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第一章 白い鳥は黒いカラスに誘われる
第18話
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拓海が憎しみを孕ませながらそこまで言うと、一旦呼吸をする。そして、息を吸い込み、言葉を綴った。
「……翼を橋の上から突き落としたんだ……」
「……え?」
拓海の言葉に奏が小さく声を上げる。
「それは一年くらい前の事かしら……?」
翼が記憶喪失になった時期がそれくらいなので冴子がそう話を切り出す。
「あぁ……、そうだよ……」
拓海が素直に認める。
「翼君はあなたに何を言ったの?」
冴子がそう問う。
「あの日――――」
拓海がそう言って、その時のことを語りだした。
「はぁ……、もっと手っ取り早く稼げる方法って無いもんかな……」
拓海が夜の街をぶらつきながら小さく言葉を吐き出す。
「あのジジィは失敗したぜ……。娘までは良かったが、まさか死んでたなんてな……」
思い付きで金を毟り取ろうと年配の男に声を掛けたが、いとも簡単にそれは失敗に終わった。
「どうすっかな……」
金を手に入れて、美香の誕生日プレゼントを買ってあげたかったが、日雇いの仕事ではなかなか大金は手に入らない。美香には見栄を張って営業の仕事をしていると言ったが、本当はその日その日を日雇いの仕事で稼いでいるだけだった。
夜の道を歩いて、少し休憩しようと橋に背中を持たれかけながらタバコを取り出し、火を付ける。
その時だった……。
「あれ?あれって……」
前方から歩いてくる青年を見つけて拓海が声を発する。そして、青年が近くまで来た時に声を掛けた。
「よぉ。翼じゃねぇか……」
「た……拓海君……」
前方を歩いていた翼が拓海を見て驚きの声を上げる。
「なんだ?それ?」
拓海が翼の手に持っている箱を見て何かを聞く。
「あ……、これ?ケーキだよ。今日は両親の結婚記念日だからお祝いしようと思って買ってきたんだ」
翼が幸せそうにそう言いながらケーキの箱を大事そうに抱える。拓海がその様子を見て、だんだんと苛つきを覚える。
「……相変わらず、ムカつく奴だな……」
「……え?」
拓海が小さく呟いた言葉に翼は聞き取れなかったのか小さく声を上げる。
「なんで、お前は親に愛されてるんだよ……」
今度は翼にも聞き取れる声で拓海が憎しみ交じりに言葉を吐く。
「えっと……、別に不思議は無いと思うけど……?」
拓海の言葉がよく分からないのか翼が「なんで?」と言うような顔をする。
「お前は親から虐待受けたことは無いんだろうな……」
「ぎゃ……虐待?!」
拓海が憎しみ交じりで吐いた言葉に翼が驚いた声を出す。
「虐待って……それってただの躾じゃないの?親がそんなこと子供にするかな?そりゃあ、躾で殴られたりしたら痛くて辛いのは分かるけど、それは親が子供のことを思ってするもんでしょ?親のことをそんな風に悪く言ったら駄目だよ!」
翼の言葉に拓海が苛立ちを募らせる。
「お前みたいな親に愛されてるやつに俺の気持ちが分かるかよ!!」
拓海がそう言い放って翼からケーキを取り上げる。
――――バシャンっ!!!
そして、そのケーキを海に投げ落とした。
「な……何を?!」
翼が突然の事に声を上げて、海に落ちていったケーキを橋の上から見下ろす。
「ひ……酷いよ!!せっかくお祝いに買ったのに!!」
翼が流されていくケーキを見ながら叫び声をあげる。
「……じゃあ、追いかけろよ……」
――――ドンっ!!!
