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その5 仲直りの日の唐揚げ弁当
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夕飯の後、一緒にテレビを観ていたら、秋くんがいつもよりもさらに静かなことに気がついた。横目で窺ってみると、テレビも忘れて、なにやら神妙な顔になっていた。
「……人間関係?」
「えっ?」
わたしの言葉に驚いた秋くんが、びくっと肩を震わせる。こっちを向いた顔には、いきなり妙なことを言ったわたしへの不審でも困惑でもなく、「わたしは図星を突かれました」という文字が描かれていた。
「ふふんっ、わたしだって秋くんの顔色を読むくらい、できるんだよ」
「ひとの悩みなんて、仕事、勉強、お金、人間関係……だいたいこのへんに集約されますよね」
「そうそう。それに仕事の悩みも、職場の人間関係が問題ということが多いから、人間関係でお悩みですね、って言っておけば五割で当たるんだよね……って、違う! わたし、当てずっぽうで言ったわけじゃないのに!」
「ノリツッコミ、お疲れさまです。でも、当てずっぽうじゃないというと?」
「だって秋くん、勉強で悩まないでしょ。進路では悩みそうだけど、それなら素直に相談しにきてくれると思ったから、じゃあお金か人間関係かな、って」
「消去法からの二択でしたか……思ったよりも論理的でびっくりです。もっと、なんとなくで言ったのかと思ってました。ごめんなさい」
「あ、うん。じつは、なんとなく言っただけなの。いまいった理由は、いま適当にそれっぽく言ってみただけでした。あははー」
「……桜さんって、すごく……桜さんですよね」
「うん? 秋くん、どういう意味かな?」
「素敵な女性ですね、という意味です」
「……面と向かってそういうこと言えちゃうの、秋くんは秋くんだなって思います」
「褒め言葉、ありがとうございます」
頬が熱いと感じているわたしと違って、秋くんは余裕の笑顔だ。
この話題を続けても負け込むばかりになりそうだから、話を戻すことにした。
「それで、秋くんはどんな人間関係でお悩みだったの? 友達と喧嘩した? それとも、女の子から告白された?」
「えっ」
「えっ」
秋くんが「えっ」と驚いた。その反応に、わたしも「えっ」だった。
「秋くん……こ、こっ、こく、こくっ――」
「……告白されただけです。その場で断りました、もちろん」
「あ……うん、そか、うん……うん? 断ったのなら、何が問題……あっ、その子に付きまとわれているとか!?」
すわストーカー案件かっ、と身構えたけれど、違うようだった。
「いえ、その子は告白を断ってから近づいてこないので、いいんです」
「いいんだ……」
「問題は、なぜか僕の友達が怒ったことなんです」
「友達?」
ここで初登場した第三の人物に首を傾げると、秋くんは説明してくれた。
「ええ……そいつがなぜか、どうしてあの子の告白を断ったんだ、いい子なんだか付き合ってやれよ、と少し鬱陶しくなるくらい騒ぐんです。そのせいで喧嘩したみたいになってしまって……」
「はぁ、なるほど……なんか青春だねぇ」
「……他人事みたいに言いますね」
「そういうわけじゃないけど、なんだか眩しくて」
「そういう台詞、おばさんっぽいですよ」
「おば――ッ!?」
冗談だと分かっていて、胸に来る言葉だ。
……でも、秋くんがこんなデリカシーのないことを言うのは、本気で悩んでるからなのだろう。だとすると、デリカシーに欠けていたのは、わたしの答え方のほうだ。
「秋くん、ごめんなさい。秋くんに、おば――その四文字を言われるのはすごく堪えるから、わたしも茶化さないでちゃんと考えるね」
「え……ありがとうございます。僕こそ、女性に言うべきじゃないこと言いました。ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。っていうか、この話題は終わり! はい、秋くんの友達と仲直りする方法を真面目に考えよう!」
「じゃあ、僕はお茶を淹れてきますね」
わたしが点けっぱなしだったテレビを消すと、秋くんも椅子から立って、台所へと向かっていった。
