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3-5. 夏雨、友人に乳揉みさせる。
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「どうするよぉ?」
部屋着のスウェット上下に身を包んでいる夏雨は、両腕を組むことで胸の大きさを強調させながら、両目を皿のように瞠って凝視してくる伊東に向かって、にやにやと笑いかける。でも、こめかみに緊張の汗を薄っすら滲ませていて、口角はひくひくと小刻みに震えているのは、夏雨もまた緊張しているからなのか、将又、興奮しているからか?
「ふ、ふひっ……さ、触って……いいので、ご、ごごっござ、ござ?」
「ってか、触りたくって土下バンまでしたんだろ」
「やっ、いやいやいやっまぁそっそうだけだけっど、いっいぃいざいざさわっさっさ触ってい、いっいぃ、良いって言わわわれれれっ」
「いや分からんて。落ち着けて」
「おっおお落ち落ちちちお乳ついついついてててっ」
「……ウザっ! もう面倒だし、おらっ!」
顎と舌が道路工事みたいなことになっている伊東との会話を断念した夏雨は、伊東の手を取ると自分のほうに引き寄せて、その豊かな胸を触らせた。
触らせと同時に、悪戯っぽく小声で叫ぶ。
「きゃー、痴漢よー」
「ばっ!? ちっちち違っ違いま――」
伊東は条件反射で言い訳しながら手を引っ込めようとしたけれど、夏雨は両手でしっかり彼の手首を掴んで逃さない。スウェットに包まれた豊乳を触らせたまま、大笑いだ。
「あははっ、本気で慌てやんの。ヤバいぞ、伊東。その態度、電車でやったら、マジ捕まるやつ……あははっ」
「……わ、笑い事じゃないでござる!」
「んあッ♥」
声を荒げた弾みで偶々だったのか、それとも意識してのことだったのか――夏雨の胸に誘われていた伊東の手が、そのスウェット乳をむぎゅりと鷲掴みするように指を立てた。
「お……おおぉ……」
伊東の語彙が死んだ。
無心になって夏雨の乳を揉む伊東は、むぎゅっ、むぎゅっとグーパー繰り返すだけの乳揉みゾンビだ。
「ん、んふっ……は、ははっ……伊東、顔がちょっと、怖いぞ……んぉ、っふぁ……♥」
「……」
「やっ、マジで怖いっつか……んんッ! ちょっ、んあっ……揉むの、強すぎっ、っ!」
伊東はたぶん、夏雨の声が聞こえていない。ゾンビだった顔を忽ちのうちに紅潮させて、血走った眼で鼻息をふんごふんご嘶かせながら、一心不乱に乳だけを感じている。目も耳もシャットダウンして、揉んでいる手の感触と、あとほんのり香ってくる女子臭を感じ取ることだけに全身全霊を懸けている!
「ちょっ……おい! だから痛いって! 揉むのはいいけど、掴むなや!」
夏雨は掴んでいた伊東の右手を強引に振り払って、わりと本気で怒鳴りつけた。そこまでやられてようやく、伊東は我に返った。
「ハッ!? い、いま、夢を見ていた……いい夢だった……」
「いや、そういうのいいから」
小芝居で逃げようとした伊東を一言で切って捨てると、夏雨は深い溜め息を吐いて伊東を見つめる。見つめられた伊東は息を呑んで目を泳がせ、脂汗をどろどろ垂らす。
「ひゅっ……うぁ、あぁ……ごめんでござる……ございまふ……」
「うぅっわ、キメぇ」
がくりっと大袈裟に項垂れた伊東に対する、反射的な夏雨の返答がそれだった。
これが大晴のときなら、「アニメかよっ、わざとらしいわ!」と笑いながらツッコむ程度のウザさで済んだのが、夏雨になったら、ウザいよりもキモいが先に来た。
俺って感性まで女子化してたのかっ、と驚く夏雨。そして伊東は、ナチュラルに真正面からキモいと言われて凹んでいた。
「……あ、あるぇ? 拙者の記憶が確かならば、こういう場合のTSっ子は、俺がリアル女子だったらセクハラだったぜ、とかドスケベ男子ノリで笑って、むしろもっと強く揉んでいいぜ、とか下品ビッチ感マシマシで乳首おっ立たせてくるもんじゃなかったんでござりますかねぇ?」
「くっ……正論!」
さすがは大晴の唯一と言っていい友人。その分野において大晴の上位互換と言ってもいい男だ。彼の言葉に、夏雨は真っ向から論破された。
論破されてしまったので、夏雨は乳房を差し出すことにした。
「分かったよ……ほら、伊東」
夏雨はいったん脱力した後、胸元で腕組みしながら背筋を伸ばして、ただでさえデカい乳房を両腕で掬い上げる。下着も付けていないスウェット一枚に包まれただけの水風船が、どぷんっと重たげに形を変えて、より上方に、そして前方に突き出される形となる。スウェットは丸首なので、胸の谷間が見えることはなかったけれど、ノーブラだとはっきり分かるほどぴっちりと胸に張り付いたスウェットが乳袋になっていた。
「うおおぉ……アニメかよ……」
実に伊東らしいその感想に、夏雨は口角を横へ引っ張るみたいにして笑う。
「二次元じゃないか、確かめてみるぅ?」
ご要望どおりの、ちょっとビッチっぽい鼻声。腕組みしたまま腰をくねらせて、服地ぱつぱつの乳袋がたゆたゆ弾むのをアピールしながら、だ。
