ファクト ~真実~

華ノ月

文字の大きさ
上 下
131 / 152
最終章 愛されていた鳥

第13話

しおりを挟む
 工場の一角にある作業場で賀川が作業をしていると、同じ職場の男が賀川にそう声を掛ける。賀川はそれに返事をすると、作業場を離れてある一室に向かう。

(なんだろう?今日は早退するとは言っていないし、作業でも特に問題ないはずだし……)

 賀川が呼ばれた部屋に向かいながら心であれこれと色々考える。

「し……失礼します……」

 賀川がそう言いながらある部屋の扉を開ける。

「来たか……」

 上司が部屋にやって来た賀川を見てそう声を発する。

 そして、その部屋には上司だけではなく、辻木までいる。

(なんで辻木が?作業で何かあったのか??)

 その場に辻木もいることから作業で何かミスがあったのかもしれないと内心不安になりながら上司の言葉を待つ。

「体調はどうなんだ?」

 上司がそう言葉を発する。

「え?あ……はい、もう大丈夫です」

 賀川が戸惑いながらそう答える。

 どうやら作業で何かミスをして咎められるわけじゃないと分かり、内心ホッとする。だが、体調の事だけなら辻木がなぜここにいるのかが分からない。

「……本当に体調不良だったのか?」

 上司が睨みつけるように強く言葉を発する。

「え……?」

 その言葉に賀川が戸惑う。

「本当に昨日は体調不良で早退したのかと聞いているんだ」

「は……はい……」

 上司の言葉に賀川がたじろぎながら答える。

「……そうか。辻木、昨日見たことを話せ」

「はい。昨日、夕方の六時ごろに賀川が女性とカフェでお茶をしている場面を見ました。賀川は体調不良ということで早退したはずなのに、カフェでの賀川は調子よく、楽しそうに話していました。体調が悪いというのは微塵も感じさせないほど元気が良かったです」

「……と、いう事なんだが、この件について説明してもらおうか?」

 辻木が話し終わり、上司から鋭い目つきでそう問いただされる。

「そ……その……」

 賀川は真っ青になりながら小刻みに震えている。何かを言おうとしても言葉が上手く出てこない。

「仮病まで使って女と会うとは大した度胸だな、賀川」

 上司が睨みつけながらそう言葉を綴る。

「それは……その……」

 賀川が何かうまくこの場を切り抜けられる方法を考えるが何も思いつかない。

「悪いが、君のような人を騙す人間をこれ以上ここに置いとく訳には行かない。君は今日限りで契約終了だ」

「そ……そんな!!」

 上司から事実上のクビを言い渡されて賀川が声を上げる。

「ロッカーに入っている荷物を持って今から退社しろ。いいな?」

 上司がそう言って、部屋を出て行こうとする。

「ま……待ってください!!俺、生活が懸かっているからクビになったら生活が……!!」

 賀川が叫ぶように上司に懇願する。

「それは知った事ではない。次の仕事先を見つければいいだろう」

 上司がそう言葉を放ち、部屋を出て行く。

「……ざまあみろ」

 辻木が小さな声でそう呟く。

「え……?」

「嘘ついてまで女と会っているからこんな目に遭うんだ。仕事をクビになったってその女も知ったら距離を置かれるだろうな」

 辻木が吐き捨てるようにそう言葉を綴る。

「つ……辻木……。なんで……?」

 仲が良かったはずの辻木に裏切られたような感覚に陥り、賀川がそう声を絞り出す。

「お前みたいな奴にあんな女が釣り合うかよ?!」

 辻木が恨みながら低い声でそう言葉を吐く。

「俺よりブ男のくせにいい気になってんじゃねぇ!!」

 辻木がそう叫ぶように言うと、そのまま部屋を出て行く。

 賀川はその場に一人残されて、顔を真っ青にしながらしばらくの間、立ち尽くしていた。



(さて、どう過ごそうかな……?)

 男がタバコを吸いながら今日をどうやって過ごすかを考える。

(少し出掛けるか……)

 男はそう言うと、サングラスをして部屋を出て行く。

 適当に街をぶらつきながら、時折、本屋に足を運んだりして何か面白そうな本がないかを探す。でも、特にこれと言ったのが無いので本屋を出て、また当てもなくぶらぶらと街を歩く。

 その時だった。

「あれは……?」

 前方に見える人物を見て男が足を止める。

 その人物は賀川だった。大きな紙袋を提げて、立ち尽くしている。作業着姿であることから「仕事中なのでは?」と推測するが、会社は塩浜にあるからこんな時間にこの場所にいることはあり得ないはずだと思い、不思議そうに賀川の様子を眺める。

 様子を見ていると、賀川はポケットからスマートフォンを取り出し、誰かに電話を掛けているのが確認できた。



「出ないか……。仕事中かな……?」

 賀川がそう言ってポケットにスマートフォンを突っ込む。そして、とぼとぼと帰り道を歩く。その時に男とすれ違うが、賀川はその男に気に留めることなく歩く。

(明日からどうしたらいいんだろう……)

 歩きながらそう考える。

(次の仕事……見つかるかな……?)

 途方に暮れながらアパートに向って歩くが、その足取りは重い。そして、部屋に着くと、布団の上に倒れ込む。

「また、あそこに行ったら女神に会えるかな……?」

 賀川はそうポツリと呟いた。



「さて、どうやって犯人を見つけるかだな……」

 透がそう言葉を発する。

 特殊捜査室では小川を殺害した犯人をどうやって見つけるかを話し合っていた。

「手掛かりも特に無し……。目撃情報も無し……。どうすっかな……?」

 紅蓮が困ったようにそう言葉を綴る。

 その時だった。


 ――――トゥルル……トゥルル……。


 奏のスマートフォンが誰かからの着信を告げる。奏は相手が誰かを確認するためにスマートフォンを見ると、表示された名前を透たちに告げた。

「……賀川さんからです」

「「「え?」」」

 奏の言葉に透たちが声を出す。

「とりあえず、出るのは止めておきなさい。そのまま放置しておきましょう」

 冴子の言葉で奏は電話に出ずにそのまま鳴り止むのを待つ。


 ――――トゥルル……トゥルル……トゥル……。


 しばらくして、電話が鳴り止む。

「……やれやれ、かなりコール音が続いていたな」

 紅蓮が呆れ果てたようにそう言葉を綴る。

「出るまでは諦めないという感じだったな」

 槙が淡々と言う。

「諦めが悪いというかなんというか……。さっきのコール音はちょっと行き過ぎだったな」

 紅蓮がため息を吐きながらそう言葉を綴る。

「あ……そうだ!」

 紅蓮が何かを思いついたのかそう声を発する。

「なぁなぁ!イイこと思い付いちゃった♪」

 紅蓮がそう言ってにんまりと笑った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

物言わぬ家

itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。 そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。 「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

消えた弟

ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。 大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。 果たして消えた弟はどこへ行ったのか。

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

処理中です...