拓海がそう言って翼の背中を強く押した。
「……あの日は幸い、その橋に人通りは無くて夜だったから誰にも見られていなかったんだ……」
話しが終わり、拓海が深くため息を吐く。
拓海が語った出来事を奏と冴子はじっと聞いていた。ただその状況を見ただけでは拓海だけが悪者に見えるが、本当の『悪』は虐待をしていた両親だ。そして、両親から虐待されていた拓海にとって両親に愛されて育っている翼は憎しみの対象だったのだろう……。
「……俺は親に愛されずまともな食事もしたことも無ければ、誕生日祝いをしてもらったこともない……。でも、翼は昔から親に愛されてぬくぬくと育って、誕生日もお祝いしてもらっていた……。いつだったか、翼が誕生日プレゼントに買ってもらったっていう腕時計をクラスの奴に見せていたことがあった……。なんであいつばかり……って思った。憎かった……。翼が憎くて憎くてその幸せを壊してやりたかった……。だから、あの後で翼が生きていることが分かって今度こそ殺してやろうと思って声を掛けたら俺の事を忘れていた……。その時に思い付いたんだ……。記憶を失っているならそれを利用して地獄に叩き落としてやろうって……」
拓海が淡々と語る。その表情はどこか諦めたのか、観念したのか、もう隠す必要が無いと思ったのだろう……。拓海はそんな表情をしていた。
「……それで、詐欺グループに引き入れたのね……」
「あぁ………」
冴子の言葉に拓海が素直に返事をする。
「その詐欺グループはあなたが作ったの?」
「作ったのは俺と宮部だ……。『一緒にやらないか?』と宮部に誘われた……」
「その宮部とはどこで知り合ったの?」
「呑み屋だよ……」
「呑み屋?」
拓海の言葉に冴子が聞き返す。
「あぁ……。よくその呑み屋で顔を合わせたことがあったんだ。何度か顔を合わす内に話すようになって、俺の半分趣味でやってるロック解除ゲームの事を話したら、宮部が『じゃあ、逆にロックを何重にも掛けることが出来るのか?』って聞いてきたから『出来るよ』って言ったんだ。そしたら、ある日、宮部が『金儲けしないか?』って誘ってきたんだよ……」
拓海がそう語る。
「もしかして……」
奏が話を聞いていて何かを感じたのか、そう口を開いた。
「……翼を橋の上から突き落としたんだ……」
「……え?」
拓海の言葉に奏が小さく声を上げる。
「それは一年くらい前の事かしら……?」
翼が記憶喪失になった時期がそれくらいなので冴子がそう話を切り出す。
「あぁ……、そうだよ……」
拓海が素直に認める。
「翼君はあなたに何を言ったの?」
冴子がそう問う。
「あの日――――」
拓海がそう言って、その時のことを語りだした。
「はぁ……、もっと手っ取り早く稼げる方法って無いもんかな……」
拓海が夜の街をぶらつきながら小さく言葉を吐き出す。
「あのジジィは失敗したぜ……。娘までは良かったが、まさか死んでたなんてな……」
思い付きで金を毟り取ろうと年配の男に声を掛けたが、いとも簡単にそれは失敗に終わった。
「どうすっかな……」
金を手に入れて、美香の誕生日プレゼントを買ってあげたかったが、日雇いの仕事ではなかなか大金は手に入らない。美香には見栄を張って営業の仕事をしていると言ったが、本当はその日その日を日雇いの仕事で稼いでいるだけだった。
夜の道を歩いて、少し休憩しようと橋に背中を持たれかけながらタバコを取り出し、火を付ける。
その時だった……。
「あれ?あれって……」
前方から歩いてくる青年を見つけて拓海が声を発する。そして、青年が近くまで来た時に声を掛けた。
「よぉ。翼じゃねぇか……」
「た……拓海君……」
前方を歩いていた翼が拓海を見て驚きの声を上げる。
「なんだ?それ?」
拓海が翼の手に持っている箱を見て何かを聞く。
「あ……、これ?ケーキだよ。今日は両親の結婚記念日だからお祝いしようと思って買ってきたんだ」