少しして秋くんが戻ってくると、二人で緑茶を啜りながら悩み相談の続きだ。
「で……色々考える前に、これをちゃんと聞いていなかったんだけど……」
「はい」
わたしが切り出すと、秋くんは食卓の上に軽く身を乗り出して、態度で続きを促してくる。
「秋くんと喧嘩みたいになってる友達って……男子? 女子?」
「……男子ですよ?」
そう答えた秋くんの顔には、そこを気にされるとは思ってませんでした、と描いてあった。そんな顔をされたら、つい早口で言い訳してしまう。
「だってさ、あたしの友達と付き合わないなんてマジありえないっ、みたいなことを言いそうなのって男子より女子じゃない? だから、喧嘩している相手って女友達なのかなぁ、と思ったの!」
「あぁ……言われてみると、あいつの反応、女子っぽいですね。普段はそういうやつじゃないのに、今回にかぎってどうして、あの子と付き合えってしつこいんだろう……?」
秋くんは、言われて納得、という顔をした後、不思議そうに眉根を寄せる。
正直、そこはだいたい予想がつく。
その友達くんは、秋くんに告白してきた子が好きなのだ。でもって、事前にその子から「あたしと秋くんの仲を取り持って。こんなこと、きみにしか頼めないの。えっ、協力してくれるの!? 嬉しい! あたし、もし秋くんと出会わなかったら、きみと付き合っていたかも。えへっ♪」なんてことを言われていたのかもしれない。
そういうわけで、「俺があの子にしてやれることは、あの子の恋を実らせてやることだけだ。……じゃないと、俺が惨めすぎるだろ!」というふうに拗らせてしまったのだろう。
……いやまあ、全部いま適当に想像しただけの当てずっぽうだけど。
だって、しょうがないじゃない。わたし、秋くんの学校での友達と有ったことがないもん。これからもきっと会うことないもん。会ったら、秋くんが面倒なことになるの分かるもん。
……っと、危ない。思考が年上女の暗黒面に落ちるところだった。いまは秋くんの仲直り大作戦だ。
「その友達が男子なら、この手でいこう」
「桜さん、良い方法を思いついたんですか!?」
「もちろん! 年頃の男の子をデレさせるなんて、造作もないわよ。うふふっ」
「……」
「あっ、なにその仏像みたいな笑い方」
「桜さんは可愛いですね」
「この文脈で言われるのはちょっとムカつくー」
薄目で頬笑む秋くんを睨み返してやったら、ますます母性が滲み出るような笑顔をされた。
ふふっ……まあいいよ、秋くん。明日の夜には尊敬の目でしかわたしを見られなくなっているんだから、せいぜい今のうちに上から目線しているといいさ。ふふふっ……はははっ!
●
「どうだった? 仲直りできたでしょ!?」
翌日の晩、わたしは帰宅するなり秋くんに首尾を問い質した。
秋くんがどんな顔をするのか見ながら聞きたかったので、敢えてスマホで教えてもらっていなかったのだ。
「……できました」
秋くん、ちょっと呆れ顔だ。でも、そういう顔もまたそそる。
「ん? 何ができたって?」
「……仲直りできました」
「そっかそっか、良かったね。やっぱり男の子をこますには唐揚げよね!」
「こます……その言い方はどうかと思いますけど、まあ、結果としてそうなりましたし、素直に言います。ありがとうございました」
「微妙に素直じゃない言い方、新鮮。あははっ」
秋くんの珍しく子供っぽい表情が楽しくて、ついつい顔がにやけてしまう。
「桜さん、ちょっと笑いすぎですっ」
「んっ……ごめん」
あんまり笑って本当に気分を悪くされたら悲しいので、大きく息を吸って笑いを飲み込んだ。
それから、でもさ、と話を振る。
「わたしから言ったことだけど……その友達、本当に唐揚げで買収されたの?」
わたしが提案した作戦は、お弁当に大型タッパーぎゅうぎゅう詰めの唐揚げを持たせて、秋くんとその友達の二人で食べて仲直りしよう――だった。
こういうのは喧嘩の理由がどうとかではなく、仲直りの切欠を作ってあげれば自然と収まるものだ。そういう、わりと真面目な考えで立案した作戦だったけれど、それで本当に仲直りできちゃう思春期男子のエモさにチルる。
「友達の名誉のために言っておきますけど、あいつ、べつに買収されたわけではないですからね」
