現代エルフのニート事情

Merle

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8. エル子の唐揚げ記念日

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「あ、そか……兄やん、今日はお仕事お休みだったっけー」

 お昼の手前で起き出してきたエル子は、卓袱台の上にも冷蔵庫内にもご飯が用意されていないことに気づいて、今日の兄の予定について思い出していた。
 今日が休日のドワ夫は日が昇る前から家を出て、登山に行ったのだった。基本引き籠もりのエル子と違って、ドワ夫はそのためだったら仕事のときより早起きできるくらいのアウトドア趣味なのだった。
 仕事に行くときなどは、エル子の朝ご飯を簡単にでも用意してから出かけるドワ夫だったが、夜明け前に出立するときまでそうする余裕はなかったようだ。

「お休みの日のほうが早起きって、兄やん、眠くなったりしないのかにゃー……」

 まさか職場で居眠り上等というわけでもなかろうしー、と欠伸混じりに首を傾げるエル子であったが、そのときお腹がきゅるると鳴って、食事の必要性を訴えてきた。

「よーし、ご飯作っかー」

 エル子、タンクトップなのに腕まくりする仕草をすると、台所に向かう――

「でもその前にシャワーしよっと」

 くるっと右向け右して、浴室に向かうのだった。
 料理の前に手を洗うのなら、ついでに全身の汗を洗い流すのもやっちゃおう――という精神だった。


 朝シャワーもとい昼前シャワーでさっぱりしたら、生乾きのしっとり光る金髪をポニテに結って、改めて料理開始である。

「さてー、冷蔵庫には何があるかなー……っていうか、何かあるよねー」

 独り言を口ずさみながら冷蔵庫やらを確認してみると、今日はいつぞやとは違って十分な量の食材が残されていた。

「お肉にお魚、味噌バタージャム牛乳、根菜果菜豆葉野菜……うんうん」

 色々あるね、と満足顔で頷くエル子だが、そこではたと気づいて、箪笥みたいな野菜ストッカーの最下段を開けてみる。そこには、そっと隠すように保管されている数個の球根。内二つには、タンポポと鈴のイラストシールが貼ってある。

「ドライアド……」

 その球根の名前を呟くと、パブロフの犬よろしく涎が込み上げてくる。エル子はずずっと涎を啜り上げながら、目を閉じて、頭を振った。

「いやいや、これは美味しいけれど、これにばっかり頼っちゃいけない。だから、そう――今日はお肉料理に挑戦じゃーっ!」

 ぐっと握り拳を突き上げて吠えるエル子。
 エル子は肉より野菜派だけど、肉料理だって作らなくもないのだ。なぜなら、ドワ夫が野菜より肉派だからだ。
 そのときお腹が再びきゅるると鳴って、「おいおい、それは夕餉の話だろ。いいから今すぐ、なんか食わせよ」と抗議してきた。

「そうだった、そうだったー……あー、もーこれでいっかー」

 魔法用紙にささっと加熱の魔法陣を描くと、その紙で人参一本をくるくるっと包んでテープで留めた。そこに通力すると、用紙の内側からじわじわと熱気が立ち上ってくる。
 いつぞやの即席電子レンジ魔法の、一応の完成型がこれだった。用紙一枚で包める大きさのものにしか使えないという問題点があるものの、これなら安全お手軽だった。
 で、ほっかほかにした人参を濡れタオル越しに掴んで、マヨネーズをどばっと盛って、豪快に齧り付く。これが今日の、じつに素朴で妖精的エルフィッシュなブランチだった。なお、皮ごとばりぼり囓るのはエルフ流というわけではなく、ただ単にエル子が横着なだけだ。

「さてさてー、何を作ろかにゃーっとー……」

 エル子、人参を囓りながら改めて食材を確認。

「あ、冷凍庫を見てなかったー」

 と呟きながら開けた冷蔵庫の中は、ちょっとした密林。食材から保冷剤、冷凍食品、錬金素材から、いつどうして仕舞ったのか記憶にない使途不明かつ来歴不明な物体A~Zまで、亜空間内にぎっしりと押し込められている。

