義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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1章

18-3. シャンプー アルカ

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「ふぅ……こんなところですかね」

 わたしは腕で額を拭いながら、最後の濯ぎを終えたシャーリーさんの髪を、わたしがずっと使ってきているタオルでぽんぽんと叩くように拭いてあげました。村で入手した物品の中に手拭いもあったのですけど、吸水力だとかはわたしのタオルのほうが遙かに上です。

「すごい……お姉ちゃんの髪、すごく綺麗だよ!」

 アンちゃんが目をきらきらさせて言いました。

「そ、そうか? 自分じゃよく分からないけど……あ、確かになんか、違うかも……」

 シャーリーさんも立ち上がって背筋を伸ばしながら、自分の肩口にかかっている髪を摘んで感嘆しています。
 まだ生乾きの髪ですが、洗う前の髪とは傍目にもはっきりと違って見えました。
 まず色が違います。洗う前は赤土を貼り付けたような髪だったのが、いまは赤ワインで染めた毛糸束のようです。洗髪前は手櫛が通らないくらい固まっていたのも、いまは差し入れた指が髪の中をゆっくり泳げるくらいに解けています。

「すげぇ、あたいの髪がさらさらだ……」

 シャーリーさんは自分の髪を何度も撫でています。その顔はとっても乙女していて、見ているこっちまで頬が緩んでしまいます。指がふやけるまでシャンプーを頑張った甲斐があったというものです。

「お姉ちゃん、綺麗だよ」

 アンちゃんも自分のことのように喜んでくれています。

「あ、あんまり言うなよ。恥ずかしいだろ」

 シャーリーさんは妹の前で威厳を保とうとでも思ったのか、仏頂面を作ろうとしていますけど、頬がすぐに緩んじゃうものだから、普通に照れ笑いするより恥ずかしいことになっています。
 その様子にわたしは思わず笑っちゃいそうになって口元を押さえましたけど、アンちゃんは違う感想を抱いていました。

「お姉ちゃん、もう本っ当すっごく綺麗だよ。可愛いよ!」
「う、うぅ……あんま言うなよ……っつか、髪が綺麗になっただけで、あたいが綺麗になったわけじゃねぇし……」

 耳から額から湯気を噴きそうな勢いで火照っていくシャーリーさんに、アンちゃんは構わず賛辞を言い募ります。

「ううん、髪だけじゃないよ。あのね、髪がきらきらしてるとね、顔もきらきらして見えるの。お姉ちゃん、お姫様みたいだよ!」
「止めろってば、もう……お姫様とか、あんたもあたいも見たことねぇだろ……」

 シャーリーさんは両手で撫でていた髪を掴んで、それで顔を隠そうとしました。
 その瞬間、髪ぼさぼさで下っ端口調のヤンキー女はいなくなりました。そこにいるのは、綺麗な赤髪をさり気なくアピールする仕草で恥ずかしがっている田舎の清楚女子でした。
 見違えた、という言葉がぴったりの変わりようです。

「シャーリーさん、磨けば光る子だったんですね……」

 同性との交流が絶えていたせいか、この変身っぷりは見抜けませんでした。
 でも、髪を綺麗にしただけでこれだけ印象が変わるのだとしたら、もうちょっと手を入れてみたくなるのが人情ですよね。

「シャーリーさん。せっかくだから、もうちょっと綺麗にしてみましょうか」

 わたしの提案に、なぜかアンちゃんのほうが飛びついてきました。

「それ、名案です! アルカさん、お姉ちゃんのことをお願いします!」

 深々とお辞儀までされました。

「アンちゃんはお姉さんのことが大好きなんですね」
「はい!」

 わたしの微笑みに、顔を上げたアンちゃんは誇らしげな笑顔で答えてくれました。

「じゃあ、アンちゃんのためにも頑張ってみましょうか」
「はい、お願いします」
「あのぉ、あたいはまだ何も返事してねぇんすけど……」

 シャーリーさんの意見はこの際、聞き流します。

「じゃあまずは……髪が邪魔にならないように、これで縛っておいてもらいましょうか」

 こんなこともあろうかと持ってきていた予備の髪ゴム(貴重な日本製品!)を貸して、シャーリーさんの髪を高めのポニテに結いました。剣道女子って感じで、これもなかなか似合いますね。

「この紐、みょいんみょいんって面白いっすね」

 シャーリーさんはヘアゴムの伸び縮みが楽しかったようで、いまも髪の縛ったところに手をやって目を輝かせています。

「そりゃ伸びますよ。ゴムですからね」
「ゴム……聞いたことない糸っすね」
「糸ではないんですが……」

 それからゴムの説明をしてみたのですけど、二人に理解してもらえたかは微妙です。なにせ、わたしだってうろ覚えの知識しかないのですから。
 ゴムの木の樹液だったような、石油製品だったような……どっちが正解なんでしょう?

