置する。
「紅蓮!こっちも準備できたぞ!」
『了解!』
透の言葉に紅蓮が意気揚々の声でそう答える。
「歩美さん、マイクをお借りしますね」
奏がそう言って歩美からマイクを受け取る。
そして、一呼吸すると口を開いた。
「みなさん!この映像を見てください!これが原発事故の真実です!!」
奏がマイク越しに放った言葉に歩いている人たちが足を止めて「なんだ?」と感じながらその画面に目を向けだす。
『……この原発稼働でまた私の株が上がるな』
『……国民?それよりは私の名誉の方が大切だよ』
『……事故が本当に起きたらだと?はっ!その時はその時だ。この原発稼働で金が沢山入ってくるからな。勿論、君にもその汁は吸わせてやるよ。だからよろしく頼むよ?』
『ククッ……。これで俺の地位も安泰だよ』
映像には志摩大臣がどこかの料亭のような場所で日本酒を飲みながら誰かとやり取りしているような映像が流れている。相手の顔は映っていない。相手が何かを質問して答えているようだが相手の声は聞こえない。
なぜこのような映像が手に入ったのか?
話は数日前に遡る。
「……もし、この話が本当だとしてもこんな紙切れでは捏造だと言われて終わりだ。なら、ちゃんとした証拠を提示しようと思ってな。過去にその原発事故で荒れた俺がパソコンを使ってその原発事故の事を調べたらある映像を入手できたんだ。恐らく、その映像を撮影した奴はお金に困った時に志摩をこの件で脅して金が手に入るかもしれないと思っていたんだろうな。だが、奴はその件でかどうかはわからないが集団リンチに遭って死亡している」
「……もしかしたら、志摩大臣の命令で殺されたかもしれないという事だな……」
槙の言葉に透がそう応える。
あの喫茶店の後、奏たちは槙の家に行き、槙がある映像を見せた。
そして、「どうせならこの映像を流さないか?」と槙が提案してきたのだった。
「……となると、場所はどうする?ネットか?」
紅蓮がその映像を流す場所としてそう尋ねる。
「いや、場合によってはすぐに削除される可能性がある」
透がそう指摘する。
「大勢の人が見られるように……ということでしたら、この映像を多くの人がいる場所で流す……と言う感じになりますが……」
奏が何かいい方法はないかと頭で考えながらそう言葉を綴る。
「……確か、歩美さんたちはモールの所で配布したりしていたよな?あそこは人通りも多いしスペースも確保できる……」
透がそう言葉を綴る。
そして……。
「よし!それでやってみようぜ!!」
紅蓮が意気揚々にそう声を発する。
「そうですね!その時に観ている人たちにSNSで拡散するようにも呼びかけましょう!」
奏がそう口を開く。
「じゃあ、それで準備を開始しよう!!」
「はい!」
「おう!」
「決まりだな」
透の言葉に奏たちが返事をした。
そして、着々と準備を進めて今に至る。
「……この映像で流されている内容が事実となり、原発事故は起こりました!それなのに、国はその事を認めません!皆さん!この映像を繰り返し流しますのでSNSで拡散をお願いします!!」
奏の発した言葉に周りの人たちが興味深げにその映像を見る。中にはスマートフォンを使って撮影している人もちらほらいる。
「……紅蓮、拡散され始めたぞ」
バンの中でノートパソコンを見ている槙が紅蓮にそう声を掛ける。
「とりあえず成功だな♪」
紅蓮が手でグッジョブマークを作りながら楽しそうにそう声を出す。
「後は拡散されたこの映像で国民がどう動くかだな」
槙はそう言ってノートパソコンを閉じた。
「……はい!ありがとうございます!」
「では、こちらに名前を……」
映像が流されているモールではその場に集まった人たちが署名を書いていた。歩美と玲樹では人が足りないので奏と透もその署名活動に参加して署名を集める。
かなり多くの署名が集まり、ある程度人が空いてきたところでその映像を止めて奏たちがそれを撤収させる作業に入る。
「奏さん、透さん、本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいのか分かりません……。私たちの為にここまでしてくださって、本当に……本当に……」
最後の方の言葉で歩美の目から涙が溢れて来て、言葉が上手く紡げない。
「いえ……。これで、裁判が有利になるのを祈っていますね」