「奥のほうが目視不能やー……」

 これは料理の前に冷凍庫の整理が先かー、と溜め息を吐いたエル子は、冷凍庫の内側、扉を開けてすぐのところに刻まれている魔法陣の内ひとつに通力させる。
 すると、起動した魔法陣に応えて、冷凍庫内の空間がゆっくりと、中華料理のテーブルみたいに回転を始めた。少し待つと、さっきまでの手前と奥が入れ替わるところまで回転したので、そこで魔法陣への通力を切り、回転を止めた。

「この回転機能、しばらく使ってなかったということはー、奥にあるのはいつから仕舞いっぱなしか不明というわけでー……あ、お肉発見……って賞味期限が一週間前……じゃない! 一年と一週間前やーっ!」

 エル子、ちょうど目の前に来た特売シール付きのお肉大パックを引っ張り出すと、記されている日付を確認して笑ってしまった。

「あはは、一年前のお肉って……あはは……あ、こっちのも一年前だ。それにこっちのも……あーははー」

 空間拡張された無駄に広い冷凍庫の奥で忘れられていた食材たちが、次々と引っ張り出されていく。
 一年前の特売お肉、一年前の冷凍食品、一年前のご飯、一年前のハンバーグに一年前の八宝菜に膾、海老チリ、マッシュポテト……。それから一年前の海苔や昆布、乾し椎茸なんていうのもあった。一時期、料理にひどく嵌まっていたドワ夫が残した遺産である。

「あー、そういえばこんな貰い物もあったっけ……食べられるのかにゃ、これ……?」

 このまま冷凍庫に入れっぱなしで問題を先送りにするのも、いつの間にか謎生物に変態したりしたら怖いから、今日中に食べてしまったほうがいい。でも、食べられるのかが問題だった。

「お肉は食べるの、主に兄やんだしー……うーんー……」

 変なものを食べさせてお腹を壊されたら、さすがに申し訳なくなってしまう。

「ふむむーぅ……」

 エル子は台所に並べた冷凍品の数々を見下ろしながら、腕組みをして唸り、悩む。冷凍品から立ち上る冷気が思いの外、肌寒くさせる。この冷凍品の山を引っ張り出している間に、思ったよりも身体が冷えていたようだ。
 もう一回、レンジ魔法で温めたお野菜でも食べようか――と漫ろに思ったところで、エル子はぴこっと閃いた。

「そっか! 魔法でなんか良さげな感じにアレしちゃえばいいんだっ!」

 そう思いついてみれば、むしろなんですぐに思いつかなかったのかというくらい、それは当然思いつくべきことだった。
 冷凍焼けしてパサパサになった食材でも、錬成魔法にかけて分解してしまえば、新鮮な食材とそんなに変わりはなくなる。分解したついでに水分と結合させれば、冷凍焼けの影響はさらになくなるだろう。

「んでもー、それじゃいまいち面白くないからー……」

 エル子は言いながら回れ右して、炬燵の脇に置きっぱなしの素材ボックスから、涙滴型で片手に収まるサイズの石鹸みたいなものを取り出した。この石鹸のようなものは、他の素材の変性を促進させる触媒としてよく利用される「魔石」というやつだ。
 ただしまあ、「魔石」というのは学術上の名称ではなく、触媒に使える鉱物全般を指す俗称だ。なので、一口に魔石と言っても、涙滴型、立方体、針状のものなど色々な形があるし、色も赤色、乳白色、透明などと様々だ。そして、魔石ごとによく反応する素材や、どんな反応を促進、または抑制するかが変わってくる。また、同じ素材に使う場合でも、素材の量や比率によって反応具合が変わる場合もあったりする。そして当然、触媒として使用する魔石の量でも反応具合が変わってくる場合がほとんどだ。
 要するに魔石を触媒にした錬成は、錬成ガチャ待ったなし、なのだ。