「っ……で、でっでも、触ったら、また怒るので……」
「怒んねぇよ、いきなり掴んだりしてこなきゃ」
「……優しく触れということで?」
「そう」
「じゃ、じゃあ……」
鷹揚に頷いた夏雨の胸へと、伊東は両手をもう一度、おずおずと伸ばしていく。躊躇っているように見えても、伊東も結局は年頃男子なのだ。手の届くところに爆乳があって、しかも触っていいよと言われたら、手を伸ばさずにいられるわけがないのだ。
伊東のむちっとした、コントローラーと携帯ゲーム機より重いものを持ったことのない白い芋虫のような指が夏雨の乳袋に着地し、ぽよんと撓ませる。
「ふぁん♥」
伊東に意図せず焦らされることとなった夏雨は、布越しに指が触れただけの薄い刺激だけでも、ついうっかり喘いでしまった。
「うひゃっ」
その鼻声にビビった伊東がさっと手を引っ込めてしまったから、夏雨は唇を尖らせる。
「あっ、なんで引っ込めんだよ」
「だってマナが変声出すからぁ!」
「じゃ、もう声、出さねぇから。黙ってっからぁ!」
夏雨はムカッと眉根を寄せて、唇を引き結ぶと、ついでに頬もぷくっと膨らませた。
大晴はトーマスとかジャムなおじさん系人相だが、夏雨はくりっとしたお目々が愛くるしい愛され顔なので、男口調で拗ねてみせても只々、可愛いだけだ。なので、伊東もあっさりブヒってしまう。
「ぶっ、ぶひっ」
実際にブヒブヒ鳴いてしまった。
うわっキメぇ、と思った夏雨だけど、口を噤んでいるので言わずに済んだ。もしも口に出していたら、伊東がまたヘタれて、機嫌を直させるのが面倒になっていただろう。
……なんで俺はご機嫌取りをしてまで、伊東に胸を触らせているんだけ?
夏雨はふと可愛らしく小首を傾げたけれど、一秒考えても思い出せなかったので、まあいいか、と思考を放棄。それよりも今は、微妙に焦らしプレイされている胸の疼きを解消する――伊東の手で解消させることのほうが大事だ。
「んっ……伊東、もっと強くでいいぞ」
「さっきは強すぎって言ったくせに、今度はもっと強くと言ってくるでござるの巻」
「加減を知れ。おまえは強火と弱火しかないコンロか!」
「ふむ。つまり、中火のとろ火でことこと煮立てるように揉むべし、揉むべしっ、でござるな」
伊東はアホなことを言いながら、夏雨に程よく感じられる強さで乳房を揉んでくる。酢飯やおにぎりをふわっと握る手付きだ。胸肉にむいむい当たってくる指と手の平の感触に、夏雨の口から風呂に浸かったときのような吐息が漏れる。
「ふあぁ……♥」
「おぉ、気持ち良さげな声でござるな」
「気持ちいいからな」
「せっ……せ、拙者の乳揉みテクがい、いぃ良いからでご、ござるか?」
「そうでござるよ。だから吃るな。いちいちキモい」
「あっ、またキモいとぉ!」
伊東、怒りの乳揉みが夏雨の乳肉を襲う!
「うにゃあッ♥」
力任せのように見えて、今度はちゃんと力加減が利いていたおかげで、夏雨はうっかり上顎から頭頂へと抜けるような嬌声を上げてしまった。伊東の太い指が乳首に擦れたのが良かったからでもある。
「むっ、むむ……このぷりぷりした手触り、グミのような弾力的な硬さ……こっ、これがももっもしや、ちっちちっくびッ!?」
「そうだよ、乳首だよ。そのくらい、さらっと言え、さらっと!」
「ちっ乳首なんてさらっと言えたら、陰キャやってないでござるぅ!」
言い返した語気の強さに比例して、伊東の指が夏雨の乳首をぎゅりっと抉る。指二本で挟んで抓ったのではなく、指の腹をぐりぐり押し付けたのだ。伊東に乳首を抓るほどの度胸がなかったためだが、服地の上から指の腹で強めに捏ねくるという乳首苛めは、そこに性欲を溜め込ませていた夏雨にとって痛恨の一撃だった。
「にゅうおぉッ♥」
「ひゃあッ!? ……なっ、なにその声? マナ、ひょっとして、え……こ、これ、気持ちいい? の?」
夏雨の嬌声に驚いた伊東だったが、刻々と滾ってきている牡の本能がそうさせるのか、今度は身を離すよりも、乳揉みしながらの乳首弄りを止めることなく、夏雨にまるで言葉責めのようなことを問いかけていく。
「そっ……そうだよ、気持ちいいんだ、よっ……あっ♥ ちょっ、ぐりぐりっ……いぃ♥」
夏雨が答えている間も、伊東の両手は豊かな乳房を左右同時のリズムで揉みしだきながら、その先っぽの硬く凝った尖りを中指の腹でぐりぐりと捏ね潰していく。
「あっ、っ、んあぁ……ッ♥」
「ふ、ふひっ……マナ、声がマジっぽい。せ、拙者のお手々で、ち、ちくっ乳首こりこり、されるの、そ、そんな気持ちいいんでござるの?」
「早口で吃るな、拙者ござる止めろ、笑わすにゃふぁあッ♥」
「あれ? あれぇ? マナ、笑うんじゃなかったんでござるぅ? それ、笑いじゃなくて喘ぎでござるぞぉ?」
この状況にだんだん慣れてきた伊東の愛撫はねちっこさを増していき、夏雨を否応なしに喘ぎっぱなしの壊れた玩具に変えていく。
「くっ、うぁ♥ あっ……あ、あぁッ♥ あっ、ひゅあぁッ♥」
「おぉ……面白いな、これ……リズムゲーっぽいぞ」
「あぁッ♥ 待てっ、強弱付けて引っ張……はにゃッ♥ 回すなぁ、あ、あぁっ♥」
