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祈りはペンタスへ捧げよう
しおりを挟むいよいよ梅雨も明け、夏がやって来た
連日続くじりじりとした暑さに体力を奪われる
今日は特に予定はない
一向に片付く気配のない部屋の掃除でもしようか
長い髪を後ろでくくり、動きやすい服に着替える
準備はバッチリだ
よし、やるか!と意気込んでいると声が聞こえた
「やっと片付ける気になったんですかー。」
どうやら一緒に暮らす私の理解者、桐崎葵(きりさき あおい)のようだ
「全く、誰に似たんでしょうかね…手伝いますよ。」
そんな嫌味を言われようが私は彼女が大好きなのである
幼い頃から一緒に過ごし、苦楽を共にしてきた
いつもそばにいて私を励ましてくれた
いなければ落ち着かない、そんな感じなのだ
「だって部屋広すぎるし、物ありすぎるし、大変なの目に見えてるし…まあ、ありがとう。よろしくお願いします。」
そう言って30畳という広い部屋を2人で片付け始めた
どれくらい時間が経ったのだろう
テキパキ動いたおかげで片付けはスムーズに進んだ
「だいぶ片付いたし、少し休憩しよっか。」
「そうですね、飲み物取ってきます。」
クーラーをつけているとは言え動いていれば汗もかく
出て言った水分を補うように葵が持ってきてくれた麦茶をゴクゴクと飲んだ
そう言えば花屋のこと話してみようかな…
葵ならこの感情が何か知ってるかもしれないし。
ふと思い立ち、話を切り出す
私は母のお見舞いに花を持っていくこと、その花屋の男性を見てると胸がドキドキすること、笑顔を見るとあったかい気持ちになること、全てを話した
そうしたらにやにやした顔を向けて驚く言葉が発せられた
「それは〝恋〟じゃないですか?ようやく春がやってきたんですね~」
まさか自分が恋をするなんて考えたこともなかった
ましてやまだ2回しか会ったことのない男性に
混乱する私をよそに葵は続けた
「まさか恋愛の話をされるとは…22歳にしてようやく…成長したんですね」
小馬鹿にされたような物言い
だが今はそんなことをに気にしている場合ではない
「恋って…え?これの気持ちが?だってまだ2回しか会ったことないし。相手のことも全然知らないんだよ?そんなことってあるの?」
「ありますよ!一目惚れじゃないですか?それに会った回数なんて関係ない。会いたいな、もっと笑顔を見たいな、そんな風に思ってるならもうそれは恋です!!」
断言され、考えを巡らせる
確かに次はいつ会えるか楽しみにしてる、あの笑顔を自分にも向けてくれたら…なんて思う
これ、恋なんだ…
自覚した途端にカッと顔が熱くなるのを感じた
今まで経験したことのない好きという感情に戸惑う
あたふたするする私に葵は告げた
「おめでたいことですね~。でも私たちの事…よく考えて行動しなければなりませんよ。本当はこんな事言いたくはないんですけどね。」
わかってる。
彼には言えない〝秘密〟を抱えていることも。
自覚した気持ちを伝えるのは許されないということも。
「大丈夫だよ。ちゃんとわかってるから。」
そう言うと葵は少し寂しそうに微笑んだ
「よし!そろそろ掃除の続きやっちゃおうか!!」
しんみりした空気を壊すと
「そうですね!もう一仕事頑張りましょう!」
と、元気の良い返事が返ってきた
そして私たちは片付けの続きに取り掛かった
この気持ちには蓋をしよう。
でも、もう少しだけ、好きでいさせてください。
庭に咲くペンタスの花にひっそりと気持ちを託した
《祈りはペンタスへ捧げよう》
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