ファクト ~真実~

華ノ月

文字の大きさ
上 下
6 / 140
第一章 白い鳥は黒いカラスに誘われる

第2話

しおりを挟む
 奏が店にやって来た客たちに何かを感じたのか、そう声を漏らす。

「今入ってきたやつらがどうかしたのか?」

「いえ……、何でもないです……」

 透の言葉に奏はそう答える。

(なんか、さっきの会話が引っ掛かったんだよね……)

 心でそう呟きながら奏はあまり気にしないでおこうと思い、歓迎パーティーを楽しんでいった。



「はぁ~……。お家だ~……」

 家に帰りついて、奏がベッドに横になる。

「あっ……、そろそろ時間だ……」

 奏が何かを思い出して、鞄からスマートフォンを取り出し、イヤホンを付けてある人からの電話を待つ。


 ――――プルルルル……プルルルル……。


 しばらく待っていると、電話がかかって来て奏が通話のボタンを押す。

広斗ひろとさん!お疲れ様!」

『お疲れ、奏。元気してる?』

 電話の相手は奏の恋人の大宮おおみや 広斗ひろとからだった。広斗は今、海外に行っているが時間が空いたときは事前に連絡して電話をくれる。それが奏の楽しみの一つでもあった。いつものように広斗が海外であった事をいろいろと話してくれる。広斗は今日、行っている国の教育現場にお邪魔させてもらったということだった。その国の子供とも交流をしてきて勉強になったと嬉しそうに話す。

『……で、そこの子供から木の実を貰ってね、一緒に食べたんだよ。なんだか不思議な味だったけど、割と美味しかったよ』

 広斗が現地で交流した子供との出来事を話す。

『奏は今日も無事に一日が終わった感じ?趣味の物書きは進んでる?』

「えっと……」

 広斗の言葉に奏がどう説明するべきか悩む。

「その……実は……」

 奏はそう言って、例の誘拐事件のことを話す。そして、それがきっかけで警察の特殊捜査員に任命されたことを話した。

『……奏が……特殊捜査員?』

「うん……」

 しばらく沈黙が続く。

『……要は警察官ってことだよね?』

「そうなります……」

 再度、沈黙が流れる。

『す……凄いじゃないか!奏が警察官でしかも特殊捜査員だなんて!事件の事は驚いたけど、それがきっかけだなんてね!』

 広斗が興奮状態でそう言葉を綴る。

『それに、奏が趣味で書いている物語にも役に立つんじゃないかな?奏の作品はミステリー系が多いから』

「あ……そっか……そうだよね……」

 奏が広斗にそう言われてそのことに気付く。

 昔からお話を書くのが好きな奏は趣味として物語を今でも書いている。昔は恋愛系の話やちょっとした童話のようなものを書いていたが、今はミステリー系を書くことが増えてきた。昔から奏の両親がサスペンスやミステリー系のドラマが好きだったので奏も自然に観るようになり、いつ頃からかミステリーを書くようになっていった。自分で伏線を考えたりするのは大変だが、それ以上に物語を書くのが好きな奏にとって、それは全く苦になるどころか楽しささえ感じるほどだった。そして、広斗は奏が物語を書いて完成したときの最初の読者でもある。

 その後も電話で今日の歓迎パーティーの事や透が相棒になったことを話していく。そして、時間はあっという間に過ぎ、広斗は明日も朝早くから仕事だからという事で電話が終わった。



「おはようございます!」

 奏が特殊捜査室の扉を開けて元気よく挨拶をする。奏の今日の格好はロングワンピースに薄いニットを着ており、警察官としては程遠い格好のようにも思えるが、格好に関しては門野からスーツだと相手が上手く話せなくなるかもしれないので奏らしい服装で仕事をするようにと言われたのがきっかけで、そういった格好で出勤することになった。勿論、その事は他の捜査員も知っており、誰もその恰好を咎めるものはいない。

