いろんなシチュエーション短編集

Merle

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朝起きたら「真面目=痴漢OK」な常識になっていたっぽい

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 朝、なんでかいつもより早起きしてしまった。
 変な夢を見ていて、そのせいで目が覚めてしまった――ような気もするのだけど、目が覚めた途端にどんな夢だったのか忘れてしまったから、よく分からない。
 二度寝という気分でもなかったので、いつもより少し早めに登校することにした。
 高校までは電車通学だ。
 県内有数の進学校で、学生も無駄に騒がしいのがいたりしなくて気に入っているのだけど、この通学時間だけは辟易している。帰りはいいとして、行きは社会人の通勤ラッシュとドン被りなのが辛い。毎朝このときばかりは、近場の高校にして予備校で頑張れば良かったかも、と思ってしまう。
 とくに面倒だと思うのは、痴漢トラブルだ。
 あ、わたしは女子校生なので、痴漢される・・・ほうだ。でも、それは見方を変えれば、冤罪を起こすほう・・・・・ということだ。
 通勤ラッシュの電車内は加減速に合わせて前後に揺れるし、どうしたって身体の一部が周囲に人に当たってしまうことはある。その全てを加害者扱いするわけにはいかない。痴漢容疑をかけられただけで会社を辞めさせられたりして社会的に死んでしまう人の映画とか、観たことあるし。
 とはいえ……。
 ――いやこれ、わざと触ってない? あれ、でもギリギリ不自然でもなくはない、ような気もしないでも?
 ……みたいな判断しかねる感触を胸やお尻に感じることもあるわけで、とても疲れるのだ。毎朝というわけではないけれど、週に一度はある気がする。ちゃんと記録しているわけじゃないけど。まあ、本当に週一であると事実確認できてしまったら凹むので、絶対に記録を取ったりしないけど!
 今朝は電車を一本早めたから、少しはラッシュ回避できた。いつもは本当にすし詰めだけど、今朝は身体の向きを変えたり、スマホを出し入れできる程度の余裕がある。
 このくらいの乗車率なら朝から疲れることもないし、明日からこの電車で登校することにしても……あ、無理かな。起きれる自信がないや。
 そんなことを考えているうちに電車のドアが閉まって、走り出す。加速度で後方に振られた身体を立て直そうとして身動ぎしたとき、すぐ隣に立っているのがクラスメイトだったと気がついた。同じ制服の女子なのは分かっていたけれど、これまで話す機会のない相手だったから、気づくのが遅れたのだ。
 おかっぱ風のショートボブで、わたしより少しだけ背が低い(胸もたぶん、わたしより少し小さい)。見た目の印象は小動物系だけど、可愛いよりも真面目な感じ。だって実際、委員長だし。
 わたしだって不真面目なわけじゃないし、うちの学校はそもそも真面目な子が多いと思うけれど、その中でもとくに教師受けが良いんだろうな、と思っちゃうタイプの子だった。放課後に買い食いもカラオケもしたことなさそうなタイプだ。
 さて、そんな委員長と目が合ってしまったわけだけど……挨拶するべき? いやでも、話したことないクラスメイトからいきなり挨拶されても、向こうのほうだって困るのでは?
 そんな葛藤が脳内を駆け巡っていたコンマ五秒の陥穽。
 胸元への唐突な、そして無遠慮な刺激が、その葛藤を吹き飛ばした。

「ひゃわッ!?」

 変な声が出てしまった。慌てて口を閉じたけれど、委員長が怪訝そうな顔でこっちを見ている。でも、そんなの気にしている場合じゃない。
 え、これ痴漢? 背後から胸を撫でられている? 背後からお尻を撫でたり、電車を降りるときに正面から胸を触っていくひとはこれまでにもいたけれど、まだ走行中なのに、背後から腕をまわして胸を触ってこられたのは初めてだ。
 だってこれ、言い訳の余地なしに完璧な痴漢でしょ。これ、この手を掴んで「痴漢です」って言ったら、このひと人生終わりでしょ。いくらなんでも大胆すぎっていうか理解不能なんですが!?
 委員長に挨拶するかどうか――なんて葛藤が目じゃないほどの混乱。これ、どうしたらいい!? 逆ギレされたりしない!? っていうか委員長、こっち見てるよね。助けて!

