ファクト ~真実~

華ノ月

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第二章 沼に足を取られた鳥は愛を知る

第3話

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「こんにちは♪本山さん、杉原さん♪」

 冴子が奏を連れてある捜査室にお邪魔をする。

「こんにちは、小宮山さん」

 杉原が冴子に柔らかな口調で言葉を綴る。

「あ……あの!あの時はお世話になりました!」

 奏が頭を下げながらそう言葉を綴る。

「いや、大丈夫だよ。君のお陰で表に出なかった事件を暴くことが出来たんだ。そこはこちらがお礼を言う事だよ。今は、特殊捜査員として活動しているんだよね?聞いたよ。この前の詐欺事件も君のお手柄だってね!」

 杉原が朗らかにそう言葉を綴る。

「えっと……その……あ……ありがとうございます……」

 杉原の言葉に奏は嬉しいような恥ずかしいような気持ちで感謝の言葉を述べる。

「……それで、今日は何の用で来たんだ?」

 先程まで奏たちが来てもずっと黙り込んでいた本山が低い声でそう言葉を綴る。

「本山さん♪そんな低い声で相手を威嚇したらダメじゃないですか♪」

「うるせぇよ、小宮山。お前が首を突っ込むとロクなことにならんからな……」

 本山が冴子を威嚇するように唸る。しばらく、ニコニコと微笑んでいる狐と厳つい顔をした熊が睨み合っているような状態が続く。

「まぁまぁ、本山さん。いちおう話は聞きましょうよ」

 その間に杉原が二人の間に入り、本山にそう言葉を掛ける。

「話は簡単よ♪私たちにも二人が担当している事件を捜査させてほしいのよ♪」

「……まぁ、そんな事だろうとは思ったがな……」

 冴子の言葉に本山が睨みつけながら低く唸るように言う。

「被害者は自殺らしいけど、麻薬絡みなのよね?ということは、勿論麻薬の入手経路も調べるのは当たり前だけど、その逃げた女性が気になってね。もしかしたら、裏に表に出なかった事件が隠されているかもしれないし……」

「まぁ、あり得る話だな……」

 冴子の言葉に本山がそう言葉を綴る。

「どうかしら?♪協力させてもらえない?♪」

 冴子がニコニコ顔でそう言葉を綴る。

「どうせ拒否しても、お前の事だから勝手に首を突っ込むだろ……。分かった……。いいだろう……。その代わり、手に入れた情報はちゃんと知らせろ。こっちも情報は伝える」

「了解♪」

 こうして、例の麻薬絡みの女性が死亡した事件は本山と杉原と特殊捜査班が協力して取り組むことになった。



「……誰に使うかな……」

 徳二がそのものを見つめながらそう言葉を呟く。

 使うにしても誰でもいいというわけにはいかないだろう……。出来れば身寄りのない人間の方が足は付きにくい。かといって、そんな人間が都合よく見つかるだろうか……。

(とりあえず……夜の街に出るか……)

 徳二はそう思い、出掛ける支度をすると、部屋を出て夜の街に足を運ばせた。



(なんか生きるのに疲れちゃったな……)

 絵梨佳が心の中でそう呟きながら夜の街を彷徨う。普段はいつもの場所で客引きを行うのだが、もしかしたら警察がいる可能性がある。恐らくホテルの防犯カメラに自分の姿が映っているだろう……。そうなると、いつもの場所で客引きをするのは危険があった。なので、いつもいる場所からは離れたところで客引きをして金銭を得ようと思い、別の繁華街に足を運んだ。しかし、繁華街とはいえ、これといってカモになりそうな客はなかなか見つからない。

