9 / 152
第一章 白い鳥は黒いカラスに誘われる
第5話
しおりを挟む
「拓海さんが君を陥れるために嘘をついている可能性はない?」
「嘘……?」
男の言葉の意味がよく分からなくて翼が聞き返す。
「つまりさ、君が記憶喪失のことを逆手に取って、悪いことをしていたんだと嘘をついてやらせている可能性があるんじゃないかな?」
「……じゃあ、僕は……」
男の言葉に翼が声を震わせる。
「まぁ、絶対とは言えないけど、その可能性もあるんじゃない?なんていうか、君って気が弱い感じだからさ……。それも利用してるかもしれないね……。気が弱い君なら絶対警察には行かないだろうって踏んでいるんじゃないかな?」
男がそう言葉を綴る。
「……とりあえず、君はもう帰りな。ここは俺一人で探すよ。元々は俺が落としたわけだからね」
男がそう言って、翼に「行った行った」というようなジェスチャーをする。翼は男に頭を下げると、その場を離れていった。
「じゃあ、このルートに誰か怪しい人物がいないか調べよう……」
現場に到着した奏たちが紅蓮の言葉でそれぞれのチームに分かれて捜査を開始する。紅蓮たちはルートをたどって捜査することになり、奏たちは被害者が受け子にお金を渡した公園を捜査することになった。
「とりあえず、お互い誰か怪しい人を見かけたら職質な!後、どちらかが職質したら連絡を取り合うこと!じゃあ、始めようぜ!」
紅蓮の合図でそれぞれ捜索に乗り出す。奏と透は公園に入ると、何か探し物をしている人がいないかをチェックしていった。公園に設置されているベンチに座り、怪しい人がいないかを確認していく。
「……おい、奏。あまりきょろきょろするな。犯人に感づかれる」
透の隣で辺りをきょろきょろと見まわしている奏をそう窘める。
「す……すみません……」
奏が慌てて謝る。考えてみれば確かに自分がきょろきょろしていたら誰かを探しているというのは周りから見たら明白だ。捜査なのだから怪しまれないように、気付かれないように捜査をしなければならない。
「そういえば、奏って特殊捜査員になる前は何の仕事をしてたんだ?」
「えっと……その……」
透が急に話題を振ってきたので、どう返答すればいいのか奏が悩む。
「その……時折単発のバイトをしていたんです。ちょっと、やりたいことがあったので……」
「やりたい事?」
奏の話に透が聞き返す。
「はい。私、趣味で物語を書いているんです。なかなか芽が出ないんですけど、なんだか未だに諦め切れなくて……。いい加減、定着した仕事に就かないとなぁとは思っていたんです」
奏が「えへへ」と言う感じでちょっと恥ずかしそうに言葉を綴る。
「……つまり、定着した仕事に就かないといけないと思っていたら、ひょんな出来事で就けたというわけか……」
透が半分呆れたような感じで言葉を綴る。
「……そうですね。まさか自分が警察官になるとは思いませんでしたが……」
警察学校を出ていない奏が警察官と言うのも不思議な話だが、縁と言うのは不思議なものであの事件がなければ奏が特殊捜査員に任命されることも無かっただろう。
「……まぁ、いいんじゃないかな?槙もある事件がきっかけで特殊捜査員になったみたいだし……」
「え?!そうなんですか?!」
透の言葉に奏が驚きの声を上げる。
「その事件の詳しいことは知らないけど、そうみたいだよ?」
「……じゃあ、紅蓮さんも?」
透の言葉に奏がそう感じ言葉を発する。
「いや、俺と紅蓮は特殊警察学校を出ているよ。特殊警察学校とはいえ、通常の警察学校がすることもカリキュラムに含まれている。そこに更に専門的な知識が入る感じかな?」
「そうなんですね……。凄いです……」
奏が透の言葉に感嘆の息を吐く。
そして、透に特殊警察学校だとどういうカリキュラムがあるのか興味津々で聞いてくので透は一つ一つ詳しく説明していた。
「……今のところ、怪しい奴はいないな……」
槙が紅蓮と例のルートを歩きながら怪しい人を探すが特にそう言った人は見かけないからか、そんな言葉を呟く。
「まぁ、まだルートは続くしこれからかもしれないだろ?」
紅蓮が「まだこれからだ」とでも言う感じで言葉を綴る。
「あれ?あの人どうしたのかな?」
槙が殴られたのか頬の部分を腫らしながら空を眺めている一人の男に気付く。
「ちょっと引っ掛かるな……」
紅蓮と槙が隠れながら男の様子を伺う。男はため息を吐くと、フラフラしながらその場を立ち去ろうかどうか悩んでいる様子だ。その男の動きを見て紅蓮が槙に耳打ちする。
「……なぁ、あの男、例の受け子の男に背格好が似てないか?」
「言われてみれば確かに……」
例の映像で受け子の男は背格好だけで顔が全く分からなかった。なので顔の解析のしようがなく、その男が現場に戻る可能性があるのを祈るしかないという感じだった。
「……じゃあ、あの痣はメモリースティックを落としたことで激怒されて殴られた可能性がある痣と言うわけか……」
紅蓮が男の痣を見てそう分析する。
