ファクト ~真実~

華ノ月

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最終章 愛されていた鳥

第6話

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「……それなりの作品数だな……」

 男がパソコンで「結音」が何作投稿しているかを確認するため、サイト上の結音のホームを開ける。すると、そこには短編から中編の作品がいくつも出てきた。中にはシリーズ系で投稿している作品もある。

「……この作品はなかなかだな」

 男がシリーズ系で投稿している作品の第一弾を読み始める。

 その瞳はどこか嬉しさが交っているようにも見える。タバコを吸いながらその作品を読み、時折、ちょっとした笑い声をあげる。

(なるほどな……。シリアスな話だが、時折コメディ要素を挟むことで読みやすく、その話を重くし過ぎていない……)

 男がそう心で呟く。

 そして、ハイボールの缶を開けてそれを飲みながら作品を読んでいった。



「……はぁ、なんだか疲れた……」

 奏が家に帰って来て、ベッドに倒れ込む。

 帰りは冴子に言われた通りバスで帰ってきて、バス停に着くと、母親の雫がバス停に迎えに来ていた。そして、帰り道は雫とお喋りしながら帰り道を歩き、家に帰って来てそのままベッドに倒れ込んでしまったのだった。

「あ……続き投稿しなきゃ……」

 奏がそう言ってベッドから起き上がり、ノートパソコンのスイッチを入れる。


 ――――ウィィィィン……。


 ノートパソコンが音を出して、起動する。そして、投稿しているサイトを開き、自分のホームにアクセスする。

「あれ?お知らせ?」

 ホームにアクセスすると、お知らせのところに「新着あり」と赤い文字で書かれている。なんだろうと思い、そのメッセージを開ける。すると、そこには「レン」と名乗る人からメッセージが届いていた。


『結音様。

 突然のメッセージ、失礼いたします。

 結音様の作品を読ませていただきました。どの作品も社会に訴えかけるような話でとても良かったです。特に短編である『雪は溶けて春になる』は、心打たれるものがありました。主人公の女性が生まれつきの障害ゆえに心に傷を負い、その状態で立ち上がり、前に進む……。そして、登場してくる同じ障害の男の凍てついた心を溶かす。主人公の優しさ、凛とした態度、その話から主人公が何としてもその男を救うんだという気持ちが伝わってきました。また、他の作品も読ませていただきます。とても素敵な作品を読ませていただき、気持ちが穏やかになりました。ありがとうございます。 レンより』


 奏がそのメッセージを見て深く息を吐く。

 今まででも何度かメッセージを貰ったことはあるが、こんなに丁寧でしっかりとしたメッセージは初めてだった。

(……なんか……嬉しい……)

 そして、そのメッセージに返信を書いた。



「……なんだ?」

 男が結音の作品を読んでいると、サイトのホームに何か赤い印が付いていることに気付き、ホームボタンを押す。

 すると、「お知らせ」と言うところに「返信が届きました」という内容が書かれている。

 男がその文をクリックして、そのメッセージを開ける。


『レン様。

 作品の感想をくださり、ありがとうございます。
 とても嬉しかったです。
 私は世間に訴えたいことを作品にして投稿しています。
 良かったら他の作品もぜひ読んでみて下さい!
 また、こうやって感想を頂けると嬉しいです。

 これからもよろしくお願いします。   結音』


 男がそのメッセージを読んで優しく微笑む。

(いい話を書くな……奏……)

 男が微笑みながらそう心で呟く。

 そして、読んでいた作品の続きを読み始めた。



『ストーカー?』

 電話の向こうで広斗が怪訝な声を出す。

 家に帰って来て奏はひと段落が付くと、広斗に電話した。いつだったか、「何でも話して欲しい」と言われたので、今回ストーカーに遭っていたことを話す。そして、その男が殺されたことも話した。

『まぁ、これでストーカーに遭う事はないかもしれないけど、心配だな……。かといって、僕はすぐに帰れる状態じゃないし……』

「……ただ、その人が殺されたことで孝君たちに疑いがかけられているんだ……」

 奏がそう言って今日の事を話す。

『……成程、アリバイが無いわけか……。でも、きっと大丈夫だよ。無実なことは変わりないしね。奏も気を付けるんだよ?他にも奏を狙っている人がいる可能性があるわけだからさ』

 広斗が心配そうな声でそう言葉を綴る。

「うん。とりあえず、しばらくの間はバスで帰るよ」

『そうだね、その方がいいね』

 その後、二言三言交わして電話を終える。

「ふぅ……」

 電話が終わり、ため息を吐く。

(まさか、自分がストーカーに遭うなんて……)

 奏が心でそう呟く。

(なんか、気分が沈んじゃうな……)

 そう感じながらベッドに横に倒れ込む。

(ダメダメ!!気弱になったらダメ!!気持ちをしっかり持たなきゃ!!)

 そして、ベッドから起き上がり、寝る時間まで物語の続きを書くことにした。



「おはようございます!」

 次の日の朝、奏が元気な声を出して特殊捜査室の扉を開く。

「おはよう、奏ちゃん。大丈夫?」

 冴子が昨日の事を心配してそう声を掛ける。

「はい!大丈夫です!」

 奏が笑顔でそう答える。

 そこへ、透たちもやって来て今日の捜査予定を話し合う。

「……とりあえず、事件が起こった時、怪しい人物は場所の関係もあるのか目撃者はいないわ。なので、はっきり言って八方塞がりよ……。でも、事件が発生した以上放っておくことはできない……。だから、今日は何かしら手掛かりをつかむために被害者宅に行って欲しいの。勿論、本山さんと杉原さんも一緒よ。その家には先に行っているから後で来てくれってことになっているわ」

「「「了解です」」」

 奏たちはそう返事すると、被害者の家に向かう準備をする。

「あ、奏ちゃん」

「はい?」

 準備をしている奏に冴子が声を掛ける。

「奏ちゃん、もし行くのが辛かったら無理しなくていいわよ?なんせ、その家には……」

 冴子がそこまで言って口を閉ざす。

 確かに被害者の家である小川の部屋には奏の写真が貼り巡らされているという話だ。場合によっては奏がそれを見て体調を崩す恐れがある。それを心配して冴子はそう声を掛けたのだった。

「私は大丈夫です。それにじっとなんかしていられません。絶対に絵美ちゃんと孝君の無実を証明するのです!」

 奏が力強い言葉でそう言葉を綴る。

「……分かったわ。気を付けてね」

 冴子が観念したようにそう声を掛ける。

「はい!行ってきます!」

 奏はそう返事すると、透たちと共に小川の住んでいた部屋に向かった。



「……来たか」

 小川の部屋にやってきた奏たちに本山がそう声を掛ける。

「お疲れ様です、本山さん、杉原さん」

 透がそう声を掛ける。

「……水無月、大丈夫なのか?」

 本山が奏まで来ていたことに驚き、そう言葉を掛ける。

「大丈夫です。それより、何か手掛かりは見付かりそうですか?」

 奏が凛とした口調でそう言葉を綴る。

(……意外と強いんだな)

 本山が奏の様子を見て心でそう呟く。

(まぁ、ある意味当然と言えば当然かもな……)

 更にそう心で呟き、部屋を奏たちに見せた。



(確か女神はあの時間のバスに乗っていたな……)

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