「ええと……」

 わたしが視線に乗せて発信した救助信号エスオーエスを分かってくれたようで、委員長がおずおずと唇を開く。
 いいぞ、委員長。その調子で「このひと痴漢です!」って叫んでくれぇ!

「おはよう、鷦鷯みそさざいさん」
「そっちじゃねーよぉ!」

 挨拶するかどうか迷ってたのはひとつ前の話で、もうそれはどうでもいいんだよぅ! っていうか、どう見ても無造作に胸を触られ……いや、がっつり揉まれているクラスメイトに向かって「おはよう」って逆に怖いよ! 反射的にツッコミしたけど、冷静に考えたら委員長怖いよ。サイコパス入ってない? 大丈夫? いや、大丈夫じゃないのはわたし! 助けてッ!!

「あ、体調悪いの? なら、痴漢するの止めとく?」
「おまえが言うんかーい!」

 わたしのおっぱいを痴漢していた男性に、背後から心配そうに声をかけられて、ツッコミの声を上げてしまったわたしは間違ってない。というか、どういう思考回路をしていたら、痴漢している相手に向かって普通に話しかけられるわけ?

「あ、もしかして女の子の日?」

 痴漢がそう言ってきて、一気にムカつき度が跳ね上がる。後頭部でヘッドバッドしてやるか、と思ったけれど、委員長が代わりに怒ってくれた。

「それ、セクハラですよ」
「うん、その通りなんだけど。なんだけど!」

 痴漢はスルーしたのに、そこはしっかり指摘するのね。委員長って天然なのかな?

「ああ、こりゃ失礼。セクハラは駄目だよね、気をつけるよ」

 痴漢のひとも素直に謝るのは好感持てるんだけど、そもそも痴漢してるのがおかしいっていうか、まだ痴漢してますよ。あなたの手、わたしのおっぱい揉んでるんですけど。セクハラを反省するより、まずは痴漢を止めるべきでは?
「それで……?」
 委員長が小首を傾げて、わたしを見つめる。何か訊かれているのは分かるけれど、何を訊かれているのかが分からない。なので、ぱちくりと目を瞬”しばたた”かせつつ小首を返し返すと、しょうがないなぁ、という感じで苦笑された。

「ええとね……鷦鷯さんが体調悪い日なんだったら、わたしが代わってあげてもいいんだけど、って」
「えっ、代わる!?」

 止めさせるじゃなく、代わるって言った!?
 びっくりして目を瞠るわたしに、今度は委員長が目を瞬かせた後、あぁ、と納得の吐息を漏らして微笑んだ。

「いいのよ、鷦鷯さん。こういうのは男性側に選択権があるものだから、譲ってもらうわけにはいかないよ」

 ……ごめん。委員長が何を言ってるのか、本当に分かんないです。
 選択権? 譲る? ……どういうこと?
 混乱は深まるばかりで、頭がくらくらしてくる。でも、事態は待ってくれないどころか、もっと意味不明になっていく。



「問題ないなら、僕もいいかな」

 という男性の声が、痴漢のひととは反対側から聞こえてきたと思ったら、そちら側の胸にも男性の手が伸びてきて、さわさわと胸を撫でてきた。
 痴漢が増えた。

「あ、どうぞ。俺、こっち側だけでいいんで」
「助かります」
「いえいえ。こういうのは譲り合いっすから」

 しかもなんか、痴漢同士で和やかに談笑されていらっしゃる。おい、痴漢のおっさん。あんたが触っているのはわたしのおっぱいで、おまえのおっぱいじゃないのだが? おまえに、もう片方のおっぱいを誰かに譲ってやる権利なんて無いのだが?
 ……と思っているのは、どうやら、わたしだけらしい。