「……どうする?声を掛けるか?」
槙が小声で紅蓮に尋ねる。
「いや……、確証がない。声を掛けたところで違うと言われればそれまでだし、場合によっては主犯格に知られてその主犯格が逃亡する可能性もある……」
「そうなると、捉えられるのは雑魚だけってわけか……」
身を潜めながら男に見つからないように男の様子を伺う。すると、男はため息を吐いてその場を後にしようとしていたので、男に気付かれないように紅蓮と槙が尾行していった。
「……へぇ、じゃあ透さんのお父さんもお爺さんも警察官なんですね!」
透の話に奏が感心したように言葉を綴る。
なぜか奏と透は怪しい人がいないかを探っているはずなのに捜査そっちのけで会話をしているように傍から見ればそう見えるだろう。しかし、視線は目だけを動かして怪しい人がいないかを確認していた。
その時だった。
「……あれ?」
公園に入ってきた人物を見て奏が声を上げた。
「……あの人……」
奏が公園に入ってきた人を遠目でじっと見つめる。
「あの人がどうした?」
奏が見ている方向に透も視線を向けて奏に尋ねる。
「すみません……。ちょっと行ってきます……」
奏がそれだけを言うと、ベンチから駆け出すようにその人の元に駆け寄る。
「あっ!おい……!」
透が止める間もなく、奏がその人物の元に行ってしまったので透は遠目でその様子を伺うことにした。
「あの……、大丈夫ですか?」
「……え?」
その人物が奏に突然声を掛けられて声を出した。
「嘘……?」
男の言葉の意味がよく分からなくて翼が聞き返す。
「つまりさ、君が記憶喪失のことを逆手に取って、悪いことをしていたんだと嘘をついてやらせている可能性があるんじゃないかな?」
「……じゃあ、僕は……」
男の言葉に翼が声を震わせる。
「まぁ、絶対とは言えないけど、その可能性もあるんじゃない?なんていうか、君って気が弱い感じだからさ……。それも利用してるかもしれないね……。気が弱い君なら絶対警察には行かないだろうって踏んでいるんじゃないかな?」
男がそう言葉を綴る。
「……とりあえず、君はもう帰りな。ここは俺一人で探すよ。元々は俺が落としたわけだからね」
男がそう言って、翼に「行った行った」というようなジェスチャーをする。翼は男に頭を下げると、その場を離れていった。
「じゃあ、このルートに誰か怪しい人物がいないか調べよう……」
現場に到着した奏たちが紅蓮の言葉でそれぞれのチームに分かれて捜査を開始する。紅蓮たちはルートをたどって捜査することになり、奏たちは被害者が受け子にお金を渡した公園を捜査することになった。
「とりあえず、お互い誰か怪しい人を見かけたら職質な!後、どちらかが職質したら連絡を取り合うこと!じゃあ、始めようぜ!」
紅蓮の合図でそれぞれ捜索に乗り出す。奏と透は公園に入ると、何か探し物をしている人がいないかをチェックしていった。公園に設置されているベンチに座り、怪しい人がいないかを確認していく。
「……おい、奏。あまりきょろきょろするな。犯人に感づかれる」
透の隣で辺りをきょろきょろと見まわしている奏をそう窘める。
「す……すみません……」
奏が慌てて謝る。考えてみれば確かに自分がきょろきょろしていたら誰かを探しているというのは周りから見たら明白だ。捜査なのだから怪しまれないように、気付かれないように捜査をしなければならない。
「そういえば、奏って特殊捜査員になる前は何の仕事をしてたんだ?」
「えっと……その……」
透が急に話題を振ってきたので、どう返答すればいいのか奏が悩む。
「その……時折単発のバイトをしていたんです。ちょっと、やりたいことがあったので……」
「やりたい事?」
奏の話に透が聞き返す。
「はい。私、趣味で物語を書いているんです。なかなか芽が出ないんですけど、なんだか未だに諦め切れなくて……。いい加減、定着した仕事に就かないとなぁとは思っていたんです」
奏が「えへへ」と言う感じでちょっと恥ずかしそうに言葉を綴る。
「……つまり、定着した仕事に就かないといけないと思っていたら、ひょんな出来事で就けたというわけか……」
透が半分呆れたような感じで言葉を綴る。
「……そうですね。まさか自分が警察官になるとは思いませんでしたが……」
警察学校を出ていない奏が警察官と言うのも不思議な話だが、縁と言うのは不思議なものであの事件がなければ奏が特殊捜査員に任命されることも無かっただろう。
「……まぁ、いいんじゃないかな?槙もある事件がきっかけで特殊捜査員になったみたいだし……」
「え?!そうなんですか?!」
透の言葉に奏が驚きの声を上げる。
「その事件の詳しいことは知らないけど、そうみたいだよ?」
「……じゃあ、紅蓮さんも?」
透の言葉に奏がそう感じ言葉を発する。
「いや、俺と紅蓮は特殊警察学校を出ているよ。特殊警察学校とはいえ、通常の警察学校がすることもカリキュラムに含まれている。そこに更に専門的な知識が入る感じかな?」
