義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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1章

8-2. 謝肉祭 アルカ

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 戦士ゴブさんたちが猪を狩ってきました。
 牙が、象の牙みたいに太くて長い猪です。この牙、絶対にものを食べる役には立ちませんよね。どう見ても、猪突猛進して獲物を串刺しにするためだけに進化しています。なんて物騒な猪なのでしょうか。ゴブさんたちは、よく狩ってこられたと思います。手放しで大感心、大感謝です。
 だって、肉ですよ肉! 虫じゃないタンパク質ですよ!?
 ゴブさんたちが大牙猪(仮)を担いで戻ってきたときは驚きましたけど、わたしの脳内はすぐに肉一色で染まりきっちゃいましたとも!

 お肉を解体するときにはもうちょっと気分が下がるかと思っていましたけど、案外平気でした。一日のほとんどを薄暗い洞窟の中で全裸して過ごし、主なタンパク源が虫という生活を続けていたことで、わたしの常識も日本にいた頃とはすっかり変わっちゃったのでしょうか……ちょっと諸行無常です。
 お肉の解体はとっても難しかったです。
 なにせ、ゴブさんたちは動物を狩ったことなんてありません。わたしもスーパーで買ったことしかありません。どこをどう切れば綺麗に解体できるのかも分からないし、そもそも切るための道具が石包丁です。切るというより、ぎこぎこ挽いて裂く、みたいな感じです。そのうえ、すぐに刃が削れたり欠けたりして、使い物にならなくなっちゃいます。

 道具も知識も足りない中で、それでも、わたしたちは頑張って大牙猪を解体しました。
 解体は河原で行いました。洞窟まで始めたら、血の匂いが絶対に残ると思ったからです。それに、水場の近くは何かと便利ですし。
 その予想は当たっていて、ゴブさんに石包丁でお腹をざっくり裂かれた猪からは、それはもうたっぷりと大出血でした。猪はすでに首の致命傷からたっぷり血を流していたと思ったのに、まだまだ全然でした。河原まで担いで来てもらって、本当に正解でした。
 わたしはゴブさんたちに言って、すぐに腰布を脱がせました。返り血が付いたら洗うのが大変だからです。あ、わたしは最初から全裸でした。
 みんなで全裸になって、河原でわたしと同じサイズの猪の遺体を囲んで、血塗れになりながら解体作業です。お肉の解体経験が無いのはみんな同じですけど、唯一わたしがお魚の下ろし方を知っていたので、わたしが料理長になってゴブさんたちに指示を出すことになりました。
 ……わたしの指示がどれほど役に立ったかは、わたしには正直、分かりません。たぶんゴブさんたちにも分からないと思います。でもとにかく、わたしたちはやったのです。
 用意していた石包丁のうち八割は、血糊と脂で駄目になりました。切れ味がなくなるたびに、石鹸石で洗って研いで――を繰り返しているうちに、石包丁は削れすぎて、ただの細長い小石になってしまいました。残りの二割は、解体中にうっかり骨を切ろうとしてしまって、バッキリと欠けたり折れたりしてしまったのでした。

 そうした多大な犠牲を出しつつも、わたしたちはやり遂げました。大牙猪の遺体は、毛皮とお肉と骨と内臓と頭部と大牙とに解体されたのです。うっかり腸を傷つけてしまって後始末が大変だったのは、義兄さんには秘密にしておこうと思います……。
 頭部が丸々残っているのは、生理的にちょっと……きつかったためです。お腹を解体するのはできましたけど、頭は無理でした。もっとも、大牙猪の頭蓋骨は異様に硬かったので、石包丁ではどうにもならなかったと思いますけど。
 脳味噌って美味しいらしいですが、挑戦するのはもっと大人になってからにします。
 二本の大牙だけは、ゴブさんたちが頑張って顎から引っこ抜いていました。後で槍を作るんだ、と盛り上がっています。
 ちなみに、ゴブさんたちが大牙猪を仕留めるのに用いたのは、義兄さんが伐採目的で作っていた石斧だったそうです。
 とあるゴブさんが大牙猪の突進をすんでのところで躱したら、偶然にも背後にあった大木に牙ががっちりめり込んで動けなくなったので、首の付け根を狙って左右から石斧で滅多切りというか滅多打ちにして失血死させた――ということでした。
 ところで、石斧は石刃と木柄を蔦で結わえて作ったものなんですけど、最初に義兄さんが作ってみせて、ゴブさんたちに作り方を手解きしたものだったりします。義兄さん、器用ですね。セックスがねちっこそうです。
 義兄さんが上手いか下手かの議論はいいとして――肉です、肉!

 いま、わたしたちの前には、ロース、カルビ、もも肉なんかに切り分けられた肉塊が並んでいます。モツも好きなんですけど、うっかり大腸だか小腸だかを切ってしまったときの惨劇が惨劇すぎて、さすがにどうにかしようという気力が湧きませんでした。
 でも、わたしたちが来るまでろくに水浴びもしないで暮らしていたゴブさんたちは、内臓の臭いを全然気にしませんでした。川で洗ったのを、そのまま生で食べ始めちゃってました。ホルモン肝臓レバー心臓ハツ胃袋ガツも、がつがつ食べ放題です。あ、そこのゴブさんは睾丸ホーデンを一気食いしちゃってます。
 まあとにかく、夜中に見たら卒倒するレベルの凄惨な光景でした。ゾンビ映画です。羅生門です……あれ? 羅生門には死体を食べるシーン、ありませんでしたっけ?
 わたしはと言えば、以前に野生のお肉ジビエは寄生虫とかウィルスとかヤバいというのを、狩猟が趣味というオジサマに一晩お付き合いしたときに教えてもらったことがあったので、ゴブさんたちの生バーベキュー大会を見ているだけでした。
 そう……見ているだけなのです……。

「肉刺し……レバ刺し……」

 わたし、お肉大好きです。生も大好きです。ユッケ、レバ刺し、大好物です。ステーキも焼き加減はレアが基本です。豚しゃぶのお肉も、本当は温めた程度のレアで食べたいくらいです(寄生虫が怖いので我慢してましたけど)。

「こっちのお肉、生で安全だったりしないかな……あっ、魔法でなんとかなったりしないかな!?」

 神官ゴブさんは魔法で火を点けたりしてくれるから、もしかしたら、「食材に火を通さないで安全にする魔法」があるかもしれません。もしかしたら、村の人間たちはそういう魔法を知っているかもしれません。
 だったらいいな、だったらいいな!

 ……なぁんてことを考えながら、川に入って身体を綺麗にしていたら、いきなり強い力で背中から抱き上げられました。

「ひゃう!?」

 首だけで振り返ると、わたしを抱え上げたのは巨漢のゴブさんでした。たぶん、さっき睾丸を生食していたゴブさんです。最近はふんわりとですけど、一人一人の見分けが付くのです。間違うことも多いですけど。
 ――で、そのゴブさんの目は爛々と輝いていました。
 間近で目が合った瞬間、直感しました。

 あ、これヤられちゃうやつだ――と。
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