奏が微笑みながらそう言葉を綴る。
「本当にありがとうございます。裁判に勝ったら必ずご報告しますね」
「はい。お待ちしておりますね」
深々と頭を下げながら玲樹が綴る言葉に奏が優しい声でそう答えた。
「……なんなんだ……これは……」
志摩大臣の家の周りに人が溢れ返っている。
何が起きているか分からない志摩大臣はその異様な光景に自宅の窓からその様子を見ていた。
「どういうことだ?!」
「最低だな!!」
「お前みたいな奴は大臣を辞めろ!!」
志摩大臣の家を民衆が埋め尽くして口々にそう叫ぶ。
「……一体、何が起こっているんだ……?」
その光景に志摩大臣が困惑しながらそう言葉を発する。
「……こっ、これは?!!」
「どうした?」
部屋にいる志摩大臣の秘書があるものを見つけてそう声を発する。
「大変です!これを見てください!!」
秘書がそう言ってスマートフォンで志摩大臣が例の原発で密会を行っている映像を見せる。
「あの時の映像が拡散されています!」
秘書が叫ぶように言葉を発する。
「……なっ?!」
その映像を見た志摩大臣が愕然としながらそう声を発する。
「な……なぜこの映像が?!あいつは確かに処分したはず……?!」
志摩大臣がそこまで言いかけた時だった。
――――トゥルルルル……トゥルルルル……。
志摩大臣のスマートフォンが誰かからの着信を知らせる音が響く。
「はい……。もしもし……。………………え?」
志摩が電話を取り、相手が話した内容に愕然となる。
そして、志摩大臣は身体を震わせると足をガクンッと落とす。
「大丈夫ですか?!志摩大臣!!」
秘書が駆け寄る。
「終わりだ……終わりだ……」
志摩大臣が身体を震わせながら小声でその言葉を繰り返す。
その時だった。
――――ガチャ……。
志摩大臣のいる部屋の扉が開いて、スーツを着た二人組の男が入ってくる。
「志摩大臣、いえ……志摩 道明、あなたを逮捕します」
「……はぇ?」
スーツ姿の男たちが警察手帳を見せながらそう声を発する。その言葉に志摩は情けない声を出す。
「先程、ある方から志摩は一般人になったから今回の原発事故の件で逮捕しても構わないという電話がありました。志摩、利権乱用の容疑で署までご同行願えますか?」
「あ……あ……」
スーツ姿の刑事である男の言葉に志摩が呆然としたまま声にならない声を出す。
そして、そのまま志摩は連行されていった。
奏たちはあの後、冴子からお咎めを受けたが、署長が「市民の事を考えた行動」として、解雇はしないという事になった。
「……全く、本当に色々とやらかしてくれるわね……」
冴子がため息を吐きながらそう言葉を発する。
「すみません……。どうしても見て見ぬふりをできなかったので……」
奏が恐縮そうにそう言葉を綴る。
「まぁ、それが奏ちゃんの良いところでもあるんだろうけどね……。ところで……」
冴子がそう言って紅蓮の方に「グリンッ!」と顔を向ける。
「あんたはいつになったら始末書が出来上がるのよ?!志摩にまさか銃を向けて発砲するなんて馬鹿のすることよ?!当たっていないとはいえ、そっちの方は結構問題視されたんだからね!!」
冴子が般若のような形相で叫ぶようにそう言葉を綴る。
「すみませぇ~ん……。怒り任せでつい……」
紅蓮がメェメェと泣きながら必死で始末書を仕上げる。
「……そういえば、槙はお休みですか?」
透が特殊捜査室に槙が居ないことを疑問に持ち、そう声を発する。
「槙はしばらくお休みを貰ってお墓参りに行ってくるって言っていたわ」
冴子がそう説明する。
「槙さん……、大丈夫か心配ですね……」
奏がそう口を開く。
槙の高校の時の彼女が原発事故の関係で亡くなったという事を知った時、奏は驚きが隠せなかった。そして、その後、槙は荒れて得意のパソコンであの映像を偶然入手した。
それが、今回の作戦の要として使ったわけだが、志摩が私利私欲で原発を稼働した事は絶対に許されることじゃない……。
(有罪判決が出るといいのだけど……)
奏が心の中でそう祈りながら窓の外を眺める。
穏やかに流れる雲……。
木々を揺らす優しい風……。
今日も歩美と玲樹は戦っているのだろう……。
苦しむ人たちの為に……。
いつか『光』を見るために……。
(歩美さん、玲樹さん、頑張ってくださいね!)