「はい、ターンテーブルきゅっきゅでござるよー。はい、きゅっきゅっきゅー」
「あぁっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ、あっああぁッ♥」
――びくびくっ、がくがくっ、ぶるるるっ♥
夏雨は喘ぎ善がって震え身悶え……がくんっと糸が切れたように崩れ落ちる。ちょうど、対面していた伊東の胸に飛び込むような形になった。
「おわっ……マナ、だっ大丈夫!?」
伊東は咄嗟に両手を胸から背中へとまわして、夏雨を抱き止める。そんな彼の耳朶を、熱く湿った吐息が嬲った。
「ん……ふぁ♥ だいじょーぶぅ……はんっ♥ ……んぅ♥」
伊東の太っちょボディに正面から撓垂れ掛かって、その肩に顎を乗せ、汗の滲んだ項に吐息を吹きかけている夏雨。それが男にとってどういうふうに受け取られるかも忘れて、火照った乳房を伊東に預けて、ふうぅはあぁ♥と甘い吐息で外耳をくすぐる。
「マナ……お、え? ちょ、これ、不味い……ヤバいやつでござるからしてぇ……!」
「……伊東? ――うにゅあッ♥」
伊東の早口な呟きに小首を傾げた夏雨の左乳房を、伊東の右手が鷲掴みにする。伊東の左手は夏雨の括れた腰にまわされていて、夏雨を逃すまいとする。
「んんぁ♥ おい、伊東、きついっ……あぅ! 胸、いきなり揉むうぅッ♥」
「ふあぁ……これヤバい。耳元ゼロ距離で喘がれるのヤバいよヤバイよでござるよぉ……!」
「あっ♥ あっ♥ んぁ、あぁッ♥」
夏雨は抱き竦められた身を捩らせて、左乳首を襲う快感から逃れようとする。でも、その抵抗は伊東の狩猟本能を悪戯に刺激しただけだ。
「マナ、ヤバい。それヤバい。マジそれヤバい誘ってんのかでござるからしてぇ!」
「あぁ! あっ、あぁ♥ ひあっ、あ! んやぁッ♥」
普段はゲームのコントローラーしか弄ることのない伊東の指が、夏雨の乳首を転がし、連打し、責め立てていく。夏雨の喘ぎはどんどん艶めき、両手は縋るものを求めて宙を掻いた挙げ句に、伊東の頭を巻き締め、掻き抱く。
「あっ、っ、っ……くっ、っ……ふっ、ひ……ッ♥」
カチカチに充血した乳首を、スウェットの裏地を擦り付けるようにして抓んで扱かれ、いよいよ喘ぎ声すら出せないほどの高みに追い詰められる。この短時間でそれが感じ取れるほどの乳首愛撫マスターになったのか、伊東の右手は指先をつんと立てて、スウェット越しの勃起乳首を爪でカリカリ削り、グリグリ抉った。
「……っくあぁッ♥ ――はっひゅうぅッ♥♥」
抱き竦める伊東の腕の中で、夏雨の腰はびっくん、と静電気が弾けるように跳ねた。
極度の緊張から解放された夏雨の肢体は、かっくりと崩れ落ちるようにして、伊東の胸に背中を預けていく。
その反応はとても分かりやすかったから、伊東は恐る恐る、でも確信を持って問いかける。
「ま、マナ……い、いまの、い、い、イッた? イッたでござるか?」
「……いちいち聞くな、キモいっつの」
「つまり、イッたんでござるな!? ふひぃ!」
「いや、まじキメぇから」
夏雨はテンション上がりまくりの伊東に抱きついた体勢のまま、左の乳首だけでイかされた屈辱と官能の残り火が燻っている身体に風を入れて冷まそうとするかのように、深い呼吸を繰り返している。でも、抱きついた相手の肩に顎を乗せながらの深呼吸は、相手の耳孔に湿った呼気を流し込むプレイをしているのと同じことだ。
「ふおぉ……! マナ、耳ふーっするの、ぞくぞくするのでぇ……!」
「はぁ? ……馬鹿、俺そんなつもりでやってんじゃないから。普通に息が切れているだけだっつの」
勘違しないでよねっ、と反論する夏雨だけど、ただのツンデレ発言にしかなっていないのは、伊東の首に両手を巻き付かせてべったり抱きついている体勢のままだからだ。
「そんなこと言われても、お、おっぱいとか当たってるこの状況で、い、言われてもっ……ぜ、全然説得力ないでござるからしてっ」
「うるせぇ。いまちょっと動けないんだから、少し休ませろ。っつか、誰のせいだ、誰の!」
「えぇ……な、なんか拙者が悪いみたいな言われよう、ちょっと……む、ムカって来ちゃうでござるぞ」
「何が、ムカっ、だ。おまえみたいのが言ってもキモいだけだっつの」
それは売り言葉に買い言葉というやつで、夏雨は言ってしまってから、ちょっとキモいキモい言いすぎかな、と反省したけれど、その反省は遅きに失した。
「……ほりゃっ」
伊東の右手が、夏雨の左乳首を不躾に抓った。まだ絶頂させられた余韻の残っている夏雨の左乳首を、摘むのではなく抓ったのだ。
「ッ……ひゅっ……ひゅああッ♥♥」
乳首に走った刺激が鋭すぎて、夏雨が鳥の囀りみたいな嬌声を上げるまでに、抓られてからたっぷり一秒も溜めてしまった。
「ひゅああぁ……あぁあぁ……ッ♥」
溜めてからの嬌声は、糸を引く水飴のように長々と洩びていく。その甘く湿った響きは、抱きついている相手である伊東の鼓膜をぬるりとくすぐる。
「っふぉおぅ……! マナっ、これもう誘ってんだよな? いっ、いいんだよな? な、なッ!?」
「は? 何が――あんっ♥」