 その時だった。

「あっ!絵梨佳!!」

 一人の女性が絵梨佳に声を掛ける。その女性も『売り』をしているのだろう。身なりからしてそんな雰囲気が伺われる。

「リコが死んだんだって?!もしかして、ひっかけた男に殺されたんじゃないか?っていう話だよ?!」

「あー……、そうかもね……」

 女性の言葉に絵梨佳が気怠そうに答える。

「やばいじゃん!やっぱこんな事してたら殺されることあるのかな?!」

 女性が悲痛な声を上げながらそう言葉を綴る。

「でもさ……、かといって私もリナもまっとうな職に就ける?」

「それは……そうだけどさ……」

 絵梨佳の言葉にリナと呼ばれた女性が項垂れる。

「私はどう足掻いてもまともな職には就けないからさ……。生きていくためにはこうするしか無かったし……」

「絵梨佳……」

 絵梨佳の事情を知っているせいか、リナはそれ以上何も言えない。

「じゃあ、今日も稼がなきゃいけないから……」

 絵梨佳がそう言ってその場を去ろうとする。

「あっ!待って!絵梨佳!」

「何?」

 去ろうとしていく絵梨佳をリナが声を発して引き留める。

「今日はさ、アタシのところで一緒に飲もうよ!なんか、今日は男をひっかける気になれないからさ!だから、久々に二人で楽しく飲まない?」

 リナの言葉に絵梨佳がどうしようか考える。

「……うん。いいよ……」

「決まり!!」

 話が決まり、リナの部屋で飲むことになったのでコンビニでお酒やおつまみをいろいろと買い込みむと、二人でしゃべりながらリナの部屋に行った。



「はぁ~……。気兼ねに飲めるのって最高!!」

 リナが缶ビールを片手にはしゃぐように言う。

「なんかさ……、こんな生活を繰り返していると何のために生きているんだろうって感じるんだよね……。全然、生きていて楽しくないんだ……」

 リナがそう話しながら目に涙を溜める。

「まっとうな仕事して生きることが出来ていたら、人生ってかなり違ったよね……?」

 目に涙を溜めながらどこかそう願うように呟く。

「まぁ……、私もリナもある意味被害者だよね……。あんなことが無ければ人生大きく変わってただろうし……」

「……そうだね」

 二人で楽しく飲むはずがどんどんとしんみりなっていく。

「あー!!なんか一時的でもいいからパーっと明るい気分になりたいわ!!その後の事なんてどうでもいい!!」

 リナが叫ぶように言葉を発する。

「……じゃあ、これ、使ってみる?」

 絵梨佳がそう言って鞄から例のものを取り出す。

「……絵梨佳……これってまさか……」

「そのまさかだよ……」

「こんなもの何処で……?」

「ある人がくれた。『気分が明るくなる魔法の薬』って言って……」

 リナがそのものを凝視する。その体は少し震えている。もしかしたら葛藤しているのかもしれない。試したいという自分と、本当にやっていいのかという自分が反発しているのだろう。これを使って一時でもいいから楽しい夢を見たいという自分がいると同時に、これを使ったら後戻りが出来ないことも知っている。

「無理に使いなとは言わないよ?リナが決めればいい……」

 絵梨佳がそう言葉を綴る。「止める気はない。やりたいのならやればいい」という雰囲気が漂う。

「少し……少しだけやってみたい……」

 リナがそう言ってそのものに手を伸ばす。

「どう使えばいいの……?」

 使い方が分からないので絵梨佳に問う。

「……飲み物に混ぜればいいよ」

 絵梨佳がそう言葉を綴る。

 リナが震える手でそのものを指で摘まみ、飲み物に入れる。そして、均等に混ざるようにストローを使って掻き混ぜる。

「……こんなもんかな?」

 リナが声を少し震わせながら言う。

「多分……」

 絵梨佳が言う。


 ――――グイッ!!!


 リナがそのものを溶かしたビールを一気に飲み干す。そして、息を吐いて、自分に何が起こるかをしばらく待つ。

「な……なんか、緊張しているのか、効いてるかどうかわかんないね……」

リナが思ったようなことが起きるのかと思ったら何も起きなかったのでどう反応していいのか分からないような声を出す。

「じゃあ、もっと入れる?」

 絵梨佳がそう言葉を掛ける。

「うーん……、とりあえずいいや……。とにかく飲もうよ!何となくだけど楽しいし!!」

 ちょっとテンションを高くしながらリナが言う。恐らく、少し効いているのだろう。先程に比べたら表情がニコニコとしている。

 そして、楽しそうに口調も雄弁になってリナが語りだす。

(……やっぱ、なんか怖いや……)

 リナの様子を見て絵梨佳が心の中でそう呟く。楽しい気分にはなれそうだが、その反面、恐怖感もあった。



「……あのまま寝ちゃったんだ……」

 あれから多弁で陽気になっていくリナとしゃべりながらいつの間にか眠りに落ちていた。そして朝になり、絵梨佳はぼんやりとしながら起き上がる。

「リナ?起きてる?」

「うん……」

 近くで寝そべっているリナに声を掛ける。弱々しい声が聞こえる。大丈夫かと思い、リナの顔を覗き込む。

「リナ?!」

 絵梨佳がリナの顔を見て驚きの声を上げた。

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