ファクト ~真実~

華ノ月

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最終章 愛されていた鳥

第1話

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~プロローグ~

「へへ……へへ……。僕の女神だぁ~……」

 一人の小太りの男がパソコンの画面を見ながら不気味な笑みを浮かべる。

「あぁ~……。実際に会ってみたいなぁ~……。僕にも微笑んでくれるかなぁ~……」

 男がそう言いながら画面を食い入るように見る。

「女神なら僕が襲っても笑って許してくれるよねぇ~……」

 不気味に笑いながらそう言葉を綴る。

「あ~……。そろそろ女神があの場所に出てくる時間だ……。そろそろ僕も出てまた写真を取らなきゃ……。今日はどんな格好かなぁ~……」

 男はそう言うと、カメラを首に下げて部屋を出て行った。



「……なかなか面白いな」

 ある男がパソコンからあるサイトにアクセスして小説を読んでいる。

「……他には……」

 男がそう言って別の作品を読み始める。そして、一つのある小説を見つけると、食い入るようにその話を読み始めた。

 一通りその作品を読み終わると、煙草を取り出し吸い始める。そして、何か面白そうなものがないかをネットサーフィンしながら探していく。

「……何だこれ?」

 一つの気になるサイトを見つけてそのページを開く。

 そのサイトにはこう書かれてあった。


『女神たちの集い』


 男が何だろうと思い、そのサイトをクリックする。すると、そのサイトはある人たちを女神に模して、その女神たちの事を語り合っているサイトだった。

 その内の一つの部屋をクリックする。

「……これは……」

 表示された女神の写真を見て男が声を詰まらす。

 そして、その部屋のチャットルームに入り、何が書かれているかを確認する。

 その部屋に投稿されているものを読み、男の顔が次第に怒りを露わにする。

「……そんなことさせるか……」

 唸るようにそう言葉を綴ると、ネットを使って投稿した人物の事を調べ始める。


 これが、悲劇の始まりだった……。



1.

「……きっと、元樹さんが瑠香さんにあんなことをしなければ裕二君も心が歪むことは無かったのかもしれませんね……」

 奏がコーヒーを両手に抱えながら、そう言葉を綴る。

 強盗に見せかけた殺人事件から一週間が経った。あの事件から特殊捜査室はまた書類整理の日々を送っている。今日も、沢山の書類に囲まれながらその整理を行っているのだが、奏はあの事件以来、表情がどこか浮かない……。透たちもその事件の話題はあまり出さずに、日々を過ごしていた。

 そして、奏の中で少し気持ちの整理がついたのか、そんな言葉をポツリと呟いたので、透たちはその言葉に相槌を打つ。

「そうだな……。元々の発端は被害者の元樹がしでかした事から起こっているからな……」

 透がパソコンの手を止めて、そう言葉を綴る。


 あの事件の真相が分かり、裕二は治療も含めてある更生機関に送られていった。そして、瑠香は引き取ってくれる施設が決まり、そこに入ったという。瑠香も心に大きな傷を負っているという事で、病院も勧めたみたいだが瑠香本人がそれを拒否したという事だった。


「瑠香ちゃんに……また会えるでしょうか……?」

 奏がそうポツリと言う。

 裕二が連れてかれた後で奏は瑠香に面会に行った。その時、瑠香が「また会える時は会いたい」という話をしていたので、奏も「また会いましょう」と言って、その場を後にした。

(瑠香ちゃんが前を向けますように……)

 奏が窓の外に顔を向けながら心の中でそう呟く。

 外は雲一つない青空が広がっている。穏やかな風が吹き、木々が生い茂っていた。空には鳥も元気に羽ばたいている。

(いつまでもクヨクヨしてちゃ駄目だよね……)