鼻息を荒げた伊東が、夏雨の腰を手折らんばかりに抱き締める。夏雨の爆乳と張り合うみたいに脂肪ぷるぷるの胸板をぎゅうぎゅう押し付けながら、夏雨の股ぐらに自分の太ももを差し入れていき――
「――ふぐううぅッ!!」
……なぜか唐突に豚の断末魔みたいな呻き声を出すと、夏雨に抱きついたまま全身を弛緩させてしまった。
「え……あっ! 伊東、おまえ、まさか……!」
伊東の挙動に既視感を覚えた夏雨は、すぐに思い当たった。
夏雨に気づかれたと悟った伊東は、致命傷を受けた兵士の顔で笑う。
「へ、へへ……やっちまったでござるよ……マナ、笑ってくれ……へへへ……」
「伊東……早漏が過ぎる――あ、いや、仕方ないか。おまえのちんぽ、右手専門だもんな。俺、いま爆乳美少女だもんな」
夏雨の色気もへったくれもないスウェットパンツの太ももに、自分のぱんぱんに膨れた股間のものがほんの少し擦れてしまった微かな刺激だけで、伊東は下着の中で童貞汁をどっぽどっぽ暴発させてしまっていたのだった。
でも、それは不可抗力である、と夏雨は理解を示す。
「仕方ない。いまのは仕方ない。俺みたいな爆乳美少女の、しかもうっかり乳首絶頂キメちゃった痴態を生オカズにしたら、秒でトぶのは誰だって不可避だ。だから、気にすんな」
お互いに屈辱的な状況で絶頂と射精を見せ合ったおかげか、なんとなく仲が深まった感じのする二人。でも、それとは反比例して、えっちな雰囲気はなくなってしまった。
「うぅ……パンツの中べちょって気持ち悪いでござるぅ……」
「風呂場でパンツ洗っていくか? あ、でも替えのパンツを貸したりはしないぞ」
「なら、ノーパンで帰るよ……」
「そうか……うん、それがいいな。よし、ほら、パンツ洗ってこい。タオルぐらいなら、適当なの使っていいから。あ、でも使ったのは洗濯機に入れといてくれよ」
「そこまで念押ししなくても分かってるって!」
苦笑交じりに立ち上がった伊東は、がに股で部屋を出ていった。伊東は真夏雨家に何度も遊びに来ているし、連休に泊まりで夜通しゲームして過ごしたこともあるので、勝手知ったるなんとやら――風呂の場所も当然、知っているのだった。
その後は、戻ってきた小晴も交えて、三人で普通にゲームして遊んだ。
伊東はパンツを洗うついでに自分もシャワーを浴びて煩悩をさっぱり洗い流してきていたし、夏雨も部屋の窓を全開にして、リビングから持ってきた消臭スプレーを撒いたりしているうちにすっかり落ち着いていた。小晴も伊東へ無駄に身体を擦り付けていったりせず、本当に普通にゲームしただけだった。それで十分、楽しかった。
日が沈む頃になって、伊東は帰っていった。
お菓子と飲み物を片付けるついでに玄関先まで見送りに出ていた夏雨と小晴。玄関が閉まったところで、小晴が夏雨を見上げて、ずっと疑問だったことを尋ねた。
「ねえ、お姉」
「うん?」
「なんで、ずっとお姉なの?」
「うん……戻るタイミングが、な」
男に戻るためには絶頂しないといけないわけだが、伊東が風呂場から戻ってきた時点でもう、なんだか友達同士の健全な雰囲気に戻ってしまっていたから、ちょっとトイレで自慰してイってくるかな、という気分になれなかったのだった。
「あー……つまり、お兄は恥ずかしくなっちゃったわけね。伊東さんに、こいついまオナって来たのかーって思われるのが」
「……そうなのかもな」
「それって男として? 女として? どっちとしての恥ずかしさ?」
「ん……いや、それどっちも同じだろ。どっちとしても恥ずかしいだろ」
「ま、それもそっかー」
小晴はそれ以上、深く尋ねなかった。尋ねたところで、この姉からこれ以上の答えが返ってくるとは思えなかったからだ。まだ、いまのところは、だけど。
「そのうち、面白い感じになったりして?」
兄の未来の恋愛事情を想像して呟く小晴に、いまは姉姿なその兄が小首を傾げる。
「うん? 何か言ったか?」
「んー……伊東さんにあげたお土産、喜んでくれるかなぁ、って言ったの」
「お土産?」
「うん。この動画」
小晴がそう言って姉に見せたのは、兄が初めて姉になった晩の自撮り動画と、その後日にやった電動歯ブラシ淫核磨きの動画だった。
「え……こ、これっ、おまっ……これ、小晴、これ、送ったの? 伊東に? え、なんで? なんで!?」
「うん、送ったよ。今晩のおかずにどーぞ、って♥」
「近所のおばちゃん!」
「あははっ」
「って、笑いごとじゃねーッ!!」
夏雨は慌てて伊東に『見るなよ! 絶対見るなよ!』とメッセを送るも、同時に心の冷静な部分で「いや、見るでしょ。普通見るって。仕方ないよね、年頃だもの」と諦めているのだった。
そして伊東の返信は、両手で猫を吊るした美少女キャラが笑顔で「それは無理」と宣っているスタンプだった。
部屋着のスウェット上下に身を包んでいる夏雨は、両腕を組むことで胸の大きさを強調させながら、両目を皿のように瞠って凝視してくる伊東に向かって、にやにやと笑いかける。でも、こめかみに緊張の汗を薄っすら滲ませていて、口角はひくひくと小刻みに震えているのは、夏雨もまた緊張しているからなのか、将又、興奮しているからか?
