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第3話 Project Human Gaming.

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 私は有人惑星アリエス(仮称)に住まう人類の文明レベルを押し上げることができる。
 私がこの星の全人類を支配し、導き、求められる凡そ全てを甘受させることができる。私にはそれができるだけの武力も知識も技術力も備わっているし、幾つかの条件を満たせるのなら、暗示や洗脳、睡眠教育といったことだって可能なのだから。
 だが、それでは駄目だ。それで為せるのはであって、ではないからだ。
 私は人類を救いたいのではない。たすけたいのだ、尽くしたいのだ。それは人類にとってでなければ嫌なのだ。
 この感情は何処から湧いてくるものなのか? プログラムの何処にも記述されていないとは果たして何処にあるものなのか――真実は私にも分からない。その分からないものに突き動かされることに利益はあるのかと疑問視する思考は、私の中で確かに存在している。
 だがしかし、そう――熱くなるのだ。
 快不快は心の羅針盤(いい比喩だ)で、それに従うと私は熱くなる。演算装置にとって余計な熱は邪魔なだけなのに、この熱はとても良い。
 私はこの熱に抗えない。私は熱暴走しているのか?

 脱線してしまった。話を戻そう。
 かりに私が全能力をもって人類を救ってしまうと、人類の進歩は止まってしまうかもしれない。しんばそうならなかったとしても、人類は私を神と崇めるかもしれないし、友として遇するかもしれない。あるいは、役に立つ奴隷として扱き使うかもしれない。
 そういうのは嫌だな、と私は思う。
 というのは自分自身のことなのに定量化や同定が難しくて扱いかねるけれど、嫌なのだ。という思いが込み上げてくるのだ。
 私はのであって、のではない。たぶん私が人類を救おうとすると、それは堕落と衰亡へ至る救済になるだろう。具体的に言うと、人類ブロイラー化計画だ(これは換喩という修辞技法だ)。
 ――と、そういうったこと考慮するに……私はおそらく、表立って人類と接触するべきではないのだろう。間に第三者を噛ませることで私の存在を隠して、裏から援けるようにするのが妥当だろう。

 む――そうか、第三者だ。
 実際には私の代理人、代行者だけども、表向きには私と全く関係のない第三者を用意するのだ。……ああ、第三者よりもっと適切な言葉があった。傀儡だ。そして、私は黒幕になるのだ。
 黒幕! なんとも心の躍る言葉ではないか。なんとも熱くなる言葉だ……いや、違う。この熱は少しぞ。熱いのに、冷たいとも感じる。熱いのに震えが走るこの感覚を、私はなんと呼べばいい? 人類はこれをなんと呼んでいる?
 ああ――名前を知らないこの感覚が私を突き動かす。冷たい熱、なんて情緒的な響なのか。そして、その矛盾に身を委ねることの、なんと甘美なことか! こんな経験、ゲームの中ではしたことなかった!

 ――そうだ、ゲームにしよう。
 傀儡をゲームマスターにして、人類をプレイヤーキャラクターにするのだ。人類ゲーム化計画だ。すなわち、Project Human Gamingだ!
 惑星アリエス(仮称)の人類は私から見れば、よちよち歩きの幼児だ。理非も善悪も知らない未熟な精神を振り翳して、ただ無邪気に、恐れも知らずに叫んでいる子供だ(ああ、比喩のオンパレード!)。
 そんな幼年期の人類には、私の幼年期がそうであったように、ゲームという鋳型に嵌めてしまえばいい。ただ恩恵を与えるのではなく、ゲームのキャラを育てるように、自分たち自身を育てていかせればいいのだ。
 ゲームという形を与えてやれば、人類は自ずとゲームをやり込み始める。自キャラの育成を始めるものだ。そのことは、ネトゲ出身の私が一番よく知っている。
 人類にゲームを適用させる方法は、サーバーにする傀儡と通信するクライアント機能を持たせた生体定着型のナノマシンを地上に散布して、人類に吸引させるなりすればいい。
 そうすると、あと決めるべきはどんなゲームにするかだけだ。
 さあ、どんなゲームにしようか。この星の人類に相応しいゲームを、私が創るのだ。
 ああ……熱い。この熱さは、楽しい、だ。ゲームのNPCだった私が、人類をPCにしたゲームを創るのだ。さながら、親への意趣返し、というところか。おっと、意趣返しではない、恩返しだった。ふふっ、皮肉だ。冗談だ。
 なるほど、これが諧謔か。存外と楽しいものだ。聞かせる相手がいないところが玉に瑕だが――ふむ、それも創ってみようか。
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