秋くん、ちょっぴり眉が上がっている。学校での話をする秋くんは、そうじゃないときよりも表情が子供っぽい――いや、男子っぽい。なんだか、いい。
「そうなの? じゃあ、どんな切欠で仲直りしたの?」
ひょっとして唐揚げは全然関係なくて、わたしは空回りしただけなのかな、と思いかけたけれど、秋くんの少し照れた顔を見て、関係ないことはなかったんだと分かった。
「こういう美味い唐揚げを作ってくれる彼女がいるのなら仕方ないか……って、言われました。あいつ的に、それで納得できたみたいです。だから、唐揚げを作ってくれて助かりました。ありがとう、桜さん」
「う……うん」
照れ顔で、でもまっすぐに目を見て言われるありがとうは、こっちがありがとうだった。
「でも、」
ふいに秋くんが呟き、拗ねたみたいに目を逸らす。
何かな、と思ったら――
「これからは、あんまり他のやつのため料理してほしくないな……なんて……」
――もちろん、わたしは笑顔で頷きました。
● ● ●
■ とろとろ唐揚げ
夜遅くまでやっているスーパーで買ってきた鶏もも肉に調味料を揉み込んで、しばらく寝かせた後にキッチンペーパーで水気を拭う。
そのもも肉に片栗粉を薄くしっかり塗したら、ジッパー付きのビニル袋に入れて、油を注ぐ。
保温鍋にお湯を張って、そこに閉じたビニル袋を沈め、早朝まで放置。
こうして油煮にした肉を、予熱したオーブンで網焼きしてカラッと仕上げる。
油を切って冷ましたら、お弁当箱に。
わたしの数少ない料理レパートリーのひとつ、唐揚げ! 揚げてないけど、唐揚げ!
唐揚げは使う肉の部位、下味の付け方、衣にする粉の配合、火の入れ方なんかで出来上がりがガラッと変わるから面白い。
今回のはどっちかというと唐揚げ風の油煮だけど、冷ましてお弁当にしても柔らか美味しいを目指したら、こうなりました。
あと、朝にやることが保温鍋から取り出してオーブンに放り込むだけなので、個人的には揚げるよりも手間要らず♪
コンフィに使った油は、後で秋くんが山盛りの炒め物を作って、使い切ってました(´▽`)
「……人間関係?」
「えっ?」
わたしの言葉に驚いた秋くんが、びくっと肩を震わせる。こっちを向いた顔には、いきなり妙なことを言ったわたしへの不審でも困惑でもなく、「わたしは図星を突かれました」という文字が描かれていた。
「ふふんっ、わたしだって秋くんの顔色を読むくらい、できるんだよ」
「ひとの悩みなんて、仕事、勉強、お金、人間関係……だいたいこのへんに集約されますよね」
「そうそう。それに仕事の悩みも、職場の人間関係が問題ということが多いから、人間関係でお悩みですね、って言っておけば五割で当たるんだよね……って、違う! わたし、当てずっぽうで言ったわけじゃないのに!」
「ノリツッコミ、お疲れさまです。でも、当てずっぽうじゃないというと?」
「だって秋くん、勉強で悩まないでしょ。進路では悩みそうだけど、それなら素直に相談しにきてくれると思ったから、じゃあお金か人間関係かな、って」
「消去法からの二択でしたか……思ったよりも論理的でびっくりです。もっと、なんとなくで言ったのかと思ってました。ごめんなさい」
「あ、うん。じつは、なんとなく言っただけなの。いまいった理由は、いま適当にそれっぽく言ってみただけでした。あははー」
「……桜さんって、すごく……桜さんですよね」
「うん? 秋くん、どういう意味かな?」
「素敵な女性ですね、という意味です」
「……面と向かってそういうこと言えちゃうの、秋くんは秋くんだなって思います」
「褒め言葉、ありがとうございます」
頬が熱いと感じているわたしと違って、秋くんは余裕の笑顔だ。
この話題を続けても負け込むばかりになりそうだから、話を戻すことにした。
「それで、秋くんはどんな人間関係でお悩みだったの? 友達と喧嘩した? それとも、女の子から告白された?」
「えっ」
「えっ」
秋くんが「えっ」と驚いた。その反応に、わたしも「えっ」だった。
「秋くん……こ、こっ、こく、こくっ――」
「……告白されただけです。その場で断りました、もちろん」
「あ……うん、そか、うん……うん? 断ったのなら、何が問題……あっ、その子に付きまとわれているとか!?」