 奏がそう心で呟く。

「よし!頑張ります!!」

 奏が急に席を立ち、ガッツポーズを作りながら声を上げる。

「あっ!次はこの書類ですか?!」

 奏がそう言って、次の書類整理に取り掛かる。その表情は調子が戻ったのか、生き生きしているように見えた。

「よぉ~しっ!俺も頑張るぜ!!」

 奏につられたのか紅蓮がそう笑顔で言葉を綴る。


 穏やかな時間が流れる……。

 まさかあんな事件が起こって怒涛の日々になるとは露知らず……。



「早く出てこないかなぁ~。僕の女神~……」

 小太りの男がある場所から離れたところでカメラを構えながらある人物が出てくるのを待つ。

「早く……早く出てきて欲しいなぁ~……」

 男が不気味に笑いながらそう言葉を綴る。

 そして、「まだかまだか」といつでも写真を取れるようにカメラを構え続けた。



「……お~っし!帰るかぁ~……」

 紅蓮が伸びをしながらそう言葉を綴る。

「お疲れ様、気を付けて帰ってね♪」

 冴子が帰る支度をしている奏たちにそう声を掛ける。

「「「お疲れさまでしたー」」」

 奏たちがそう言って、捜査室を出て行く。

「じゃあ、俺は自転車だから」

 槙がそう言って、署を出たところにある自転車置き場の方向に歩きだし、奏たちは「また明日」と言って、三人で駅までの道を歩く。

「……はぁ~、今日も無事に一日が終わりましたね!」

 奏が道を歩きながらそう言葉を綴る。

「まぁ、しばらくは書類整理だろうな。かなり溜まっているし……」

 透がそう言葉を綴る。

「いつになったらその書類整理から解放されるんかなぁ~……。あぁ~!なんか事件を捜査したいぜ!!」

 紅蓮がそう言葉を綴りながらため息を吐く。

「でも、事件なんて起こらない方が平和な証拠ですよ」

 奏が微笑みながらそう言葉を綴る。

「まっ!そうなんだけどさ!!」

 紅蓮がやれやれと言う感じで言う。

「……?」

 急に奏が何かを感じて立ち止まる。

「どうした?」

 奏が立ち止まり周りをきょろきょろしているので透が声を掛ける。

「いえ……、気のせいですね」

 奏がそう言葉を綴り、歩きだす。

「あっ!奏ちゃん!良かったら飲みに行かない?!」

 紅蓮が何かを思いついてそう声を上げる。

「え……えっと……私は……」

 その言葉に奏が戸惑う。

「……半殺し確定……」

 透がボソッとそう言葉を呟く。

「わ~!!!冗談だよ!!だから槙や冴子さんに言うなよ?!」

 紅蓮が慌てながらそう言葉を発する。

 やがて、駅に着くと奏はやってきた電車に乗り込んだ。そして、いつものように透と紅蓮が奏を見送る。

「今日もお疲れさまでした!また明日、よろしくお願いしますね!」

 奏がそう言葉を綴り終わると、電車の扉が閉まり、発車されていった。

 奏たちは気付いていない……。

 その電車にある人物が乗り込んだという事を……。


「……ふぅ、到着!」

 奏が家から一番近い最寄りの駅に着いて一息吐く。

 そして、暗がりの道をテコテコと歩きだす。

「……まただ」

 奏がまた視線を感じて、そう声を出す。

 辺りを見回すが、誰も怪しい人は見かけない。この駅であまり降りる人がいないせいか、人通りも殆どない。


 ――――テコテコテコ……。


 奏が暗がりの道を歩きだす。


 ――――ヒタヒタヒタ……。


 奏が何かに気付き、足音を止める。


 ――――ヒタ……。


 それと同時に何かが同時に止まる。

 奏が恐る恐る後ろを振り返るが、やはりそこには誰もいない。

(やっぱり気のせいかな……?)

 奏がそう思い、家に帰るために再度道を歩きだした。



「……今日は女神の住んでいる家を突き止めるんだ……」

 小太りの男がそう呟きながら前を歩く奏に気付かれないように尾行する。

「きょ……今日こそ何かに躓いたふりをして抱き付こうかな……」

 男が小声でそう言葉を呟く。

 そして、奏が周りに民家もなく田んぼ道が続く道を歩いて行く。

 周りに人の気配はない。

「い……今がチャンスかも……」

 男がそう呟きながら歩くスピードを速めようとする。

 その時だった。

「おい……」

 急に小太りの男の後ろから別の男の声がしてその声に驚くように小太りの男が体をびくつかせる。

「……何をしようとしている」

 夜にもかかわらずに薄めのサングラスをかけている男が小太りの男にそう話しかける。

「誰だよ、お前……?」

 小太りの男がそう声を出す。

「……何をしようとしているんだ?」

 サングラスの男が小太りの男の質問には答えずに、そう言葉を発する。

「あんたに関係ないだろ?僕は今日こそ女神を自分の手中に収めるだけだ!」

 小太りの男が自慢げにそう言葉を綴る。

「……お前のような奴に奏を傷つけさせない……」

 サングラスの男がそう言ってナイフを懐から取り出す。

「なっ……?!」

 ナイフが出てきたことに小太りの男が声を出す。

「死ね……」

 サングラスの男がそう言ってナイフを振り上げる。


 ――――ザシュ……!!!


 サングラスの男が小太りの男の身体を斬りつける。

「あ……が……」

 斬りつけられた衝撃で小太りの男が声を出す。

「なに……しやが……る……」

 小太りの男がそう言いながら力を振り絞り、サングラスの男に掴みかかる。


 ――――バシッ……!!!


 小太りの男がサングラスの男の顔を叩く。


 ――――カシャーン……。


 その衝撃でサングラスが地面に落ちて、サングラスの男の顔が露わになる。

「その顔……どこかで……」

 小太りの男が苦しみながらそう言葉を綴る。

「そうだ……!お前……あの、さ……!!」

 小太りの男がそこまで言いかけた時だった。


 ――――ドスッ……!!!


 サングラスの男が小太りの男の心臓をめがけて刃物を深く刺す。

 小太りの男がその場に倒れ込み、目を見開いたまま動かなくなる。

 サングラスの男はその男を放置したまま暗闇の中に消えていった……。



「本山さん!殺人事件です!!」

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