「一個じゃ普通だ。二個、いや三個投入じゃー」

 エル子は石鹸みたいな質感の魔石に加えて、透き通った桃色の八角柱石に、なぜか不規則な明滅を繰り返している濁った血の色の球形石も魔法陣に投入。
 この魔石三つを触媒に、冷凍庫から回収した骨董食品の全てをまとめて錬成する。魔法用紙一枚では素材全てを載せるのに狭すぎるから、用紙数枚をテープで貼り合わせて、いつもより九倍大きな錬成陣を描いて使用した。
 通力したときの輝きも、いつもの九倍眩しい。そして反応の激しさも九倍だった。

「あ……」

 しまったー……と、やってしまってから眉を顰めるエル子。
 魔法陣を九倍大きく描いたのに出力調整を弄らなかったものだから、出力も標準の九倍になってしまったのだ。ついでに消費魔力も九倍になっていたはずだけど、うっかり気づいていなかった。

「まー、やっちまったもんはしゃーなしやー。いまさら止めるわけにもいかんしにゃー」

 すでに錬成反応は始まっている。
 いまさら通力を切っても、中途半端に分解された物体Xが残るだけだ。それはそれで気になるけれど、食材を無駄にするのは忍びない。故にエル子は止まらない。というか、九倍反応が速いのなら、九倍速く終わるわけで、途中で止める暇なんて――

「ってー……え、あるぇー? 終わる気配が……ないぃ!?」

 確かに反応の進行速度は九倍くらいになっている様子なのに、なぜか反応が終わらない。よくよく見れば、普通なら反応が終わるところで再度反応が始まるという反応の連鎖が繰り返されているのだ。
 まるで波濤荒れ狂う大時化の海だ。終わらない連鎖反応が、エル子が翳す左手から魔力を際限なく持っていこうとする。急激な魔力減少は失神や、最悪の場合はショック死を招くこともあるから、エル子は尻の穴を締めて、出ていく魔力を絞り込む。
 それと同時に右手では魔筆を握って、魔法陣に被さった半球ドーム形の反応境界面にぶつかっては波打っている魔力を筆先で絡め取るようにして、そこへ直書きで障壁強化の魔術を描き込んでいった。魔力の密度が一定以上の面に対してなら、そういう裏技もあるのだ。
 とはいえ、魔力が均一になるよう塗布された平滑な用紙に描くのと、現在進行形で魔力が流動している仮想の曲面上に描くのとでは、全く別物といってほど難易度が違う。プールで泳ぐのと、嵐の海を泳ぐのとくらいに違う。魔力面への魔法陣直書きは、はっきりとセンスを要求する芸当だった。
 エル子はそんな職人芸を、反対の手で錬成陣と魔力の綱引きをしながら、がりがりとやってのけている。左手で熱線魔法を使いながら右手で解毒魔法を使うようなものだ。

「我ながらちょっとこれ凄くない!? 大魔道士じゃね!? うひょーっ!」

 わざわざ自画自賛してテンションを上げないと気絶しそうな、危険な状況。全力疾走した後みたいな動悸息切れ目眩に襲われ、エル子は気合いを入れ直す。

「っ……あーっ、もーぉーっ! これ、いつまで続くのさぁ……!」

 巨大錬成陣の反応はなお加速を続けている。
 魔法陣という皿の上に被せられた半球形の境界面では、禍々しく濁った赤と黒の波紋が幾重にも弾けては色を混ぜ合わせ、内部の様子を覆い隠す。けれども、境界面を隠すほどの密度で可視化された魔力が、どんどん速さと激しさを増していっているのは見て取れた。
 その絵の具をぶちまけた水溜まりみたいな境界面に筆先を泳がせ、境界面が破裂しないように防御の魔法陣を描き続けながら、エル子は喘ぐ。