「おはよう♪奏ちゃん♪今日の格好も可愛いわね♪」

 冴子が真っ先に挨拶をする。

「おはようございます」

 そこへ、透が特殊捜査室にやってきた。

「おはようございます。透さん」

 奏が笑顔で透に挨拶をする。

「おはよう。あれ?紅蓮は遅刻か?」

「どうせ、昨日飲み過ぎて唸ってるんだろ」

 透の言葉に槙がいつもの口調で淡々と言葉を綴る。

「……はよーございます……」

 紅蓮が特殊捜査室に二日酔いなのか少し青ざめた顔でやってくる。

「あ~……頭イテェ……」

 紅蓮が頭を押さえながら苦々しく言葉を吐く。

「飲み過ぎだ。アホンダラ」

 槙が淡々と毒を盛ったような言葉を吐く。

「う……うるせぇ……青二才が……」

 紅蓮が二日酔いの状態でも負けじと言葉を吐く。

「奏ちゃんは大丈夫かしら?」

 冴子が奏を気遣って声を掛ける。

「あっ!はい!私は大丈夫です!」

 奏が慌てた様子で言葉を綴る。

「そう♪良かったわ♪じゃあ、早速だけど、捜査会議に入るわよ。昨日の今日でちょっと収穫があったの♪」

 冴子がそう言って一つのメモリースティックを見せた。


 メモリースティックに入っている画像を槙がパソコンで操作して壁に備え付けられている大きなスクリーンに映し出す。

「……これは、受け子と思われる犯人がお金を受け取る場面よ」

 映像にはスーツを着た一人の男が年配の老人から茶封筒を受け取るシーンが映っていた。場所はどこかの広場のような場所だ。男は茶封筒を受け取ると、その場を去っていく。

「そして……」

 冴子がそう言うと、槙が別の映像を出した。

 その映像にはスーツの男が黒服にサングラスをかけた男と合流している。

「……この黒服の男もグループの一人だと思われるわ。これは、近くの防犯カメラがとらえた映像よ」

 冴子が説明していく。

「……あれ?」

 奏が何かを感じたのか声を上げる。

「どうしたの?奏ちゃん」

 冴子が不意に声を出した奏に尋ねる。

「いえ……、その黒服の男の雰囲気……どっかで見たような気がするのですが……」

「「「えっ?!」」」

 奏の言葉にみんなが一斉に驚きの声を上げる。

「何処で見たの?!」

 紅蓮が堰を切った感じで奏に問いただすように言葉を発する。

「いえ……、どこかで見たようなというだけで、何処かは分からないのですけど……」

「なんだ……、気がするって言うだけか……」

 奏での言葉に槙が呆れたように淡々と言葉を綴る。

「すみません……」

 槙の言葉に奏が申し訳ない顔で謝る。

「いいのよ、奏ちゃん♪気にしないで♪」

 落ち込んでいる奏にすかさず冴子がフォローを入れる。

「……で、この黒服の男だけど……。槙、よろしくね♪」

 冴子がそう言って槙に微笑みかける。

「……分かりました。やってみます」

 槙はそう言うと、パソコンにサングラスをかけた男の解析を始めた。

 ――――カタカタカタカタ!!

 凄い速さでパソコンのキーボードを打っていく。槙が解析しているのはその男のサングラスを取った素の顔を暴くことだ。

 ――――カタカタカタカタ……カタカタカタカタ……。

 キーボードを打ちながら男の顔を徐々に鮮明にしていく。

 そして、二十分ほど経過した時だった。

「解析完了です」

 槙がそう言って男の素の顔写真をスクリーンに映し出した。

「お見事♪」

 冴子が満面の笑みで言う。

(あれ?やっぱりどこかで……)

 奏がそう心で呟き、何処で見たのかを必死に思い出そうとする。

「流石俺の相棒だな!!」
「お前に相棒呼ばわりされたくない。この酔っ払い」
「ちょっと飲み過ぎただけだよ!」
「じゃあ今度酔っぱらったらどっかの海に沈めてやるよ」
「ひっでー!!」

 紅蓮と槙がそんなことを言い争っている。

(酔っ払い……あっ!!)

 奏が心で何かを思い出す。

「そうだ!あの時の……!!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七 結珂の通う高校で、人が殺された。 もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。 調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。 双子の因縁の物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...