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4-6. 夏雨、萌々とデートする。 ~下着姿で自撮りする
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「ナツメ、何やってるの?」
ずっこけた夏雨を見て笑う萌々は、既にパーカーもワンピも脱皮するように脱ぎ捨てて下着姿になっている。
「って、早い! 脱ぎ慣れてる!」
「まあね。ほらほら、ナツメも」
「ええぇ……」
唐突な展開に心がついていけないまま、夏雨は萌々に万歳させられて、ポンチョのようなだぼだぼドルマリンカットソーを脱がされてしまう。外気に晒された肩やお腹が寒気を覚えるよりも早く、ホットパンツの留め具も外されて、ずるっと脱ぎ下ろされてしまった。あっという間に、下着姿の出来上がりだ。
「ぎゃーっ! 早業!」
「はいはい、騒いでないで撮るわよ」
萌々はマイペースにスマホを掲げると、反対の手で夏雨の肩を抱いて、ぐいっと引き寄せる。
「あっ」
と声を上げたときにはピロリンと電子音がして、下着姿の巨乳女子二人が肩を組んで立っている写真が撮られていた。
「いきなりだな。まあ、俺もこういうのは嫌いじゃないけれど……」
「ナツメ、あなたのスマホにいまのを送ってから確認して」
「仕事が早いな」
夏雨は下着姿のまま自分のスマホを手にとって、トークアプリに送られきた画像を見る。
上から見下ろす視点で、二人の顔から乳房の膨らみ、足元までを枠内に収めた画像だ。派手な髪をポニテにした萌々はしっかりカメラ目線で笑っていて、黒髪ショートの夏雨は隣の萌々に視線をやった中途半端な顔をしている。
「……萌々。次は撮るとき、ちゃんと言って」
「はいはい。でもその前に……いまの写真、彼に送って」
「え、彼?」
夏雨が豆鉄砲を食らった顔で聞き返すと、萌々はからかうように笑う。
「昨日の彼よ。ナツメがお家デートしていた、彼」
「……あっ、伊東か。いや、あいつはそういうんじゃないから。って、これ昨日も言わなかったっけ?」
「どっちでもいいから、その伊東くんに送ってね」
「え……でも、萌々の顔がばっちり写っちゃってるけど、いいの?」
「いいわよ。彼に見せるために顔まで写したんだから」
「……なんで?」
「私を彼に紹介してもらうためよ」
「なんで!?」
夏雨にとって今日は予想外のことばかりだったけれど、最後までそれは続くようだ。どうして萌々が伊東と繋がりたいと思うのかが分からなくて、頭がぐるぐるする。
「あら、べつに問題ないわよね。ナツメの彼氏ではないのなら」
「ないけれど! ないけれど……いや、でも伊東にも聞いてみないと分かんないから、とりあえず答えは保留で。それにあいつ、女子とまともに話せるかも分かんないし……いや、というかなんで、あいつを?」
「ナツメが信用している相手だからよ」
萌々はスマホを持つ手を下げて、今度はローアングルでお腹から乳房と、その大きな膨らみに下半分を隠された顔にかけてを画面に収めて撮りながら、ちょっと唇を尖らせる。
「私だって男性に興味あるのよ。それはもう、ものすっごくあるのよ。でも、だからって、そこらの男性を誘って遊べばいいじゃない、とはいかないでしょ。私はむっつりスケベだけど、破滅願望があるわけではないの。だから、信用できる男子と知り合える機会を逃したくないの。分かってくれたかしら?」
「お、おう……萌々が冗談を言っているわけじゃないのは、よく分かりました……」
自分も同じ格好だとはいえ、下着姿の女子にキスできそうな距離まで顔を近づけて捲し立てられては、夏雨に否やはなかった。あと、胸も当たっていましたし。
「いちおう念の為に聞くけど、本当に送っていいんだな? 送るぞ、送っちゃうよ……はい、送ったぁ!」