奏は掌を合わせて祈るようにそう心で呟いた。
「久しぶりだな、静葉……」
槙が花束をお墓に添えながらそう言葉を綴る。
「静葉、俺は良い仲間に出会えたと思う……。俺はこんな性格だけど、みんなこんな俺を受け入れてくれている。仲間になった奏も正義感の強い良いやつだよ。きっと、静葉と奏なら性格も似ているところがあるから気が合ったかもしれないな……」
槙がお墓にそう語りかける。
「静葉……、また綺麗な魂で生まれてくるのを祈っている……」
槙がそう言葉を綴り、一筋の涙を流す。
「また……会いに来る……」
槙はそう言って立ち上がり、その場を去って行った。
~エピローグ~
あれから更に日が経ち、特殊捜査室ではテレビの画面を食い入るように見ている奏たちの姿があった。
テレビでは原発事故の判決を外で記者が待っている状況で映し出されている。
奏たちの流した映像は広範囲でいろいろなところに拡散されて、ネットでも話題になっていた。
志摩が逮捕されたこともネットニュースで上がり、今回の判決は世間の人たちも興味津々だ。
「……うぅ~、なかなか歩美さんたち出てきませんね……」
奏が待ちきれないのか、そわそわとしながらそう口を開く。
「そろそろだと思うがな」
透が優雅にコーヒーを飲みながらそう言葉を発する。
その時だった。
『出てきました!!』
記者がそう言って裁判所から出てきた歩美たちにカメラとマイクを向ける。
歩美と玲樹が映し出されて歩美が大きな紙を広げる。
そこに書かれていたのは……、
『勝訴!』
という、二文字だった。
「やった~!!!」
奏がテレビでその映像を見て満面の笑みで万歳のポーズをする。
テレビでも、歩美と玲樹が涙を流しながら裁判に勝ったことを喜んでいる。
「良かったです……本当に良かったです……」
奏が少し目を潤ませながらそう言葉を綴る。
「そうだな」
透も安堵したのか微笑みながらそう言葉を発する。
「それじゃあ、結果も分かったことだし、書類整理を再開するわよ♪」
冴子が掌を叩きながら奏たちに書類整理をするように促す。
「あぁ~……、俺の嫌いな書類整理か~……たりぃ……」
紅蓮がブーブーと文句を言いながらそう口を開く。
「これも仕事だ。とっととやれ」
槙がそう言ってパソコンを起動させて書類の束を手に取る。
「今日も頑張って仕事します!」
奏が笑顔を見せながら書類の束を手に取る。
「よ~し!頑張るぞ~!!!」
奏はそう言いながら気合を入れて書類整理を始める。
外は穏やかで小鳥がさえずっているほどの眩しい日差しが溢れていた。
(完)
「お願いします!この判決を国に認めてもらうためにも署名をよろしくお願いします!」
歩美と玲樹が主要の駅にあるモールのような場所で街を歩いている人たちに原発事故のビラを配りながら署名を集める活動をしている。
しかし、大半の人が特に興味なさそうにその場をスルーしていく。
それでも歩美と玲樹が負けまいと必死で活動している時だった。
「……歩美さん!玲樹さん!」
その場に奏と透がやって来て歩美たちに声を掛ける。
そして、奏がある事を話す。
「……それ、本当ですか?」
歩美がその話を聞いて愕然となる。
「……それにそんな事をしたらあなた方はクビになるのでは……?」
玲樹も奏たちがしようとしていることに驚きを隠せない。
「私たちは覚悟の上です!お願いです!苦しんでいる人たちの為にもこれをやらせてください!」
奏が力強くそう言葉を綴る。
「もし、これで警察官を辞めることになっても、俺たちは国民を守る警察官だったとして胸を張れます。紅蓮も槙もそれは同じです」
透がそう話す。
奏と透の言葉に歩美と玲樹が悩む。
「……ありがとうございます。私たちの為にここまでしてくださって、どうお礼をしていいか分かりません。では、よろしくお願いします!」
歩美が奏に恐縮しながら……でも、希望を持ってそう答える。
「紅蓮!そっちは準備は良いか?!」