「や……っ……これ、マジでちょっと……」

 いよいよ近付いてきた己の限界に、エル子、本気で余裕がない。脂汗たらたらだ。

「ヤバいー、胸の谷間に汗疹が出来ちゃうー……って、一度は言ってみたい、台詞、ベスト……エイ、ト……ッ」

 無理やり冗談めかしてみる声も、息切れが酷いせいで、かえって逼迫していることを再確認させられただけだった。

「ってか、どうして冷凍食品が、こんなヤバすぎ反応すんのさ……あ、魔石のせい?」

 境界面を覆っている魔力の色から言っても、血の色をした球形の魔石が悪さをしているのだろう。あとは、いま考えると不要に巨大化させてしまった錬成陣が、その悪影響を増幅させているのだろう。
 あーもー、どうしてわたしは考えなしかにゃー……と珍しく総括はんせいしていたエル子の身体が不意に軽くなった。

「ひゅわっ!? ……あ、終わった?」

 ずっとエル子の中から魔力を引っ張り出そうとしていた力が消えた。見れば、魔法陣を覆っていた魔力の本流も収まっている。荒ぶる嵐のようだった錬成反応がようやく終わったのだった。


    ●    ●    ●


 夜――。

「ただいま……おっ」

 登山から帰ってきたドワ夫は、玄関先にまで漂ってきている美味そうな匂いに鼻をひくつかせた。

「あ、兄やん、おかえりー。いまちょうど、ご飯できたとこだよー」

 エル子は廊下の向こうから、声だけで兄を出迎える。

「うん」

 ドワ夫は靴を脱ぎながら短く答えて、そちらに向かう。そして、食卓に中央で湯気を立てる大皿を見て、軽く目を瞠った。

「唐揚げ……珍しいな」

 エル子が作るご飯はだいたい、野菜が中心だ。それなのに、今夜の主菜はカラッと揚がった唐揚げの山だ。

「今日は兄やん、お腹べっこべこにして帰ってくると思ったから、冷凍庫の整理も兼ねて、ね」
「冷凍庫の……そうか」

 ドワ夫が頷きながら着席すると、二人分のご飯と味噌汁にサラダを並び終えたエル子は、最後に冷蔵庫から出したワイングラス二つを持ってきて、ドワ夫の向かいに腰を下ろした。