夏雨のスマホから伊東とのトークルームに上げられた画像にはすぐに既読が付いて、数秒後にはデフォルメ顔の美少女キャラが驚いているスタンプが貼り付けられた。さらに続いて、『え、どゆこと?』『隣の子、誰? というか顔出しなんですけど』『あれ、これ誤爆?』『隣の子の了解取ってるよね? 大丈夫だよね?』などと矢継ぎ早に書き込まれたので、夏雨は『この子がおまえと友達になりたいって言ってるんだけど、紹介していいか?』と返信。既読はすぐに付いたが、今度は返信が書き込まれるまでに多少の時間がかかった。
『マナがそれでいいと思うなら、お願いします』
夏雨はその返信が書き込まれたトーク画面を萌々に見せて言う。
「――ということなので、自己紹介の動画でも撮る?」
「そうね、お願い」
萌々は首肯すると、ソファーの上ですぐに居住まいを正して、夏雨がスマホを向けてくるのを待った。だから、夏雨は素早くツッコミを入れた。
「って、いま下着じゃん! 服、着よう!?」
「いいのよ、このまま撮りましょ。インパクトあるでしょう、このほうが」
てっきり萌々はツッコミ待ちでボケたのかと思ったのに、微笑を浮かべつつも大真面目な顔でそう言った。
「インパクト、そこまで必要?」
「まあ、私なりの誠意ね。冗談で紹介して欲しいと言ったわけではないと、分かってもらいたいから」
「ん……まあ、伊東は悪用したりしないと思うから、いいけどさ」
夏雨が独り言ちながら向けたスマホ裏側のレンズに向かって、萌々はにっこり微笑んだ。
「初めましてぇ、メメちょだよぉ♥」
……両目の脇でダブル横ピースして、それはもう元気に媚び媚びに、言いやがった。
口をあんぐり開けて固まった夏雨の手から、スマホが落ちかけた。だけど、萌々はそんなトラブルなんて起きていないかのように笑顔満開の自己紹介を続けるから、夏雨も慌ててスマホを構え直す。
「えーと、イトウくん? (ここで夏雨が頷く)……うん、イトウくん、イトウくん。ん、んっ……今日はイトウくんにお願いがあって、ナツメにこれ撮ってもらってまぁす♥ あのね、えっとね……メメちょのこと、イトウくんのセフレにしてくださぁい♥ ナツメのおまけで構わないですからぁ♥」
……夏雨は色々ツッコんだり吠えたり悶えたりしたいのをぐっと我慢して、どこからか湧いてくる義務感のみで最後までスマホをぶん投げなかった。
でも、我慢した分、液晶をタップして録画を止めた瞬間、爆発した。
「メメちょ!? なんだ、メメちょ!!」
「あー……つい、ね。えへ♥」
「えへ、って! ……え? えっ!? 萌々ってそういうキャラだったのッ!?」
ちろっと舌を出して誤魔化し笑いする萌々に、夏雨は今日一番の驚愕だ。
「いや、ええと……つまりね、私、裏アカやっているのよ。で、そのときは身バレ防止のために普段と全然違ったキャラにしているわけ。それがまあ、いまの感じのキャラなわけで……スマホで撮られていると思ったら、つい、出ちゃって……ね?」
「ね、って言われても……まあ確かに身バレ防止にはなってそうだな。髪も服も、昨日までの萌々と全然別人だし」
「あはは……じつはこっちが本当の私かも」
「じゃあ、普段は露出ビッチな本性を隠して生きている仮の姿なんだ」
「そうそう。だから、たまに裏アカで本性出して発散しているわけなのよ。もう本当に……たまにこうしてハッチャケないと、私、人生終わっちゃうようなことしそうで怖いのよ!」
苦笑する夏雨に、萌々は拳を握って力説した。目が笑っていなかった。どうも本当の本当に、萌々は己の性欲とギリギリのところで戦っていたようだ。
「だからね、ナツメ。私、ナツメと友達に成れて本当にほっとしているの。私が暴走してしまっても、ナツメと一緒ならきっと平気だもの!」
萌々は最後の最後に取っておいた秘密を曝け出したことで、心が無駄に解放されていた。ビューラーとライナーでぱっちり際立たされてた睫毛が、晴れた日の水面みたいに輝く瞳の縁でパチパチと踊っている。いまにも最後の砦である下着さえ脱ぎ捨てて廊下へ飛び出していきそうだ。