「ふ、ふひっ……さ、触って……いいので、ご、ごごっござ、ござ?」
「ってか、触りたくって土下バンまでしたんだろ」
「やっ、いやいやいやっまぁそっそうだけだけっど、いっいぃいざいざさわっさっさ触ってい、いっいぃ、良いって言わわわれれれっ」
「いや分からんて。落ち着けて」
「おっおお落ち落ちちちお乳ついついついてててっ」
「……ウザっ! もう面倒だし、おらっ!」
顎と舌が道路工事みたいなことになっている伊東との会話を断念した夏雨は、伊東の手を取ると自分のほうに引き寄せて、その豊かな胸を触らせた。
触らせと同時に、悪戯っぽく小声で叫ぶ。
「きゃー、痴漢よー」
「ばっ!? ちっちち違っ違いま――」
伊東は条件反射で言い訳しながら手を引っ込めようとしたけれど、夏雨は両手でしっかり彼の手首を掴んで逃さない。スウェットに包まれた豊乳を触らせたまま、大笑いだ。
「あははっ、本気で慌てやんの。ヤバいぞ、伊東。その態度、電車でやったら、マジ捕まるやつ……あははっ」
「……わ、笑い事じゃないでござる!」
「んあッ♥」
声を荒げた弾みで偶々だったのか、それとも意識してのことだったのか――夏雨の胸に誘われていた伊東の手が、そのスウェット乳をむぎゅりと鷲掴みするように指を立てた。
「お……おおぉ……」
伊東の語彙が死んだ。
無心になって夏雨の乳を揉む伊東は、むぎゅっ、むぎゅっとグーパー繰り返すだけの乳揉みゾンビだ。
「ん、んふっ……は、ははっ……伊東、顔がちょっと、怖いぞ……んぉ、っふぁ……♥」
「……」
「やっ、マジで怖いっつか……んんッ! ちょっ、んあっ……揉むの、強すぎっ、っ!」
伊東はたぶん、夏雨の声が聞こえていない。ゾンビだった顔を忽ちのうちに紅潮させて、血走った眼で鼻息をふんごふんご嘶かせながら、一心不乱に乳だけを感じている。目も耳もシャットダウンして、揉んでいる手の感触と、あとほんのり香ってくる女子臭を感じ取ることだけに全身全霊を懸けている!
「ちょっ……おい! だから痛いって! 揉むのはいいけど、掴むなや!」
夏雨は掴んでいた伊東の右手を強引に振り払って、わりと本気で怒鳴りつけた。そこまでやられてようやく、伊東は我に返った。
「ハッ!? い、いま、夢を見ていた……いい夢だった……」
「いや、そういうのいいから」
小芝居で逃げようとした伊東を一言で切って捨てると、夏雨は深い溜め息を吐いて伊東を見つめる。見つめられた伊東は息を呑んで目を泳がせ、脂汗をどろどろ垂らす。
「ひゅっ……うぁ、あぁ……ごめんでござる……ございまふ……」
「うぅっわ、キメぇ」
がくりっと大袈裟に項垂れた伊東に対する、反射的な夏雨の返答がそれだった。
これが大晴のときなら、「アニメかよっ、わざとらしいわ!」と笑いながらツッコむ程度のウザさで済んだのが、夏雨になったら、ウザいよりもキモいが先に来た。
俺って感性まで女子化してたのかっ、と驚く夏雨。そして伊東は、ナチュラルに真正面からキモいと言われて凹んでいた。
「……あ、あるぇ? 拙者の記憶が確かならば、こういう場合のTSっ子は、俺がリアル女子だったらセクハラだったぜ、とかドスケベ男子ノリで笑って、むしろもっと強く揉んでいいぜ、とか下品ビッチ感マシマシで乳首おっ立たせてくるもんじゃなかったんでござりますかねぇ?」
「くっ……正論!」
さすがは大晴の唯一と言っていい友人。その分野において大晴の上位互換と言ってもいい男だ。彼の言葉に、夏雨は真っ向から論破された。
論破されてしまったので、夏雨は乳房を差し出すことにした。
「分かったよ……ほら、伊東」
夏雨はいったん脱力した後、胸元で腕組みしながら背筋を伸ばして、ただでさえデカい乳房を両腕で掬い上げる。下着も付けていないスウェット一枚に包まれただけの水風船が、どぷんっと重たげに形を変えて、より上方に、そして前方に突き出される形となる。スウェットは丸首なので、胸の谷間が見えることはなかったけれど、ノーブラだとはっきり分かるほどぴっちりと胸に張り付いたスウェットが乳袋になっていた。
「うおおぉ……アニメかよ……」
実に伊東らしいその感想に、夏雨は口角を横へ引っ張るみたいにして笑う。
「二次元じゃないか、確かめてみるぅ?」
ご要望どおりの、ちょっとビッチっぽい鼻声。腕組みしたまま腰をくねらせて、服地ぱつぱつの乳袋がたゆたゆ弾むのをアピールしながら、だ。
「っ……で、でっでも、触ったら、また怒るので……」
「怒んねぇよ、いきなり掴んだりしてこなきゃ」
「……優しく触れということで?」
「そう」
「じゃ、じゃあ……」
鷹揚に頷いた夏雨の胸へと、伊東は両手をもう一度、おずおずと伸ばしていく。躊躇っているように見えても、伊東も結局は年頃男子なのだ。手の届くところに爆乳があって、しかも触っていいよと言われたら、手を伸ばさずにいられるわけがないのだ。