「んじゃ、兄やん。熱々のうちに召し上がれーと言いたいところだけど、その前に……はい、これ飲んでー」

 そう言いながら、エル子は持ってきたワイングラスのうち一方をドワ夫の前に差し出す。グラスには濃厚な桃色の液体が、縁から半分ほどの高さまで満たされている。

「食前酒か」

 ドワ夫はグラスを掲げると、桃色の液体を軽く揺らしてみる。
 ロゼワインというには色が濁っていて、赤い絵の具を溶かした水のようだ。

「んー、まー……食前酒のカクテルだよ」
「そうか」

 エル子は何のカクテルか答えなかったけれど、ドワ夫はそれで納得したらしく、ぐびっと一息にグラスを呷った。

「……うん」

 一口で豪快に飲み干したドワ夫の感想は、その一言だけ。美味いとも不味いとも言わないし、眉を顰めも目尻を下げもしない。

「まー、食前酒というか薬膳酒だし、可もなく不可もなくーってなお味よね」

 エル子は言い訳するように独りごちながら、自分のグラスをくいっと傾ける。ちなみにエル子のグラスに入っているのは透明な液体――普通の白ワインだったりする。

「あ……どうせだし、乾杯すればよかったね。まー、今更かー」

 エル子は苦笑をひとつ挟むと、じゃあ、と前置きをして、

「ささ、唐揚げが冷めないうちに召し上がれー。そしてわたしも、いただきまーす」

 そう言うなり、早速ご飯に箸を付け始めた。

「いただきます」

 ドワ夫もすぐに食べ始めたのだが、早速唐揚げをひとつ口に運んだところで、まてしても目を瞠ることになった。

「……美味いな。すごく……すごく美味い」

 エル子謹製の唐揚げは、語彙が乏しくなってしまう美味さだった。冷凍庫の整理というから、芯まで冷凍焼けしたパサパサで味気ない肉を想像していたのに、そんなドワ夫の思い込みが跡形もなく吹き飛ぶほどの美味さだった。
 香ばしい衣の内側には、弾けるような噛み応えなのに、力を入れると糸の束が解けるように優しく噛み切れる肉。噛んだ瞬間に溢れる肉汁は滴らんばかりで、油と肉汁が渾然一体となって口中に広がる。
 山肉ジビエのように力強い味わい。それなのに、後味はふわりと溶けるように淡泊で、口の中には一抹のしつこさも残さない。旨味の余韻だけが鼻腔へとたなびき、食べた者を陶然とした心持ちにしてくれる。

「ああ……」

 ドワ夫は陶酔の溜め息を零す。だが気がつけば、右手の箸は無意識のうちに次の唐揚げを摘まんで口に運んでいた。
 そして頬張る。

 美味い。
 陶然。
 気がつくと次の唐揚げを口に入れている。
 美味い。

 ――というループが滞ることなく繰り返された結果、大皿に山盛りだった唐揚げはあっという間に、全てドワ夫の胃袋へと収められたのだった。

「兄やん、すんごい食べっぷりだったね。そんなに美味しかったかー」
「ああ、美味かった。こんな肉が残っていたんだな」

 エル子の自画自賛に、ドワ夫は一も二もなく頷いた。でも、エル子は反射的に視線をぱっと逸らして、後ろめたそうな顔になる。

「どうした?」

 わずかに首を傾げるドワ夫。

「うっ……いやぁ……」

 目が泳ぎまくりのエル子。

「……」
「……」

 しばしの無言が続いたけれど、根負けしたのはエル子のほうだ。

「そのお肉、冷凍庫に残っていたというわけではないんだよねー……」

 エル子は、唐揚げに使ったお肉が冷凍庫の残り物を錬成して出来上がったものだと告白した。
 妹の話を黙って聞いていたドワ夫は、いつも通りの静かな口調で問いかけた。

「それで、なんの肉なんだ?」
「……」

 なおも言い淀むエル子だったが、じっと答えを待っているドワ夫の視線に圧されて、とうとう言った。

「……人魚……の、肉」

 そう――謎の超過激反応によって分解と結合と不思議なお茶会を繰り返した冷凍庫の遺産のこりものたちは、身体が魚で頭部だけ毛のない猿っぽい日本人魚になったのだった。成り果せたのだった。
 ちなみ、干物ミイラではなく、鮮魚ぴちぴちだった。
 死体から生命を錬成することは不可能という錬成の常識が崩れた瞬間だったのだけど、エル子は気がつかなかったことにした。生命創造の研究は色々な法律やら条約やらに触れまくるから、なかったことにするのが一番だと判断して証拠隠滅りょうりしたのだった。

 ……という打ち明け話を、ドワ夫はいつもの泰然自若とした顔で聞き終えると、おもむろに口を開いて問いかける。

「人魚の肉というのは、無限に増えると聞いたことがあるのだが?」
「うん、それ」

 エル子、その質問を待ってましたとばかりに兄を指差す。

「その可能性があったから、ちゃんと対策も取ってあるのですっ」
「ほう?」
「ずばり、食前酒だよ。あれ、人魚の生き血を魔法でアレしてから焼酎で割ったものだったんだよね」
「……血を飲むと、肉が増えなくなるのか?」
「なるなる。古事記に書いてたあったし」
「そうか。古事記なら間違いないな」
「んっ、間違いないっ」

 ……その後も、べつにドワ夫がお腹を壊すとか、ドワ夫のお腹を食い破って人魚が飛び出してくるとか、そういうことは特になかった。
 持っててよかった新約古事記家庭の医学
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