「わあ、すごいね。鷦鷯さん、大人気」
「それ、煽っとんのか?」

 思わずツッコミ返したけれど、委員長はなんか普通に微笑んでいる。というか、普通の表情なのが意味分からない。
 わたしからは胸を触ってくる手元しか見えていないけれど、たぶんサラリーマンのおっさんだよね、わたしを痴漢しているのって。
 これが同じ学校の制服だったらワンチャン、炎上系のドッキリなのかも、と疑っていたところだけど、見ず知らずのサラリーマン二人組に痴漢されるドッキリって、炎上するってレベルじゃないし、あり得ないでしょ。
 ということは、これはガチ痴漢で……なのに委員長が、まるで痴漢なんて普通のことでしょ、と言わんばかりの普通な態度をしていて……。

 ……あ、はい。そういうことね、なるほどね。

 わたしは理解した。
 なぜって?
 周りを見たら、他にも痴漢されている女子がわりといることに、今更ながら気づいたからだ。
 あっちでは、わたしと同じ制服の女子が中年サラリーマンにバックハグされて髪に頬ずりされながら、友達と普通におしゃべりしている。
 こっちでは、べつの高校の制服を着ているカップルらしき男子と女子がイチャイチャしながらおしゃべりしている。彼女の足元にしゃがんだサラリーマンがスカートの中に頭を突っ込んで、下着”パンツに顔面をぐりぐり擦りつけているっぽいのに、彼氏は止めたりする素振りを全く見せずに、普通ににこにこ微笑んでいる。
 また別のほうを見れば、座席の正面に立っているサラリーマン男性二人がおしゃべりしながら、正面の席に座る女子校生二人組にそれぞれのちんぽをしゃぶらせていた。
 これもう痴漢というレベルじゃない。公然猥褻っていうか、エッチなネット小説だ。わたしは詳しいんだ。なので、察した。
 あーこれ、あれね。朝起きたら世の中がちょっとエッチになっていました系だ。タグに「パラレルワールド」と付けられている系だ。うん、わたしは詳しいんだ。
 というか実際マジで本当にそうだった場合、わたしがここで暴れたり、痴漢されるの拒否った場合、わたしが痛い子認定される可能性がある。それはちょっと嫌だ。
 なのでここは、状況をもっと見極めるまでは大人しく痴漢されるままの流され系女子になっているのが得策なので、仕方なく痴漢されていようと思う。そう、仕方なく。けして、これはこれでドキドキする……とか、クラスメイトに見られながらの状況ってちょっと興奮しちゃうかも……とか思っているわけではないったら、ない。

「鷦鷯さん?」
「あ、ううん。なんでもないよ。ちょっと、おっぱい気持ちいいなーとか思ってただけ……」

 って、咄嗟に素直な言葉が出ちゃったし! 委員長にドン引きされたら恥ずか死ねる!
 ……と身構えたのだけど、委員長はごく自然な感じで微笑んだ。

「分かる。たまに下手なひともいるけれど、だいたい皆さん、触り方が上手なんだよね。これに慣れちゃうと、自分でするのが物足りなくなっちゃうよね」
「え……あ、うん。だよね。うん」

 慌てて愛想笑いを浮かべて頷き返したけれど、変に思われなかったかな?
 ……クラスで一番真面目だと思っていた委員長が、さり気なく「一人えっちしてます。おっぱい自分で触ります」とカミングアウトしちゃっているのが、そこはかとなくエッチです。

「あ、女の子ってオナニーするとき自分でおっぱい揉んだりするんだ」

 わたしのおっぱいを触っている男二人のうち一人が、わたしのおっぱいを触りながら委員長に話しかける。わたしのおっぱいを触りながら。

「ですから……そういうこと聞くの、セクハラですよ」

 委員長はちょっとムッとした顔だ。

「あっ、ごめん! 朝から可愛い子と話せて調子に乗っちゃった。ごめん!」

 男はすぐに委員長に謝った。わたしのおっぱいを撫でながら。
 でも、声音の調子が大袈裟すぎで、わたしには、チャラいおっさんキメぇ、としか思えない。わたしのおっぱい、ずっと撫でてきてるし。