「そうなんですね……。凄いです……」
奏が透の言葉に感嘆の息を吐く。
そして、透に特殊警察学校だとどういうカリキュラムがあるのか興味津々で聞いてくので透は一つ一つ詳しく説明していた。
「……今のところ、怪しい奴はいないな……」
槙が紅蓮と例のルートを歩きながら怪しい人を探すが特にそう言った人は見かけないからか、そんな言葉を呟く。
「まぁ、まだルートは続くしこれからかもしれないだろ?」
紅蓮が「まだこれからだ」とでも言う感じで言葉を綴る。
「あれ?あの人どうしたのかな?」
槙が殴られたのか頬の部分を腫らしながら空を眺めている一人の男に気付く。
「ちょっと引っ掛かるな……」
紅蓮と槙が隠れながら男の様子を伺う。男はため息を吐くと、フラフラしながらその場を立ち去ろうかどうか悩んでいる様子だ。その男の動きを見て紅蓮が槙に耳打ちする。
「……なぁ、あの男、例の受け子の男に背格好が似てないか?」
「言われてみれば確かに……」
例の映像で受け子の男は背格好だけで顔が全く分からなかった。なので顔の解析のしようがなく、その男が現場に戻る可能性があるのを祈るしかないという感じだった。
「……じゃあ、あの痣はメモリースティックを落としたことで激怒されて殴られた可能性がある痣と言うわけか……」
紅蓮が男の痣を見てそう分析する。
「……どうする?声を掛けるか?」
槙が小声で紅蓮に尋ねる。
「いや……、確証がない。声を掛けたところで違うと言われればそれまでだし、場合によっては主犯格に知られてその主犯格が逃亡する可能性もある……」
「そうなると、捉えられるのは雑魚だけってわけか……」
身を潜めながら男に見つからないように男の様子を伺う。すると、男はため息を吐いてその場を後にしようとしていたので、男に気付かれないように紅蓮と槙が尾行していった。
「……へぇ、じゃあ透さんのお父さんもお爺さんも警察官なんですね!」
透の話に奏が感心したように言葉を綴る。
なぜか奏と透は怪しい人がいないかを探っているはずなのに捜査そっちのけで会話をしているように傍から見ればそう見えるだろう。しかし、視線は目だけを動かして怪しい人がいないかを確認していた。
その時だった。
「……あれ?」
公園に入ってきた人物を見て奏が声を上げた。
「……あの人……」
奏が公園に入ってきた人を遠目でじっと見つめる。
「あの人がどうした?」
奏が見ている方向に透も視線を向けて奏に尋ねる。
「すみません……。ちょっと行ってきます……」
奏がそれだけを言うと、ベンチから駆け出すようにその人の元に駆け寄る。
「あっ!おい……!」
透が止める間もなく、奏がその人物の元に行ってしまったので透は遠目でその様子を伺うことにした。
「あの……、大丈夫ですか?」
「……え?」
その人物が奏に突然声を掛けられて声を出した。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】
めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。
真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。
あなたは何章で気づけますか?ーー
舞台はとある田舎町の中学校。
平和だったはずのクラスは
裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。
容疑者はたった7人のクラスメイト。
いじめを生み出す黒幕は誰なのか?
その目的は……?
「2人で犯人を見つけましょう」
そんな提案を持ちかけて来たのは
よりによって1番怪しい転校生。
黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。
それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。
中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

物言わぬ家
itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。
そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。
「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

消えた弟
ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。
大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。
果たして消えた弟はどこへ行ったのか。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる