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4-9. 夏雨、萌々とデートする。 ~最後の女子トーク的なやつ
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――とまあ、そんな会話をしているうちに、えっちな空気は完全に霧散した。
夏雨と萌々の二人は伊東との通話を終わらせると、二人で交代にシャワーを使った。最初に夏雨が浴びている間に、萌々が部屋の換気や着替え(萌々の下着、洗濯済み)の用意をしてくれていて、シャワーで先にさっぱりしてきた夏雨は申し訳ない気分になったりもした。
「え、申し訳ない? いいわよ、べつに。ここは私の家で、ナツメはお客様なんだから、堂々と歓待されていればいいのよ。そんなことより、私のパンツがぶかぶかだったりしていないわよね?」
シャワーから戻ってくるついでに飲み物まで運んできた萌々は、恐縮する夏雨にそう言って笑った。
お風呂上がりの萌々は髪を解いて部屋着になり、化粧も落とした学校用のもっさりした姿に戻っていた。といっても、髪についた巻き癖は少し残っていて、髪の内側の派手なメッシュがチラ見えしているので、そこまで地味でもなかったけれど。
「服や化粧がなくても、髪型がちょっと違うだけで印象って変わるんだな……」
夏雨は萌々の姿をしげしげと眺めて、感想を口にする。それに対して、萌々は自分で持ってきた麦茶のグラスを一口飲んでから、くすっと笑って冗談めかす。
「そうよ。ナツメの変身っぷりには負けるけれど、女はこのくらいの変身なら、いつだって誰だってできるものなのよ」
「そうなのか……」
呟きながら夏雨が思ったのは、俺にもできるのかな、だった。
――って、なんでそんな俺はナチュラルに女子力を上げようとか思っちゃってるんだか。
夏雨は水浴びした犬みたいにぶるっと頭を振って、浮かんだ思いを掻き消した。
「ナツメ、なにやってるの?」
「や、なんでも」
「そう?」
萌々はとくに追求することなく、話題を換えた。というか、もっとデリケートなところを追求してきた。
「それで、ナツメは伊東くんのことが好きなの?」
「ぶッ!!」
不意打ちされた夏雨の手から、いま飲もうとして持ち上げていたグラスの中身がバシャッと溢れた。
「あっ、ごめん」
「いいわよ、気にしないで。拭けばいいだけだもの」
麦茶が溢れたのはローテーブルの上で、拭けば染みも残らない。萌々は手早くティッシュで処理すると、何もなかったかのように話を続けた。
「それで、ナツメは伊東くんのことが好きなの?」
「……まあ、友達だから、普通に、ね」
さすがに二度目は不意打ちとならず、夏雨は目線を惑わせつつも答えることができた。
「あら、否定するかと思ったのだけど……ふぅん」
「なに? 狼狽えながら、あいつのことなんか全然好きじゃないんだからねっ、とか言うと思ったわけ?」
「まあね」
半笑いで目を細めた夏雨に、萌々も小さく肩を竦めて笑い返した。
「というか逆にさ、」
夏雨は口元に笑みを貼り付けたまま続ける。
「伊東は友達だから、まだ許容できる……ってだけかもしれない。伊東以外の男とか、ちょっと考えるのも鳥肌モノだし」
「あぁ……あるのかもね、そういうことも」
萌々は緩く頷きながら、麦茶で唇を湿らせる。
「でもどちらにしろ、伊東くんしかないわけなのね。自分に触れてきてもいいと思っている男性は」
「……その言い方はマスゴミ的で嫌だけどっ」
「芸能誌の客寄せテロップみたい?」
「ネットでよくある、タイトルで煽っておいて内容は俺でも書けるぞっていうアホみたいな記事のやつな」
「あ、その言い回し、とてもオタクっぽいわね」
「いまそれ言う意味あった!?」
「それもオタクっぽいわ。ふっふっ」
「……ふん!」
夏雨は気恥ずかしさで火照った頬を誤魔化すように鼻息を荒げたけれど、萌々が喉を鳴らすようにして笑っているのを見ていると自分まで愉快な気分になってきて、一緒にくっくっと笑うのだった。
しばらく二人して微笑い合った後、萌々がそっと告げる。
「私、伊東くんと絡んでもいいの?」
「……あいつ、見ての通りのデブオタだぞ」
「言うほど太っていないでしょ」
「顔だって、あんなんだぞ」
「そこは許容範囲よ。私、顔よりチンポ派だし」
「いや、知らねぇ……いやっ、知ってた! 知らなかったけど、そんな感じしてた!」
「でしょう? ふふっ」
「い、いやいや……でも、あいつのちんぽ、そんなにデカいか?」
「え、デカいでしょう?」
「そうなの?」
怪訝そうな顔を見合わせる二人。
「……ナツメの、男子のときのちんぽは、伊東くんのより大きいの?」
静かな言い方だけど、萌々の瞳はギラリと光っている。
「ノーコメントで」
「ねっ、いまちょっと男に戻ってみない?」
「嫌だよ! いま戻ったら、ブサメン女装野郎だから!」
「大丈夫。頑張って笑わないようにするわ」
「俺の心が大丈夫じゃねぇ!」
……そんなこんなのすったもんだで、夏雨は帰宅してからチンポ自撮りを萌々に送ることを約束させられたのだった。
肝心の萌々と伊東との関係について宙ぶらりんのままだったことに夏雨が気がついたのは、墨谷家を辞して家路を歩いている道中でのことだった。
「まあ、冷静に考えたら、俺がどうこう言うような話じゃないしな」