「もっと詳しく知りたかったら、あとで義兄さんに訊いてみてください」

 最後は結局、その台詞で締めたのでした。

「それでアルカさん、次はどうするんですか?」

 アンちゃんがいいタイミングで話を戻してくれました。

「はい、次はですね……シャーリーさん、脱いでください」
「へ?」
「顔と身体を洗うので、脱いでください」
「へ……?」
「あれ、聞こえませんでした?」
「い、いや、聞こえてっすけど……」
「じゃあ脱いでください」
「ええっ!?」
「そうだ。どうせですし、アンちゃんも一緒にお風呂しましょうか」
「はい、わたしも脱ぐんですね!」
「アン!?」

 恥ずかしがっているシャーリーさんを尻目に、アンちゃんはすぽーんっと潔い脱ぎっぷりを見せてくれました。

「これはわたしも負けてられませんねっ」

 わたしもすぱーっと制服を脱ぎ捨て、秒で全裸にコミットです。

「ぎゃあ!? なんで姐さんまで真っ裸まっぱになってんすかぁ!?」
「なんでって、シャーリーさんの身体を洗ってあげるのに、わたしも全裸のほうが都合がいいからですよ」
「うっ……それは確かに……」
「納得してもらえました?」
「まあ……」
「じゃあ、シャーリーさんも」
「……脱げと?」
「はい♥」
「うぅ……」

 わたしがずいっと全裸スマイルで一歩迫ると、シャーリーさんは一歩後退りします。その顔は食べ頃の桃みたいに色付いちゃってます。

「脱ぐの、そんなに恥ずかしいですか。脱がないと身体を洗えないのに」

 わたしが溜め息を吐くと、シャーリーさんは目を潤ませてわたしを睨んできました。

「そんなの分かってるっすよ! でも、アンは家族だからいいけど、姐さんは他人っすよ。ほぼ初対面の他人っすよ!? おまけに、昼間の野外っすよ。こんな状況で真っ裸になれって言われて、はいなりましたってほうがどうかしてっすよ!」
「いいえ、どうかしてるのは服を着たままお風呂しようとしているシャーリーさんのほうです。っていうか二対一なんですから、観念してくださいっ」
「二対一って、アンはあたいの味方っすよ」
「それはどうですかねぇ……アンちゃん!」
「はい!」

 べつに打ち合わせしていたわけではないのに、アンちゃんはわたしの言葉に合わせて素早く動き、シャーリーさんの背中に抱きつきました。

「おわっ……アン、おまえ!?」

 シャーリーさんは愕然としつつも身をくねらせるけれど、アンちゃんはしっかり抱きついて離れません。

「ごめんね、お姉ちゃん。でも、ここはアルカさんの言う通りにしたほうがいいと思うの」
「なんで――」
「だって、身体も綺麗にしておいたほうがロイドさんも喜ぶよ」

 ……え? アンちゃん、どうしてここで義兄さんの名前を?

「あ……い、いやっ、それとこれとは関係ねぇだろ!」

 シャーリーさんはこれ以上ないくらい真っ赤な顔になりました。
 ……その激しすぎる反応、どういうことでしょう? 何か非常に気になるのですが……。

「ええと……シャーリーさん、義兄さんに裸を見せるご予定が?」

 わたしは妙に波立つ内心をぐっと押さえ込みながら、ただいま脱衣中のシャーリーさんに問いかけました。

「え……ええっ! いやいや! 見せる予定なんて、そんなんぇっすよ!!」

 ちょうど脱ぎ終わったシャーリーさんが、首と両手を盛大に振って否定してきます。真っ赤な顔からは、またしても湯気が出そうです。照れまくっております。本当、初心ですね。
 そのとき、アンちゃんが静かに言いました。

「……お姉ちゃん。覚悟、決めよ?」
「アン?」

 振り返ったシャーリーさんに、アンちゃんは諭すように言います。

「お姉ちゃん。わたしたちはここに、ゴブリンの、お……お嫁さんになりに来たんだよ」
「よっ、嫁!? やっ、その言い方は――」
「言い方なんてどうでもいいの。大事なのは、わたしたちは今夜からでも、ゴブリンのひとたちとをするってこと」

 アンちゃんが言い放った言葉に、シャーリーさんは大きく息を呑みました。

「っ……わ、分かってるっての……」
「分かってるんだったら、四の五の言ってないで早く脱いでよね」

 淡々としたアンちゃんの目が、シャーリーさんを見つめます。

「う、うぅ……分かったよ」

 シャーリーさんはやっと観念して、大人しく服を脱ぎ始めました。
 わたしは二人のやり取りをぽかんと眺めていたのですが、そうしたら急にアンちゃんがこっちを振り返りました。