透がスマートフォンを片手にそう声を発する。
『あぁ!こっちはオッケーだ!』
紅蓮が電話越しにそう答える。
「よし!奏!例のスクリーンをここに持ってくるぞ!」
「はい!!」
透と奏がその場から駆け出して行き、あるものを設置する。
「紅蓮!こっちも準備できたぞ!」
『了解!』
透の言葉に紅蓮が意気揚々の声でそう答える。
「歩美さん、マイクをお借りしますね」
奏がそう言って歩美からマイクを受け取る。
そして、一呼吸すると口を開いた。
「みなさん!この映像を見てください!これが原発事故の真実です!!」
奏がマイク越しに放った言葉に歩いている人たちが足を止めて「なんだ?」と感じながらその画面に目を向けだす。
『……この原発稼働でまた私の株が上がるな』
『……国民?それよりは私の名誉の方が大切だよ』
『……事故が本当に起きたらだと?はっ!その時はその時だ。この原発稼働で金が沢山入ってくるからな。勿論、君にもその汁は吸わせてやるよ。だからよろしく頼むよ?』
『ククッ……。これで俺の地位も安泰だよ』
映像には志摩大臣がどこかの料亭のような場所で日本酒を飲みながら誰かとやり取りしているような映像が流れている。相手の顔は映っていない。相手が何かを質問して答えているようだが相手の声は聞こえない。
なぜこのような映像が手に入ったのか?
話は数日前に遡る。
「……もし、この話が本当だとしてもこんな紙切れでは捏造だと言われて終わりだ。なら、ちゃんとした証拠を提示しようと思ってな。過去にその原発事故で荒れた俺がパソコンを使ってその原発事故の事を調べたらある映像を入手できたんだ。恐らく、その映像を撮影した奴はお金に困った時に志摩をこの件で脅して金が手に入るかもしれないと思っていたんだろうな。だが、奴はその件でかどうかはわからないが集団リンチに遭って死亡している」
「……もしかしたら、志摩大臣の命令で殺されたかもしれないという事だな……」
槙の言葉に透がそう応える。
あの喫茶店の後、奏たちは槙の家に行き、槙がある映像を見せた。
そして、「どうせならこの映像を流さないか?」と槙が提案してきたのだった。
「……となると、場所はどうする?ネットか?」
紅蓮がその映像を流す場所としてそう尋ねる。
「いや、場合によってはすぐに削除される可能性がある」
透がそう指摘する。
「大勢の人が見られるように……ということでしたら、この映像を多くの人がいる場所で流す……と言う感じになりますが……」
奏が何かいい方法はないかと頭で考えながらそう言葉を綴る。
「……確か、歩美さんたちはモールの所で配布したりしていたよな?あそこは人通りも多いしスペースも確保できる……」
透がそう言葉を綴る。
そして……。
「よし!それでやってみようぜ!!」
紅蓮が意気揚々にそう声を発する。
「そうですね!その時に観ている人たちにSNSで拡散するようにも呼びかけましょう!」
奏がそう口を開く。
「じゃあ、それで準備を開始しよう!!」
「はい!」
「おう!」
「決まりだな」
透の言葉に奏たちが返事をした。
そして、着々と準備を進めて今に至る。
「……この映像で流されている内容が事実となり、原発事故は起こりました!それなのに、国はその事を認めません!皆さん!この映像を繰り返し流しますのでSNSで拡散をお願いします!!」
奏の発した言葉に周りの人たちが興味深げにその映像を見る。中にはスマートフォンを使って撮影している人もちらほらいる。
「……紅蓮、拡散され始めたぞ」
バンの中でノートパソコンを見ている槙が紅蓮にそう声を掛ける。
「とりあえず成功だな♪」
紅蓮が手でグッジョブマークを作りながら楽しそうにそう声を出す。
「後は拡散されたこの映像で国民がどう動くかだな」
槙はそう言ってノートパソコンを閉じた。
「……はい!ありがとうございます!」
「では、こちらに名前を……」