俺は伊東のマネージャーでも何でもないんだし、と夕日に向かって嘯いた自身の呟きが、なぜか言い訳めいて聞こえる夏雨なのだった。
夏雨と萌々の二人は伊東との通話を終わらせると、二人で交代にシャワーを使った。最初に夏雨が浴びている間に、萌々が部屋の換気や着替え(萌々の下着、洗濯済み)の用意をしてくれていて、シャワーで先にさっぱりしてきた夏雨は申し訳ない気分になったりもした。
「え、申し訳ない? いいわよ、べつに。ここは私の家で、ナツメはお客様なんだから、堂々と歓待されていればいいのよ。そんなことより、私のパンツがぶかぶかだったりしていないわよね?」
シャワーから戻ってくるついでに飲み物まで運んできた萌々は、恐縮する夏雨にそう言って笑った。
お風呂上がりの萌々は髪を解いて部屋着になり、化粧も落とした学校用のもっさりした姿に戻っていた。といっても、髪についた巻き癖は少し残っていて、髪の内側の派手なメッシュがチラ見えしているので、そこまで地味でもなかったけれど。
「服や化粧がなくても、髪型がちょっと違うだけで印象って変わるんだな……」
夏雨は萌々の姿をしげしげと眺めて、感想を口にする。それに対して、萌々は自分で持ってきた麦茶のグラスを一口飲んでから、くすっと笑って冗談めかす。
「そうよ。ナツメの変身っぷりには負けるけれど、女はこのくらいの変身なら、いつだって誰だってできるものなのよ」
「そうなのか……」
呟きながら夏雨が思ったのは、俺にもできるのかな、だった。
――って、なんでそんな俺はナチュラルに女子力を上げようとか思っちゃってるんだか。
夏雨は水浴びした犬みたいにぶるっと頭を振って、浮かんだ思いを掻き消した。
「ナツメ、なにやってるの?」
「や、なんでも」
「そう?」
萌々はとくに追求することなく、話題を換えた。というか、もっとデリケートなところを追求してきた。
「それで、ナツメは伊東くんのことが好きなの?」
「ぶッ!!」
不意打ちされた夏雨の手から、いま飲もうとして持ち上げていたグラスの中身がバシャッと溢れた。
「あっ、ごめん」
「いいわよ、気にしないで。拭けばいいだけだもの」
麦茶が溢れたのはローテーブルの上で、拭けば染みも残らない。萌々は手早くティッシュで処理すると、何もなかったかのように話を続けた。
「それで、ナツメは伊東くんのことが好きなの?」
「……まあ、友達だから、普通に、ね」
さすがに二度目は不意打ちとならず、夏雨は目線を惑わせつつも答えることができた。
「あら、否定するかと思ったのだけど……ふぅん」
「なに? 狼狽えながら、あいつのことなんか全然好きじゃないんだからねっ、とか言うと思ったわけ?」
「まあね」
半笑いで目を細めた夏雨に、萌々も小さく肩を竦めて笑い返した。
「というか逆にさ、」
夏雨は口元に笑みを貼り付けたまま続ける。
「伊東は友達だから、まだ許容できる……ってだけかもしれない。伊東以外の男とか、ちょっと考えるのも鳥肌モノだし」
「あぁ……あるのかもね、そういうことも」
萌々は緩く頷きながら、麦茶で唇を湿らせる。
「でもどちらにしろ、伊東くんしかないわけなのね。自分に触れてきてもいいと思っている男性は」
「……その言い方はマスゴミ的で嫌だけどっ」
「芸能誌の客寄せテロップみたい?」
「ネットでよくある、タイトルで煽っておいて内容は俺でも書けるぞっていうアホみたいな記事のやつな」
「あ、その言い回し、とてもオタクっぽいわね」
「いまそれ言う意味あった!?」
「それもオタクっぽいわ。ふっふっ」
「……ふん!」
夏雨は気恥ずかしさで火照った頬を誤魔化すように鼻息を荒げたけれど、萌々が喉を鳴らすようにして笑っているのを見ていると自分まで愉快な気分になってきて、一緒にくっくっと笑うのだった。
しばらく二人して微笑い合った後、萌々がそっと告げる。
「私、伊東くんと絡んでもいいの?」
「……あいつ、見ての通りのデブオタだぞ」
「言うほど太っていないでしょ」
「顔だって、あんなんだぞ」
「そこは許容範囲よ。私、顔よりチンポ派だし」
「いや、知らねぇ……いやっ、知ってた! 知らなかったけど、そんな感じしてた!」
「でしょう? ふふっ」
「い、いやいや……でも、あいつのちんぽ、そんなにデカいか?」
「え、デカいでしょう?」
「そうなの?」
怪訝そうな顔を見合わせる二人。
「……ナツメの、男子のときのちんぽは、伊東くんのより大きいの?」
静かな言い方だけど、萌々の瞳はギラリと光っている。
「ノーコメントで」
「ねっ、いまちょっと男に戻ってみない?」
「嫌だよ! いま戻ったら、ブサメン女装野郎だから!」
「大丈夫。頑張って笑わないようにするわ」
「俺の心が大丈夫じゃねぇ!」
……そんなこんなのすったもんだで、夏雨は帰宅してからチンポ自撮りを萌々に送ることを約束させられたのだった。
肝心の萌々と伊東との関係について宙ぶらりんのままだったことに夏雨が気がついたのは、墨谷家を辞して家路を歩いている道中でのことだった。
「まあ、冷静に考えたら、俺がどうこう言うような話じゃないしな」
俺は伊東のマネージャーでも何でもないんだし、と夕日に向かって嘯いた自身の呟きが、なぜか言い訳めいて聞こえる夏雨なのだった。
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