「それは暴走に俺を巻き込むつもりだったというか、赤信号も皆で渡れば怖くないの精神だろ。駄目な奴だと思うんだ……というかさ、そろそろ服を着よう? 自己紹介も撮ったし、もう着よう?」
夏雨は引き攣ったような笑みを浮かべながら提案したけれど、少々遅かった。
ピロリロロッ、と内線電話が鳴った。
『お客様、延長はどういたしますか?』
まだ利用時間は二十分ほど残っていた。つまり、監視カメラがあるんだから自重しておけ、というお店側からの遠回しな警告だった。
二人はそそくさと服を着て、最後に有名アニメのエンディングテーマになったこともある洋楽曲を一緒に熱唱して、店を出たのだった。
店を出たところで、夏雨は伊東から返信が来ていたことに気づいた。
『よく分からんが、俺はこの子でヌイていいのん?』
『つか、めめちょって……それはさすがにキャラ作りすぎひん?』
この返信を見せたところ、萌々はにこっと素敵に微笑んで俺に撮影する要求すると、スマホに向かって中指を立てながら笑顔で吠えた。
「じゃかしい、童貞。四の五の言わんと、ちゃっちゃとちんぽ見せんかい!」
往来でちんぽと大声で言うのは勘弁して欲しかったけれど、萌々は普通に立っているだけで目立つ身形をしているので、まあ今更かぁ、と夏雨は諦観の体だ。自分も瑞々しい生脚や、ゆったりサイズのカットソーでも隠せない特盛乳肉で視線を吸い寄せているとは自覚していない。視線を感じはすれども、それは全部、萌々に当たって跳ね返った乱反射だと思っている。
夏雨は自分の容姿が魅力的だと認識してはいるものの、外出の経験はご近所を一度だけ歩いたことがあるだけだ。学校で露出自撮りしたときも人目を避けていたし、他人の目にどう映るのかを想像したことがなかった。さらに言うなら、大晴は生まれてこの方、衆目を集めた経験がないために、「ただ歩いているだけで他人から注目される」という現象を理解する機能が思考回路に組み込まれていないのだった。
ともかくそんなわけで、視線に慣れっこで気にしない萌々と、視線は自分をスルーして萌々に向いていると思い込んでいるから気にしていない夏雨なのだった。
でも、そんな目立っている女子が中指を立てて「ちんぽ見せろ!」などと声を張っていれば、注目度がいや増すのは当然だ。ちらちらからじろじろに変わる視線の圧に、自分に向けられているとは思っていない夏雨でも、さすがにスルーしていられなくなる。
「萌々、抑えて。ここ、外!」
「はいはい、黙るわよ。それより、いまのちゃんと撮ってくれた?」
「撮ったよ。それに……はい、いま送った」
夏雨はちゃちゃっとスマホを操作して、いま撮ったばかりの動画を伊東に送りつける。
伊東からの返事を待ちながら、二人は注目から逃げるために、そそくさと歩き出す。数分ほど歩いて待ち合わせ場所でもあった駅前の時計台広場に戻ってきて空いているベンチに並んで腰掛けたところで、伊東からの返信があった。
『マナ氏。確認なんだけど、これ本当に見せていいやつ?』
美少女キャラが「勿論!」とサムズ・アップしているスタンプを返したら、ほどなく動画が返ってきた。
伊東が下半身丸出しにして胡座を掛き、ハッハッと息を切らしながら陰茎を扱いている動画だった。
「……」
友人のオナニー動画を見せられたとき、人はどんな顔をするのか? するべきなのか? すればいいのか? ――禅問答のような論理の陥穽に落ちていった夏雨の意識がぐるぐると堂々巡りしているうちに、その手からひょいと、萌々がスマホを取り上げた。
「あら、ちゃんと送ってきてくれたのね。偉い、偉い♥」
白昼の往来で、男子のオナニー動画を眺めて微笑む萌々。リップの艶めく唇をちゅぱっと窄める仕草は、昼のパスタ店でメニューを選んでいたときにもしていたものだ。
「へぇ……イトウくんのちんぽ、なかなか大きいじゃない。これはこれは……うふふっ♥」
メニューを選ぶ――品定めをする目つきの萌々に、夏雨はちょっと引いた。
「ナツメ、いまから私の家へ行きましょ。そしてオナニーしましょ!」
