義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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1章

15-2. 姉妹 ロイド

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 アンの案内で道を進むと、村の入り口と呼べる開けたところに赤毛の女性が立っていた。シャーリーだ。その横には、引っ越し荷物のようなものがごちゃごちゃと積んで置かれている。

「お姉ちゃん!」

 シャーリーの姿を認めたアンが駆け出した。
 俺たちは歩調を変えずに、それを見送る。
 俺たちが見ているなか、シャーリーのほうからも妹に駆け寄って、アンとしっかり抱き合った。

「姉妹の再会、いいですねぇ」

 俺の隣を歩いている有瓜が、満足げに頷いていた。

 そう――有瓜は俺と一緒に来ていた。そして、ゴブリンたちも一緒に来ていた。
 俺の立てた交渉プランは、アンに、俺が山賊の手から彼女を助け出したことを話させて、村人に俺が信用するに足る人物だと判断してもらうつもりだった。ゴブリンたちの姿を見せると警戒させてしまうと思ったから、俺一人で交渉に臨むつもりだった。そのために、最低な気分を味わってまで山賊を討った証拠しるしを用意したのだし。
 ところが、有瓜が申し立ててきた計画はもっと過激だった。

「わたし、アンちゃんと話していて思いました」

 という前置きから始まった有瓜の意見を要約すると、

「ゴブリンは怖いもの。そのゴブリンを従えている姿を見せる以上に効果的な脅しは無し」

 ――だった。

 有瓜からこの意見を聞いたとき、俺は思わずアンに尋ねてしまった。

「つまり、きみがこの中で一番怖いと思っているのは……俺なのか?」
「え……あ、う、うぅ……」

 ……俺は普通に質問しただけなのに、アンは涙目になって有瓜の背中に隠れてしまった。

「ちょっと義兄さん……」

 有瓜が非難がましい目で俺を見てくる。

「なんでだよ。普通に訊いただけじゃないか」
「そこは普通に訊くんじゃなくて、笑顔で優しく訊くべきでしたね」
「その忠告、次は忘れないようにしておくよ……」
「はい、そうしてください」

 ――というようなやり取りがあって、俺は有瓜とゴブリンたちをぞろぞろと引き連れて、村に乗り込んだのだった。

 村の入り口でアンに抱きついていたシャーリーは、しばらくすると俺たちのことに気がついて顔を上げる。

「ありがとうよ、ロイド。約束を守ってくれて――」

 しかし、最後まで言い終えることなく、シャーリーの声は途切れてしまった。俺のすぐ後ろにぞろぞろと従っている面子が人間ではないことに、いまようやく気がついたからだろう。

「なっ……妖魔!?」

 シャーリーは咄嗟にアンを背後に庇って、俺たちを睨みつける。困惑している様子ながらも、俺が妖魔――ゴブリンたちに捕らわれているのではなく、彼らと行動を共にしているのだと一目で理解したようだった。

「てめぇ、どういうことなんだ? なんで人間が妖魔なんかと連んでるんだ?」
「話せば長くなるけれど、いま重要なのはそこじゃないだろ。大事なのは、彼らがアンを助けたということだ」

 俺ははっきり言ったのに、シャーリーはすぐに理解できなかったようだ。俺を糾弾するようだった表情のまま、不自然なほど固まる。瞬きも呼吸も忘れたような有様で、アンが心配して姉の肩を揺するほどだった。

「お姉ちゃん?」
「え……あ、大丈夫だ、アン。とにかく、あんたはあたいが守るから、何も心配しなくていいからな!」

 シャーリーはアンの頭を優しげにひと撫ですると、俺たちのことを改めて睨みつけてきた。
 そこに待ったをかけたのは、シャーリーに庇われたはずのアンだった。

「お姉ちゃん、待って。あのひとたちは、悪いひとじゃないよ。わたしを山賊から助けてくれたひとたちなんだよ」
「え……山賊から……?」
「うん、話を聞いて」

 アンは昨日一日のことを話し出そうとするけれど、俺は手振りでそれを止めた。

「アン、待って。話すのは村長を連れてきてからだ」
「あ、はい」

 アンは俺に向かって頷くと、シャーリーをこの場に残して村の中へと走っていった。
 それから少しと経たずに、村の入り口には男ばかりが大勢集まっていた。以前に高台から見た感じでは、そんなに大きな村ではないと思ったから、村の男衆が全員集まっているのかもしれない。
 男たちは全員、鉈や鍬なんかで武装している。顔つきも険しくて、これから話し合いを始めましょう、という雰囲気ではない。
 俺はこの状況を避けたかったから、ゴブリンたちには隠れていてもらうつもりだったのだ。
 でも、有瓜に言わせれば、むしろこの反応で迎えられるほうが良いのだそうだ。

 ――本当に大丈夫なのか?

 俺は後ろに控えている有瓜に、ちらりと目をやる。
 有瓜は不敵な笑顔で、こくりと頷いた。大丈夫です、ということらしい。信じるぞ、有瓜。

「ええ……この村の代表はどなたか?」

 俺は意識して声を張り上げる。

「わしが村長じゃ」

 と答えて進み出てきたのは、白髪に白髭で少し腰の曲がった、いかにも最年長といった姿の老人だった。

「で……シャーリーが言うとったが、おまえさんがそこの妖魔に与している魔術師だっちゅうのは本当か?」

 村長は大真面目な顔だった。

「……」

 俺は反射的に喉から出かかった「違う!」の言葉をすんでのところで飲み込んだ。
 俺の――いや、有瓜が監修して俺が実行する交渉プランでは、脅しの種に使える誤解を敢えて訂正する必要はないのだから。
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