「え……かっ、かわ……あ、ええと……まあ、それなら仕方ないです、かね」
「委員長、なんで照れるん?」

 チャラおっさんのあからさまなお世辞にほっぺた赤らめて喜んじゃってる委員長に、わたしのツッコミ。ちょっと委員長、チョロすぎっていうかポンコツすぎん? それ、大丈夫なん? 他の女子の胸を触りながら「おまえが可愛くて」とか言ってくる男は、控え目に言ってクソだと思うよ、わたしは。

「わ、私は、でも……鷦鷯さんほど、胸、大きくないし……だから、か、可愛いなんてことは」
「委員長。それ、顔は自分のほうが可愛いって意味?」

 委員長への庇護欲が秒で枯れていく。
 この女、わたしを胸だけの女と思っていたか……!
 ……いやまあ、教室での委員長は愛想のない表情で、こいつ可愛いな、とか思ったことないけれど、いまの男の言葉にチョロく照れてる表情はなかなか唆るものがあって可愛いと思うけれど……って、待て待て。なんでわたし、対抗しようとしているのか? 痴漢おっさんに向けての可愛さなんて競ってどうするのさ!?

「二人とも喧嘩しないで。僕、おっぱいにしか興味ないからさ」
「俺も俺も」

 頭ぐるぐるしていたら、痴漢どもに慰められた。

「最低の告白だな!」

 当然、即座にツッコミ返した。

「結局、胸なんだよね……私のほうが真面目なのに……」

 委員長がジトっと湿っぽい目つきで睨んでくる。
 いやいや、この流れでわたしが睨まれるのって八つ当たりでは? というか、痴漢に好まれるデカ胸でいいね、って馬鹿にされてるのかな? あと、真面目かどうかって、この流れで関係あるの?

 ……あ、いや待って。関係あるのかも。
 つまり、この世界では「痴漢される」のは「真面目なこと」になる……というか、「真面目な子は痴漢を拒否らない」という感じなのかも?
 でも、委員長は痴漢されたがっているように見える。そうすると、「痴漢されても嫌がらないのが真面目なこと」というよりも、もっと積極的に「痴漢されるのが真面目さの証」で、逆説的に「痴漢されない子は真面目な子ではない」となって、「真面目な子ほど痴漢されたがる」というようになっているのではなかろうか?
 そう考えながら改めて周りを見ると、痴漢されているのは真面目そうな子、普通っぽい子ばかりだ。派手な金髪にピアスをした子もいたけれど、痴漢したそうに近づいてきたサラリーマンをひと睨みで追い返していた。やはり、ギャルとか不良っぽい子は痴漢を拒否るみたいだ。そして、真面目な子ほど、「痴漢されるのは当たり前」という様子で、好き放題にされていた。
 そして、もうひとつ気づいたことがある。それは、痴漢されている子のほとんどが、私と同じ制服の子だということだ。
 先にも述べていたけれど、うちは進学校で真面目な子が多い。なので痴漢も、うちの制服をターゲットに選んでいるようだった。

 ――とか言っていたら、電車が減速していき、停車した。学校のある駅はまだ先だけど、それまでに何駅か停まるのだ。
 この駅で降りる客はなく、通学と通勤の客が追加で乗り込んでくるだけだ。乗車率がじわじわ上がっていっている。そして、新たに乗ってきた男性客が、女子校生やOLさんに群がっていく。
 あ……よく見れば、サラリーマンは女子校生に、男子校生はOLさんに痴漢しにいっている。そういう棲み分けが存在しているようだったけれど、まあどうでもいい。

「おや、君か」
「あ、おじさま♡」

 再び走り出した車内で、いま乗り込んできた中年サラリーマンが委員長に声をかけると、委員長は恋してる表情でそのおっさんを見上げた。見知った相手らしい。

「おじさま、おはようございます♡」
「ああ、おはよう」

 和やかに挨拶しながら、流れるように正面からハグする二人。もう痴漢というか、ただのカップルだ。年の差カップル……というには犯罪臭がキツくて援交カップルにしか見えないのだけど、委員長の表情がかつてないほど可愛い。