萌々は夏雨の内心なんてお構いなしに、ぱっちりアイメイクの瞳を輝かせて提案した。
ずっこけた夏雨を見て笑う萌々は、既にパーカーもワンピも脱皮するように脱ぎ捨てて下着姿になっている。
「って、早い! 脱ぎ慣れてる!」
「まあね。ほらほら、ナツメも」
「ええぇ……」
唐突な展開に心がついていけないまま、夏雨は萌々に万歳させられて、ポンチョのようなだぼだぼドルマリンカットソーを脱がされてしまう。外気に晒された肩やお腹が寒気を覚えるよりも早く、ホットパンツの留め具も外されて、ずるっと脱ぎ下ろされてしまった。あっという間に、下着姿の出来上がりだ。
「ぎゃーっ! 早業!」
「はいはい、騒いでないで撮るわよ」
萌々はマイペースにスマホを掲げると、反対の手で夏雨の肩を抱いて、ぐいっと引き寄せる。
「あっ」
と声を上げたときにはピロリンと電子音がして、下着姿の巨乳女子二人が肩を組んで立っている写真が撮られていた。
「いきなりだな。まあ、俺もこういうのは嫌いじゃないけれど……」
「ナツメ、あなたのスマホにいまのを送ってから確認して」
「仕事が早いな」
夏雨は下着姿のまま自分のスマホを手にとって、トークアプリに送られきた画像を見る。
上から見下ろす視点で、二人の顔から乳房の膨らみ、足元までを枠内に収めた画像だ。派手な髪をポニテにした萌々はしっかりカメラ目線で笑っていて、黒髪ショートの夏雨は隣の萌々に視線をやった中途半端な顔をしている。
「……萌々。次は撮るとき、ちゃんと言って」
「はいはい。でもその前に……いまの写真、彼に送って」
「え、彼?」
夏雨が豆鉄砲を食らった顔で聞き返すと、萌々はからかうように笑う。
「昨日の彼よ。ナツメがお家デートしていた、彼」
「……あっ、伊東か。いや、あいつはそういうんじゃないから。って、これ昨日も言わなかったっけ?」
「どっちでもいいから、その伊東くんに送ってね」
「え……でも、萌々の顔がばっちり写っちゃってるけど、いいの?」
「いいわよ。彼に見せるために顔まで写したんだから」
「……なんで?」
「私を彼に紹介してもらうためよ」
「なんで!?」
夏雨にとって今日は予想外のことばかりだったけれど、最後までそれは続くようだ。どうして萌々が伊東と繋がりたいと思うのかが分からなくて、頭がぐるぐるする。
「あら、べつに問題ないわよね。ナツメの彼氏ではないのなら」
「ないけれど! ないけれど……いや、でも伊東にも聞いてみないと分かんないから、とりあえず答えは保留で。それにあいつ、女子とまともに話せるかも分かんないし……いや、というかなんで、あいつを?」
「ナツメが信用している相手だからよ」
萌々はスマホを持つ手を下げて、今度はローアングルでお腹から乳房と、その大きな膨らみに下半分を隠された顔にかけてを画面に収めて撮りながら、ちょっと唇を尖らせる。
「私だって男性に興味あるのよ。それはもう、ものすっごくあるのよ。でも、だからって、そこらの男性を誘って遊べばいいじゃない、とはいかないでしょ。私はむっつりスケベだけど、破滅願望があるわけではないの。だから、信用できる男子と知り合える機会を逃したくないの。分かってくれたかしら?」
「お、おう……萌々が冗談を言っているわけじゃないのは、よく分かりました……」
自分も同じ格好だとはいえ、下着姿の女子にキスできそうな距離まで顔を近づけて捲し立てられては、夏雨に否やはなかった。あと、胸も当たっていましたし。
「いちおう念の為に聞くけど、本当に送っていいんだな? 送るぞ、送っちゃうよ……はい、送ったぁ!」
夏雨のスマホから伊東とのトークルームに上げられた画像にはすぐに既読が付いて、数秒後にはデフォルメ顔の美少女キャラが驚いているスタンプが貼り付けられた。さらに続いて、『え、どゆこと?』『隣の子、誰? というか顔出しなんですけど』『あれ、これ誤爆?』『隣の子の了解取ってるよね? 大丈夫だよね?』などと矢継ぎ早に書き込まれたので、夏雨は『この子がおまえと友達になりたいって言ってるんだけど、紹介していいか?』と返信。既読はすぐに付いたが、今度は返信が書き込まれるまでに多少の時間がかかった。
