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第三章 愛を欲しがった悲しみの鳥
第14話
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「美玖……」
病院のベッドの上で横になっている美玖に祐樹が声を掛ける。しかし、返事はない。一命は取り留めたが、未だに美玖は目を覚まさずに、生と死の狭間を彷徨っている状態だった。
「なんで……美玖がこんな目に……」
祐樹が美玖の手を取り、涙を流しながら美玖が目を覚ますのをひたすら待ち続ける。
その時だった。
「……ん……」
美玖の口から微かに声が響く。
「美玖!」
祐樹がその声に気付き、声を上げる。
「ゆう……き……?」
美玖がぼんやりと目を開くとゆっくりと祐樹の方に顔を向ける。
「目を覚ましたんだね!」
「わた……し……?」
美玖は何が起こったのか分からないのか、意識はまだ朦朧としている様子だ。
「先生を呼んでくるね!」
祐樹はそう言って、病室を出ていった。
「ここで……敦成に出会ったんだよね……」
茉理は車を降りると、目の前にある噴水の広場に足を運び、ベンチに腰掛ける。
そして、敦成と出会った時の事をぼんやりと思い出していた。
「……じゃあ、茉理さんは美玖さんの事を本当は憎んでいたということですか?」
奏の言葉に女性が頷く。
茉理の事を調べていくと、茉理に幼馴染がいることが分かり、奏たちはその女性にコンタクトを取った。そして、女性の家の近くにあるカフェで会うことになり、女性は茉理の事を話してくれた。
「はい……。茉理は美玖の事を表面上は仲良くしているけど、本当は憎んでいたんだと思います。私によく言っていました。『なんで美玖ばかり好かれるの?』『なんで美玖はあんなにも愛されるの?』って、憎しみを露わにしてそう言っていたんです……」
「あなたは美玖さんと会ったことはあるのでしょうか?」
女性の言葉に奏がそう尋ねる。
「私も同じ高校だったので美玖の事も知っています。茉理は、家族にも愛されて育った美玖の事が憎くて憎くて仕方なかったと思います……」
女性がそう言葉を綴る。
「憎いのに何で茉理さんは美玖さんと一緒にいたのですか?」
奏の言葉に女性がどう返答しようか悩むそぶりを見せる。
「その……、美玖の傍にいたら自分も注目を浴びることが出来るかもって思っていたみたいです……」
「どういうことですか?」
女性の言葉の意味がよく分からなくて奏が尋ねる。
「美玖は周りから慕われていたし、好かれていました……。アイドルとか言うのではなく、なんて言うか……その場にいると空気が和む……と言う感じですかね?美玖はよく笑う子で、美玖の周りは人がよく集まっていましたよ。明るくて優しい美玖は、周りの子たちから見て『癒し』のような存在だったんです……。だから、美玖と一番の仲良しになれば自分も注目されるような存在になれると思ったんじゃないでしょうか……?茉理は昔、『アイドルになりたい!』って言っていたくらいだったんで……」
「ちなみに、美玖さんは茉理さんのそういうところに気が付いていたのでしょうか?」
女性の話を聞いて、奏がそう問い掛ける。
「いえ……、多分、気付いてなかったと思います……。美玖は元々人を疑うことをまずしないし、自分がそういった癒しの存在になっていることも知らなかったと思います……。だからこそ、そんな純粋な美玖の事がみんな好きだったんだと思います……」
女性の話を聞いて、美玖がどんな人なのかが想像できる。明るくてとても純粋な人なのだということが分かる。家族に愛されて育ち、周りからも好かれていた美玖……。
「ちなみに、茉理さんはご両親との仲はどうだったのでしょうか?」
奏がそう尋ねると、女性は困った顔をしながらどう話そうか思案しているそぶりを見せる。
「ご両親が離婚していることは知っています。その……、母親とはどうだったのかをお聞きしたいのです……」
「……っ!!」
奏の口から「母親」と言う言葉が出て、女性がその言葉に反応する。
「……もしかして、何かあるのでしょうか?」
女性の様子から何かあると感じて奏がそう言葉を綴る。
「その……、茉理のお母さんは茉理の行動を異常なぐらい監視していたんです……。子供の頃、茉理と遊びに行っている途中で何度も茉理のスマートフォンに連絡があって『いつになったら戻ってくるの?』とか『ロクな友達と遊びに行くな。すぐ帰ってきなさい』ということがあって、茉理はその度に泣いていました……」
女性が悲痛な表情でそう語る。
「どうしてお母さんはそこまで茉理さんを……?」
奏がそう尋ねる。
「茉理のお父さんに見捨てられて、茉理だけでも自分の手の中に閉じ込めたかったのだと思います……。何が何でも離れていかないように必死だったんじゃないでしょうか……?私が茉理の家に遊びに行った時、茉理のお母さんが『茉理には私がいればいいの!茉理を私からもっていかないでちょうだい!!』って、すごく激怒されたことがあるんです……」
女性の話に奏は唖然とする。娘を自分から離れないように束縛して、自由を奪い、何処にも行かせないようにする……。それは紛れもなく異常な行動ではないだろうか……?