伊東のむちっとした、コントローラーと携帯ゲーム機より重いものを持ったことのない白い芋虫のような指が夏雨の乳袋に着地し、ぽよんと撓ませる。
「ふぁん♥」
伊東に意図せず焦らされることとなった夏雨は、布越しに指が触れただけの薄い刺激だけでも、ついうっかり喘いでしまった。
「うひゃっ」
その鼻声にビビった伊東がさっと手を引っ込めてしまったから、夏雨は唇を尖らせる。
「あっ、なんで引っ込めんだよ」
「だってマナが変声出すからぁ!」
「じゃ、もう声、出さねぇから。黙ってっからぁ!」
夏雨はムカッと眉根を寄せて、唇を引き結ぶと、ついでに頬もぷくっと膨らませた。
大晴はトーマスとかジャムなおじさん系人相だが、夏雨はくりっとしたお目々が愛くるしい愛され顔なので、男口調で拗ねてみせても只々、可愛いだけだ。なので、伊東もあっさりブヒってしまう。
「ぶっ、ぶひっ」
実際にブヒブヒ鳴いてしまった。
うわっキメぇ、と思った夏雨だけど、口を噤んでいるので言わずに済んだ。もしも口に出していたら、伊東がまたヘタれて、機嫌を直させるのが面倒になっていただろう。
……なんで俺はご機嫌取りをしてまで、伊東に胸を触らせているんだけ?
夏雨はふと可愛らしく小首を傾げたけれど、一秒考えても思い出せなかったので、まあいいか、と思考を放棄。それよりも今は、微妙に焦らしプレイされている胸の疼きを解消する――伊東の手で解消させることのほうが大事だ。
「んっ……伊東、もっと強くでいいぞ」
「さっきは強すぎって言ったくせに、今度はもっと強くと言ってくるでござるの巻」
「加減を知れ。おまえは強火と弱火しかないコンロか!」
「ふむ。つまり、中火のとろ火でことこと煮立てるように揉むべし、揉むべしっ、でござるな」
伊東はアホなことを言いながら、夏雨に程よく感じられる強さで乳房を揉んでくる。酢飯やおにぎりをふわっと握る手付きだ。胸肉にむいむい当たってくる指と手の平の感触に、夏雨の口から風呂に浸かったときのような吐息が漏れる。
「ふあぁ……♥」
「おぉ、気持ち良さげな声でござるな」
「気持ちいいからな」
「せっ……せ、拙者の乳揉みテクがい、いぃ良いからでご、ござるか?」
「そうでござるよ。だから吃るな。いちいちキモい」
「あっ、またキモいとぉ!」
伊東、怒りの乳揉みが夏雨の乳肉を襲う!
「うにゃあッ♥」
力任せのように見えて、今度はちゃんと力加減が利いていたおかげで、夏雨はうっかり上顎から頭頂へと抜けるような嬌声を上げてしまった。伊東の太い指が乳首に擦れたのが良かったからでもある。
「むっ、むむ……このぷりぷりした手触り、グミのような弾力的な硬さ……こっ、これがももっもしや、ちっちちっくびッ!?」
「そうだよ、乳首だよ。そのくらい、さらっと言え、さらっと!」
「ちっ乳首なんてさらっと言えたら、陰キャやってないでござるぅ!」
言い返した語気の強さに比例して、伊東の指が夏雨の乳首をぎゅりっと抉る。指二本で挟んで抓ったのではなく、指の腹をぐりぐり押し付けたのだ。伊東に乳首を抓るほどの度胸がなかったためだが、服地の上から指の腹で強めに捏ねくるという乳首苛めは、そこに性欲を溜め込ませていた夏雨にとって痛恨の一撃だった。
「にゅうおぉッ♥」
「ひゃあッ!? ……なっ、なにその声? マナ、ひょっとして、え……こ、これ、気持ちいい? の?」
夏雨の嬌声に驚いた伊東だったが、刻々と滾ってきている牡の本能がそうさせるのか、今度は身を離すよりも、乳揉みしながらの乳首弄りを止めることなく、夏雨にまるで言葉責めのようなことを問いかけていく。
「そっ……そうだよ、気持ちいいんだ、よっ……あっ♥ ちょっ、ぐりぐりっ……いぃ♥」
夏雨が答えている間も、伊東の両手は豊かな乳房を左右同時のリズムで揉みしだきながら、その先っぽの硬く凝った尖りを中指の腹でぐりぐりと捏ね潰していく。
「あっ、っ、んあぁ……ッ♥」
「ふ、ふひっ……マナ、声がマジっぽい。せ、拙者のお手々で、ち、ちくっ乳首こりこり、されるの、そ、そんな気持ちいいんでござるの?」
「早口で吃るな、拙者ござる止めろ、笑わすにゃふぁあッ♥」
「あれ? あれぇ? マナ、笑うんじゃなかったんでござるぅ? それ、笑いじゃなくて喘ぎでござるぞぉ?」
この状況にだんだん慣れてきた伊東の愛撫はねちっこさを増していき、夏雨を否応なしに喘ぎっぱなしの壊れた玩具に変えていく。
「くっ、うぁ♥ あっ……あ、あぁッ♥ あっ、ひゅあぁッ♥」
「おぉ……面白いな、これ……リズムゲーっぽいぞ」
「あぁッ♥ 待てっ、強弱付けて引っ張……はにゃッ♥ 回すなぁ、あ、あぁっ♥」
「はい、ターンテーブルきゅっきゅでござるよー。はい、きゅっきゅっきゅー」
「あぁっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ、あっああぁッ♥」