映像が流されているモールではその場に集まった人たちが署名を書いていた。歩美と玲樹では人が足りないので奏と透もその署名活動に参加して署名を集める。
かなり多くの署名が集まり、ある程度人が空いてきたところでその映像を止めて奏たちがそれを撤収させる作業に入る。
「奏さん、透さん、本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいのか分かりません……。私たちの為にここまでしてくださって、本当に……本当に……」
最後の方の言葉で歩美の目から涙が溢れて来て、言葉が上手く紡げない。
「いえ……。これで、裁判が有利になるのを祈っていますね」
奏が微笑みながらそう言葉を綴る。
「本当にありがとうございます。裁判に勝ったら必ずご報告しますね」
「はい。お待ちしておりますね」
深々と頭を下げながら玲樹が綴る言葉に奏が優しい声でそう答えた。
「……なんなんだ……これは……」
志摩大臣の家の周りに人が溢れ返っている。
何が起きているか分からない志摩大臣はその異様な光景に自宅の窓からその様子を見ていた。
「どういうことだ?!」
「最低だな!!」
「お前みたいな奴は大臣を辞めろ!!」
志摩大臣の家を民衆が埋め尽くして口々にそう叫ぶ。
「……一体、何が起こっているんだ……?」
その光景に志摩大臣が困惑しながらそう言葉を発する。
「……こっ、これは?!!」
「どうした?」
部屋にいる志摩大臣の秘書があるものを見つけてそう声を発する。
「大変です!これを見てください!!」
秘書がそう言ってスマートフォンで志摩大臣が例の原発で密会を行っている映像を見せる。
「あの時の映像が拡散されています!」
秘書が叫ぶように言葉を発する。
「……なっ?!」
その映像を見た志摩大臣が愕然としながらそう声を発する。
「な……なぜこの映像が?!あいつは確かに処分したはず……?!」
志摩大臣がそこまで言いかけた時だった。
――――トゥルルルル……トゥルルルル……。
志摩大臣のスマートフォンが誰かからの着信を知らせる音が響く。
「はい……。もしもし……。………………え?」
志摩が電話を取り、相手が話した内容に愕然となる。
そして、志摩大臣は身体を震わせると足をガクンッと落とす。
「大丈夫ですか?!志摩大臣!!」
秘書が駆け寄る。
「終わりだ……終わりだ……」
志摩大臣が身体を震わせながら小声でその言葉を繰り返す。
その時だった。
――――ガチャ……。
志摩大臣のいる部屋の扉が開いて、スーツを着た二人組の男が入ってくる。
「志摩大臣、いえ……志摩 道明、あなたを逮捕します」
「……はぇ?」
スーツ姿の男たちが警察手帳を見せながらそう声を発する。その言葉に志摩は情けない声を出す。
「先程、ある方から志摩は一般人になったから今回の原発事故の件で逮捕しても構わないという電話がありました。志摩、利権乱用の容疑で署までご同行願えますか?」
「あ……あ……」
スーツ姿の刑事である男の言葉に志摩が呆然としたまま声にならない声を出す。
そして、そのまま志摩は連行されていった。
奏たちはあの後、冴子からお咎めを受けたが、署長が「市民の事を考えた行動」として、解雇はしないという事になった。
「……全く、本当に色々とやらかしてくれるわね……」
冴子がため息を吐きながらそう言葉を発する。
「すみません……。どうしても見て見ぬふりをできなかったので……」
奏が恐縮そうにそう言葉を綴る。
「まぁ、それが奏ちゃんの良いところでもあるんだろうけどね……。ところで……」
冴子がそう言って紅蓮の方に「グリンッ!」と顔を向ける。
「あんたはいつになったら始末書が出来上がるのよ?!志摩にまさか銃を向けて発砲するなんて馬鹿のすることよ?!当たっていないとはいえ、そっちの方は結構問題視されたんだからね!!」
冴子が般若のような形相で叫ぶようにそう言葉を綴る。
「すみませぇ~ん……。怒り任せでつい……」
紅蓮がメェメェと泣きながら必死で始末書を仕上げる。