母親である淳子を刺したのは、束縛する母親から逃げる為だったのかも知れない。でも、敦成も茉理に暴力を振るっている。
「お話してくださり、ありがとうございます」
奏が女性に微笑みながらお礼の言葉を述べた。
「刺された母親にあの時何があったか聞いてみた方がいいかもな……」
透がそう言葉を綴る。
奏たちは淳子に、あの日にいったい何があったのかを聞きに行くためにいったん署に戻り、本山に淳子の容態を聞きに行くことにした。
「……あそこに座っているのって……」
一人の人物がベンチに座る茉理を見て声を発する。
そして、急いで茉理のいる場所に駆け出していった。
病院のベッドの上で横になっている美玖に祐樹が声を掛ける。しかし、返事はない。一命は取り留めたが、未だに美玖は目を覚まさずに、生と死の狭間を彷徨っている状態だった。
「なんで……美玖がこんな目に……」
祐樹が美玖の手を取り、涙を流しながら美玖が目を覚ますのをひたすら待ち続ける。
その時だった。
「……ん……」
美玖の口から微かに声が響く。
「美玖!」
祐樹がその声に気付き、声を上げる。
「ゆう……き……?」
美玖がぼんやりと目を開くとゆっくりと祐樹の方に顔を向ける。
「目を覚ましたんだね!」
「わた……し……?」
美玖は何が起こったのか分からないのか、意識はまだ朦朧としている様子だ。
「先生を呼んでくるね!」
祐樹はそう言って、病室を出ていった。
「ここで……敦成に出会ったんだよね……」
茉理は車を降りると、目の前にある噴水の広場に足を運び、ベンチに腰掛ける。
そして、敦成と出会った時の事をぼんやりと思い出していた。
「……じゃあ、茉理さんは美玖さんの事を本当は憎んでいたということですか?」
奏の言葉に女性が頷く。
茉理の事を調べていくと、茉理に幼馴染がいることが分かり、奏たちはその女性にコンタクトを取った。そして、女性の家の近くにあるカフェで会うことになり、女性は茉理の事を話してくれた。
「はい……。茉理は美玖の事を表面上は仲良くしているけど、本当は憎んでいたんだと思います。私によく言っていました。『なんで美玖ばかり好かれるの?』『なんで美玖はあんなにも愛されるの?』って、憎しみを露わにしてそう言っていたんです……」
「あなたは美玖さんと会ったことはあるのでしょうか?」
女性の言葉に奏がそう尋ねる。
「私も同じ高校だったので美玖の事も知っています。茉理は、家族にも愛されて育った美玖の事が憎くて憎くて仕方なかったと思います……」
女性がそう言葉を綴る。
「憎いのに何で茉理さんは美玖さんと一緒にいたのですか?」
奏の言葉に女性がどう返答しようか悩むそぶりを見せる。
「その……、美玖の傍にいたら自分も注目を浴びることが出来るかもって思っていたみたいです……」
「どういうことですか?」
女性の言葉の意味がよく分からなくて奏が尋ねる。
「美玖は周りから慕われていたし、好かれていました……。アイドルとか言うのではなく、なんて言うか……その場にいると空気が和む……と言う感じですかね?美玖はよく笑う子で、美玖の周りは人がよく集まっていましたよ。明るくて優しい美玖は、周りの子たちから見て『癒し』のような存在だったんです……。だから、美玖と一番の仲良しになれば自分も注目されるような存在になれると思ったんじゃないでしょうか……?茉理は昔、『アイドルになりたい!』って言っていたくらいだったんで……」
「ちなみに、美玖さんは茉理さんのそういうところに気が付いていたのでしょうか?」
女性の話を聞いて、奏がそう問い掛ける。
「いえ……、多分、気付いてなかったと思います……。美玖は元々人を疑うことをまずしないし、自分がそういった癒しの存在になっていることも知らなかったと思います……。だからこそ、そんな純粋な美玖の事がみんな好きだったんだと思います……」
女性の話を聞いて、美玖がどんな人なのかが想像できる。明るくてとても純粋な人なのだということが分かる。家族に愛されて育ち、周りからも好かれていた美玖……。
「ちなみに、茉理さんはご両親との仲はどうだったのでしょうか?」
奏がそう尋ねると、女性は困った顔をしながらどう話そうか思案しているそぶりを見せる。
「ご両親が離婚していることは知っています。その……、母親とはどうだったのかをお聞きしたいのです……」
「……っ!!」
奏の口から「母親」と言う言葉が出て、女性がその言葉に反応する。
「……もしかして、何かあるのでしょうか?」
女性の様子から何かあると感じて奏がそう言葉を綴る。
「その……、茉理のお母さんは茉理の行動を異常なぐらい監視していたんです……。子供の頃、茉理と遊びに行っている途中で何度も茉理のスマートフォンに連絡があって『いつになったら戻ってくるの?』とか『ロクな友達と遊びに行くな。すぐ帰ってきなさい』ということがあって、茉理はその度に泣いていました……」
女性が悲痛な表情でそう語る。
「どうしてお母さんはそこまで茉理さんを……?」
奏がそう尋ねる。
「茉理のお父さんに見捨てられて、茉理だけでも自分の手の中に閉じ込めたかったのだと思います……。何が何でも離れていかないように必死だったんじゃないでしょうか……?私が茉理の家に遊びに行った時、茉理のお母さんが『茉理には私がいればいいの!茉理を私からもっていかないでちょうだい!!』って、すごく激怒されたことがあるんです……」
女性の話に奏は唖然とする。娘を自分から離れないように束縛して、自由を奪い、何処にも行かせないようにする……。それは紛れもなく異常な行動ではないだろうか……?
母親である淳子を刺したのは、束縛する母親から逃げる為だったのかも知れない。でも、敦成も茉理に暴力を振るっている。
「お話してくださり、ありがとうございます」
奏が女性に微笑みながらお礼の言葉を述べた。
「刺された母親にあの時何があったか聞いてみた方がいいかもな……」
透がそう言葉を綴る。
奏たちは淳子に、あの日にいったい何があったのかを聞きに行くためにいったん署に戻り、本山に淳子の容態を聞きに行くことにした。
「……あそこに座っているのって……」
一人の人物がベンチに座る茉理を見て声を発する。
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