――びくびくっ、がくがくっ、ぶるるるっ♥
夏雨は喘ぎ善がって震え身悶え……がくんっと糸が切れたように崩れ落ちる。ちょうど、対面していた伊東の胸に飛び込むような形になった。
「おわっ……マナ、だっ大丈夫!?」
伊東は咄嗟に両手を胸から背中へとまわして、夏雨を抱き止める。そんな彼の耳朶を、熱く湿った吐息が嬲った。
「ん……ふぁ♥ だいじょーぶぅ……はんっ♥ ……んぅ♥」
伊東の太っちょボディに正面から撓垂れ掛かって、その肩に顎を乗せ、汗の滲んだ項に吐息を吹きかけている夏雨。それが男にとってどういうふうに受け取られるかも忘れて、火照った乳房を伊東に預けて、ふうぅはあぁ♥と甘い吐息で外耳をくすぐる。
「マナ……お、え? ちょ、これ、不味い……ヤバいやつでござるからしてぇ……!」
「……伊東? ――うにゅあッ♥」
伊東の早口な呟きに小首を傾げた夏雨の左乳房を、伊東の右手が鷲掴みにする。伊東の左手は夏雨の括れた腰にまわされていて、夏雨を逃すまいとする。
「んんぁ♥ おい、伊東、きついっ……あぅ! 胸、いきなり揉むうぅッ♥」
「ふあぁ……これヤバい。耳元ゼロ距離で喘がれるのヤバいよヤバイよでござるよぉ……!」
「あっ♥ あっ♥ んぁ、あぁッ♥」
夏雨は抱き竦められた身を捩らせて、左乳首を襲う快感から逃れようとする。でも、その抵抗は伊東の狩猟本能を悪戯に刺激しただけだ。
「マナ、ヤバい。それヤバい。マジそれヤバい誘ってんのかでござるからしてぇ!」
「あぁ! あっ、あぁ♥ ひあっ、あ! んやぁッ♥」
普段はゲームのコントローラーしか弄ることのない伊東の指が、夏雨の乳首を転がし、連打し、責め立てていく。夏雨の喘ぎはどんどん艶めき、両手は縋るものを求めて宙を掻いた挙げ句に、伊東の頭を巻き締め、掻き抱く。
「あっ、っ、っ……くっ、っ……ふっ、ひ……ッ♥」
カチカチに充血した乳首を、スウェットの裏地を擦り付けるようにして抓んで扱かれ、いよいよ喘ぎ声すら出せないほどの高みに追い詰められる。この短時間でそれが感じ取れるほどの乳首愛撫マスターになったのか、伊東の右手は指先をつんと立てて、スウェット越しの勃起乳首を爪でカリカリ削り、グリグリ抉った。
「……っくあぁッ♥ ――はっひゅうぅッ♥♥」
抱き竦める伊東の腕の中で、夏雨の腰はびっくん、と静電気が弾けるように跳ねた。
極度の緊張から解放された夏雨の肢体は、かっくりと崩れ落ちるようにして、伊東の胸に背中を預けていく。
その反応はとても分かりやすかったから、伊東は恐る恐る、でも確信を持って問いかける。
「ま、マナ……い、いまの、い、い、イッた? イッたでござるか?」
「……いちいち聞くな、キモいっつの」
「つまり、イッたんでござるな!? ふひぃ!」
「いや、まじキメぇから」
夏雨はテンション上がりまくりの伊東に抱きついた体勢のまま、左の乳首だけでイかされた屈辱と官能の残り火が燻っている身体に風を入れて冷まそうとするかのように、深い呼吸を繰り返している。でも、抱きついた相手の肩に顎を乗せながらの深呼吸は、相手の耳孔に湿った呼気を流し込むプレイをしているのと同じことだ。
「ふおぉ……! マナ、耳ふーっするの、ぞくぞくするのでぇ……!」
「はぁ? ……馬鹿、俺そんなつもりでやってんじゃないから。普通に息が切れているだけだっつの」
勘違しないでよねっ、と反論する夏雨だけど、ただのツンデレ発言にしかなっていないのは、伊東の首に両手を巻き付かせてべったり抱きついている体勢のままだからだ。
「そんなこと言われても、お、おっぱいとか当たってるこの状況で、い、言われてもっ……ぜ、全然説得力ないでござるからしてっ」
「うるせぇ。いまちょっと動けないんだから、少し休ませろ。っつか、誰のせいだ、誰の!」
「えぇ……な、なんか拙者が悪いみたいな言われよう、ちょっと……む、ムカって来ちゃうでござるぞ」
「何が、ムカっ、だ。おまえみたいのが言ってもキモいだけだっつの」
それは売り言葉に買い言葉というやつで、夏雨は言ってしまってから、ちょっとキモいキモい言いすぎかな、と反省したけれど、その反省は遅きに失した。
「……ほりゃっ」
伊東の右手が、夏雨の左乳首を不躾に抓った。まだ絶頂させられた余韻の残っている夏雨の左乳首を、摘むのではなく抓ったのだ。
「ッ……ひゅっ……ひゅああッ♥♥」
乳首に走った刺激が鋭すぎて、夏雨が鳥の囀りみたいな嬌声を上げるまでに、抓られてからたっぷり一秒も溜めてしまった。
「ひゅああぁ……あぁあぁ……ッ♥」
溜めてからの嬌声は、糸を引く水飴のように長々と洩びていく。その甘く湿った響きは、抱きついている相手である伊東の鼓膜をぬるりとくすぐる。
「っふぉおぅ……! マナっ、これもう誘ってんだよな? いっ、いいんだよな? な、なッ!?」
「は? 何が――あんっ♥」