『マナがそれでいいと思うなら、お願いします』
夏雨はその返信が書き込まれたトーク画面を萌々に見せて言う。
「――ということなので、自己紹介の動画でも撮る?」
「そうね、お願い」
萌々は首肯すると、ソファーの上ですぐに居住まいを正して、夏雨がスマホを向けてくるのを待った。だから、夏雨は素早くツッコミを入れた。
「って、いま下着じゃん! 服、着よう!?」
「いいのよ、このまま撮りましょ。インパクトあるでしょう、このほうが」
てっきり萌々はツッコミ待ちでボケたのかと思ったのに、微笑を浮かべつつも大真面目な顔でそう言った。
「インパクト、そこまで必要?」
「まあ、私なりの誠意ね。冗談で紹介して欲しいと言ったわけではないと、分かってもらいたいから」
「ん……まあ、伊東は悪用したりしないと思うから、いいけどさ」
夏雨が独り言ちながら向けたスマホ裏側のレンズに向かって、萌々はにっこり微笑んだ。
「初めましてぇ、メメちょだよぉ♥」
……両目の脇でダブル横ピースして、それはもう元気に媚び媚びに、言いやがった。
口をあんぐり開けて固まった夏雨の手から、スマホが落ちかけた。だけど、萌々はそんなトラブルなんて起きていないかのように笑顔満開の自己紹介を続けるから、夏雨も慌ててスマホを構え直す。
「えーと、イトウくん? (ここで夏雨が頷く)……うん、イトウくん、イトウくん。ん、んっ……今日はイトウくんにお願いがあって、ナツメにこれ撮ってもらってまぁす♥ あのね、えっとね……メメちょのこと、イトウくんのセフレにしてくださぁい♥ ナツメのおまけで構わないですからぁ♥」
……夏雨は色々ツッコんだり吠えたり悶えたりしたいのをぐっと我慢して、どこからか湧いてくる義務感のみで最後までスマホをぶん投げなかった。
でも、我慢した分、液晶をタップして録画を止めた瞬間、爆発した。
「メメちょ!? なんだ、メメちょ!!」
「あー……つい、ね。えへ♥」
「えへ、って! ……え? えっ!? 萌々ってそういうキャラだったのッ!?」
ちろっと舌を出して誤魔化し笑いする萌々に、夏雨は今日一番の驚愕だ。
「いや、ええと……つまりね、私、裏アカやっているのよ。で、そのときは身バレ防止のために普段と全然違ったキャラにしているわけ。それがまあ、いまの感じのキャラなわけで……スマホで撮られていると思ったら、つい、出ちゃって……ね?」
「ね、って言われても……まあ確かに身バレ防止にはなってそうだな。髪も服も、昨日までの萌々と全然別人だし」
「あはは……じつはこっちが本当の私かも」
「じゃあ、普段は露出ビッチな本性を隠して生きている仮の姿なんだ」
「そうそう。だから、たまに裏アカで本性出して発散しているわけなのよ。もう本当に……たまにこうしてハッチャケないと、私、人生終わっちゃうようなことしそうで怖いのよ!」
苦笑する夏雨に、萌々は拳を握って力説した。目が笑っていなかった。どうも本当の本当に、萌々は己の性欲とギリギリのところで戦っていたようだ。
「だからね、ナツメ。私、ナツメと友達に成れて本当にほっとしているの。私が暴走してしまっても、ナツメと一緒ならきっと平気だもの!」
萌々は最後の最後に取っておいた秘密を曝け出したことで、心が無駄に解放されていた。ビューラーとライナーでぱっちり際立たされてた睫毛が、晴れた日の水面みたいに輝く瞳の縁でパチパチと踊っている。いまにも最後の砦である下着さえ脱ぎ捨てて廊下へ飛び出していきそうだ。
「それは暴走に俺を巻き込むつもりだったというか、赤信号も皆で渡れば怖くないの精神だろ。駄目な奴だと思うんだ……というかさ、そろそろ服を着よう? 自己紹介も撮ったし、もう着よう?」
夏雨は引き攣ったような笑みを浮かべながら提案したけれど、少々遅かった。
