ファクト ~真実~

華ノ月

文字の大きさ
上 下
123 / 152
最終章 愛されていた鳥

第5話

しおりを挟む
 一人の男がスマートフォンから『女神たちの集い』にアクセスして、そう小さく呟く。

「どうした?賀川かがわ

 会社の食堂で目の前に座る賀川が何かを呟いたので、その声に同僚である辻木つじきがそう声を掛ける。

「いや、なんでもないよ」

 賀川がそう言って豚カツを口に運ぶ。

「ところでこの後の仕事だけど、機械の調子が悪いからまずその原因を調べてくれってさ」

「分かった」

 辻木の言葉に賀川がそう返事をする。

「……やっべっ!急いで食べないと休憩終るぜ?!」

 辻木がそう言いながらご飯をかき込む。賀川も急いで昼食を済ませて二人は慌てて食堂を出た。



「……奏がストーカーに?」

 雫がそう言って驚きの表情を見せる。

 透たちは奏の家にお邪魔していた。父親である俊彦は仕事のため不在だったので、母親である雫に事情を話した。

「……それで、そのストーカーをしていた男が殺されたというわけですね?」

「はい」

 雫の言葉に透が返事をする。

「そして、私たち夫婦も犯人かも知れないという容疑がかかっているという事ですか……」

 雫がそう言葉を綴る。

「まぁ、疑いを掛けられても仕方ありませんね。ですが、そのことが分かればまず警察に行きます。殺人を犯すという事は決してありません」

 雫が凛とした表情と声でハッキリとそう言葉を綴る。

「まぁ、念のため私も奏に何かあってはいけないですから、周囲は警戒しておきます。奏が帰る頃にはこの辺りも暗くなるので、しばらくはバス停まで迎えに行きます」

「よろしくお願いします。ですが!ご安心ください!」

 紅蓮がそう言って雫の手を取る。

「奏さんはこの紅蓮が必ずお守り致します!なのでお母様は安心して奏さんの帰りを待っていてください!!」

 紅蓮がキラキラモードを散りばめながら得意げな顔でそう言葉を綴る。

「あ……はい……」

 その言葉に雫が戸惑った声を出す。

「ちなみに確認ですが、夜の七時半頃は何をしていましたか?」

「その時間は……」

 透の言葉に雫が席を立つ。そして、固定電話の子機を手に取り、何かを確認している。

「……あぁ。その時間は主人の母親から電話があって話していましたよ」

 雫がそう言って電話の通話時間を見せる。

 確かにそこには「19:21 主人の母 通話時間 26分」と表示されていた。


「確認、ありがとうございます」

 透がそう言葉を綴る。

「……では、我々はこれで失礼します」

 透がそう言って席を立ったので紅蓮たちも席を立った。


「両親ではないな」

 奏の家を出て車に乗り込むと槙がそう口を開く。

「あぁ。驚きはしていたが変な動揺は見られなかった」

 透がそう言葉を綴る。

「紅蓮のおちゃらけには困っていたがな」
「うるせぇ!!」
「お前、奏の母親も範疇なのか?」
「んなわけねぇだろ!!」

 槙の言葉に紅蓮がそう吠える。

「とりあえず、一旦署に戻るぞ」

 透がそう言って、車を走らせた。



「戻りました~………」

 奏がそう言いながら特殊捜査室の扉を開ける。

「お帰り♪奏ちゃん♪どうだった?」

 冴子が戻ってきた奏にそう声を掛ける。

「絵美ちゃんと孝君に関してはその時間、二人ともアパートにいたみたいで証明できる人が居ません……。ゆっちゃんに関しては昨日の夜は友達と飲みに行っていたみたいで、その店を教えてくれました。なので、その店に電話して確認したら確かに来ていたという事です……」

 奏がそう説明するが、心の中では不安で一杯だった。絵美と孝にはアリバイが無い。つまり、容疑者から外したくても外すことが出来ない……。

「はぁ……」

 奏が何とか証明できないかと考えるが何も思い付かなくてため息を吐く。

「戻りました~!」

 そこへ、透たちも捜査室に戻って来て捜査してきたことを話す。奏の家に行っていたという事を知り、奏が驚くが「捜査の為だ」と、自分に言い聞かせる。

「……今日の捜査はここまでにしましょう。さっ!そろそろ退勤時間よ?帰る準備をして気を付けて帰ってね♪」

「「「はーい」」」

 冴子の言葉に奏たちが返事をする。

 そして、帰宅準備をして奏たちは警察署を後にした。



 ――――カタカタカタカタ……カタカタカタカタ……。

 賀川がパソコンで何かを打ち込んでいる。

 仕事が終わり、家に着いた賀川はパソコンを起動させると、『女神たちの集い』のサイトを開いた。そして、不気味に笑いながら何かを書き込んでいく。

「邪魔者はもう居ない……くくっ……」

 そう呟きながら投稿を書き込むと、送信ボタンを押す。そして、缶ビールを空けてそれを美味そうに喉を鳴らしながら飲み始める。

「……ぷはっ!!待ってろよ……女神……」

 不気味な笑みを讃えながらそう言葉を綴る。

 その瞳には暗い闇のような黒が潜んでいる……。


「必ず女神を俺のものにしてやる!!」


 賀川がそう叫びながら両手を広げる。

「……まずは、第一段階だ……」

 賀川はそう言葉を綴ると、カッターナイフを取り出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

物言わぬ家

itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。 そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。 「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

消えた弟

ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。 大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。 果たして消えた弟はどこへ行ったのか。

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

処理中です...