すわストーカー案件かっ、と身構えたけれど、違うようだった。
「いえ、その子は告白を断ってから近づいてこないので、いいんです」
「いいんだ……」
「問題は、なぜか僕の友達が怒ったことなんです」
「友達?」
ここで初登場した第三の人物に首を傾げると、秋くんは説明してくれた。
「ええ……そいつがなぜか、どうしてあの子の告白を断ったんだ、いい子なんだか付き合ってやれよ、と少し鬱陶しくなるくらい騒ぐんです。そのせいで喧嘩したみたいになってしまって……」
「はぁ、なるほど……なんか青春だねぇ」
「……他人事みたいに言いますね」
「そういうわけじゃないけど、なんだか眩しくて」
「そういう台詞、おばさんっぽいですよ」
「おば――ッ!?」
冗談だと分かっていて、胸に来る言葉だ。
……でも、秋くんがこんなデリカシーのないことを言うのは、本気で悩んでるからなのだろう。だとすると、デリカシーに欠けていたのは、わたしの答え方のほうだ。
「秋くん、ごめんなさい。秋くんに、おば――その四文字を言われるのはすごく堪えるから、わたしも茶化さないでちゃんと考えるね」
「え……ありがとうございます。僕こそ、女性に言うべきじゃないこと言いました。ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。っていうか、この話題は終わり! はい、秋くんの友達と仲直りする方法を真面目に考えよう!」
「じゃあ、僕はお茶を淹れてきますね」
わたしが点けっぱなしだったテレビを消すと、秋くんも椅子から立って、台所へと向かっていった。
少しして秋くんが戻ってくると、二人で緑茶を啜りながら悩み相談の続きだ。
「で……色々考える前に、これをちゃんと聞いていなかったんだけど……」
「はい」
わたしが切り出すと、秋くんは食卓の上に軽く身を乗り出して、態度で続きを促してくる。
「秋くんと喧嘩みたいになってる友達って……男子? 女子?」
「……男子ですよ?」
そう答えた秋くんの顔には、そこを気にされるとは思ってませんでした、と描いてあった。そんな顔をされたら、つい早口で言い訳してしまう。
「だってさ、あたしの友達と付き合わないなんてマジありえないっ、みたいなことを言いそうなのって男子より女子じゃない? だから、喧嘩している相手って女友達なのかなぁ、と思ったの!」
「あぁ……言われてみると、あいつの反応、女子っぽいですね。普段はそういうやつじゃないのに、今回にかぎってどうして、あの子と付き合えってしつこいんだろう……?」
秋くんは、言われて納得、という顔をした後、不思議そうに眉根を寄せる。
正直、そこはだいたい予想がつく。
その友達くんは、秋くんに告白してきた子が好きなのだ。でもって、事前にその子から「あたしと秋くんの仲を取り持って。こんなこと、きみにしか頼めないの。えっ、協力してくれるの!? 嬉しい! あたし、もし秋くんと出会わなかったら、きみと付き合っていたかも。えへっ♪」なんてことを言われていたのかもしれない。
そういうわけで、「俺があの子にしてやれることは、あの子の恋を実らせてやることだけだ。……じゃないと、俺が惨めすぎるだろ!」というふうに拗らせてしまったのだろう。
……いやまあ、全部いま適当に想像しただけの当てずっぽうだけど。
だって、しょうがないじゃない。わたし、秋くんの学校での友達と有ったことがないもん。これからもきっと会うことないもん。会ったら、秋くんが面倒なことになるの分かるもん。
……っと、危ない。思考が年上女の暗黒面に落ちるところだった。いまは秋くんの仲直り大作戦だ。
「その友達が男子なら、この手でいこう」
「桜さん、良い方法を思いついたんですか!?」
「もちろん! 年頃の男の子をデレさせるなんて、造作もないわよ。うふふっ」
「……」
「あっ、なにその仏像みたいな笑い方」
「桜さんは可愛いですね」
「この文脈で言われるのはちょっとムカつくー」
薄目で頬笑む秋くんを睨み返してやったら、ますます母性が滲み出るような笑顔をされた。
ふふっ……まあいいよ、秋くん。明日の夜には尊敬の目でしかわたしを見られなくなっているんだから、せいぜい今のうちに上から目線しているといいさ。ふふふっ……はははっ!
