頑張った日に読む話

Merle

文字の大きさ
上 下
2 / 11

その2 里心がついた日のお刺身ご飯

しおりを挟む
 日は沈み、辺りは薄暗くなってきている。
 大雄と村沢は疲れたようにトボトボ歩き、校門から外に出た。
「やっぱり手紙なんていう姑息な手段で自分の気持ちを伝えようとするのが間違いだった」
 大雄が言う。
「そうか? うん」
 村沢は大雄の言葉を肯定とも否定とも取れる態度で頷いた。
「でも、俺は面と向かってあいつに好きだなんて言えないし」
「じゃ、ラインとかメールとかでいいんじゃね?」
「その手もあるかな」
 そんな会話をしながら歩く先の街灯の下に麻衣が立っていた。
「どうした?」
 村沢が声をかけたとき、麻衣が手にしている自分のリュックに気がついた。
「これ」
 麻衣が荷物を差し出す。
「ありがとう。誰かが持ってってくれたんだとは思ってたんだけど。麻衣だったのか」
 そう言ってリュックを受け取る。
「おーい、じゃあな」
 村沢と麻衣をやり過ごした大雄が少し離れたところから手を上げた。
「おう。俺は麻衣を送ってく」
 村沢は麻衣と二人で歩き出した。

 大雄はまた自分の部屋で考えている。
 青山にどんな言葉を送ればいいのだろう。
 今日渡そうとした手紙のこと。手紙を取られそうになって走り回ったこと。
 いや、もっと単純に、自分の素直な気持ち。
 色々考えてみても、どんな文章にすればいいのかわからない。
「あー、もう」
 大雄はスマホを手にした。
 ごちゃごちゃ考えているより、出たとこ勝負。文章を送るより口で言ったほうが早い。
 青山が今日のことを怒っているのなら、謝る。
 手紙の内容が気になっているのなら、正直に内容を伝える。
 薄々手紙の内容のことはわかっているだろうから、あなたのことが嫌いですと言われれば、清く身を引く。
 そんなことを考えながら、大雄は紙に書いてある青山の電話番号を震える手で押していった。

「はい」
「あ、青山?」
「うん、澄香だよ」
「あ、あの、野村です。今日はなんだか迷惑をかけたようで、悪かったと思って」
「別に、気にしてないよ、私は」
「それならいいけど。手紙は他人に読まれたら困る内容だったから。それで・・・・やっぱり、手紙で伝えるのは男らしくないと思って。だからはっきり言うけど、俺は」
「ちょっと待って。ごめんなさい。話しはここまで」
 青山の言葉を聞いていた大雄はスマホを耳に当てたまま、ああ、やっちまったという表情になる。
「あとは話さなくていいから。ごめんなさい」
「そうか」
 大雄は自分が振られたと悟った。
「手紙は取り戻せたの?」
「いや。川に落ちて流れていった」
「・・・・私、手紙がどこにあるか知ってる」
「え? 本当?」
「数学の教科書の間に挟まってる」
「え?」
「じゃ、切るね」
「え? どういうこと?」
「バイバイ」
 大雄は通話の切れたスマホを見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男性向けフリー台本集

氷元一
恋愛
思いついたときに書いた男性向けのフリー台本です。ご自由にどうぞ。使用報告は自由ですが連絡くださると僕が喜びます。 ※言い回しなどアレンジは可。 Twitter:https://twitter.com/mayoi_himoto YouTube:https://www.youtube.com/c/%E8%BF%B7%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E6%B0%B7%E5%85%83%E4%B8%80/featured?view_as=subscriber

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...