鼻息を荒げた伊東が、夏雨の腰を手折らんばかりに抱き締める。夏雨の爆乳と張り合うみたいに脂肪ぷるぷるの胸板をぎゅうぎゅう押し付けながら、夏雨の股ぐらに自分の太ももを差し入れていき――
「――ふぐううぅッ!!」
……なぜか唐突に豚の断末魔みたいな呻き声を出すと、夏雨に抱きついたまま全身を弛緩させてしまった。
「え……あっ! 伊東、おまえ、まさか……!」
伊東の挙動に既視感を覚えた夏雨は、すぐに思い当たった。
夏雨に気づかれたと悟った伊東は、致命傷を受けた兵士の顔で笑う。
「へ、へへ……やっちまったでござるよ……マナ、笑ってくれ……へへへ……」
「伊東……早漏が過ぎる――あ、いや、仕方ないか。おまえのちんぽ、右手専門だもんな。俺、いま爆乳美少女だもんな」
夏雨の色気もへったくれもないスウェットパンツの太ももに、自分のぱんぱんに膨れた股間のものがほんの少し擦れてしまった微かな刺激だけで、伊東は下着の中で童貞汁をどっぽどっぽ暴発させてしまっていたのだった。
でも、それは不可抗力である、と夏雨は理解を示す。
「仕方ない。いまのは仕方ない。俺みたいな爆乳美少女の、しかもうっかり乳首絶頂キメちゃった痴態を生オカズにしたら、秒でトぶのは誰だって不可避だ。だから、気にすんな」
お互いに屈辱的な状況で絶頂と射精を見せ合ったおかげか、なんとなく仲が深まった感じのする二人。でも、それとは反比例して、えっちな雰囲気はなくなってしまった。
「うぅ……パンツの中べちょって気持ち悪いでござるぅ……」
「風呂場でパンツ洗っていくか? あ、でも替えのパンツを貸したりはしないぞ」
「なら、ノーパンで帰るよ……」
「そうか……うん、それがいいな。よし、ほら、パンツ洗ってこい。タオルぐらいなら、適当なの使っていいから。あ、でも使ったのは洗濯機に入れといてくれよ」
「そこまで念押ししなくても分かってるって!」
苦笑交じりに立ち上がった伊東は、がに股で部屋を出ていった。伊東は真夏雨家に何度も遊びに来ているし、連休に泊まりで夜通しゲームして過ごしたこともあるので、勝手知ったるなんとやら――風呂の場所も当然、知っているのだった。
その後は、戻ってきた小晴も交えて、三人で普通にゲームして遊んだ。
伊東はパンツを洗うついでに自分もシャワーを浴びて煩悩をさっぱり洗い流してきていたし、夏雨も部屋の窓を全開にして、リビングから持ってきた消臭スプレーを撒いたりしているうちにすっかり落ち着いていた。小晴も伊東へ無駄に身体を擦り付けていったりせず、本当に普通にゲームしただけだった。それで十分、楽しかった。
日が沈む頃になって、伊東は帰っていった。
お菓子と飲み物を片付けるついでに玄関先まで見送りに出ていた夏雨と小晴。玄関が閉まったところで、小晴が夏雨を見上げて、ずっと疑問だったことを尋ねた。
「ねえ、お姉」
「うん?」
「なんで、ずっとお姉なの?」
「うん……戻るタイミングが、な」
男に戻るためには絶頂しないといけないわけだが、伊東が風呂場から戻ってきた時点でもう、なんだか友達同士の健全な雰囲気に戻ってしまっていたから、ちょっとトイレで自慰してイってくるかな、という気分になれなかったのだった。
「あー……つまり、お兄は恥ずかしくなっちゃったわけね。伊東さんに、こいついまオナって来たのかーって思われるのが」
「……そうなのかもな」
「それって男として? 女として? どっちとしての恥ずかしさ?」
「ん……いや、それどっちも同じだろ。どっちとしても恥ずかしいだろ」
「ま、それもそっかー」
小晴はそれ以上、深く尋ねなかった。尋ねたところで、この姉からこれ以上の答えが返ってくるとは思えなかったからだ。まだ、いまのところは、だけど。
「そのうち、面白い感じになったりして?」
兄の未来の恋愛事情を想像して呟く小晴に、いまは姉姿なその兄が小首を傾げる。
「うん? 何か言ったか?」
「んー……伊東さんにあげたお土産、喜んでくれるかなぁ、って言ったの」
「お土産?」
「うん。この動画」
小晴がそう言って姉に見せたのは、兄が初めて姉になった晩の自撮り動画と、その後日にやった電動歯ブラシ淫核磨きの動画だった。
「え……こ、これっ、おまっ……これ、小晴、これ、送ったの? 伊東に? え、なんで? なんで!?」
「うん、送ったよ。今晩のおかずにどーぞ、って♥」
「近所のおばちゃん!」
「あははっ」
「って、笑いごとじゃねーッ!!」
夏雨は慌てて伊東に『見るなよ! 絶対見るなよ!』とメッセを送るも、同時に心の冷静な部分で「いや、見るでしょ。普通見るって。仕方ないよね、年頃だもの」と諦めているのだった。
そして伊東の返信は、両手で猫を吊るした美少女キャラが笑顔で「それは無理」と宣っているスタンプだった。
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