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1章
16-1. 口での交渉 ロイド
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交渉もとい恫喝は、俺が想像していた以上に長くかかった。
有瓜の提案を採用したせいで時間がかかってしまった――というわけではない。単純に、村から提供されたもの(主にシャーリーが集めていてくれたもの)を検分したり、今後の取り引きに関しての頻度を決めたりするので時間がかかったからだ。
俺たちがこの村を警護するから、対価として生活用品や農作物、あと年頃の女性を提供してくれ――という話の大筋については、拍子抜けするほどあっさり同意を得られた。
この交渉が決裂すれば、いま俺の後ろのいるゴブリンたちはそのまま村に雪崩れ込んで暴れるかもしれないのだ。
俺は一言も、そうする、とは言わなかったし、ゴブリンたちも黙って立っていただけだ。でも、戦士たちの巨躯が整列しているだけの姿でも、村人たちの首を縦に振らせるのには十分だったようだ。
アンの口から、自分は山賊に攫われたところをゴブリンたちに助けられた、と語られたことも、村人たちに俺たちが交渉で争いを避けられる相手だと認識させるのに役立った。
……実のところ、山賊が本当にいたことと、俺たちがそれを壊滅させたことの証拠品として、斬り落とした山賊たちの首をいくつか、彼らの着ていた衣服に包んで持ってきていたりもした。胃液を吐きながら連中の首を斬り落としたのは、この場に持ってくるためだった。
けれども、アンの熱弁とゴブリンたちの居並ぶ姿だけで、村人たちは俺たちの言葉を信じてくれた。
実際、ゴブリンたちが軍隊よろしく直立不動で待機していたことは、彼らが本能と欲望のままに動く獣ではないことを裏付けてくれた。その意味でも、ゴブリンたちを連れて交渉に臨もう、と言ってくれた有瓜の提案は当を得ていたことになる。むしろ、下手に生首なぞを見せて脅していたら、かえって腹を据わらせてしまっていたことだろう。
なんだよ……有瓜のほうが俺よりずっと交渉センスあるじゃないか……。
村長たちと話している間、俺はこっそり落ち込んでいたりした。たぶん、誰にも気づかれなかったと思うが。
ともかく、交渉は日が暮れるまでかかったけれど、最終的にはどうにか折り合いをつけることができた。
俺たちのほうが棍棒を持っている状態での交渉だったけれど、村側にだって狩人がいる。それに鉈や鍬を携えている男たちも、いざとなれば家族のために死力を尽くすだろう。
山賊たちと戦った感触から、この村と戦争になったとしても負けることはなかったと思うが、そのときはこちらにだって相応の被害が出ていただろう。そうなれば、その後の生活にも支障が出てしまう。
村長もそれが分かっていたからか、恐々とした態度ながらも、けして俺の言い分を丸呑みはしなかった。俺がちょっと「もっとパンをよこせ」と吹っかけてみると、それこそヤクザか何かのような剣呑極まりない視線で俺を射殺しにきた。
腰の曲がった老人に睨まれて息が止まりそうになることがあるなんて、想像したこともなかった。山賊に睨まれたときに平気だったのは、あのときはゴブリンたちが制圧していた後だったからで、俺に特段の度胸があったからではなかったのだ――と、今頃になって気づかされたりもした。
背後に並んでくれているゴブリンたちや、彼らがだらけた態度を取って下に見られることがないよう気を遣ってくれていた有瓜がいなかったら、俺は村長に言いくるめられて、パンや衣服をもっと少なくしか分捕れなかったかもしれない。
――とまあ、有瓜やゴブリンらに支えられたり、アンの証言に後押しされたりしつつも俺が頑張って成果をもぎ取ったのでした……みたいにここまで語ってきたけれど、村側がかなりこっち有利な内容で証文を書いてくれた最大の功労者は、有瓜ただ一人だ。そう言い切っていいだろう。