「おじさま。いつも、わたしなんかを痴漢してくれてありがとうございます♡」
「それはこちらの台詞だよ」
「そんなことないですよ。わたし、胸もあんまり大きくないのに……」
「胸? ははっ、そんなこと気にしていたのかい。可愛いな」
「笑わないでくださいっ。私、真剣に悩んで――んんぅ!」

 あ、おっさんが委員長の顎をくいっとして、キスした。

「ん……んうぅ……♡」

 キスされた委員長は一瞬だけ目を丸くして、すぐにとろぉんと酔ったみたいな蕩け顔になる。
 たっぷり三十秒もキスした後、そっと唇を離したおっさんが委員長に囁く。

「馬鹿だな、きみは。私がきみの身体のパーツで好きじゃないところがあると、本気で思っているのかい?」
「あ……あぁ♡」

 委員長、めったくそ牝の顔だ。おっさんの身体に自分から胸を押し付けにいっている。あ、胸だけでなく、腰をもぞもぞ揺すって股間を擦り付けにもいっている。まるで角オナだ。

「あ、あっ……イく♡ イくイくイくぅ……ッ♡♡」
「おっと、駄目だよ」
「え……ふぇ……?」

 おっさんが委員長の肩をぐいっと押し退け、角オナを止めさせた。イく寸前だったっぽい委員長は、火照ったままの頬と切なげに歪んだ眉で、おっさんを見上げる。
 おっさんは委員長の潤んだ瞳を見つめ返して微笑んだ。

「私の気持ちを理解してくれていなかった罰に、今朝は私が降りる駅まで強制連行だ。そしてそれまで、たっぷり寸止め痴漢してあげるから、覚悟するんだぞ。いいね?」
「あっ、ああぁ……ッ♡♡」

 委員長はその言葉だけで軽イきしそうな表情になって、背中をぷるぷると震わせちゃってる。

「返事は?」
「はいっ♡ お願いしましゅッ♡」

 おっさんの催促に、委員長はとろとろに緩みすぎて呂律が回っていない口でそう返事したのだった。

「って、委員長。学校は?」

 わたしが思わず問い質すと、委員長はおっさんのほうに顔を向けたまま、目線だけでわたしを見てきた。

「鷦鷯さん、撮って」
「ん?」
「あ、そっか。鷦鷯さん、奉仕公欠したことなかったっけ。えっとね、証拠の写真を撮って先生に見せてくれたら、公欠扱いになるから」
「そんな制度あるんかーい」
「写真提出しないで休んじゃう子もいるけど、それだと内申点に加算されないし。ほら、私、推薦狙ってるから」
「あ、だから委員長やってるんだ……っていうか、痴漢にお持ち帰りされると内申点アップするんだ……」
「そうだよ。知らなかった?」
「知らなかったよ……」

 知るわけないじゃん、と乾いた笑いを浮かべつつも、わたしは委員長にスマホを向けて、おっさんにハグされながら流し目でピースしてくるのを撮ってあげた。
 ちょうどいいタイミングで、電車が緩やかに減速していく。わたしたちの学校がある駅だ。

「じゃあ、わたしはこの駅で降りるので……」
「うん。制服で分かってたよ」
「名残惜しいけど、了解」

 わたしのおっぱいを痴漢していたおっさん二人は、意外にもあっさりと手を離してくれた。
 もっとネチネチ引き止められるかと思っていたのに、いっそ呆気に取られるくらいあっさりと解放されて、爽やかな気持ちになってしまった。
 なのでついつい、

「じゃあ、いってきます。お二人もお仕事、いってらっしゃい」

 と、軽く頭を下げて挨拶してからホームに降りた。
 そうしたら、電車のドアが閉まる前に、おっさん二人が手を振って見送ってくれた。

「ありがとう。きみも勉強、頑張ってね」
「いってらっしゃい。またな」

 よく見たら、二人ともおっさんというほどではなかった。わりとイケてるお兄さんだった。
 明日も早起きして、この電車に乗ろう。そこでもしまた会ったら、今度はもう少し深いところまで痴漢させてあげてもいいかも……なんて♡

 朝起きたら微妙に違っていた世界の一日目は、こうして始まったのだった。
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