「アルカさん、お願いがあります」
「ふぉ!? はっ、はい。なんでしょうか?」

 アンちゃんの真剣な眼差しに、わたしの背筋はびしっと伸びます。

「わたしもお姉ちゃんも覚悟を決めてきました。いますぐお勤めをしろって言われても、ちゃんと頑張ります。でも、許してもらえるなら、今夜一晩だけ、お姉ちゃんをロイドさんと一緒にいさせてください!」
「……へ? 義兄さんと?」
「はい!」

 鸚鵡返ししたわたしに、アンちゃんは力強く頷きました。その横では、シャーリーさんが顔を真っ赤にさせています。でも、アンちゃんの言葉を否定しません。
 え……これってつまり、そういうことです? シャーリーさんは義兄さんのことが……なのですか?
 え、いつの間に? 確かにこの前、なんか二人で話してイイ感じになってるっぽく見えなくもないシーンを見た気がしますけど、言ってもあれだけですよ? 出会って三日くらいで、その間に接点ほとんどなかったですよね?
 考え込んでしまったわたしに、アンちゃんが言い募ります。

「わたしとお姉ちゃんはずっと二人暮らしで、お姉ちゃんはわたしの面倒を見るのが忙しくて、男のひとと付き合ったこともなくて、だから……まだ処女なんです」
「ちょっとアン!?」

 シャーリーさんが悲鳴じみた声を上げましたが、アンちゃんは喋り続けます。

「ゴブリンのお嫁さんになるって覚悟は決めてますけど、でも、せめて初めての経験だけは、好きなひとと迎えさせてあげたいんです。だから今夜だけでいいですから、お姉ちゃんをロイドさんと過ごさせてやってください。その代わり、わたしがお姉ちゃんの分も頑張りますから……どうかお願いします! お姉ちゃんに思い出を作らせてやってください!」

 アンちゃんは切々とした言葉を紡ぎ終えると、深々と頭を下げたのでした。

「ええと……」

 わたしは返す言葉を探します。
 ……って、わたし、なんで言葉に迷っているのでしょう? 答えは初めから決まっているじゃないですか。

「アンちゃん、頭を上げてくださいな」
「……お願い、聞いてくれますか?」
「聞くも何も、初めから今夜はゆっくりしてもらうつもりでしたよ。義兄さんのことについては、義兄さんに直接言ってくださいな」
「じゃあ、ロイドさんが受け入れてくれれば、いいんですね?」
「……もちろん」
「あ……よかった……」

 頷いたわたしに、アンちゃんは安堵の顔で胸を撫で下ろしました。シャーリーさんも両手で頬を押さえて、照れています。

「今夜……あいつと……うあうぅ!」

 想像しただけで恥ずかしがっているシャーリーさんは、同性のわたしから見ても可愛いなぁと思いました。わたしにはない、恥じらいの美学です。

「……義兄さんはきっと好きですよ。シャーリーさんみたいなひと」

 その言葉はぽろっと、気がついたら口から零れ落ちていました。はっと口を押さえて姉妹を見ると、二人とも裸になって川に膝まで浸かっていました。
 アンちゃんがシャーリーさんの背中を、石鹸石を包んだ手拭いで擦っています。川の水がちゃぷちゃぷ言う音で、わたしの失言は聞こえなかったみたいです。
 よかった――と思ってから、あれれ、と疑問が首を擡げました。
 わたしはなんで、いまの言葉を失言だと思ったのでしょう?

「むぅ……」

 小首を傾げるわたしに、アンちゃんが声をかけてきます。

「アルカさん。アルカさんの身体も洗わせてください」
「あ、うん。じゃあ、お願いしちゃいましょうかね」

 わたしも川に入って、姉妹がイチャイチャしているほうに向かいました。胸に過ぎった疑問は忘れることにしました。きっと考えなくてもいいことだーって気がしますし。

 三人で身体の洗いっこしているうちに、さっき何を疑問に思っていたのか本当に忘れてしまいました。
 なお、シャーリーさんのお胸は、お手頃サイズで先っぽツンと上向きの良いお胸でした♥

 ……本当に忘れていたのは、ここまで荷物持ちをしてくれた後も、わたしたちの護衛として残ってくれていた神官さんのことでした。思い出したのは、帰り支度をしようと思ったら、すでに火の始末だとかが終わらせてあるのに気づいたときでした。
 神官さん、ありがとうございました。
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