というかもう、対男性における交渉能力について、有瓜はある意味チートだなぁとか、これなら俺が頑張る必要あんまりなかったかもなぁとか……安心と悲しみとやるせなさとを一度に味わわされたのだった。
有瓜の提案を採用したせいで時間がかかってしまった――というわけではない。単純に、村から提供されたもの(主にシャーリーが集めていてくれたもの)を検分したり、今後の取り引きに関しての頻度を決めたりするので時間がかかったからだ。
俺たちがこの村を警護するから、対価として生活用品や農作物、あと年頃の女性を提供してくれ――という話の大筋については、拍子抜けするほどあっさり同意を得られた。
この交渉が決裂すれば、いま俺の後ろのいるゴブリンたちはそのまま村に雪崩れ込んで暴れるかもしれないのだ。
俺は一言も、そうする、とは言わなかったし、ゴブリンたちも黙って立っていただけだ。でも、戦士たちの巨躯が整列しているだけの姿でも、村人たちの首を縦に振らせるのには十分だったようだ。
アンの口から、自分は山賊に攫われたところをゴブリンたちに助けられた、と語られたことも、村人たちに俺たちが交渉で争いを避けられる相手だと認識させるのに役立った。
……実のところ、山賊が本当にいたことと、俺たちがそれを壊滅させたことの証拠品として、斬り落とした山賊たちの首をいくつか、彼らの着ていた衣服に包んで持ってきていたりもした。胃液を吐きながら連中の首を斬り落としたのは、この場に持ってくるためだった。
けれども、アンの熱弁とゴブリンたちの居並ぶ姿だけで、村人たちは俺たちの言葉を信じてくれた。
実際、ゴブリンたちが軍隊よろしく直立不動で待機していたことは、彼らが本能と欲望のままに動く獣ではないことを裏付けてくれた。その意味でも、ゴブリンたちを連れて交渉に臨もう、と言ってくれた有瓜の提案は当を得ていたことになる。むしろ、下手に生首なぞを見せて脅していたら、かえって腹を据わらせてしまっていたことだろう。
なんだよ……有瓜のほうが俺よりずっと交渉センスあるじゃないか……。
村長たちと話している間、俺はこっそり落ち込んでいたりした。たぶん、誰にも気づかれなかったと思うが。
ともかく、交渉は日が暮れるまでかかったけれど、最終的にはどうにか折り合いをつけることができた。
俺たちのほうが棍棒を持っている状態での交渉だったけれど、村側にだって狩人がいる。それに鉈や鍬を携えている男たちも、いざとなれば家族のために死力を尽くすだろう。
山賊たちと戦った感触から、この村と戦争になったとしても負けることはなかったと思うが、そのときはこちらにだって相応の被害が出ていただろう。そうなれば、その後の生活にも支障が出てしまう。
村長もそれが分かっていたからか、恐々とした態度ながらも、けして俺の言い分を丸呑みはしなかった。俺がちょっと「もっとパンをよこせ」と吹っかけてみると、それこそヤクザか何かのような剣呑極まりない視線で俺を射殺しにきた。
腰の曲がった老人に睨まれて息が止まりそうになることがあるなんて、想像したこともなかった。山賊に睨まれたときに平気だったのは、あのときはゴブリンたちが制圧していた後だったからで、俺に特段の度胸があったからではなかったのだ――と、今頃になって気づかされたりもした。
背後に並んでくれているゴブリンたちや、彼らがだらけた態度を取って下に見られることがないよう気を遣ってくれていた有瓜がいなかったら、俺は村長に言いくるめられて、パンや衣服をもっと少なくしか分捕れなかったかもしれない。
――とまあ、有瓜やゴブリンらに支えられたり、アンの証言に後押しされたりしつつも俺が頑張って成果をもぎ取ったのでした……みたいにここまで語ってきたけれど、村側がかなりこっち有利な内容で証文を書いてくれた最大の功労者は、有瓜ただ一人だ。そう言い切っていいだろう。
というかもう、対男性における交渉能力について、有瓜はある意味チートだなぁとか、これなら俺が頑張る必要あんまりなかったかもなぁとか……安心と悲しみとやるせなさとを一度に味わわされたのだった。
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