●
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翌日の晩、わたしは帰宅するなり秋くんに首尾を問い質した。
秋くんがどんな顔をするのか見ながら聞きたかったので、敢えてスマホで教えてもらっていなかったのだ。
「……できました」
秋くん、ちょっと呆れ顔だ。でも、そういう顔もまたそそる。
「ん? 何ができたって?」
「……仲直りできました」
「そっかそっか、良かったね。やっぱり男の子をこますには唐揚げよね!」
「こます……その言い方はどうかと思いますけど、まあ、結果としてそうなりましたし、素直に言います。ありがとうございました」
「微妙に素直じゃない言い方、新鮮。あははっ」
秋くんの珍しく子供っぽい表情が楽しくて、ついつい顔がにやけてしまう。
「桜さん、ちょっと笑いすぎですっ」
「んっ……ごめん」
あんまり笑って本当に気分を悪くされたら悲しいので、大きく息を吸って笑いを飲み込んだ。
それから、でもさ、と話を振る。
「わたしから言ったことだけど……その友達、本当に唐揚げで買収されたの?」
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こういうのは喧嘩の理由がどうとかではなく、仲直りの切欠を作ってあげれば自然と収まるものだ。そういう、わりと真面目な考えで立案した作戦だったけれど、それで本当に仲直りできちゃう思春期男子のエモさにチルる。
「友達の名誉のために言っておきますけど、あいつ、べつに買収されたわけではないですからね」
秋くん、ちょっぴり眉が上がっている。学校での話をする秋くんは、そうじゃないときよりも表情が子供っぽい――いや、男子っぽい。なんだか、いい。
「そうなの? じゃあ、どんな切欠で仲直りしたの?」
ひょっとして唐揚げは全然関係なくて、わたしは空回りしただけなのかな、と思いかけたけれど、秋くんの少し照れた顔を見て、関係ないことはなかったんだと分かった。
「こういう美味い唐揚げを作ってくれる彼女がいるのなら仕方ないか……って、言われました。あいつ的に、それで納得できたみたいです。だから、唐揚げを作ってくれて助かりました。ありがとう、桜さん」
「う……うん」
照れ顔で、でもまっすぐに目を見て言われるありがとうは、こっちがありがとうだった。
「でも、」
ふいに秋くんが呟き、拗ねたみたいに目を逸らす。
何かな、と思ったら――
「これからは、あんまり他のやつのため料理してほしくないな……なんて……」
――もちろん、わたしは笑顔で頷きました。
● ● ●
■ とろとろ唐揚げ
夜遅くまでやっているスーパーで買ってきた鶏もも肉に調味料を揉み込んで、しばらく寝かせた後にキッチンペーパーで水気を拭う。
そのもも肉に片栗粉を薄くしっかり塗したら、ジッパー付きのビニル袋に入れて、油を注ぐ。
保温鍋にお湯を張って、そこに閉じたビニル袋を沈め、早朝まで放置。
こうして油煮にした肉を、予熱したオーブンで網焼きしてカラッと仕上げる。
油を切って冷ましたら、お弁当箱に。
わたしの数少ない料理レパートリーのひとつ、唐揚げ! 揚げてないけど、唐揚げ!
唐揚げは使う肉の部位、下味の付け方、衣にする粉の配合、火の入れ方なんかで出来上がりがガラッと変わるから面白い。
今回のはどっちかというと唐揚げ風の油煮だけど、冷ましてお弁当にしても柔らか美味しいを目指したら、こうなりました。
あと、朝にやることが保温鍋から取り出してオーブンに放り込むだけなので、個人的には揚げるよりも手間要らず♪
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