「……そういえば、槙はお休みですか?」
透が特殊捜査室に槙が居ないことを疑問に持ち、そう声を発する。
「槙はしばらくお休みを貰ってお墓参りに行ってくるって言っていたわ」
冴子がそう説明する。
「槙さん……、大丈夫か心配ですね……」
奏がそう口を開く。
槙の高校の時の彼女が原発事故の関係で亡くなったという事を知った時、奏は驚きが隠せなかった。そして、その後、槙は荒れて得意のパソコンであの映像を偶然入手した。
それが、今回の作戦の要として使ったわけだが、志摩が私利私欲で原発を稼働した事は絶対に許されることじゃない……。
(有罪判決が出るといいのだけど……)
奏が心の中でそう祈りながら窓の外を眺める。
穏やかに流れる雲……。
木々を揺らす優しい風……。
今日も歩美と玲樹は戦っているのだろう……。
苦しむ人たちの為に……。
いつか『光』を見るために……。
(歩美さん、玲樹さん、頑張ってくださいね!)
奏は掌を合わせて祈るようにそう心で呟いた。
「久しぶりだな、静葉……」
槙が花束をお墓に添えながらそう言葉を綴る。
「静葉、俺は良い仲間に出会えたと思う……。俺はこんな性格だけど、みんなこんな俺を受け入れてくれている。仲間になった奏も正義感の強い良いやつだよ。きっと、静葉と奏なら性格も似ているところがあるから気が合ったかもしれないな……」
槙がお墓にそう語りかける。
「静葉……、また綺麗な魂で生まれてくるのを祈っている……」
槙がそう言葉を綴り、一筋の涙を流す。
「また……会いに来る……」
槙はそう言って立ち上がり、その場を去って行った。
~エピローグ~
あれから更に日が経ち、特殊捜査室ではテレビの画面を食い入るように見ている奏たちの姿があった。
テレビでは原発事故の判決を外で記者が待っている状況で映し出されている。
奏たちの流した映像は広範囲でいろいろなところに拡散されて、ネットでも話題になっていた。
志摩が逮捕されたこともネットニュースで上がり、今回の判決は世間の人たちも興味津々だ。
「……うぅ~、なかなか歩美さんたち出てきませんね……」
奏が待ちきれないのか、そわそわとしながらそう口を開く。
「そろそろだと思うがな」
透が優雅にコーヒーを飲みながらそう言葉を発する。
その時だった。
『出てきました!!』
記者がそう言って裁判所から出てきた歩美たちにカメラとマイクを向ける。
歩美と玲樹が映し出されて歩美が大きな紙を広げる。
そこに書かれていたのは……、
『勝訴!』
という、二文字だった。
「やった~!!!」
奏がテレビでその映像を見て満面の笑みで万歳のポーズをする。
テレビでも、歩美と玲樹が涙を流しながら裁判に勝ったことを喜んでいる。
「良かったです……本当に良かったです……」
奏が少し目を潤ませながらそう言葉を綴る。
「そうだな」
透も安堵したのか微笑みながらそう言葉を発する。
「それじゃあ、結果も分かったことだし、書類整理を再開するわよ♪」
冴子が掌を叩きながら奏たちに書類整理をするように促す。
「あぁ~……、俺の嫌いな書類整理か~……たりぃ……」
紅蓮がブーブーと文句を言いながらそう口を開く。
「これも仕事だ。とっととやれ」
槙がそう言ってパソコンを起動させて書類の束を手に取る。
「今日も頑張って仕事します!」
奏が笑顔を見せながら書類の束を手に取る。
「よ~し!頑張るぞ~!!!」
奏はそう言いながら気合を入れて書類整理を始める。
外は穏やかで小鳥がさえずっているほどの眩しい日差しが溢れていた。
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愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
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