ピロリロロッ、と内線電話が鳴った。
『お客様、延長はどういたしますか?』
まだ利用時間は二十分ほど残っていた。つまり、監視カメラがあるんだから自重しておけ、というお店側からの遠回しな警告だった。
二人はそそくさと服を着て、最後に有名アニメのエンディングテーマになったこともある洋楽曲を一緒に熱唱して、店を出たのだった。
店を出たところで、夏雨は伊東から返信が来ていたことに気づいた。
『よく分からんが、俺はこの子でヌイていいのん?』
『つか、めめちょって……それはさすがにキャラ作りすぎひん?』
この返信を見せたところ、萌々はにこっと素敵に微笑んで俺に撮影する要求すると、スマホに向かって中指を立てながら笑顔で吠えた。
「じゃかしい、童貞。四の五の言わんと、ちゃっちゃとちんぽ見せんかい!」
往来でちんぽと大声で言うのは勘弁して欲しかったけれど、萌々は普通に立っているだけで目立つ身形をしているので、まあ今更かぁ、と夏雨は諦観の体だ。自分も瑞々しい生脚や、ゆったりサイズのカットソーでも隠せない特盛乳肉で視線を吸い寄せているとは自覚していない。視線を感じはすれども、それは全部、萌々に当たって跳ね返った乱反射だと思っている。
夏雨は自分の容姿が魅力的だと認識してはいるものの、外出の経験はご近所を一度だけ歩いたことがあるだけだ。学校で露出自撮りしたときも人目を避けていたし、他人の目にどう映るのかを想像したことがなかった。さらに言うなら、大晴は生まれてこの方、衆目を集めた経験がないために、「ただ歩いているだけで他人から注目される」という現象を理解する機能が思考回路に組み込まれていないのだった。
ともかくそんなわけで、視線に慣れっこで気にしない萌々と、視線は自分をスルーして萌々に向いていると思い込んでいるから気にしていない夏雨なのだった。
でも、そんな目立っている女子が中指を立てて「ちんぽ見せろ!」などと声を張っていれば、注目度がいや増すのは当然だ。ちらちらからじろじろに変わる視線の圧に、自分に向けられているとは思っていない夏雨でも、さすがにスルーしていられなくなる。
「萌々、抑えて。ここ、外!」
「はいはい、黙るわよ。それより、いまのちゃんと撮ってくれた?」
「撮ったよ。それに……はい、いま送った」
夏雨はちゃちゃっとスマホを操作して、いま撮ったばかりの動画を伊東に送りつける。
伊東からの返事を待ちながら、二人は注目から逃げるために、そそくさと歩き出す。数分ほど歩いて待ち合わせ場所でもあった駅前の時計台広場に戻ってきて空いているベンチに並んで腰掛けたところで、伊東からの返信があった。
『マナ氏。確認なんだけど、これ本当に見せていいやつ?』
美少女キャラが「勿論!」とサムズ・アップしているスタンプを返したら、ほどなく動画が返ってきた。
伊東が下半身丸出しにして胡座を掛き、ハッハッと息を切らしながら陰茎を扱いている動画だった。
「……」
友人のオナニー動画を見せられたとき、人はどんな顔をするのか? するべきなのか? すればいいのか? ――禅問答のような論理の陥穽に落ちていった夏雨の意識がぐるぐると堂々巡りしているうちに、その手からひょいと、萌々がスマホを取り上げた。
「あら、ちゃんと送ってきてくれたのね。偉い、偉い♥」
白昼の往来で、男子のオナニー動画を眺めて微笑む萌々。リップの艶めく唇をちゅぱっと窄める仕草は、昼のパスタ店でメニューを選んでいたときにもしていたものだ。
「へぇ……イトウくんのちんぽ、なかなか大きいじゃない。これはこれは……うふふっ♥」
メニューを選ぶ――品定めをする目つきの萌々に、夏雨はちょっと引いた。
「ナツメ、いまから私の家へ行きましょ。そしてオナニーしましょ!」
萌々は夏雨の内心なんてお構いなしに、ぱっちりアイメイクの瞳を輝かせて提案した。
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