翼が幸せそうにそう言いながらケーキの箱を大事そうに抱える。拓海がその様子を見て、だんだんと苛つきを覚える。
「……相変わらず、ムカつく奴だな……」
「……え?」
拓海が小さく呟いた言葉に翼は聞き取れなかったのか小さく声を上げる。
「なんで、お前は親に愛されてるんだよ……」
今度は翼にも聞き取れる声で拓海が憎しみ交じりに言葉を吐く。
「えっと……、別に不思議は無いと思うけど……?」
拓海の言葉がよく分からないのか翼が「なんで?」と言うような顔をする。
「お前は親から虐待受けたことは無いんだろうな……」
「ぎゃ……虐待?!」
拓海が憎しみ交じりで吐いた言葉に翼が驚いた声を出す。
「虐待って……それってただの躾じゃないの?親がそんなこと子供にするかな?そりゃあ、躾で殴られたりしたら痛くて辛いのは分かるけど、それは親が子供のことを思ってするもんでしょ?親のことをそんな風に悪く言ったら駄目だよ!」
翼の言葉に拓海が苛立ちを募らせる。
「お前みたいな親に愛されてるやつに俺の気持ちが分かるかよ!!」
拓海がそう言い放って翼からケーキを取り上げる。
――――バシャンっ!!!
そして、そのケーキを海に投げ落とした。
「な……何を?!」
翼が突然の事に声を上げて、海に落ちていったケーキを橋の上から見下ろす。
「ひ……酷いよ!!せっかくお祝いに買ったのに!!」
翼が流されていくケーキを見ながら叫び声をあげる。
「……じゃあ、追いかけろよ……」
――――ドンっ!!!
拓海がそう言って翼の背中を強く押した。
「……あの日は幸い、その橋に人通りは無くて夜だったから誰にも見られていなかったんだ……」
話しが終わり、拓海が深くため息を吐く。
拓海が語った出来事を奏と冴子はじっと聞いていた。ただその状況を見ただけでは拓海だけが悪者に見えるが、本当の『悪』は虐待をしていた両親だ。そして、両親から虐待されていた拓海にとって両親に愛されて育っている翼は憎しみの対象だったのだろう……。
「……俺は親に愛されずまともな食事もしたことも無ければ、誕生日祝いをしてもらったこともない……。でも、翼は昔から親に愛されてぬくぬくと育って、誕生日もお祝いしてもらっていた……。いつだったか、翼が誕生日プレゼントに買ってもらったっていう腕時計をクラスの奴に見せていたことがあった……。なんであいつばかり……って思った。憎かった……。翼が憎くて憎くてその幸せを壊してやりたかった……。だから、あの後で翼が生きていることが分かって今度こそ殺してやろうと思って声を掛けたら俺の事を忘れていた……。その時に思い付いたんだ……。記憶を失っているならそれを利用して地獄に叩き落としてやろうって……」
拓海が淡々と語る。その表情はどこか諦めたのか、観念したのか、もう隠す必要が無いと思ったのだろう……。拓海はそんな表情をしていた。
「……それで、詐欺グループに引き入れたのね……」
「あぁ………」
冴子の言葉に拓海が素直に返事をする。
「その詐欺グループはあなたが作ったの?」
「作ったのは俺と宮部だ……。『一緒にやらないか?』と宮部に誘われた……」
「その宮部とはどこで知り合ったの?」
「呑み屋だよ……」
「呑み屋?」
拓海の言葉に冴子が聞き返す。
「あぁ……。よくその呑み屋で顔を合わせたことがあったんだ。何度か顔を合わす内に話すようになって、俺の半分趣味でやってるロック解除ゲームの事を話したら、宮部が『じゃあ、逆にロックを何重にも掛けることが出来るのか?』って聞いてきたから『出来るよ』って言ったんだ。そしたら、ある日、宮部が『金儲けしないか?』って誘ってきたんだよ……」
拓海がそう語る。
「もしかして……」
奏が話を聞いていて何かを感じたのか、そう口を開いた。
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